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少子高齢化の影響もあり外国人雇用への関心が高まりつつあります。しかし、外国人雇用制度や在留資格の種類は複雑であり、外国人雇用を行う際には十分な検討が必要です。外国人雇用のメリットや課題、手順、注意点について介護事業所の人事部・採用担当者の皆さまは、次のようなお悩みがあるのではないでしょうか。
「介護業界で外国人雇用を行うメリットと課題は?」
「外国人が介護業界で働くために必要な就労ビザは?」
「就労ビザを取得する方法は?」
「介護業界において外国人雇用を行う際の注意点は?」
この記事では介護事業で外国人雇用を行う際のメリット・課題から就労ビザ取得の手順、介護業界で外国人雇用を行う際の注意点までを分かりやすく解説します。
介護業界における外国人雇用の現状
日本の介護業界は、少子高齢化による人材不足の進行により、慢性的な人手不足に直面しています。厚生労働省によると、介護分野の有効求人倍率は全業種平均の約3倍に達しており、特に若年層の労働力確保が課題となっています。このような状況を受け、外国人労働者の受け入れが進められています。例えば、介護分野の特定技能在留資格を持つ外国人は、2019年9月時点で16人でしたが、2023年1月時点では17,066人と急増しています。2025年には、団塊の世代が75歳以上となり、介護ニーズの急増が予想されています。この「2025年問題」に対応するため、外国人労働者のさらなる受け入れが進められる見込みです。しかし、長期的な視点での人材育成や、外国人労働者が安心して働ける環境の整備が不可欠です。
介護業界で外国人雇用を行うメリット
介護業界にとって、外国人労働者の雇用は単なる人手不足解消策にとどまらず、職場の質の向上や国際的な視野の拡大につながる大きなチャンスとなる可能性があります。
介護業界で外国人雇用を行うメリットをみていきましょう。
慢性的な人手不足の解消
介護業界の有効求人倍率は全国平均を大きく上回っており、特に中小の介護事業者では人材確保が年々困難になっています。
外国人労働者は、即戦力として現場の担い手になり、業務の安定化に繋がる可能性があります。
特に活躍が期待されるのは以下のような人材です。
- 介護技能実習生
- 特定技能1号保持者
- 日本の介護福祉士資格を取得した外国人
若年層の労働力が確保できる
外国人労働者は日本人労働者に比べて、20代〜30代の若い世代の外国人が多く、施設全体の活気向上にもつながります。
また、体力やフットワークが求められる業務において、若さは大きな戦力の一つになります。
定着率が高い
外国人労働者は、日本での就労を長期的に希望する人も多く、継続的に働く意欲の高い方も多いです。
特に特定技能制度や介護福祉士資格を取得した場合、在留期間の更新や永住も視野に入るため、安定雇用が可能です。
また、外国人労働者にとって働きやすい環境であれば、他の従業員候補者も紹介してもらえる可能性もあります。
多文化共生による職場の活性化
外国人労働者の受け入れにより、施設内に多様な文化が入り、新しい風が吹き込む可能性があります。その結果、「スタッフ間の協力体制が自然と育まれる」「利用者にとっても新鮮な刺激となり、会話の幅が広がる」「グローバルな人材育成により、組織としての柔軟性が高まる」といった効果も期待できます。
国の受入れ体制も整ってきている
近年、国の制度の整備が進み、外国人雇用に関連するサポートも充実してきています。
- 登録支援機関の活用
- 外国人向けの日本語教育プログラム
- 介護職向けの試験対策・研修の実施
これらのサポートを利用すれば、初めて外国人を雇用する事業者でも安心してスタートできます。
介護業界で外国人雇用を行う課題
外国人雇用は「万能の人手不足対策」ではなく、受け入れ側の理解と準備が必要不可欠です。外国人雇用を行う前にはメリットだけではなく、課題も頭に入れておく必要があります。
言葉の壁がある
最大の課題とも言えるのが「日本語能力」です。
- 「伝えたつもり」が伝わらない
- 専門用語や介護記録が理解できない
- 利用者とのコミュニケーションが円滑に取れない
特に認知症の方や耳が遠い高齢者と接する現場では、高い日本語力が求められることもあるため、職場全体のフォローが不可欠です。
