ビザ申請

経営管理ビザの許可率は低い? 申請の難易度が高いといわれる理由や過去の許可事例・不許可事例を紹介

by 弁護士 小野智博


目次


経営管理ビザの申請は数ある就労ビザのなかでもトップクラスに難しい、とはよく聞かれる話です。どうしてそういわれるのか、また実際に許可率はどのくらいなのかという点について、参考情報をまとめています。
日本で起業したい、日本の事業所に滞在して管理業務をおこないたいといった目的で経営管理ビザの申請を検討されている外国人の方や、外国人の管理者を招き入れたい法人のご担当者は参考になさってください。

▶参考情報:「経営管理ビザ」については、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
「経営管理ビザ」の基礎知識と留意ポイントをまとめて解説

経営管理ビザの取得が「難しい」といわれる理由

外国人の方が日本の在留資格を得ながら就労する際の「就労ビザ」としては、技能ビザ、教育ビザ、法律・会計業務ビザ、介護ビザなどをはじめ全19種(2024年6月現在)ありますが、そのなかでも経営管理ビザは、申請や取得の難易度が比較的高いといわれがちです。

どうしてそのようにいわれるのか、理由として考えられる点をいくつかピックアップして解説します。

ビザを取得する目的が多岐に渡り、状況に応じて必要書類も異なる

経営管理ビザが対象としている活動内容の定義は以下のとおりです。

「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」

実は、経営管理ビザは旧来「経営投資ビザ」という名称の在留資格でしたが、2015年4月の入管法改正によって要件の見直し・緩和などが行われたうえで、現在の「経営管理ビザ」になったという経緯があります。この改正自体は、認定される在留期間のパターンが増える、必要書類や要件が減るといった緩和の動きが主だったため、様々な外国人の方にとっても対応しやすくなった状況だといえます。ただそれに伴い「経営管理ビザの要件に適合する活動や状況、目的」の幅も増え、その状況ごとに申請する際に揃えるべき種類も異なることから、申請難易度が高いと感じられている可能性があります。

経営管理ビザの対象となる外国人の活動には、主に以下のようなものがあります。
・会社を日本で新設し、起業する
・外国法人内の日本支社へ転勤し管理業務を行う
・日本法人である会社の役員に就任する
・日本法人において管理者として雇用される
・他の在留資格を得ている方が、個人事業主としてビジネスを行う

事業の継続性が重要視される

経営管理ビザの審査時には、活動対象となる事業について継続性や安定性が大変重視されます。
申請者は登記事項証明書や仔細が書かれた会社の案内書、事業計画書を提出し、それらをもとに出入国管理庁によって事業の継続性などについての厳格な審査が行われます。

この点は新規申請時のみでなく、在留期間満了時の更新を申請する際にも同様であり、特に慣れない日本で起業し試行錯誤中という外国人経営者の中には更新時期に赤字決算となってしまう方もおられると思いますが、赤字決算の状況下での経営管理ビザ更新は、難易度がさらに高くなってしまうでしょう。

起業を理由とする場合は500万円以上の出資が必要

外国人の方が経営管理ビザで新規に起業する場合には、在留資格の要件上、基本的に「500万円以上」の投資や出資を行う必要があります。
例えば2名以上の日本国籍の常勤従業員を雇用する、労働保険に加入するなどの諸条件を満たすことで500万円以上の出資は不要となるケースもありますが、いずれにしても準備の難易度が高いといえるでしょう。

また500万円以上の出資を行う場合には、その資金の出どころについても適正であるかを厳密に審査されます。

入念な準備をおこなっていないと、申請にあたって必要な立証・説明が不十分となりやすい

就労ビザ全般にいえることではありますが、特に経営管理ビザでは状況ごとに様々な立証や説明が必要となります。

前述の500万円以上の資本金については、どのように形成された資産なのかという点を客観的に証明する必要があり、過去の収入の蓄積であるのか、親族や金融機関から借入したのかなど状況によって例えば所得証明書、金銭消費貸借契約書、金融機関の送金時の通知はがきなど適した書類を準備しておかなければなりません。

