コンプライアンス

もし出張中に事故が起きた場合、労災となるケースとならないケースの違いは?

by 弁護士 小野智博

【相談内容】

出張中に、仕事と関係のない私的行為・恣意的行為を行っている場合、その間は業務が中断され、事故による負傷は労災の給付が認められないといわれています。

では、どのようなケースで労災が認められるのでしょうか?
出張時の考え方において注意すべき点があれば教えてください。

 

基本は業務遂行性の有無で判断

【結論】

例外を除き、宿泊や食事中など、ほぼすべての場合が労災として認められます。

労災保険の給付は、労働者の“業務上の”負傷や疾病に関して行われるものなので(労災法7条)、事故の原因となった行為に“業務起因性”のほか“業務遂行性”があることが要件となります。

 

出張中における業務遂行性の考え方

通常、出張は事業主の包括的または個別的な命令によって特定な用務を果たすために、通常の勤務地を離れて用務地へ赴いてから、用務を果たして戻るまでの一連の過程をいいます。

そのため、出張の過程全般を業務行為と捉え、業務遂行性は失われません。
移動、食事、宿泊などの間も、何か事故が起きると労災になります。
しかし、出張中の積極的な私用・私的行為・恣意的行為をしている間は、業務遂行性が失われているとして労災には認められません。

具体的な事例を見てみましょう。

 

出張に当然または通常伴う行為であるとして、業務遂行性が認めれられる事例

遠方への出張であれば、移動、食事、宿泊が伴うと考えられます。

(1)移動経路上の駅構内での災害
(2)出張先への移動中の災害
(3)食事、宿泊に伴っての災害

上記3点については、業務上遂行性が認められます。
出張の宿泊中も業務遂行性は失われおらず、宿泊先で入浴中に足を滑らせて転倒したような事故でも出張業務に起因する事故ということになるのです。
ただし、あまりにも泥酔しているための事故では、業務遂行性が否定される場合も考えられます。

 

積極的な私用・私的行為の具体例

次に、出張中の積極的な私用・私的行為・恣意的行為の事例をお話します。

(1)泥酔しての階段からの転落事故
(2)外出して飲み歩いている際の事故
(3)映画館に立ち寄っている際の事故
(4)出張経路を離れて観光地を訪れている間の事故
(5)出張中の空き時間に友人を訪ね、歓談している間の事故

上記のケースが、積極的な私用・私的行為・恣意的行為に該当すると思われます(昭27・12・1基収4772ほか)。
そのため、労災認定は難しいでしょう。

 

その他、業務遂行性の有無の注意事項

(1)出張先における宿泊場所について
事業主から特定の宿泊場所を指定されているにも関わらず、自己の都合で他所へ泊った場合には業務遂行性を失っていると判断されます。
たとえば、出張先で関連企業のビジネスホテルに宿泊することが指定されていたにも関わらず、近隣に位置する実家に宿泊し、その実家で災害に遭い負傷したとしても、業務遂行性は認められません。

(2)通常の出張経路を逸脱した後の業務遂行性の回復
上記の『積極的な私用・私的行為の具体例』内の(4)・(5)の場合、通常の出張経路を逸脱しているものとして、その間は業務遂行性が失われることになります。

(3)自宅から出張先へ赴き、また自宅へ戻る場合
事業場を出て事業場へ戻る場合には、その間をすべて出張とみることができます。
しかし、自宅から出張先へ赴き、また自宅へ戻る場合には、出張命令の内容・出張用務の性質・当該事業場における慣行などから見て、“是認しえるものかどうか”によって、出張と見なすか否かを判断することになるでしょう。

 

まとめ

出張中は食事や宿泊中などの事故も労災に認定されます。
その上で、積極的な私用・私的行為・恣意的行為の例外に該当するかどうか、判断が難しい場合は専門家へご相談ください。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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