在留資格の制度が複雑である
外国人の雇用は、「技能実習」「特定技能」「介護」など、在留資格によって要件や制限が異なります。
- 定期的な在留期間更新が必要
- 資格の条件を満たしていないと雇用継続が困難に
- 制度変更のたびに対応が必要
法務や行政の知識に加え、定期的な確認と管理業務が求められます。
文化・宗教・価値観の違いがある
「介護に対する価値観(例:排泄や入浴の介助への抵抗)」「宗教上の習慣(礼拝、食事制限など)」「時間感覚や働き方への考え方の違い」など宗教文化や価値観の違いから職場内の摩擦につながる可能性があります。業務上受け入れることが難しい文化や価値観であっても、外国の文化・価値観であることは尊重した上で、企業文化や日本の労働ルールについても説明し、チームとして働くため、相互理解の場づくりが大切です。
教育・指導の負担がある
外国人労働者はやる気があっても、日本の介護現場に不慣れなケースもあるため、以下のような教育とサポートが必要となることがあります。
- 日本の介護基準・接遇マナーの教育
- 日本語のサポート
- 資格取得のための支援
教える側の職員の負担が大きくなり、「教える余裕がない」ことが人材定着を妨げることもあります。
利用者や家族からの理解が得られないことがある
介護など福祉の施設の利用者の中には、以下の理由から「外国人に介護されることに抵抗がある」と感じる高齢者や家族が一定数います。
- 言葉が通じにくいことへの不安
- 文化的・心理的な距離感
- 「質の低いサービスになるのでは」という誤解
信頼関係の構築には時間がかかります。
事業所としては、利用への丁寧な説明と外国人労働者へのサポート対応が必要です。
外国人が介護業界で働くことができる就労ビザ
介護業界で働くことができる就労ビザは複数あります。
それぞれに特徴があり、対象となり得る人も異なりますので、注意が必要です。
介護
日本国内の介護福祉士養成施設を卒業し、国家資格「介護福祉士」の資格を取得した外国人が対象となり得ます。
特徴は以下の通りです。
- 介護職として制限なく就労可能
- 在留期間の更新や永住申請も可能
- 安定的な人材として長期雇用が見込める
特定技能1号
介護分野の技能試験(介護技能評価試験)と日本語能力試験(N4以上)をクリアした外国人が対象となり得ます。
特徴は以下の通りです。
- 現場業務(入浴・排泄・食事介助等)に従事可能
- 最長5年間の在留が可能(更新可)
- 指定された介護事業所でのみ就労可能
・外国人特定技能ビザの申請について|取得の要件とポイントを法律事務所が解説
技能実習
送り出し国(主にベトナム、インドネシア等)と協定があり、介護分野の技能実習制度に基づき来日した技能実習生が対象となり得ます。
特徴は以下の通りです。
- 実習1号〜3号まで、最長5年間滞在
- 実習計画に沿った指導・監督が必要
- 技能実習後に特定技能1号へ移行可能
※「労働力の確保」ではなく「技術の移転」が本来の目的であるため、外国人労働者はいずれ帰国する想定の制度です。長期雇用に適した在留資格ではありません。
特定活動(EPA介護福祉士候補者)
EPA(経済連携協定)に基づき、フィリピン・インドネシア・ベトナムから来日した介護福祉士候補者が対象となり得ます。
特徴は以下の通りです。
- 日本国内の施設で就労しながら勉強し、国家資格「介護福祉士」を目指す
- 試験に合格すれば、「介護」ビザへ変更可能
- 滞在期間中は特定活動ビザ(最大4年間)
身分系の在留資格
「身分系の在留資格」は、日本人の配偶者等や永住者など、日本での生活が認められている外国人が取得できるビザです。このビザを持っている場合、日本での就労に制限がなく、日本人同様自由に働くことができます。
1.永住者
・日本で長期間生活し、一定の要件を満たした外国人に与えられる。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
2.日本人の配偶者等
・日本人と結婚した外国人が取得できるビザ。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
3.永住者の配偶者等
・永住者や特別永住者の配偶者が取得できるビザ。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