また経営管理ビザでは日本国内で事業をおこなう際の事業所の所在や実態も大変重視されるため、住居とは明確に分けられた建物あるいは空間であるか、簡易的すぎる構造の屋台などではないか、賃貸であれば貸主が事業用であることを許可しているか、など様々な点でのチェックがあり、必要に応じて不動産登記簿謄本や賃貸借契約書、その他の資料などを用意し提出する必要があります。

その他、日本法人の役員に就任する場合は必要事項が掲載された定款の写しや株主総会の議事録、外国法人の日本支店へ転勤という状況であれば派遣状や異動通知書、日本において管理者として雇用される場合には労働基準法に基づいた雇用契約書といったように申請者の状況や資格取得目的によって様々な書類の提出が求められます。

さらに、経営管理ビザの申請においては就労先(起業含む)となる企業・機関の規模や実態によってカテゴリー1〜4までの4つの区分があり、どのカテゴリーに属するかの証明も申請者のほうで準備する必要があります。
カテゴリーの区分としては、以下のような定義となっています。

・カテゴリー1……日本の証券取引所に上場済み、あるいは保険業を営む相互会社、国や地方の公共団体、独立行政法人、規定に該当する公共法人 など
・カテゴリー2……「前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」で源泉徴収税額が1,000万円以上あることを確認できる団体・個人 など
・カテゴリー3……カテゴリー2を除いた、「前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を提出可能な団体・個人
・カテゴリー4……上記のいずれにも該当しない(「前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を提出できない)団体・個人

どのカテゴリーに属するかの証明として提出できる書類としては、カテゴリー1であれば四季報の写しや主務官庁からの設立許可証明書、カテゴリー2や3であれば「前年分の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」の写しなどとなります。
カテゴリー4は「前年分の職員の給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を提出できない方ということになりますが、その場合は「提出できない理由」を明らかにするために、例えば外国法人の源泉徴収免除証明書、給与支払事務所の開設届出書、納期の特例を受けている証明書など、理由に応じた書類を提出することが求められます。

以上のようなことから、そもそも自分の状況でどんな書類がどれだけ必要になるのか、といった点の把握自体に時間がかかってしまう、という方も少なくないでしょう。 

経営管理ビザの「許可率」は非公表、ただし要件緩和の動きも

経営管理ビザ取得の難易度を推し量るために、実際の経営管理ビザの、申請に対する許可率などを知る方法はあるでしょうか?
こちらについては、結論としては出入国在留管理局や法務省などの公的機関からの公表はなされていないため、具体的な許可率を知るすべはありません。

ただし経営管理ビザについて、近年では以下でご紹介するような要件緩和の動きがみられることから、旧来の在留資格では状況がうまく適合しない人や手続きを進められない方が多かったが、新しい要件で認可率が上がっていく、という可能性も考えられます。

2015年の改正

2015年の法改正では4か月という在留期間が新設され、日本での会社設立を準備中の外国人の方であれば、その証拠資料を提出でき、資本金500万円を準備できることなどを条件に「会社設立のための4か月の在留資格」を得ることができるようになりました。
また、日本に住所を有していない外国人の方が外国法人の子会社を設立する場合や、その他新会社の設立がほぼ確実という見込みである場合などに、登記事項証明書がない状況下でも入国を認めるケースが生まれました。

2024年の改正(見込み)

こちらはまだメディアや新聞での報道レベルでの情報ではありますが、経営管理ビザの申請においても特に難易度の高さが目立つ要件ともいえる「500万円の出資」「事務所の確保」といった要項について、2024年度中の省令改正で一定の緩和がなされる見込みと報じられています。
もしこの緩和施策が実際に実現すれば、現在の要件で経営管理ビザの取得がかなわないという外国人の方のうち、新要件で取得が実現するという方も出てくるものと考えられます。

