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特定活動44号ビザとは?
特定活動44号ビザの概要
まず「特定活動」とは、法務大臣が個々の外国人について「特」に指「定」する「活動」、とされています。
人の行う活動は多種多様であるため、ビザの決定の判断基準となる活動として類型化されていない活動、又は類型化するには馴染まない活動があります。
そのような活動を行おうとする外国人に、与えられるビザが「特定活動」ビザとなります。
2024年の時点で、許可されている特定活動の活動内容は50種類前後あると思われます。
その中の一つである「特定活動44号」ビザは、「本邦の大学等を卒業した留学生が起業活動を行う場合」という表記で出入国在留管理庁のサイトにて案内されており、「本邦の」は「日本の」と読み替えていただくと分かりやすいでしょう。
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactivities.html
「特定活動44号」ビザは、正式名称を在留資格「特定活動(特定外国人起業家)」とし、日本政府の成長戦略の一環として、外国人起業家の受入れを促進し、イノベーションと経済成長を同時に実現することを目指しています。
起業準備を可能とするビザとなっており、実際に経営していく「経営管理」とは別のビザです。
「特定活動44号」ビザで起業準備に専念した後、「経営管理」ビザへ変更して経営活動を行っていく流れとなります。
「経営管理」ビザは、通称で「社長ビザ」「経営者ビザ」とも呼ばれており、通称のほうがイメージしやすいかも知れません。
・「経営管理ビザ」の基礎知識と留意ポイントをまとめて解説
特定活動44号ビザの対象者
特定活動44号ビザの対象者は、次の2パターンに分かれます。
【パターン1】
本邦(日本)の大学等を卒業して起業活動を行うことを希望する方
在留期間:最長で卒業後6ヶ月
【パターン2】
本邦(日本)において優秀な留学生の受入れに意欲的に取り組んでいる大学等を卒業して起業活動を行うことを希望する方 (令和2年11月~)
在留期間:最長2年
特定活動44号ビザが認められるための要件
【パターン1】の場合
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactivities13_1.html
上記のサイトで詳細を確認できますが、【パターン1】の要件は概ね以下の通りです。
●対象者に係る要件
・留学ビザで日本の4年制大学か大学院を卒業した者(短大は対象外)
・在学中から、起業の準備を進めていて、成績も素行も良好で大学が推薦する者
・しっかりとした事業計画書が作成されており、卒業後6ヶ月以内に会社を設立し、「経営管理」ビザへの切り替え申請が見込まれる者
・事務所や店舗が確保され、適切な資本金があり、従業員を雇用でき、継続的に運営できる会社を持てる見込みがある者
・滞在中の一切の経費(生活費など)を支払う能力がある者 (家族などからの支援も可能)
●事業規模に係る要件
・起業資金を500万円以上用意していること
・雇用契約を締結しているなどして2人以上の常勤職員が確保できていること
●物件調達に係る要件
・物件をすでに購入済み、賃貸契約を結んでいるなどして、確保していること
または
・自治体から物件の提供が決まっている、物件購入の手続きを進めている(手付金を支払った)などして、確保できる確実な見込みがあること
●起業支援に係る要件
大学により、次の支援(サポート)を少なくとも1つを受けていること
・事業計画作成のサポート
・起業に関する教育セミナーの受講、企業との交流会への参加、起業関連のシンポジウムへの参加など、起業家教育のサポート
・助成金の紹介や申請支援、投資家やベンチャーキャピタルの紹介、起業家向けの施設(インキュベーション施設)への入居支援など、お金や場所の確保のサポート
●在留管理に係る要件
・外国人起業家が、毎月、大学に起業活動の状況を報告し、大学は、毎月、起業活動の進み具合をチェックすること
・6ヶ月以内に起業できなかった場合に備え、航空券や帰国費用などの帰国手段が確保されていること
【パターン2】の場合
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactvities13_2.html
上記のサイトで詳細を確認できますが、【パターン2】の要件は概ね以下の通りです。
【パターン2】は、さらに〔ケース1〕と〔ケース2〕に分類できます。
〔ケース1〕
卒業後すぐに特定活動44号の制度を利用したいケース
・「留学生就職促進プログラム」採択校か「スーパーグローバル大学」採択校(大学、大学院、短期大学又は高等専門学校)の卒業生であること
・在学中から起業活動をしており、卒業後すぐに特定活動44号の制度を利用して日本で起業活動を続けたい場合であること
・上記の大学等が、外国人起業家の起業活動を推薦、支援すること
・外国人起業家が、起業活動の状況を大学等に報告すること
・起業活動を続けることが難しくなった場合に大学等が、帰国指導、支援を行うこと
対象校確認リンク先
留学生就職促進プログラム
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1394574.htm
スーパーグローバル大学創成支援事業
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/sekaitenkai/1360288.htm
〔ケース2〕
卒業後、別の制度(下記の(1)や(2))を利用していたが起業に間に合わなかったため、特定活動44号の制度に切り替えて起業準備を続けたいケース
・日本の大学等(大学、大学院、短期大学、高等専門学校又は専修学校の専門課程(専門士))を卒業又は修了したこと
