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現在、国内の企業活動を支えているのは、日本人だけではありません。そして、高度な知識や技能を有している高度外国人材は、国境を越えて獲得競争が行われています。外国人材の受け入れを考えている日本企業の法務ご担当者や人事ご担当者へ向けて、この記事では高度外国人材の採用や高度専門職ビザ取得の方法など、基本的な知識を説明します。
高度専門職ビザとは
高度専門職ビザは、「高度人材ポイント制」という仕組みを通じて「高度外国人材」と認められる外国人に対し、出入国在留管理上の優遇措置が講じられているビザです。
ここでは、高度専門職ビザの概要を説明します。
ビザと在留資格について
「ビザ」は査証とも呼ばれ、本来、入国するための許可証のことをいいます。海外から外国人が日本への入国を希望する場合、日本の入国管理局へ必要書類を提出し、在留資格認定証明書(COE)を取得します。 この証明書を現地の日本大使館に提出し、入国審査を経ることで、査証(ビザ)を受領します。
「在留資格」とは、日本に在留する資格のことをいいます。高度専門職ビザは正式には在留資格「高度専門職」と呼ばれますが、本記事では一般的となっている呼称として、「高度専門職ビザ」と表記します。
高度専門職1号と高度専門職2号の違い
高度専門職ビザには「高度専門職1号(イ)(ロ)(ハ)」、「高度専門職2号」があります。
2号は1号で3年以上活動を行っていた方が対象になります。1号のように(イ)(ロ)(ハ)と分類されていない上、1号で許可される活動内容だけでなく、ほぼ全ての就労ビザの活動を行なうことができます。2号は、在留期間が無期限です。高度専門職ビザに該当する活動を続ける限りは、実質的に永住が許可されたということができます。
高度外国人材が行う3つの活動類型
活動の3類型
1.高度学術研究活動「高度専門職1号(イ)」 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う研究,研究の指導又は教育をする活動 |
2.高度専門・技術活動「高度専門職1号(ロ)」 本邦の公私の機関との契約に基づいて行う自然科学又は人文科学の分野に属する知識又は技術を要する業務に従事する活動 |
3.高度経営・管理活動「高度専門職1号(ハ)」 本邦の公私の機関において事業の経営を行い又は管理に従事する活動 |
高度専門職1号の活動内容は上記の3つの類型に分類されています。
高度外国人材が高度専門職ビザを取得するためには、高度専門職1号(イ)(ロ)(ハ)のどの類型に該当するかの確認が必要です。
高度専門職1号(ロ)が重複する就労ビザの種類が多く、活動範囲が最も広くなっています。
高度専門職ビザと他の就労ビザとの違い
高度専門職ビザは初めての申請時から入管法上の最長期間である5年間の在留期間を付与されます。一方、他の就労ビザは初回申請では1年間で付与されることが一般的で、更新を繰り返した後に5年の在留期間が許可される傾向があります。
高度専門職ビザは、複数のビザにまたがるような活動を同時に行うことができます。資格外活動許可や在留資格変更許可を申請しなくても、複合的な活動を行うことができます。一方、他の就労ビザでは、そのビザが認めている活動しか行う事ができません。
高度人材ポイント制とはどのような制度ですか
高度人材ポイント制は、就労ビザを取得できる外国人の中でも特に優れた高度外国人材を優遇的に取り扱う制度です。したがって、そもそも就労ビザを取得できない外国人や、就労ビザを取得できても学歴・報酬等の基準を満たさない外国人は対象になりません。ここでは、高度人材ポイント制の概要を説明します。
高度人材ポイント制の対象となる人
上記のように、高度専門職ビザはポイントさえ満たせば、誰にでも認められるというものではありません。
高度専門職1号(イ)(ロ)(ハ)に対応する活動を行っている外国人が対象です。それぞれに相当する就労ビザは以下の通りです。下記のいずれかの就労ビザの活動内容を行なっていることが、高度人材ポイント制の対象となる条件となっています。
高度専門職の種類 | 相当する就労ビザ |
高度専門職1号(イ) | 「教授」「研究」「教育」 |
高度専門職1号(ロ) | 「技術・人文知識・国際業務(※国際業務は除く)」「企業内転勤」「教授」「芸術」「報道」「経営・管理」「法律・会計」「医療」「研究」「教育」「介護」「興行」 |
高度専門職1号(ハ) | 「経営・管理」 |
ポイント計算の方法
高度外国人材と認定されるためには、高度人材ポイント制でポイントの合計が70点以上でなければなりません。
高度外国人材それぞれの活動の特性に応じて、「学歴」、「職歴」、「年収」、「年齢」、「ボーナス」部分ごとにポイント設定がされています。外国人が希望する活動に対応する類型(高度専門職1号((イ)(ロ)(ハ))ごとにポイント表があり、計算をします。ポイント該当性を疎明するための資料を合わせて提出することで、ポイントが認められます。そのため、該当する事実があっても資料が提供できない項目はポイント計算に使えません。