4.定住者
・日系人や特別な事情がある外国人が取得できるビザ。
・就労制限がなく、どんな仕事でも就労可能。
資格外活動許可
「資格外活動許可」とは、本来の在留資格で認められていない活動(就労)を一定の条件下で行うことができる許可のことです。主に留学生や家族滞在ビザを持つ外国人が、アルバイトなどの形で働く場合に必要になります。
ただし、週28時間以内という制限があり、キャバクラ、パチンコ、ガールズバーなどの風俗営業は禁止されています。
◆主な取得対象者
・留学生(日本の大学・専門学校に通う学生)
・家族滞在ビザの配偶者や子ども
介護業界で働くための就労ビザの取得手順
日本国内において介護職で外国人雇用を行う際の就労ビザの取得手順について説明します。
在留カードを確認する(内定時)
内定時に在留カードを確認します。
在留カードは必ず原本を提示してもらうようにして、コピーを取ります。
在留カードが本物かどうか確認できるアプリも利用すると安心です。
雇用契約を締結する
就労ビザを取得するためには、まず正式な雇用契約を結ぶ必要があります。
ビザ申請時には、労働条件が明確に記された雇用契約書を提出する必要があるため、事前に適切な雇用契約を締結しましょう。
◆雇用契約書を締結する際のポイント
・職種、業務内容を明記する
・給与、勤務時間、福利厚生を明記する
・契約期間を明記する
在留資格変更許可申請をする
雇用契約を締結したら、外国人労働者の住所地を管轄する出入国在留管理局に、「在留資格変更許可申請」を行います。通常は外国人労働者本人が行いますが、弁護士や行政書士に任せることもできます。
◆主に企業側が用意するもの
・在留資格変更許可申請書
・会社概要が分かる資料(決算書、会社のパンフレット、履歴事項全部証明書等)
・雇用契約書(労働条件通知書)
◆主に本人が用意するもの
・履歴書、職務経歴書
・最終学歴の卒業証明書、実務経験を証明できるもの
・パスポートと在留カード
在留資格変更が許可される
在留資格変更許可申請をしてから約1~3ヶ月ほどで在留資格変更許可申請が許可されます。申請する就労ビザや場所、時期にも影響されますが、1か月強かかることが多いです。
採用が決まったらすぐに申請の手続きを行えるよう準備しましょう。
就労開始
在留資格変更が許可されてから就労開始します。
▶参考情報:外国人の就労ビザを取得する方法については下記の記事でも解説していますので、ご参照ください。
・外国人の就労ビザを取得する方法|ビザ申請に強い法律事務所が解説
不許可になった場合の対処法
外国人労働者の増加に伴い、不法就労問題も増えてきました。
そのため、就労ビザの審査は年々厳しくなっており、不許可になる可能性もあります。
不許可になる事例と不許可になった際の対応についてみていきましょう。
再申請する
不許可になった理由が、書類の不備や申請内容に誤解が生じてしまったなどすぐに解消できる場合であればすぐに再申請を行います。
場合によっては理由書や上申書などを付けた方が良いケースもありますので、弁護士や行政書士に相談の上再申請すると安心です。
一度母国に帰国する
就労ビザの申請が不許可になっても、在留期間内であれば何度でも再申請することができます。
しかし、一回不許可になっている以上、その理由が解消されない限り許可されることはありません。
また、何度も再申請を行うことで申請手数料がかさんでしまいます。
不許可になった理由が、在留態度が悪いと思われたなどすぐに解消することが難しい場合は、一度帰国した上で在留資格認定証明書交付申請を行う方が良いこともあります。
在留資格認定証明書交付申請の際には相当性(過去の在留態度など)は審査対象になりません。
不許可になった場合は弁護士や行政書士に今後の流れを相談することをおすすめします。
介護業界で外国人労働者を雇用する際の注意点
少子高齢化の影響もあり、介護業界でも外国人雇用が注目されていますが、外国人労働者を採用する際には、より注意しなければならない点があります。
在留資格の確認を行うこと
最も重要なのは在留資格の種類と内容の確認です。
「特定技能1号」「介護」「技能実習」など在留資格によって就労内容・期間・制限が異なります。雇用時・更新時には必ず在留カードの確認を行い、資格外活動をしていないかも確認も行ってください。