・外国人起業活動促進事業(1)や国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業(2)を利用して日本に滞在していたものの、その期間内に起業できなかったが、引き続き日本で起業活動を続けたい場合であること
・上記事業(1) (2)の関係地方公共団体が、起業できなかった合理的理由を説明し、これからなら起業できる可能性が高いと評価した場合であること
・大学等や関係地方公共団体が、外国人起業家の起業活動を推薦、支援すること
・外国人起業家が、起業活動の状況を大学等や関係地方公共団体に報告すること
特定活動44号ビザでできる活動内容
起業準備活動
事業計画の立案、市場調査の実施、取引先との商談・交渉、事業所の確保に向けた活動、必要な資金の確保に向けた活動、会社設立手続きの実施など
会社設立後の管理・運営活動
代表取締役等としての経営活動、事業の管理・運営、取引先との商談、契約締結、従業員の採用・管理など
特定活動44号ビザの申請の流れと必要書類
申請の流れ
申請の種類は次の2つです。
変更:正式名称「在留資格変更許可申請」(他のビザから特定活動44号ビザに変更する場合)
更新:正式名称「在留期間更新許可申請」(引き続き特定活動44号ビザで滞在する場合)
※特定活動44号ビザの性質上、在留資格認定証明書交付申請(認定)と、在留資格取得許可申請(取得)はございません。
ビザの申請(変更、更新)は、大まかに次の流れで行われます。
必要書類の準備 ➡ 申請書類の提出 ➡ 審査 ➡ ビザの交付
申請のための必要書類
申請前の留意事項
・日本で発行される証明書は全て、発行日から3か月以内のものを提出します。
・提出書類が外国語の場合には、訳文(日本語)を添付します。
・提出した資料は原則返却されませんので、再度入手することが困難な資料の原本等の返却を希望する場合は、申請時に申し出ましょう。
・申請して審査中に、追加で資料を求められる場合があります。
提出書類は概ね次の通りです。
〇:【パターン1】日本の大学等を卒業して起業活動を行うことを希望する場合
▲:【パターン2】〔ケース1〕日本の大学等を卒業後直ちに特定活動44号ビザの制度を利用する場合
□:【パターン2】〔ケース2〕外国人起業活動促進事業又は国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業の制度利用後に特定活動44号ビザの制度を利用する場合
変更 | 更新 | |
申請書 1通(変更、更新それぞれ違う様式のため要注意) | 〇▲□ | ▲ |
写真 1葉 | 〇▲□ | ▲ |
パスポート及び在留カード 提示 | 〇▲□ | ▲ |
直前まで在籍していた大学の 卒業(又は修了)証書のコピー か 卒業(又は修了)証明書 1通 |
〇 | |
直前まで在籍していた大学による推薦状 1通 https://www.moj.go.jp/isa/content/930002543.pdf |
〇 | |
事業計画書 1通 | 〇 | |
日本でやりたい事業内容を明らかにする資料 適宜 (会社又は法人の登記事項証明書等) |
〇 | |
日本での滞在費用をどのように支払うのかを証明する文書 適宜 ※第三者が支払う場合は、その人の資金証明と、支援理由を説明する文書 |
〇 | |
起業に必要な資金が調達されていることを証明する文書 適宜 | 〇 | |
事業所の概要を明らかにする資料又は当該事業所が確保されることが 確実であることを証明する文書 適宜 |
〇 | |
大学による起業支援の内容を明らかにする資料 適宜 | 〇 | |
帰国のための手段が確保されていることを明らかにする資料 適宜 | 〇 | |
直前まで在籍していた大学等(大学院、短期大学及び高等専門学校)の 卒業(又は修了)証書のコピー か 卒業(又は修了)証明書 1通 ※ 卒業前に卒業(又は修了)見込証明書でも可 (許可時までには卒業証書または卒業証明書が必要) |
▲ | |
上記の卒業校のHP写し等 (「留学生就職促進プログラム」、「スーパーグローバル大学創成支援事業」の採択校であることが分かる資料) |
▲ | |
大学等が発行する誓約書(参考様式1)1通 ※ 発行日から1か月以内 https://www.moj.go.jp/isa/content/001334679.pdf |
▲ | ▲ |
外国人起業活動促進事業又は国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業の利用直前まで在籍していた日本の大学等(大学院、短期大学、高等専門学校及び専修学校の専門課程(専門士))の 卒業(又は修了)証書のコピー か 卒業(又は修了)証明書 1通 |
□ | |
外国人起業活動促進事業又は国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業において外国人起業家を支援していた地方公共団体による評価書(参考様式2) 1通 ※ 発行日から1か月以内 https://www.moj.go.jp/isa/content/001334681.pdf |
□ | |
地方公共団体又は大学等による誓約書(参考様式3) 1通 ※ 誓約書は発行日から1か月以内 https://www.moj.go.jp/isa/content/001334682.pdf |
□ |
提出書類の詳細や補足説明等以下のサイトにて一覧が記載されているので必ずご確認下さい。
【パターン1】https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactivities13_1.html
【パターン2】https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/designatedactvities13_2.html
特定活動44号ビザのよくあるご質問・Q&A
Q:起業に失敗した場合はどうなりますか?