ボーナスポイントが15項目あり、「研究実績」、「資格」などポイントの特別加算もあります。高度人材ポイント制は、ポイントの特別加算項目が多いことから計算が難しく、また適切な疎明資料を準備しなければポイントを認めてもらえないため専門家との相談を踏まえ慎重に対応する必要があります。
高度人材ポイント制計算表 https://www.moj.go.jp/isa/content/930001657.pdf
合計が70点未満の場合
高度人材ポイント制で合計が70点未満の場合は、高度外国人材と認められず、高度専門職ビザを取得することはできません。上記の高度専門職1号(イ)(ロ)(ハ)に相当する他の就労ビザを取得し、70点以上になった後に高度専門職1号ビザの申請を検討する流れになります。
「年齢」、「年収」といった項目のため、高度専門職ビザ取得後に70点以下になってしまう場合が想定されます。高度専門職ビザは取得後も引き続き70点以上を維持しなければならないという規定はない為、特に手続きは不要です。ただし、ビザ更新時にポイントが70点に満たない場合は更新許可を受けることができません。別の在留資格への変更申請を行うことになります。
高度外国人材に対する7つの優遇措置とは
・高度専門職1号
1 複合的な在留活動の許容
通常、許可された在留資格で認められている特定の活動しかできませんが、高度外国人材は、複数の在留資格にまたがるような活動を行うことができます。
例えば、在留資格「研究」で在留する外国人が研究成果を生かしてベンチャー企業を経営するためには、別途資格外活動許可を受ける必要がありますが、高度外国人材は、資格外活動許可や在留資格変更許可を受ける必要がありません。
2 「5年」の在留期間付与
法律上の最長の在留期間である「5年」が付与されます。この在留期間は更新することができます。
3 永住許可要件の緩和
永住許可は、原則、引き続き10年以上日本に在留していることが必要です。しかし、高度外国人材は3年、中でもポイント80点以上の特に高度と認められる外国人については1年間で永住許可の対象となります。
4 配偶者の就労
高度外国人材の配偶者の場合は、学歴・職歴などの要件を満たさない場合でも「教育」、「技術・人文知識・国際業務」などに該当する活動を行うことができます。
5 一定の条件の下での親の帯同の許容
原則、就労ビザで在留する外国人の親の受入れは認められませんが、 高度外国人材は一定の条件の下で、親の入国・在留が認められます。
6 一定の条件の下での家事使用人の帯同の許容
一定の条件の下で、外国人の家事使用人を帯同することが認められます。
7 入国・在留手続の優先処理
入国・在留審査が、入国手続(在留資格認定証明書交付申請)については申請受理から10日以内、在留手続(在留期間更新申請・在留資格変更申請)については申請受理から5日以内を目途に優先的に早期処理されます。
・高度専門職2号
※高度専門職2号は、高度専門職1号で3年以上活動を行っていた外国人が対象
1 高度専門職1号の活動と併せてほぼ全ての就労資格の活動を行うことができます。
2 在留期間が「無期限」となります。
3 高度専門職1号の3~6までの優遇措置が受けられます。
高度外国人材を雇用するためには
国内の企業活動を支えているのは、今となっては日本人だけではありません。高度な知識や技能を有している人材は、国境を越えて獲得競争が行われています。ここでは、高度外国人材の雇用の流れをご案内します。
採用目的を明確にする
採用活動の第一歩として、「採用目的を明確にすること」が大切です。「新規事業の海外とのビジネスを担当してほしい」「その国の人の感覚を取り入れた企画を企画して欲しい」など、期待する業務内容を明確にする必要があります。企業として「何を高度外国人材に期待するか」という採用目的が曖昧なまま募集を行うと、入社しても人材が定着せず、早期離職してしまうおそれがあります。
採用活動の方法
高度外国人材の採用は、主に、日本にいる留学生か、海外の人材にアプローチする形になります。どちらを採用するか事前に検討しましょう。
国内には高度外国人材の卵といわれる留学生が約30万人います。その中の約6割が日本での就職を希望しています。外国人留学生にアプローチするためには、ハローワーク、民間の人材会社を利用するほか、公的機関や自治体等の実施する交流イベントに参加するなどの方法が考えられます。また、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が、外国人留学生の雇用を考える企業向けに、留学生の日本国内における就職支援に力を入れている大学の情報を掲載していますので、大学と直接コンタクトを取ることも選択肢としてあります。また、大学や自治体が提供するインターンシッププログラムを利用し、外国人材をインターンとして受け入れると外国人材と一緒に働く経験ができますので、社内の反応を見ることができます。
