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海外進出・海外展開:アメリカではビザ申請時にSNS情報の提出義務付けが開始/米国ビザ申請において企業が注意すべき点について

by 弁護士 小野智博


 

はじめに

2019年、5月31日、アメリカではビザの申請フォームが更新され、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」といいます)のアカウント情報の開示の義務化が始まりました。このアカウント開示の対象者は1500万人規模と推定されており、アメリカへビザの申請をする人のほとんどが対象となります。本記事では、今回の申請フォーム更新の具体的な内容やこれまでの流れ、日本人がアメリカに入国する際に与える影響について説明していきます。

具体的な更新内容

・更新されたフォームは3つ

今回、更新の対象となった申請フォームは、非移民ビザオンライン申請フォーム(DS-160)、非移民ビザのペーパーバックアップ版申請フォーム(DS-156)、およびオンライン移民ビザ申請フォーム(DS-260)の3つとなります。

・変更内容

従来、これらの申請フォームでは、申請者が使用したことのある電話番号と電子メールアドレス、および海外旅行と国外追放の状況、および家族がテロ活動に関与したかどうかについての質問事項が設けられていました。

新しく更新された申請フォームでは、移民ビザ、非移民ビザにかかわらず、使用したことのあるSNSアカウント情報についても追加で求められるようになりました。 具体的には、SNSプラットフォーム(Facebook、Twitter、Instagram)に関する質問項目が追加されており、申請者は過去5年間に使用した 自分のアカウント名を入力する必要があります。

もし、ビザ申請者がSNSアカウントを全く保持していない場合はアカウント名を記載しなかったことを理由にビザが却下されることはありません。ただし、SNSアカウントを保有しているにもかかわらず、アカウント名を記載しない等の虚偽の申請は、手続きの遅延を引き起こすだけでなく、最悪の場合ビザの却下につながる可能性がありますので、注意が必要です。

・従来の対象者

これまでは、特別な調査の対象として特定された申請者、主に高度なテロ活動を行った地域を訪れた人々 に対してのみ、電子メール、電話番号、SNS情報の開示が求められていました。AP通信によると、年間約65,000人の申請者がこのカテゴリに分類されていたということです。

・今後の対象者

ほとんどの非移民ビザ申請者および移民ビザ申請者がSNSアカウントに関する質問に回答する必要があります。
ただし、以下のタイプの非移民ビザ(主に外交、公用、国際機関関係者としての渡米を目的としたビザ)は対象外となります。
A-1、A-2、C-2、C-3、G-1、G-2、G3、G-4、NATO-1、NATO-2、NATO-3、NATO-4、NATO-5、NATO-6
なお、日本人は90日以内の商用・観光目的の入国に関しては、そもそもビザの取得は不要とされています。つまり、このビザ免除プログラムによるESTA(電子情報システム)申請者については本義務の対象外であり、ESTA を取得する際には、SNS情報の開示は必要ありません。
新しい規則では、対象者が大幅に拡大され、71万人の移民ビザ申請者と1,400万人の非移民ビザ申請者に影響を与えるとの推定があります。

アメリカ政府の主張

アメリカ国土安全保障省は2017年から、SNSの情報を移民の公認記録に含むことができるという新しい規則を導入していました。また、2018年3月にはアメリカへのテロリストの入国阻止を目的とした提案がトランプ大統領からなされていました。
これらの事情のもと、アメリカ国務省は、今回のフォーム更新について、上記の規則導入や提案を受けて運用を開始しただけであるとの立場を取っており、また次のような声明を国民に向けて発表しています。
ビザ申請の判断において、最優先事項は国家安全保障です。アメリカに入国するすべての旅行者が安全保障に関する審査を受けています。国務省では、アメリカへの合法的な渡航を支援しながら、アメリカ市民を保護できるよう、スクリーニングプロセスの改善に絶えず取り組んでいます。

 

海外進出・海外展開への影響

これまで、SNSに関する情報開示は、特別な調査の対象として特定された申請者、主に高度なテロ活動を行った地域を訪れた人々 にのみ要求されていました。今回の適用対象拡大により、日本からの短期間出張者(ESTA対象者)はこれまで通り不要なものの、アメリカで事業を展開するためにアメリカでの就労ビザの取得を考えている人は開示義務の対象となります。

では、具体的にSNSアカウント情報の開示でどのような情報をアメリカ政府は手にすることができるのでしょうか?これについては、アカウント提供したSNSの情報のうち、公開設定となっている情報のみが、アメリカ政府によって把握されると考えられています。例えばFacebookの場合、プロフィールに登録する情報の一部は公開されます。この公開プロフィールには、名前、性別、年齢層、言語、国、ユーザーネームとユーザーID (アカウント番号)、プロフィール写真、カバー写真、ネットワークが含まれます。このほか、共有範囲を公開にしたコンテンツや公開グループに投稿またはコメントした内容も公開情報です。これらの公開情報がアメリカ政府によって把握され、ビザ申請の審査をはじめとする国家の安全保障の取組みに利用されることになるのです。

SNS上では個人の趣味や嗜好が表現されることが多く、これらの情報を政府機関に開示することには抵抗を感じるかもしれません。しかし、今回の適用対象拡大は、国家の安全保障の重視と、SNSへの監視がテロ行為の未然防止に有効であるという考え方を背景としています。テロリズムに対して危機感を募らせるアメリカへのビザ申請手続きにおいて、開示が義務付けられているSNS情報を隠ぺいすることは、それが発覚した場合に負うリスクが非常に大きいと言え、アメリカへの入国が許可されない事態も十分予測されます。駐在員等の米国ビザ申請を行う際には、嘘偽りのない正確な情報を提供させるようにすることが最も重要であるといえるでしょう。

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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