ビザ申請

米国ビザ審査に健康条件が影響?肥満・糖尿病も非移民者ビザの発給拒否のリスク:最新方針と企業・駐在員の実務リスクを解説

by 弁護士 小野智博

健康状態でビザ却下? 企業と駐在員の盲点

はじめに:健康状態が米国ビザ審査に影響する時代へ

米国への渡航や駐在において、これまでビザ審査の中心となっていたのは「滞在目的」「雇用条件」「財務状況」などでした。しかし近年、肥満や糖尿病などの慢性疾患がビザ審査に影響する可能性が高まっていることが報じられ、企業や駐在員の間で大きな関心を集めています。最近の報道では、これらの健康状態が公的負担のリスクとして扱われ、医療費負担能力が疑問視される場合、ビザ拒否につながり得ると指摘されています。

健康状態や将来的な医療費リスクをめぐる審査は移民ビザに限らず、非移民ビザにも影響する可能性があり、これまで以上に審査基準が広範化していることが示唆されています。国務省が定める医療診も厳格化されつつあり、既往症だけでなく、治療計画、保険加入、支払能力など、総合的な評価が求められる傾向が強まっています。

こうした動きは、米国に事業展開する企業や駐在員・出張者にとって無視できないリスクであり、健康管理や準備体制がこれまで以上に重要になります。

この記事では、新しい健康審査のポイントと企業が直面する実務的課題、そして必要な対応策について解説します。

新しい健康審査強化の概要

審査対象となる健康条件の範囲(肥満・糖尿病・心疾患など)

2025年11月、U.S. Department of Stateは、新たなビザ審査ガイダンスを米国領事館・大使館に発令し、これまで主に結核などの伝染病や極端な医療状態に限定されていた健康審査の対象を拡大するとのニュースが報じられました。
今後は、肥満や糖尿病、心血管疾患、呼吸器疾患、がん、代謝疾患、神経疾患、精神疾患など、慢性的かつ長期的な医療管理や高額医療費を要する可能性のある疾病が審査対象に含まれることになります。

加えて、過去の病歴のみならず、将来的な医療コストや継続治療の必要性も考慮され、ビザ申請者の健康リスクが総合的に判断されるようになっています。

「パブリックチャージ」規則強化のポイント

この健康審査の強化は、特定の健康状態を持つ申請者を「将来的に公的支援(医療、福祉)を受けるリスクあり」とみなす、いわゆるパブリックチャージ(公的負担)判定の一環として位置づけられています。従来、公共負担の判定では年齢や資産状況が重視されてきましたが、新ガイダンスでは健康状態が強く影響する要素と定められています。

具体的には、慢性疾患や高齢、扶養家族の医療リスクなどが、米国での医療費負担や将来の公的支援受給の可能性につながるか判断され、これによりビザ発給や永住権申請が拒否される事例が増える可能性があります。

医療費負担能力・民間保険加入状況の確認強化

新たな審査方針では、単に既往症の有無だけでなく、申請者が米国で医療を受けた場合に自己負担で医療費を賄えるか、または適切な民間医療保険に加入しているかという点が審査されるようになりました。

ビザの申請許可希望者は、滞在期間中および将来にわたる医療費支払能力を証明しなければなりません。たとえば、糖尿病や心疾患のように生涯にわたり治療や管理が必要な疾患を抱える場合、健康保険、貯蓄、定期収入など、財政的裏付けを示すことが重要です。

こうした審査強化は、医療サービスへの過度な依存を防ぎ、米国の医療福祉システムへの負担軽減を目的としていますが、申請者側には過去以上に詳細な財政・医療履歴の提示が求められることになります。

扶養家族・帯同家族の健康状態も審査に影響する可能性

さらに、新指針では、申請者本人だけでなく、扶養家族や帯同家族(子ども、高齢の親など) の健康状態もビザ審査の判断材料となる可能性があります。ガイダンスでは、家族に慢性疾患や障害を抱える者がいる場合、その医療費負担や将来的な介護コストが公共負担になるリスクとして評価することが許可されています。

そのため、家族帯同で駐在や移住を希望する企業や個人は、帯同者の医療履歴や保険加入状況、治療計画を含めて準備し、申請書類に反映させる必要があります。特に子どもの慢性病や高齢の扶養者の持病がある場合は、医療コスト見通しや保険カバーの証明を整えておくことが不可欠です。

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どのビザカテゴリーが影響を受けるのか

移民ビザ(永住権申請)

U.S. Department of State の Medical Examinations FAQs では、現在の医療診断において 結核・梅毒などの感染症検査、ワクチン接種歴、精神疾患や薬物依存の有無、身体機能への影響を伴う疾患 が確認されることが明記されています。これまでは感染症対策を中心とした審査が重点とされてきましたが、今後は日常生活や就労に影響する慢性疾患、治療継続の必要性、将来の医療費負担なども細かく評価されるようになるでしょう。特に糖尿病・心疾患・重度の肥満などは、米国社会保障や医療制度への潜在的負担と見なされる可能性が高く、保険加入状況、収入、貯蓄、雇用の安定性が問われることになります。また帯同家族の健康状態も審査対象となるため、家族全体の健康管理や医療計画が重要な意味を持ちます。移民ビザでは治療中の病状や服薬状況も厳密に確認されるため、医療記録の整備や担当医師による証明書の準備が不可欠です。

非移民ビザ全般(E・L・H・Oなど)

