目次
はじめに
米国への進出を目指す日本の企業にとって、ビザ申請は避けては通れないプロセスです。しかし、その手続きは複雑で、不備があると大幅な遅延や却下の原因となることもあります。
本記事では、米国のビザ申請の流れを理解し、スムーズな海外展開を実現するための要点を、海外進出に精通した弁護士の視点から解説します。
米国ビザとESTAの違い
ビザは、米国大使館または領事館から発行される公式な渡航許可で、留学、労働、永住など、様々な目的で米国に長期滞在する際に必要となります。ビザ申請は、必要書類の提出、面接のスケジューリング、手数料の支払いなど、比較的長い期間と複雑な手続きを要します。
一方、米国に旅行する際、日本国籍者は、ビザ免除プログラム(VWP: Visa Waiver Program)を利用してESTA(Electronic System for Travel Authorization)を申請することが多いでしょう。ESTAは、90日以内の短期商用・観光の目的での入国を承認するものです。事前にオンラインで申請し、承認を受けると、ビザなしで米国に入国できます。ただし、ESTAは就労を許可するものではない点に留意する必要があります。
つまり、ビザを持つ者と比べて、ESTAで米国に滞在する者は限定的な活動しか認められません。これらの違いを理解することは、米国訪問者が入国のための適切な手続きを選択する上で非常に重要となります。
ESTAとは何か
ESTAの申請プロセス
ESTAは、ビザ免除プログラム(VWP: Visa Waiver Program)を利用して渡米する旅行者が入国前に必要な電子渡航認証システムです。VWPに参加する38カ国の国民は、90日以内の短期訪問についてはビザの取得が免除されていますが、代わりにESTAによる承認が必要となります。
ESTAの申請は全てオンラインで行われ、一般的には出発の72時間前までに申請を完了させることが推奨されています。申請フォームは米国国土安全保障省の公式ウェブサイトからアクセス可能で、個人情報(氏名、出生日、性別等)とパスポート情報、旅行及び連絡先情報などを入力します。また、資格を判断するための一連の質問にも答える必要があります。
承認までに、場合によっては72時間ほど待たなければならないこともあります。ESTAの承認は2年間有効で、その期間中であれば何度でも米国を訪れることが可能です。
ESTAで許される活動と許されない活動
ESTAを通じて米国に入国することが許可されているのは、観光、ビジネス、短期の学習、そして医療に関連する訪問など、一般的に短期間で終了する活動目的のみです。具体的には、観光旅行、ビジネス会議や交渉、短期の教育コース(週に18時間以内)やセミナーへの参加などが含まれます。
一方、ESTAでは許可されない活動も多くあります。主なものとしては、米国での就労(無報酬である場合も含む)、学位を取得するための学習、長期間の留学、永住などがあります。これらの活動を行うためには、別途適切なビザの取得が必要となります。
ビジネス目的でよく使われる米国ビザの種類
B-1 ビジネスビザ
B-1ビザは一時的なビジネスビザで、ビジネス活動に従事するために米国を訪れる非移民を対象としています。商談、会議、業務交渉、専門的な会議やセミナーへの参加などが含まれます。このビザでは、米国での有報酬の就労は許可されていません。B-1ビザは最大6か月の滞在を許可しますが、延長申請も可能です。
H-1B 専門職ビザ
H-1Bビザは、「特殊な知識を持つ専門家」が米国で一定期間働くためのものです。このビザを取得するには、特定の分野での専門的な知識やスキルを持ち、学士以上の学位(またはそれに相当する資格)が必要です。このビザは3年間有効で、最大で6年間まで延長可能です。米国企業で直接雇用される際にはH1-Bビザを取得することが多いでしょう。
L-1 企業内転勤者ビザ
L-1ビザは、特定の企業の海外拠点で働く従業員が、同じ企業の米国内のオフィスに一時的に転勤するためのビザです。L-1ビザは、管理職やエグゼクティブ(L-1A)、あるいは特殊な知識を持つ従業員(L1-B)を対象としています。このビザは一般的に3年間有効で、L-1Aの場合は最長7年間まで、L1-Bの場合は最長5年間まで延長可能です。
E-1 貿易駐在員ビザとE-2 投資駐在員ビザ
E-1ビザ(貿易駐在員ビザ)とE-2ビザ(投資駐在員ビザ)は、米国と「通商航海条約」を結んでいる国の国民を対象としています。E-1ビザは、大量かつ継続的な貿易活動を行う者を対象としている一方、E-2ビザは、米国に「実質的な投資」を行う、または行う予定の者を対象としています。これらのビザは通常5年間有効で、必要に応じて更新することが可能です。