ただし、経営管理ビザにおける「500万円以上の出資」という要件は、例えば不法就労や目的外の制度の利用、留学生がとりあえず起業したことにして申請するといった不正を防ぐことに寄与しているとも考えられます。
そのため、規制緩和があったとしてその緩和が許可率に与える影響などについては計り知れない部分も多いですが、いずれにしても政府からの正式なリリースが待たれるところでしょう。

また、経営管理ビザの申請の難易度を考えるにあたっては、出入国在留管理庁のガイドラインも参考になるかもしれません。下記にリンクを掲載しますので、よろしければご参考ください。

▶参考情報:詳細は出入国在留管理庁のページをご参照ください。
出入国在留管理庁『外国人経営者の在留資格基準の明確化について』

経営管理ビザが許可された事例、不許可となった事例

最後に、出入国在留管理庁のサイトにて無料で公開されている、実際の経営管理ビザ申請事例のうちいくつかを抜粋し、ご紹介します。
あくまで前例の一部であり、申請ごとに個別の審査がおこなわれるため状況が一致したと考えられた場合でも結果が同様になるとはかぎりませんが、申請準備にあたっては大変参考になる、個別の細かな状況が分かる事例になっているかと思います。経営管理ビザの審査が厳しく行われていること、一方でそれぞれの個別事情を鑑みながら柔軟な許可を出していることなども伺えますので、ぜひご覧になってください。

【許可】住居目的という前提の賃貸契約物件での事業経営が許可された事例

経営管理ビザの審査においては、事業所となる空間と住居は明確に分けられている必要があるという要件があります。
この事例では、個人経営の飲食店を営むという前提で経営管理ビザの申請を行ったものの、事務所として指定した物件の、賃貸借契約書上の「使用目的」が住居と記載されていたという状況でした。
本来、要件不適合という状況ですが、物件貸主との間で「会社の事務所として使用する」ことについて認めるという旨の特約を交わしていたため、最終的に「事業所が正当に確保されている」と認められたとのことです。

【許可】ひとつの建物で会社事務所と住居部分の入り口が別になっており許可された事例

株式会社を設立し販売事業を営むという目的で経営管理ビザを申請した事例です。
この事例では、事務所として指定した物件と申請者の住居が同一の住所でした。しかし、ひとつの物件において、会社事務所部分と住居部分それぞれに別の入口が明確に設けられており、あわせて事務所入り口のほうには会社名を表す標識を設置、事務所内にはパソコン、事業用の電話、コピー機や事務机など事業用設備が設置されていることなどを踏まえ、「事業所が確保されている」と認められたとのことです。

【不許可】居宅で事業経営をおこなう目的であったが、郵便受けや標識、室内設備などが事業に不適合な状態であり、不許可となった事例

有限会社を設立したうえで、当該法人の事業経営に従事するという目的で経営管理ビザを申請した事例です。
この事例では、事業所として指定されていた物件が申請者の自宅と思われたことから審査上の実地調査が行われました。
調査結果として、事業所としての郵便受けや玄関の標識などが設置されておらず、また室内については日常生活品があるのみで、事業運営に必要と思われる最低限の設備や備品などが認められず、さらに従業員の給与簿や出勤簿も存在しなかったため、審査結果が不適合となったとのことです。

【許可】登記簿上の本店は居宅であったが、別途事業所と認められる賃貸物件があったため許可された事例

水産物の輸出入、および加工販売業を営む目的で経営管理ビザを申請した事例です。
登記簿上の本店は役員自宅であったものの、別途事業所の支社として商工会から物件を賃借していることが認められたため、「事業所が確保されている」と認められたとのことです。

