
はじめに
2019年、5月31日、アメリカではビザの申請フォームが更新され、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」といいます)のアカウント情報の開示の義務化が始まりました。これにより、ビザ申請者は DS-160 等の申請書で複数の SNS ハンドル名やアカウント情報を申告する必要があり、SNS のオンライン情報が審査対象に含まれるようになっています。
そして2025年12月3日、米国国務省(U.S. Department of State)は公式に H-1B(専門職ビザ)および H-4(H-1B の扶養家族ビザ)申請者に対して、SNS 等のオンラインプレゼンス(オンライン上の存在情報)の審査を拡大する方針を発表しました。 2025年12月15日以降、これまで F、M、J の学生・交流訪問者ビザで実施していたオンライン審査は、H-1B/H-4 申請者にも適用されます。対象となるビザ申請者は、自身が保有するすべての SNS プロフィール(Facebook、Instagram、Twitter、LinkedIn 等)について 公開設定(public)にするよう指示され、SNS やインターネット上の公的情報が国務省による審査の一部として利用されるようになりました。
この記事では、米国におけるSNS情報開示・デジタル・スクリーニングの最新動向を踏まえ、ビザ申請や海外進出を行う日本企業・駐在員が直面する実務上の影響と、注意すべきポイントについて解説していきます。
具体的な更新内容
更新されたフォームは3つ
米国のビザ審査におけるオンライン情報確認の強化は、現在も 3つの主要な申請フォーム を通じて行われています。対象となるのは、
■ 非移民ビザオンライン申請フォーム(DS-160)
■ 非移民ビザのペーパーバックアップ版申請フォーム(DS-156)
■ オンライン移民ビザ申請フォーム(DS-260)
です。
これらはいずれも、非移民ビザ・移民ビザを問わず、米国国務省が申請者の身元・背景を審査するための中核的な書類です。
変更内容
従来、これらの申請フォームでは、申請者が使用した電話番号や電子メールアドレス、海外渡航歴、国外退去歴、テロ活動への関与の有無などが確認されてきました。
現在ではこれに加え、申請者が過去5年間に使用したソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)アカウント情報の申告が、移民ビザ・非移民ビザを問わず原則として求められています。申請フォームには、Facebook、X(旧Twitter)、Instagram、LinkedIn など複数の SNS プラットフォームが列挙されており、申請者は 実際に使用したアカウント名(ハンドルネーム)を正確に記載する必要があります。
また、近年の運用では、単にアカウント名を記載するだけでなく、SNSが非公開設定になっている場合、特定のビザカテゴリーでは「公開設定(public)」にするよう求められるケースも確認されています。
ビザ申請者がSNSアカウントを全く保持していない場合はアカウント名を記載しなかったことを理由にビザが却下されることはありません。ただし、虚偽の申請は手続きの遅延を引き起こすだけでなく、最悪の場合ビザの却下につながる可能性があります。
従来の対象者
これまでは、特別な調査の対象として特定された応募者、主に高度なテロ活動を行った地域を訪れた人々に対してのみ、電子メール、電話番号、SNS情報の開示が求められていました。AP通信によると、年間約65,000人の申請者がこのカテゴリに分類されていたということです。
現在および今後の対象者
現在では、ほとんどの非移民ビザ申請者および移民ビザ申請者がSNSアカウントに関する質問に回答する必要があります。
ただし、以下のタイプの非移民ビザ(主に外交、公用、国際機関関係者としての渡米を目的としたビザ)は引き続き対象外となります。
A-1、A-2、C-2、C-3、G-1、G-2、G3、G-4、NATO-1、NATO-2、NATO-3、NATO-4、NATO-5、NATO-6
日本国籍者については、90日以内の商用・観光目的の渡航であれば、ビザ免除プログラム(Visa Waiver Program:VWP)を利用し、ESTA(電子渡航認証)の申請のみで米国へ入国することが可能です。現時点では、ESTA申請時に過去のSNSアカウント情報やソーシャルメディアの履歴を開示する義務は設けられていません。