海外からの採用の場合、様々な国から企業や採用目的に適合した人材を探すことができます。最近は、海外の人材を紹介してくれる人材紹介会社も増えてきています。また、ジェトロの「高度外国人材活躍推進プラットフォーム」に企業の情報を掲出することで、世界中の外国人材に対し、高度外国人材の採用に関心がある事、自社の魅力を発信することが可能となっています。
高度専門職ビザの申請
外国人材の採用において日本人と違う点が、ビザの取得です。ビザがないと、入社して働くことができません。既に日本にいる留学生でも、日本企業で就職する際はビザの変更手続きが必要です。ビザを申請・変更するためには、申請者がそのビザに関連した知識や技術を持っていることが前提条件となります。例えば、語学の勉強をしていた人が、エンジニアの仕事に就くためのビザを取得することはできません。
高度専門職ビザは、ポイント計算があるなど特殊な申請であるため、少しでも手続きに不安がある場合は専門家に相談することをお勧めいたします。
入社後の取り組み
長く社内で活躍してもらうための3つのポイントをご紹介します。
1.生活基盤を整える手助けをする
入社前の段階から、外国人材が安心して生活できるようサポートをする事が大切です。「住宅の手配」「銀行口座の開設」など新生活の立ち上げは日本語でのやり取りや手続きの面で苦労する場合があります。生活の安定がなければ、仕事も安定しません。
2.日々のコミュニケーションの取り方に気をつける
外国人材と話すときは簡単な言葉づかいで短い文章をゆっくり話すことを心掛けるのが大切です。大事なことは繰り返し話すなどして、相手がしっかり理解できているか確認しましょう。コミュニケーションがしっかりとれていないと、外国人材が持つ高い能力を充分に発揮することができません。
3.将来像を作る手助けをする
外国人材の方は、日本企業では社員をいろいろな部署で業務を経験させながら育てるというキャリアパスが一般的であることを意識していない場合が多いです。現在任せている「仕事の背景」や「今後のキャリアの方向性」を説明し、社内でのステップアップのイメージをもってもらうことで、外国人材が将来像を作る手助けになります。例えば、「今は国内業務に就いてもらっているが、慣れてきたら3年から5年後には海外法人の立ち上げを任せたい」というような説明です。
高度専門職ビザの企業にとってのメリット・デメリットは
職種を超えた業務を行なえるため社内異動が可能
高度専門職ビザは、複数の在留資格にまたがるような活動を行うことができるため、職種を超えた社内異動が可能です。一般的な就労ビザである「技術・人文知識・国際業務ビザ」ではビザの変更手続きが必要な社内異動の場面でも、高度専門職ビザであれば手続き不要で柔軟な社内移動を行うことができます。
高度外国人材は有力な即戦力
高度外国人材を即戦力人材として中途採用する場合、高度外国人材が持つ専門知識やキャリアと、現場からのニーズに応じた実務能力や技術との適合を重視することができます。正社員としてだけでなく、事業プロジェクトごとの期間を定めての雇用、人材派遣会社を通じて、通訳や翻訳業務、プログラマー等の特定の技術 ・ 技能を有する人材を即戦力として活用することが可能です。
社内のグローバル化が進む
高度外国人材を採用し企業内のグローバル化が進むと、日本人従業員が英語の習得に積極的になる傾向があります。海外との接点が増える中で、通訳に頼らず、どんどん自分たちで英語でコミュニケーションがとれるようになります。また、こうした人材の獲得が、海外との新規ビジネスにもつながる下地になります。また、異なる文化や背景を持つ高度外国人材によって企業内の多様性が促進され、新しい視点やイノベーションの環境が生まれ、企業に新たな成果をもたらすことがあります。
海外展開の可能性につながる
人材採用のグローバル化を通じて海外展開が、より身近なものになります。高度外国人材は、将来の海外展開を具体的に検討する上で、海外ビジネスでぶつかる「文化の壁」のリスクを低くし、将来の可能性の扉を開いてくれる存在です。高度外国人材の採用は、直近の国内事業を支えるだけでなく、将来の海外展開の可能性に繋がります。少子高齢化により、国内市場は今後縮小していくことが予想されています。今後、海外進出を検討する必要性は増えていくことでしょう。高度外国人材は、そのような場面で重要な役割を担ってくれます。
外国人人材用の教育体制を構築する必要がある
高度外国人材が異なる言語や組織文化を持っていることで、円滑な業務遂行や効果的な共同作業に影響を与える可能性があります。高度外国人材が新しい環境や業務に適応するために、教育トレーニングの場を設ける必要があります。教育体制を構築するため、時間的・金銭的なコストが生じまます。
また、価値観や働き方についての認識の違いが、日本人労働者との間に摩擦や課題を引き起こすこともありえます。多様性が生まれる一方で、統一的な価値観が薄れ、規律性を重要視する企業にはデメリットとなる可能性があります。
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執筆者:弁護士小野智博
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