コンプライアンス

海外進出・海外展開:アメリカでCLOUD法が成立|政府による個人情報取得がさらに簡単に

by 弁護士 小野智博

はじめに

情報のボーダーレス化が著しい現在、個人情報の取り扱いには企業としても十分配慮する必要があります。また、デジタル時代の現在、企業の有する個人情報はますます膨大となっており、それの取扱い対する法的枠組みの必要性が叫ばれてきました。例えば、企業が有する情報を政府や警察などから求められた際にどうすべきかは、コンプライアンスや顧客のプライバシー保護の観点から非常に難しい問題となります。また、海外展開をする企業では、どの国の法律に従うべきか判断に迷うことも考えられます。

そんな中、アメリカでは2018年3月「The Clarifying Lawful Overseas Use of Data Act (CLOUD法)」が成立しました。CLOUD法により、アメリカや外国の政府は、企業に対し令状なしでデータを要求することが可能となります。これは法執行機関が国境を超えてデータにアクセスできる方法を規定する法的枠組みとなるものです。

CLOUD法に対してはマイクロソフト社やグーグル、アップルなどの大手テック企業が歓迎の声を上げている一方で、成立の過程で十分審議でされていないという反発の声も挙がっており、法律に対する各界の反応はさまざまです。

ここでは、CLOUD法の内容と成立の背景について説明するとともに、アメリカへ海外進出を考える企業が考慮すべきポイントについて紹介します。

 

CLOUD法の内容

CLOUDと聞くと、インターネット経由でデータベースやトレージ、アプリケーションなど利用できるサービスを想像する方も多いことでしょう。しかしながら、ここで紹介しているCLOUDは「Clarifying Lawful Overseas Use of Data 」の略で、政府による企業のデータ開示要求について定めた法律です。

CLOUD法では、以下の内容を規定しています。

 

データがどこに格納されているかにかかわらず、警察や政府機関は、有線通信・電子通信を含めあらゆる通信の内容と記録またはその他の関連情報にアクセスすることを許可されます。企業がアメリカに拠点を置くのであれば、たとえサーバーがアメリカ国外にあるとしても、データへのアクセスを要求することが可能です。

 

つまり、アメリカ政府からデータ開示要求がある場合には、たとえデータの所在が海外である場合でも企業はその要求に応えなければならなくなります。例えば、日本からアメリカに海外進出をして、現地法人を設立した場合を想定してみましょう。その場合には、日本国内に置いたサーバーや日本の本社で様々な情報を保管している場合も十分考えられますが、その場合であってもCLOUD法の下ではアメリカ政府からの情報開示に従う必要があるのです。

 

法律成立の過程および各界の反応

CLOUD法は、2018年度包括的歳出法案が採決される直前(前日)に同法案に追加されたという経緯を持っています。包括歳出法案は2232ページに及ぶ2年間の歳出法案であり、1兆3000億ドルもの政府拠出を計画しています。CLOUD法はこの2232ページ中の2201ページ目に追加されており、直前の混乱に紛れて採決された形です。

このため、アメリカ国内の複数の団体から、直近の法案追加は適正な手続きが不足しているとして、反対を受けていました。しかしながら、結果として、下院256対167、上院65対23で可決されるに至ったのです。

一方で、アップル、フェイスブック、グーグル、マイクロソフトなど大手テック企業は、次のようなCLOUD法に賛成する立場の合同文書を発表しています。

 

我々は顧客と世界中のインターネットユーザーを保護するための、国際的な合意と世界的な枠組みの必要性を長年主張してきました。訴訟に持ち込むのではなく、対話と法律によって解決することがベストの方策だとずっと強調してきました。CLOUD法の制定は、顧客の権利を保護する上で大きな前進となり、法への抵触というこれまで悩まされてきた懸念が減ると期待できます。

 

関連する事案

CLOUD法に大きく影響を与えた案件として、マイクロソフト社と捜査当局との裁判を紹介します。2013年12月、マイクロソフト社は麻薬捜査の一環として顧客の電子メールや記録を開示するようアメリカ当局から捜査令状を受け取りました。しかし、マイクロソフト社は対象の電子メールがアイルランドにあるサーバーに保存されていることを理由として、捜査権限の適応範囲外だとして捜査令状の取消を裁判所に要求したのです。

本件は、地方裁判所では捜査当局の勝利、控訴審ではマイクロソフト社側の勝利となり、最高裁判所に判断がゆだねられる事態にまで発展していました。しかし、CLOUD法の成立後は、アメリカ政府は令状なしでマイクロソフト社にデータの引き渡しを要求することができ、マイクロソフト社側もその要求に応える義務を負います。つまり、最高裁で争われていた紛争が無意味となったのです。実際に、最高裁側は今回の法律制定を受けて、本件は無効になったという声明を発表しています。また、マイクロソフト社側も以下のように歓迎の声明を発表しています。

 

我々は、CLOUD法成立を受けて、最高裁判所が訴訟を終結させる判決を下したことを歓迎します。わが社では常に、私たちの目標は常に、法執行機関が国境を越えてデジタル情報にアクセスする枠組みや、強力なプライバシー保護のための法律、国際協定の必要性を訴えてきました。今回のCLOUD法は国際協定の整備を推進するものであり、アメリカ政府が協定実現に向け行動を起こしてくれることを期待しています。

 

海外進出・海外展開への影響

CLOUD 法は、法執行機関が国境を越えてデータにアクセスできるよう規定する法的枠組みを前進させるものとなるでしょう。これまでアメリカでは企業の所在地ではなく、データの所在地がデータ開示有無のキーポイントになっていました。しかしながら、今回の法律制定後、アメリカで事業展開する企業では、データの所在地に関わらず、政府からのデータ開示要求に応じる必要があります。

日本からアメリカに海外進出・海外展開した企業にもこれは当てはまります。アメリカに比べ、日本では個人情報を中心としたデータの取り扱いに関する法整備が遅れているのが現状です。アメリカへ事業展開はするが、データは日本のサーバー、日本の本社で管理・保管していているという場合には特に、データの管理方法や情報開示を要求された際の対応についてあらかじめ整理しておくと良いでしょう。

 

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ファースト&タンデムスプリント法律事務所

代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

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