しかしながら、米国税関・国境警備局(CBP)は近年、VWP対象国からの渡航者に対してもデジタル情報およびソーシャルメディア情報の審査を拡大する方針を明確にしています。CBPは、大統領令 Executive Order 14161 に基づき、ESTA申請において過去5年間のソーシャルメディア識別情報(SNSアカウント情報)を必須項目とする制度改正案を連邦官報(Federal Register)で正式に提案しました。現在、この提案については2026年2月9日までパブリックコメントが募集されており、その後、段階的に制度が導入される可能性があります。
この提案が実施された場合、日本を含むVWP参加国の渡航者であっても、ESTA申請時にSNSアカウントの申告が義務化されることになり、従来の「ビザ不要・簡易手続き」という位置づけは大きく変わることになります。今後は、ESTAを利用した短期渡航であっても、オンライン上の情報管理や申請内容の正確性が、入国可否に影響を与える時代に移行していくと考えられます。
アメリカ政府の主張
アメリカ国土安全保障省は2017年から、SNSの情報を移民の公認記録に含むことができるという新しい規則を導入していました。その後も、テロ対策や国家安全保障を理由として、ビザ申請者や渡航者に対するデジタル情報の収集・分析は継続的に拡大されています。
近年では、こうした流れがさらに加速しており、2025年以降、トランプ政権下で発令された Executive Order 14161 に基づき、米国税関・国境警備局(CBP)が ESTA申請者を含む外国人渡航者に対するSNS情報収集の義務化を正式に提案しました。この提案は連邦官報(Federal Register)に掲載され、SNSアカウント情報の提出を国家安全保障上不可欠な審査項目として位置づけています。
こうした背景のもと、アメリカ国務省は、ビザ申請フォームにおけるSNS情報の開示義務やオンライン上の情報確認について、「新たな規制の導入ではなく、既存の安全保障方針を実務に反映したもの」であるとの立場を示しています。そして現在も、「ビザ申請の判断において、最優先事項は国家安全保障である」という基本方針を国民および申請者に向けて繰り返し表明しています。
このように、SNS情報の収集やデジタル・スクリーニングは、一時的な政策対応ではなく、今後も恒常的かつ拡張的に運用される安全保障措置として位置づけられており、ビザ申請者や渡航者はこの前提を踏まえた対応が求められます。
海外進出・海外展開への影響
これまで、SNSに関する情報開示は、特別な調査の対象として特定された応募者、主に高度なテロ活動を行った地域を訪れた人々にのみ要求されていました。しかし現在では、移民ビザ・非移民ビザを問わず、大多数のビザ申請者がSNSアカウント情報の開示対象となっています。現時点では、日本からの短期間の商用・観光目的の渡航者(ESTA対象者)については、SNS情報の開示は求められていません。一方で、アメリカで事業を展開するために就労ビザや駐在員ビザの取得を検討している人は、引き続きSNS情報の開示義務の対象となります。
さらに近年、米国税関・国境警備局(CBP)は、ESTA申請者についてもSNS情報の提出を義務化する制度改正案を公表しており、今後は短期渡航者であっても審査対象が拡大する可能性があります。では、具体的にSNSアカウント情報の開示でどのような情報をアメリカ政府は手にすることができるのでしょうか?一般的には、申告したSNSアカウントのうち、公開設定(public)となっている情報が審査の対象になると考えられています。例えばFacebookの場合、プロフィールに登録する情報の一部は公開されます。公開プロフィールには、名前、性別、年齢層、言語、国、ユーザーネームとユーザーID (アカウント番号)、プロフィール写真、カバー写真、ネットワークが含まれます。共有範囲を公開にしたコンテンツや公開グループに投稿またはコメントした内容も公開情報です。
SNSでは個人の趣味や嗜好が表現されることが多く、これらの情報を開示することには抵抗を感じるかもしれません。しかし、今回の対象拡大の背景には、国家の安全保障の重視と、SNSへの監視がテロ行為の未然防止に有効であるという考え方が存在しています。テロリズムに対して危機感を募らせるアメリカへのビザ申請手続きにおいて、開示が義務付けられているSNS情報の隠ぺいは、それが発覚した場合に負うリスクは非常に大きいと言え、アメリカへの入国を許可されない事態も十分予測されます。申請を行う際には嘘偽りのない正確な情報を提供することが最重要であるといえるでしょう。
※本記事の記載内容は、2026年1月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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