【不許可】事業所の賃貸名義が従業員個人であり、実状としても住居としての利用であったことから不許可となった事例

有限会社を設立した上で設計会社を営むという目的で経営管理ビザを申請した事例です。
この事例では、店舗事業所として指定している物件が法人名義でも経営者の名義でもありませんでした。調査を進めたところ物件は従業員名義であり、実状としても当該従業員が住居として使用しており、物件の光熱費の支払いも同従業員が行っていることが判明しました。
尚且つ、当該物件を住居目的以外で使用することについての貸主の同意も得られなかったことから、審査結果が不適合となったとのことです。

【許可】企業の直近期決算書において当期損失はあるものの、債務超過とはなっていいないことから事業の継続性が認められた事例

こちらは、経営管理ビザの在留期間更新時に、当該企業の直近期決算書において当期損失があったという事例です。
しかしながら、債務超過とはなっていないという点、および同社が起業して間もない第1期の決算であったという事情が鑑みられ、当該事業の継続性はあるものと認められ、在留期間の更新が可能になったとのことです。

※参考指標
自己資本比率 : 約30%、売上高総利益率 : 約60%、売上高営業利益率 : 約-65 %

【不許可】企業の直近期決算書において売上総損失および多大な欠損金があり、事業の継続性が認められなかった事例

同じく経営管理ビザの在留期間更新時の事例です。直近期決算書において売上総損失(売上高-売上原価)が発生しており、当期損益が赤字で欠損金もあるという状況でした。
また欠損金の額が「資本金のおよそ2倍」という大きな負債状況を示していたため、審査において当該事業の継続性を認められず、在留期間の更新が不可となったとのことです。

※参考指標
自己資本比率 : およそ-100%、売上高総利益率 : およそ-30%、売上高営業利益率 : - 1,000%超

【許可】2名以上の外国人が共同経営者として事業経営を行うという前提で在留資格が認められた事例

こちらの事例では、「2名以上の共同経営者」という部分が共通する、以下3つの個別事例があります。

・外国人AおよびBがそれぞれ500万円ずつ出資。資本金1,000万円で輸入雑貨業を営む会社を設立。Aは輸出入業務等海外取引の専門家、Bは品質・在庫管理や経理の専門家であり、AとBはそれぞれの専門分野において会社の業務状況を判断している。経営方針は共同経営者としての合議で逐一決定している。

・外国CおよびDがそれぞれ600万円・800万円を出資。資本金1,400万円で運送サービスを営む会社を設立。サービス担当地域をCとDがそれぞれ設定したうえで、それぞれの担当地域について事業の運営を行っている。経営方針は共同経営者としての合議で逐一決定している。

・外国EおよびFがそれぞれ800万円・200万円を出資。資本金1,000万円でデジタルマーケティングに関する専門的教育・トレーニングを提供する会社を開業するために、「国家戦略特別区域外国人創業活動促進事業」を活用する予定である。Eは過去の起業経験を活かしCEO代表として、Fはマーケティングの経験を活かしチーフ・マーケティング・オフィサーとして、共同して事業運営を行う予定である。

▶参考情報:詳細は出入国在留管理庁のページをご参照ください。
出入国在留管理庁『外国人経営者の在留資格基準の明確化について』

経営管理ビザ申請にハードルの高さを感じたら法律のプロへご相談を

経営管理ビザは外国人が日本で起業したい場合や法人内で管理業務を行いたい場合に活用できる在留資格制度です。
経営者・管理者向けの制度であり、また広く外国人を受け入れられるようにという趣旨で、事細かに分かれる必要書類を提出することで様々な状況でも対応できるようになっているという側面があるため、そのぶん申請の難易度も高くなっているといえるでしょう。

経営管理ビザの申請に難しさを感じお悩みの場合には、様々な申請手続きや書類作成のサポート実績を積んでいる、弁護士や行政書士にご相談ください。

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「この場合は要件に該当するのか」「どのような追加書類を準備するのが適当か」など、経営管理ビザの申請では、的確な要件判断や実務上の豊富な経験に基づく必要書類の準備が重要であり、審査結果に大きく影響します。
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※本稿の内容は、2024年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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