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海外進出・海外展開:カリフォルニア州では給与支払遅延に対する罰則が強化(PAGA法とAB673)

by 弁護士 小野智博

はじめに

アメリカには連邦法と州法があり、アメリカで事業を展開する企業は両方のルールを遵守する必要があります。アメリカ国内の中でもカリフォルニア州は労働関係について企業側に特に厳しい基準を設けていると言われており、カリフォルニア州に事業所を持つ企業は注意が必要です。近年、従業員から企業(雇用主)に対しての訴訟が急増しています。特に、集団訴訟の数が増えており、訴訟を起こされた企業は結果によっては巨額の和解金や弁護士費用を負担する場合もあるのです。

従業員から雇用主に対する訴訟は、最低賃金規定の違反や賃金の未払・遅延、残業手当や食事・休憩時間、記録管理など多岐にわたります。こうした中、カリフォルニア州では賃金支払の遅延に関する罰則を強化するAB 673が2020年1月1日から施行開始されました。

ここでは、AB 673の内容を紹介するとともに、カリフォルニア州で事業を行う企業が注意すべきポイントについて解説します。

既存の法律「PAGA法(Private Attorneys General Act)」とは?

カリフォルニア州にはPAGA法があり、労働者の違反行為に基づいて、他のすべての従業員を代理して雇用主に対して民事訴訟を起こすことができます。今回のテーマである給与の支払遅延もPAGA法の範囲内です。

PAGA法に基づく訴訟の一番の特徴は、たった1人の従業員が開始することができるにも関わらず、同一の違反の疑いがある他の従業員をも自動的に対象に含まれる点にあります。従業員が一致団結して雇用主を訴える一般的な集団訴訟よりもハードルが低いといえるでしょう。

PAGA法を通じた訴訟では、罰則のうち 75%はカリフォルニア州に徴収され、残り25%は従業員に渡されることになっています(損害賠償金は含まれません)。そして罰則の金額は、違反ごとに従業員1人あたり100ドル〜200ドルの額となります。

AB673とは?

カリフォルニア州法「AB673」は、カリフォルニア州労働法第210条を改正するもので、給料の支払遅延に対する罰則を定めています。

新しい労働法第210条では、賃金の支払遅延に対する罰則として、初回の違反に対して100ドル、二回目以降は違反ごとに200ドルを定めています。さらに、雇用主は遅れて支払われた賃金の25パーセントを上乗せして支払わなければなりません。

PAGA法とAB673の比較

例えば、支払期間の給与が『1200ドル』である場合について、初めて遅延があった場合の罰金について比較します。

違反に対する
罰金

遅延に対する
給料の上乗せ分

州への
分配額

従業員への
支払額

PAGA法

100ドル

なし

100×75%=75ドル

100×25%=25ドル

AB673

100ドル

200×25%=
300ドル

なし

100+300=
400ドル

※ ただし、AB673 では同一事由に対して、従業員がPAGA法と労働法第210条の両方を適用させることはできません。

同じ違反に対しての罰金にも関わらず、適用させる規定の違いによって、従業員が手に入れられる金額には25ドルと400ドルという大きな差が出ます。つまり、新しい法律は従業員のインセンティブを大きくしていると言うことができます。

海外進出・海外展開への影響

PAGA法では州からの徴収割合が高く、従業員が訴えを起こしても実際に手に入る金額は僅かでした。実際、前項で計算したとおり、PAGAを介した場合と労働法第210条(AB673)を介した場合とでは、給与の支払遅延に対して従業員が雇用主から受け取れる金額には大きな差が出てきます。これを踏まえると、従業員は今後、労働法第210条(AB673)の適用をより好むことが予測されるでしょう。また、今回の法改正で従業員の取り分が増えることから、訴えの件数も増加することが予想されます。

つまり、給与の支払遅延に対する雇用主側の罰金額はこれまで以上に大きくなるのです。訴訟の規模によっては膨大なコストがかかるリスクもあります。企業としては、罰金の支払いを求められることのない行動が一番です。賃金関係の手続きは専門家に依頼するなどして、漏れや遅延の生じないよう十分気をつけましょう。

 

※本記事の記載内容は、2020年3月現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

弁護士法人
ファースト&タンデムスプリント法律事務所

代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

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