A:起業に失敗したときは(起業活動外国人による起業活動が行われていない、起業活動の継続が困難な状況など)、大学等の協力を得て、帰国の準備をし、母国へ帰国することになります。
起業をやめて、「技術・人文知識・国際業務」ビザなどで雇用される就労ビザを検討する選択肢もあります。
仕事をするビザ以外にも状況によっては日本に在留できるビザがありますので、専門家へ是非ご相談ください。
・技術・人文知識・国際業務ビザとは?申請の要件やポイントを法律事務所が解説
Q:家族は帯同できますか?
A:【パターン2】の場合は、家族の帯同ができます。
家族の範囲は「配偶者」または「子」に限られます。
家族は、「特定活動45号ビザ」に該当します。
申請内容等は、家族滞在ビザとほぼ同じですが、特定活動ビザは制度設計上、他のビザと少し異なる性質を持つため、本体のビザが特定活動である場合、家族も特定活動として管理されます。
ちなみに、特定活動45号ビザの正式名称は、在留資格「特定活動(特定外国人起業家の配偶者等)」と言います。
なお、起業が成功し、本体(外国人起業家)のビザが特定活動44号から経営・管理ビザに変わった場合、家族も「家族滞在」のビザに変更する必要があります。
・家族滞在ビザの申請|必要書類や就労制限など、在留資格のポイントを法律事務所が解説
特定活動44号ビザがもたらすメリット
外国人起業家にとってのメリット
・特定活動44号ビザで活動している間は、従来の経営・管理ビザで必要だった起業時の厳しい要件(500万円以上の資本金の調達や2名以上の常勤職員の雇用の確保など)が、緩和されたり、要件を満たすための準備に専念できる時間を得られたりするメリットがあります。
・該当する要件によりますが、最長2年間の起業準備期間が与えられ、じっくりと事業を立ち上げることができます。
・大学等からの支援を受けられることで、日本での起業に必要な知識やネットワーク、経営ノウハウも得られます。
・「学んで帰国する」だけでなく、「学んで起業する」という新しい道が選択できるようになります。
・配偶者や子供と一緒に日本に在留できる要件を満たせば、家族に支えてもらいながら新しい事業にチャレンジできます。
日本にとってのメリット
・日本の大学等で学び、日本の文化や商習慣を理解した優秀な留学生が起業することで、新しいビジネスやイノベーションが生まれ、日本経済の活性化につながります。
・外国人起業家のグローバルな視点やネットワークを活かした事業展開により、日本企業の国際競争力が高まることも期待できます。
・地域に根ざした起業においては、地方創生や雇用創出にも貢献し、地域経済の発展や国際化にもつながります。
・外国の新しい発想や技術が日本に入ってくることで、ビジネス環境や産業の多様化、新市場の開拓も促進されます。
・日本で学んだ留学生による起業は、日本の価値観を深く理解しながら、日本と母国の架け橋となるビジネスを展開できる可能性を持っており、単なる海外からの企業進出とは異なる価値があります。
・「学んで帰国する」だけでなく「学んで起業する」外国人起業家の輩出は、日本が真のグローバル人材を育成、活用していく礎石となることが期待されます。
最後に
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、特定活動44号ビザをはじめ、外国人のビザ全般に関する無料相談を受け付けています。いつでもご相談ください。
当法律事務所では、スタッフ全員が行政書士の資格を持ち、弁護士の指導のもと、ビザ申請・外国人雇用・労務・契約書など、法務の専門知識を持ったプロフェッショナルがそろっています。ご安心してご相談ください。
※本稿の内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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