不適切な就労は企業側が「不法就労助長罪」に問われる可能性もあるため、慎重な確認が必要です。
日本語能力の見極めと支援を行うこと
介護現場では利用者との会話や記録業務が欠かせません。
- 採用前に日本語能力(N4〜N3程度)をチェックする
- 配属後も、継続的な日本語研修や支援体制の整備を行う
- 特に「介護記録の読み書き」については重点的に教育する
といった対応が必要になります。
教育・指導体制の整備を行うこと
外国人職員が業務に慣れるまでには時間がかかることが想定されます。
- 指導担当者(トレーナー)を事前に決めておく
- マニュアルやOJT計画を多言語対応にする
- 「わからない」と言いやすい雰囲気づくり
といった対応が必要になります。
「見て覚える」文化ではなく、言葉と図で的確に伝えるスタイルが有効です。
適切な勤務管理・生活支援を行うこと
生活習慣や就労慣行が日本と異なるため、丁寧な説明が必要です。
- シフト・有休制度・残業・欠勤や遅刻早退控除のルールを明文化して説明する
- 住居・銀行口座・病院など生活全般もサポートする
- 精神的なケア(カルチャーショックや孤独感)も意識する
といった対応が必要になります。
特に給与控除についてはきちんと会社のルールに基づく処理であることを丁寧に説明する必要があります。
また、「働くこと以外」にも安心して生活できる環境を整えることが、定着率アップに直結します。
「就労上重要な決まり」や「生活するにおいて重要な手続き」などを一覧にして渡す方法も有効です。
文化・宗教への配慮を行うこと
外国と日本との宗教・習慣の違いを理解し、配慮を心がけましょう。
多様性を受け入れる姿勢が、職場全体の雰囲気を良くする要素になります。
- 食事制限(ハラールなど)や礼拝時間の確保
- 男女別のケアに関する文化的感覚
- 「敬語」や「距離感」に対する捉え方の違い
業務上、どうしても配慮が難しいことであっても、「できません」と突き放すのではなく、相手の文化であることを尊重した上で、配慮が難しい理由を丁寧に説明するよう心掛けましょう。
・外国人従業員とのトラブルを回避!差別につながる言動と対応策について弁護士が解説|ビザ申請に強い法律事務所が解説
労働法を遵守すること
外国人労働者だからといって、労働条件で差をつけることはできません。
原則として日本人労働者と同じ待遇であることが求められます。
更に労務面では以下のような対応が必要になります。
- 就業規則、労働契約書、給与明細などを分かりやすく説明する
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険)、労働保険(労災保険・雇用保険)にも原則として加入する
- ハラスメントやトラブル防止のガイドラインを整備する
トラブルを防ぐには、「説明責任」と「記録の保存」も鍵となります。
利用者・家族への説明と理解促進に努めること
外国人職員への不安を持つ利用者・家族も一定数いますので、以下のような対応が必要になります。
- 採用時にパンフレットや面談で丁寧に説明する
- 実際の介護の様子を見せ、安心感を持ってもらう
- 不安や誤解がある場合は早めの対話を心がける
多少不慣れな部分があったとしても「一生懸命で安心した」と、信頼が深まるケースもあります。
・外国人雇用で失敗しないために!採用時の注意点を法律事務所が解説|ビザ申請に強い法律事務所が解説
外国人採用・雇用の手続きについてのお悩み・課題は解決できます
この記事では、介護業界において外国人雇用を行う際のメリットと課題や就労ビザの申請手順、外国人雇用の際の注意点について、介護事業所の皆さまが直面すると思われるお悩みや課題について、解決の手助けになる基本的な知識の概要をお伝えしました。
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※本稿の内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。
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執筆者:弁護士小野智博
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