駐在員はLビザあるいはEビザを利用することが一般的です。ただし、Lビザが企業内の転勤を目的としているのに対し、Eビザは米国への投資を目的としている点で違いがあります。
ビジネスビザ申請のステップ
ステップ1:ビザ申請前の準備
ビザ申請の最初のステップは、申請者の職務などによって適切なビザタイプを選択し、必要な書類を整理することです。申請するビザのタイプにより、必要な書類は異なります。たとえば、雇用ベースのビザでは雇用契約書や会社からのスポンサーレターが必要となることがあります。
ステップ2:ビザ申請プロセス
準備が整ったら、次はビザ申請フォーム(DS-160)を米国国務省のウェブサイトからオンライン提出します。このフォームには、個人情報、連絡先、職務内容や学歴、申請者の犯罪歴などを入力します。フォームの提出後、申請料を支払う必要があります。
ステップ3:ビザ面接
DS-160の提出と申請料の支払いの後、最寄りの米国大使館または領事館での面接を予約します。面接では、申請者の職務内容やこれまでの経歴について質問されます。面接はビザが承認されるかどうかの重要なプロセスの一つであるため、面接前に、対策をしておくことが重要です。
ステップ4:ビザの承認と発行
面接後、ビザの承認が通知されます。一部のケースでは、追加の書類が要求されることがあります。ビザが承認されると、パスポートとビザが申請者に送付されます。ビザを取得したことにより、申請者は米国への入国許可を求めることができます。
つまり、ビザを所持しているからといって、必ずしも入国が保証されるわけではないことを理解しておく必要があります。最終的な入国の承認は、米国の入国審査官によって行われます。
米国ビザ申請にあたり企業が注意すべきポイント
ビザ申請に関するよくある誤解
ビザ申請に関する誤解の一つに、ビザの有効期間がそのまま合法的な米国滞在期間になると勘違いすることがあげられます。ビザは本来、外国人が米国に入国する際の「通行証」であり、その有効期間はあくまで入国の許可が与えられる期間を示しています。
実際に米国でどれだけ滞在できるかは、国土安全保障省の入国審査官によって発行されるI-94(Arrival/Departure Record)に記載されます。これまで渡航者は紙のI-94フォームを受取っていましたが、例外を除いてこちらの手続きは自動化されました。
ビザの有効期間内であっても、I-94に記録されている滞在期限を過ぎてしまうと、違法滞在となってしまいます。また、I-94の滞在期限前に米国を出国し、再度入国する場合も新たなI-94が発行され、その新しい滞在期限が適用されます。
ビザは入国の承認を、I-94は滞在期間を決定するという、それぞれの役割を理解することが重要です。
ビザ申請が拒否されることを防ぐための戦略
ビザの申請が拒否される理由の一つに、申請書類に不備があることが挙げられます。そのため、申請書類を提出する前には、全ての書類が正確で完全に揃っていることを確認しましょう。
また、ビザの面接では、申請者が正確で一貫した情報を提供し、申請者の滞在目的が明確であることが求められます。そのため、面接に臨む前には、申請したビザのタイプと滞在の目的をはっきりと理解し、その情報を適切に伝えるための準備をしておくことが必要となります。
さらに、ビザ申請を早めに行い、十分な時間を確保することも忘れてはなりません。ビザ申請から発給されるまでに数か月かかることもあります。そのため、渡航日までの日数に十分な余裕を持ってビザを申請するようにしてください。
海外進出におけるリスク管理は弁護士への相談をご検討ください
海外進出を計画する際、企業は多くの法律的な課題や複雑なビザの問題に直面します。これらは細心の注意を払う必要があり、間違った対応はビジネスの運営や長期的な成長に影響を及ぼす可能性があります。
米国ビザの申請においては、ビザの種類によって異なる要件を満たす必要があります。また、ビザは入国の許可を得るためのものであり、滞在期間は別途I-94で管理されるという点も理解しておく必要があります。ビザ申請が拒否されないためには、申請書類が正確で完全であることや面接における一貫性など、様々な配慮が必要です。
これらの複雑なプロセスを適切に管理し、海外進出を成功させるためには、専門的な知識と経験を持つ弁護士に相談することを強くお勧めします。弁護士はビザ申請のプロセスをナビゲートするとともに、潜在的な問題を予見し、海外ビジネスを保護する戦略を提供することができます。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2023年7月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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