今回の健康審査強化は、移民ビザだけでなくE・L・H・O などの幅広い非移民ビザ審査にも影響を及ぼす可能性があります。実際、新たな指針ではH-1B、L-1などの非移民ビザを含む、米国外で処理されるビザ申請に適用されるとされています。特に、企業内転勤(L)、高度専門職(H-1B)、投資家ビザ(E)などは、長期滞在を前提とするケースが多く、その間に生じうる医療費リスクが公共負担として算定されやすくなります。肥満・糖尿病・心疾患といった慢性疾患は、将来的に高額医療費が発生する可能性があるとみなされるため、保険加入や財務基盤の健全性を示さなければ審査に不利となることも想定されます。さらに、駐在員の家族帯同が一般的なビザカテゴリーでは、扶養家族の健康状態が追加審査の対象になる点にも注意が必要です。これらの変更は、企業の国際人事戦略に直接的な影響を与え、派遣前の健康管理やリスク説明が必須となっています。

短期渡航(B1/B2など)

短期渡航を目的とするB1/B2ビザは従来比較的取得しやすいカテゴリーとされてきました。実際、今回の新しい指針は観光や短期出張などの短期渡航ビザには適用されません。ただし、短期滞在であっても、万が一の救急医療費は非常に高額になるという懸念はあります。企業出張者の場合、突発的な医療トラブルに備えた海外医療保険やサポート体制が必要です。

日本企業・駐在員・出張者への実務影響

今回の健康審査強化は、日本企業の海外派遣・駐在体制にも大きな影響を与える可能性があります。特に、E・L・H など長期滞在を前提とするビザカテゴリーでは、派遣前の健康管理と医療リスクの可視化がこれまで以上に重要になります。肥満・糖尿病・心疾患など慢性的な治療を必要とする疾患は、ビザ取得に影響し得るため、社員の既往症や治療計画、医療保険加入状況を一覧として事前に整理しておく必要があります。

さらに、家族帯同を前提とした駐在計画では、配偶者や子どもの健康状態が審査リスクとなり得るため、赴任断念や派遣先変更を検討するケースも増える可能性があります。企業側は、派遣候補者選定の段階から健康面のリスク評価を行いつつ、制度変更への迅速な対応が求められるでしょう。

企業がとるべき対応策

健康状態がビザ審査に影響する新たな制度潮流の中で、日本企業にはこれまで以上に慎重かつ計画的な対応が求められます。まず重要なのは、派遣前の健康リスク評価の仕組みを整備することです。社員本人だけでなく帯同家族の慢性疾患や治療歴を適切に把握し、必要に応じて医療機関から診断書や治療計画書を取得するなど、申請に耐えうる医療記録を事前に準備する必要があります。

次に、米国の医療費の高さが世界的にもトップレベルであることを踏まえ、海外医療保険や企業負担の補助制度を見直すことが求められます。医療費支払能力や保険加入状況が審査対象となるため、企業として社員が十分な補償を受けられる体制を整えておくことが、ビザ取得の成功率向上につながります。また、予見しづらい審査遅延に備え、出張・赴任スケジュールを柔軟に設定し、代替案を確保することも実務上不可欠です。

さらに、中長期的には、複数の派遣パターンや他国拠点を活用したリスク分散も効果的です。健康理由によるビザ拒否が増える可能性を考慮し、派遣候補者の層を厚くし、業務の一部をリモート化するなど、柔軟な組織設計が求められます。企業法務部門や人事部門は、米国移民法に精通した専門家と連携し、制度変更に即応できる体制を整えることが重要です。

海外進出・海外展開への影響:健康が新しいビザ審査基準となる時代に備える

健康条件が米国ビザ審査に影響するという新たな潮流は、単なる個々の申請判断にとどまらず、日本企業の海外進出・海外展開の根幹に関わる問題です。とくに駐在員派遣が多い企業にとっては、派遣候補者や帯同家族の健康状態が赴任可否に直結する可能性が高まり、従来の人事ローテーションだけでは事業継続に支障が生じるリスクがあります。また、短期出張の頻度が高い企業にとっても、健康審査の厳格化は渡航計画の不確実性を増大させ、商談・技術支援などのスケジュール調整に影響を及ぼす可能性があります。

さらに、企業が抱える中長期の課題として、海外市場での事業展開に必要な人材の確保が難しくなることが挙げられます。慢性疾患を持つ社員が増える中、健康状態を理由に特定の市場へ派遣できないケースも想定され、企業はより柔軟な組織体制や、多国籍人材の活用を検討せざるを得なくなっています。

こうした状況に備えるためには、企業が健康リスクを組み込んだ新しい海外派遣モデルを構築し、必要に応じて業務の一部をリモート化したり、他国拠点を活用したりするなど、複数の選択肢を併用することが重要です。また、最新のビザ制度や審査運用を継続的に把握し、適切な助言を得るためには、米国移民法に詳しい専門家との連携が不可欠です。健康が新たなビザ審査基準となる時代においては、法務・人事・経営が一体となって、持続可能な海外事業体制を構築することが企業の競争力維持につながるでしょう。

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、米国移民制度および海外法務に精通した弁護士、さらに行政書士資格を有する専門スタッフが多数在籍し、健康条件の審査強化や公的負担 ルールの適用範囲拡大を含む最新のビザ審査動向に対応した実務支援を提供しています。駐在員派遣や短期出張、現地採用に伴う非移民ビザ・移民ビザの取得・更新に関するサポートはもちろん、申請者や帯同家族の健康状態が審査に与える影響の評価、必要資料の整備、医療費負担能力の説明方法など、今回の制度強化に特有の論点にも幅広く対応しています。また、制度改定により高まる審査リスクを踏まえ、企業の人材配置計画や海外派遣制度の再設計、複数拠点を活用した業務運営モデルの構築など、将来的なビザ取得リスクを見据えた戦略的なリスクマネジメント体制の整備にも注力しています。

米国への事業展開や国際人材の渡航管理に課題を感じられる企業様は、どうぞ安心してご相談ください。

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