はじめに |
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本稿では、日本企業が外国人に業務委託契約で働いてもらうための、契約の仕方とビザ取得手続や注意点についてご説明いたします。 |
目次
はじめに
外国人に例えば通訳等として日本国内で働いてもらうためには、人文知識・国際業務ビザを取得することが考えられます。その申請においては、日本国内の企業等とその外国人の間で就労に関する「契約」を結ばなければならないとされています。その「契約」は正社員を前提とした雇用契約であることが多いですが、業務委託契約であっても問題ないのか、その場合の手続や注意点について、具体的に解説いたします。
外国人との業務委託契約
1.在留資格の要件
(1)2015年4月改正のポイント
2015年4月の入管法改正により、以前は分かれていた「技術」と「人文知識・国際業務」が統合され、「技術・人文知識・国際業務」となりました。背景としては、仕事を単純に「文系」「理系」に分けられない、という状況がありました。確かに、仕事の内容を文系と理系に峻別するのは困難で、一見すると理系のような仕事でも、実際は文系出身の方が適任であるような仕事、あるいはその逆も多々あります。そうした背景から今回の在留資格の統合がなされ、採用担当者が「文系か理系か」ということで頭を悩ませることはひとまずなくなりました。
ただし、文系理系の区分がなくなったといっても、それは在留資格に該当するかどうかの判断が緩やかになったことを意味するわけではありません。文系理系の区分はありませんが、申請者の実際の専攻と、就こうとする業務の関連性は従来通りしっかり判断されることになりますので注意が必要です。申請者の専攻と、就こうとする業務の関連性について不安を感じる場合には、弁護士、行政書士などの専門家にご相談されることをお勧めいたします。
(2)入管法の規定
人文知識・国際業務ビザの「人文知識・国際業務」について入管法は以下のように規定しています。
「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する知識を必要とする業務(筆者注:人文知識)又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務(筆者注:国際業務)に従事する活動(一の表の教授の項、芸術の項及び報道の項の下欄に掲げる活動並びにこの表の投資・経営の項から教育の項まで、企業内転勤の項及び興行の項の下欄に掲げる活動を除く。)」
具体的には、申請人が次の①かつ③、または②かつ③に該当していることが必要です。
① 申請人が人文知識を必要とする業務に従事しようとする場合
日本において従事しようとする業務について、これに必要な知識に係る科目を専攻して大学を卒業し若しくはこれと同等以上の教育を受け又は従事しようとする業務について10年以上の実務経験により、当該知識を修得していること。
② 申請人が国際業務に従事しようとする場合
次のいずれにも該当していること。
ア 日本において翻訳、通訳、語学の指導、広報、宣伝又は海外取引業務、服飾若しくは室内装飾に係るデザイン、商品開発その他これらに類似する業務に従事すること。
イ 申請人が現在所在する国において、従事しようとする業務に関連する業務について3年以上の実務経験を有すること。ただし、大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この限りでない。
*ここで注意すべきは②のイの部分です。
『大学を卒業した者が翻訳、通訳又は語学の指導に係る業務に従事する場合は、この限りでない』とありますので、翻訳、通訳や語学教師などであれば、国際業務でも実務経験は不要で大学での専攻も特に問わない(国際関係学部などを出ている必要性はない)ということになります。これは、大学卒業程度の教育があれば、母国語に関する翻訳や通訳を行うことに通常は支障がないことが理由と考えられます。
③ 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等以上の報酬を受けること
* 外国人と業務委託契約を締結する場合は、その委託料が同種の業務を日本人が従業員として
行う場合の平均賃金と比較して同等額以上であるかどうかを判断するとされています。契約が複 数ある場合には、その合計金額で判断するとされています。
在留資格の申請においては、その外国人が日本で継続的、安定的に生活できる基盤を立証することが非常に重要となります。雇用以外の契約の場合、一般的に正規の雇用契約よりも活動や報酬の安定性が低いとみなされることが多いため、雇用契約同様にその業務委託契約が期間・報酬ともに安定的なものであることを証明しなければなりません。たとえば派遣契約を結ぶ場合、派遣が継続的なものであること、報酬額についても正社員と同程度以上の額が保障されていることが望まれ、これらは在留資格の申請時既に確定されている必要があります。
さらに、当該業務委託契約の詳細を雇用の場合以上に説明することが必要な場合があるとされています。具体的には、業務委託契約書等で業務内容の詳細・業務従事場所・業務フロー等と合わせて報酬算定方法・支払い時期等について説明がなされていることが必要となります。これらについて曖昧な部分があると、入国管理局から説明資料の追加提出を求められる可能性が高まります。
(3)必要書類
人文知識・国際業務ビザ取得のために最低限必要な書類として以下のようなものがあります。
ア 招へい機関の概要を明らかにする資料
(ア) 商業・法人登記簿謄本(発行後3か月以内のもの)
(イ) 直近の損益計算書の写し(新規事業の場合は今後1年間の事業計画書)
(ウ) 案内書
*公刊物等で招聘機関の概要が明らかになる場合は必要ありません
イ 卒業証明書または活動にかかる科目を専攻した機関にかかる証明書および職歴を証する文書
(ア) 卒業証明書又は卒業証明書の写し
(イ) 申請人の履歴書
(ウ) 次のいずれかのもの
*従事しようとする業務に必要な知識にかかる科目を専攻した大学等の卒業証明書又はこれと
同等以上の教育を受けたことを証するもの
*在職証明書等で関連する業務に従事した期間(10年以上)を証するもの(大学、高等専
門学校、高等学校、又は専修学校の専門課程において当該技術または知識にかかる科目を専攻した期間の記載された当該学校からの証明書を含む。)
*外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする場合は、所
属機関、または所属していた機関からの在職証明書等で、関連する業務に三年以上実務経験を有することを証するもの
ウ 次のいずれかの一又は複数の文書で、で活動の内容、期間、地位および報酬を証するもの
(ア) 招へい機関との雇用契約書の写し
(イ) 招へい機関からの辞令の写し
(ウ) 招へい機関からの採用通知書の写し
(エ) アないしウに準ずる文書
2.ビザ取得手続における注意点
ア 業務委託契約を締結した外国人は、個人で確定申告を行い、国民健康保険や国民年金に加入する義務があります。それを怠ると次回の在留期間更新時に不利に判断される可能性があります。もっとも、外国人納税者は「外国税額控除」の制度に基づき、一定の金額を日本で納付するべき税額から控除することが可能です。日本と租税条約を締結している国については財務省のウェブサイトに掲載されていますので、確認されることをお勧めいたします。
イ 在留期間の更新の際には、納税証明書や課税証明書、あるいは健康保険証の提出が求められる点には注意が必要です。業務委託契約の存続期間中に在留期間の更新手続きを取らなければならない場合には、この点について十分な説明を事前にしておくことが重要です。また、業務委託契約の解除条項に在留資格が得られない場合には契約を解除することができる旨規定することも考えられます。
ウ また、在留資格の申請時には企業の事業内容が適正であるかといった点も審査対象となりますので、派遣契約であれば派遣元が労働者派遣法による許認可を受けていることや必要な届出を行っていること、諸法令に基づく労務管理が行われていることなども重要になります。
おわりに
本稿が、外国人従業員が安心して働ける雇用環境を実現し、日本企業が外国人材の能力を十分に活用して事業を発展させるためのお役に立てますと幸いです。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、外国人雇用についてのご相談をお受けしておりますので、いつでもご相談ください。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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