コンプライアンス

研究目的での患者情報の取扱いの行方とは!?

by 弁護士 小野智博

2017年5月30日から全面的に施行された個人情報保護法は、病院などの医療機関が患者の病歴といった情報を第三者に提供することに対して厳しい要件を課しています。
そのため、研究目的での患者の情報利用が極めて難しくなるとの懸念がありました。

しかしながら、新たな法律が制定されたことにより、そのような懸念はなくなるかもしれません。
今回は、その新しい法律についてご紹介します。

 

これまでの状況

個人情報保護法は、患者の病歴といった情報等を『要配慮個人情報』として、特別な保護を与えています。

具体的には、病院など患者の情報を取得することができる医療機関などは、取得した患者の病歴等を患者本人の同意がない限り、第三者に提供することはできないこととされています。

しかし、患者の病歴等は、医師や研究者が研究を行う上で、とても有益な情報です。
これらの情報が、患者本人の同意がない限り大学などの研究機関に一切提供できないこととなってしまうと、医学研究は大きく後退してしまうことになります。

そこで、患者の病歴等の情報を匿名化し、個人の特定識別を困難にすることによって、それらの情報を患者本人の同意なしで研究機関などの第三者に提供できるようにする法律が制定されました。

 

次世代医療基盤法の概要

その新たに制定された法律は『医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律』(以下、次世代医療基盤法)といいます(平成29年4月28日成立、同年5月12日公布)。

次世代医療基盤法は、“健康・医療に関する先端的研究開発および新産業創出を促進し、もって健康長寿社会を形成すること”を目的とした法律です。

この法律によると、まず、ある法人が匿名加工情報を作成する事業者(以下、認定事業者)と認定される必要があります。

認定事業者となるためには、『医療情報を整理・加工することによって匿名加工医療情報を適確に作成するに足りる能力を有し、医療情報や匿名加工医療情報の漏えい、滅失または毀損の防止、その他の当該医療情報等および匿名加工医療情報の安全管理のために必要かつ適切な措置が講じられていること』など、高いハードルを越える必要があるのです。

そのような要件を満たし認定事業者となった法人に対しては、医療機関などは、あらかじめ患者本人などに対して病歴等(以下、医療情報)を認定事業者に提供することを通知し、本人が提供を拒否しなければ、医療情報を提供することが可能です。

その後、認定事業者が医療情報を、“特定個人を識別したり、個人情報を復元できない情報(以下、匿名加工情報)”に加工することで、患者本人の同意なく研究機関等の第三者に提供することが可能となります。
そして、提供を受けた研究機関などは、匿名加工情報を用いて、医学研究等を行うことができるのです。

 

今後の課題

次世代医療基盤法の制定により、医療情報の研究機関などによる利活用が可能となり、大規模な研究を通じた最適な医療の提供などが可能になるというメリットがあります。

もっとも現時点においては“認定事業者に認定されるための要件の詳細”や“認定事業者が匿名加工情報に対し、具体的にどのような安全管理措置を備えればよいか”といった点は明らかになっていません。

今後、それらについて詳細に定めた政省令が制定されることが予定されていますが、医療情報の利活用に関心のある方はその動向を注視することをおすすめします。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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