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海外進出・海外展開:カリフォルニア州で新しいクリーンエネルギー法案が成立 エネルギー関連事業のビジネスチャンス

by 弁護士 小野智博

はじめに

トランプ政権(アメリカ政府)とカリフォルニア州は、様々な問題において対立の姿勢を見せています。例えば、ネット中立法案では政府の決定と反する法案をカリフォルニア州独自で成立させました。移民政策をめぐっては、不法移民の摘発を強化しているアメリカ政府と、移民に寛容な政策を取るカリフォルニア州の間で対立が深まっています。

環境問題をめぐっても同様です。カリフォルニア州は前州知事の時代から大胆な環境政策を進めており、カリフォルニア州は環境政策の世界的リーダーとして国際社会で台頭しています。一方、アメリカ政府は、現状、オバマ前大統領政権時代の環境政策を次々と廃止しています。例えば、トランプ大統領は、2015年に採択された気候変動問題に関するパリ協定からの離脱を表明したことは大きな話題となりました。

現在、世界中で各国はエネルギー、環境問題に関する様々な課題に直面しています。中国やアメリカなど、世界の主要国の石炭離れや、各国の再生エネルギー発電の強化・推進が良い例でしょう。実は、これらの環境政策には新しいビジネスチャンスも隠されています。例えば、省エネの技術や、太陽光、風力などの再生エネルギーの技術は今後さらに需要が増える見込みであり、企業側としてもこの流れに沿った対策や戦略、事業展開が求められることでしょう。また、企業努力が必要な面も多くありますので、カリフォルニアで事業展開をしている企業は対策が間に合うように留意する必要があります。

ここでは、カリフォルニア州におけるこれまでの主な環境政策や新しく制定されたクリーンエネルギーの具体的な内容について紹介しています。

 

これまでの環境政策

AB32法

2006年、カリフォルニア州ではAB32法という地球温暖化対策法が定められました。これは、炭素排出量の規制を実施するための法案であり、カリフォルニア州内の炭素排出量を2020年までに1990年レベルに削減することが義務付けています。

AB32法に伴い、キャップ・アンド・トレード(地球温暖化ガス排出量を州が決定して企業や工場に割り当てる排出量取引)や、太陽光システムの導入や電気自動車・燃料電池自動車の購入に伴う払戻金制度など新たな規定や環境政策が次々と誕生しました。

 

SB32法

2016年9月、ジェリー・ブラウン知事によりSB32法という州新地球温暖化対策法が定められました。これは、カリフォルニア州の温暖化ガス排出量を2030年までに1990年比40パーセント削減することを義務付けるものです。

同じような内容の規制案は、シュワルツェネッガー前知事が2006年に知事権限(S-3-05)として出していましたが、それを改めて法令にしたものです。

 

新しい環境法案

法案の内容

2018年9月10日、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事は、「2045年までに州内の全電力をクリーンエネルギーで賄うことを義務付けた」法案に署名しました。法案では具体的に以下の2段階で定められています。

・2030年までに、電力の60%以上を太陽発電や風力発電など再生可能エネルギーによるものとする。

・2045年までに、すべての電力を太陽発電や風力発電など再生可能エネルギーによるものとする。

なお、排出されたCO2の燃料への変換や、回収した後の地下への貯留なども、カーボンニュートラルであるとして原子力発電や地熱発電、天然ガスによる発電も認められる見通しです。

 

ブラウン知事の主張

「簡単なことではなく、すぐに結果が出るようなものでもないが、達成しなければならないと」と決意を述べています。また、カリフォルニア州は地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」順守の道を進むと表明しており、パリ協定からの離脱を表明したトランプ政権にここでも対立の姿勢を見せたことになるでしょう。

カリフォルニア州は、ドイツ、日本、中国、アメリカに続き、世界第5位の経済規模を誇っており、カリフォルニアの姿勢に追随する団体は多いと見込まれます。

 

関連法案

2018年5月9日、カリフォルニア州では2020年より州内の新築一戸建て住宅に太陽光パネルの設置を義務付けることを決定しています。新しい基準に沿って建築された住宅は、既存の住宅に比較して、エネルギー消費量が約半分になると見込まれています。太陽光パネルの設置には、毎月の住宅ローン支払い額が増額されることが予測され、各方面から金銭的負担を懸念する声もあがっています。しかしながら、州政府側は、毎月の電気代の節約を考慮すると、結果的にはメリットの方が大きくなると主張しています。

 

今後の見込み

気候変動の問題を受けて、今後、環境政策はさらに変わってくることが予測されます。そして、環境政策の実施、達成のために、再生エネルギー、省エネ住宅、エネルギー効率向上などの分野でのイノベーションがより求められることになるでしょう。将来的に、再生エネルギーによる発電比率が増加することを考えると、関連分野の事業に注力することは企業にとってもプラスになることが予測されます。

環境政策による企業努力を負担としてとらえるのではなく、新しいビジネスチャンスだととらえ、今後の企業方針を決めていくとよいのではないでしょうか?

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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