はじめに |
---|
社会保険は国籍を問わず、要件に該当すれば適用となります。近年、社会保険の適用について加入の有無が厳しく問われるようになってきていますので、企業としては要件に該当する外国人従業員については、社会保険の確実な手続が必要です。 |
目次
雇用保険
雇用保険は労働保険のひとつであり、離職した場合の手当の給付や労働者が教育訓練を受けた場合の給付が行われます。
被保険者
雇用保険は、個人経営の農林水産業で、雇用している労働者が常時5人未満の事業以外は適用事業となり、雇用している労働者は原則として被保険者となります。
次のいずれかに該当する者は被保険者とはなりません。
(1) 1週間の所定労働時間が20時間未満である者
(2) 同一の事業主の適用事業に継続して31日以上雇用されることが見込まれない者
(3) 季節的に雇用される者であって、以下のアまたはイに該当するもの
ア. 4カ月以内の期間を定めて雇用される者
イ. 1週間の所定労働時間が30時間未満の者
(4) 学校教育法第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校または同法第134条に規定する各種学校の学生または生徒
(5) 船員であって、特定漁船以外の漁船に乗り組むために雇用される者(1年を通じて船員として雇用される場合を除く)
(6) 国、都道府県、市区町村等の事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、雇用保険の求職者給付および就職促進給付の内容を超えると認められるべき者
加入要件
外国人やアルバイトなど短期で雇う場合もあると思いますが、31日未満の雇用期間を定めて雇用する場合の加入要件については次のことにご注意下さい。
(1) 雇用契約の更新をする旨の明示がある場合
契約期間が1カ月の場合、月によっては31日以上と未満の月がでてきてしまいますが、1カ月が30日に満たない場合でも雇い入れ日から被保険者となります。
(2) 雇用契約に更新する旨の明示がない場合
契約期間が25日間の場合は、被保険者には該当しませんが、他の者で同様の契約内容で雇用し更新等により31日以上雇用した実績がある場合は、31日以上雇用見込みがあると判断され、雇い入れ日から被保険者となります。
(3) 雇用契約を更新しない旨の明示がある場合
31日以上雇用されることが見込まれない者として雇い入れ時は被保険者とはなりませんが、契約期間の途中で31日以上雇用される見込みとなった場合は、その事実が発生した日から被保険者となります。
「ワーキングホリデー」により日本で就労する場合、主目的が観光等であるため、被保険者とはなりません。また、外国公務員および外国の失業補償制度の適用を受けていることが立証された者も被保険者とはなりません。
なお、海外で現地採用される場合は被保険者とはなりませんが、海外支店等へ出向により国外で働く場合、日本国内の出向元との雇用関係が継続している限り、引き続き被保険者となります。
外国人雇用状況届出
外国人を雇用した場合、外国人雇用状況の届出が必要であり、雇い入れた外国人が雇用保険の被保険者となるか否かによって届出の方法や期限等が異なりますのでご注意下さい。
(1) 雇用保険被保険者となる場合
「雇用保険被保険者資格取得届」(17~22欄)と「雇用保険被保険者資格喪失届」(14~18欄)を記入して事業所を管轄するハローワークに届出を行って下さい。提出期限は、雇い入れ時は雇用した日の属する月の翌月10日まで、離職時は被保険者でなくなった事実のあった日の翌日から起算して10日以内に提出が必要です。
退職の場合は、離職票を作成すると共に失業の給付についての説明も行って下さい。
(2) 雇用保険の被保険者とならない場合
外国人雇用状況届出書(様式第3号)に必要事項を記載の上、当該外国人が勤務する事業所施設(店舗、工場など)の住所を管轄するハローワークに届出をおこなって下さい。
届出用紙はハローワークの窓口にもありますし、厚生労働省のホームページ等からもダウンロードすることが可能です。
<外国人雇用状況届出書>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin-koyou/07.html
提出期限は雇い入れ時、離職時ともに翌月の末日までとなっています。
いずれも、被保険者氏名や在留資格については、在留カード又はパスポートの上陸許可証印に記載されている通りの内容を記入して下さい。
雇い入れる者が外国人とわかっているのに、または容易に外国人と判断できるのに届け出なかった場合、指導、勧告及び30万円以下の罰金の対象となります。通常の注意力をもって、雇入れる者が外国人と判断できなかった場合は違反を問われることはありませんが、外国人かもしれないと思う要素がある場合には必ず在留資格などを確認して下さい。
短期のアルバイト等でも届出は必要です。雇入れ日と離職日の両方を記入して届出を行うことが可能ですし、届出期限内に同一の外国人について雇入れと離職が何度かあった場合、1回の届出でまとめて提出することが可能です。
「留学」や「家族滞在」の在留資格の外国人の場合は、必ず資格外活動許可を得ているか確認をして下さい。「特別永住者」の方は、外国人雇用状況届出を提出する必要はありません。
労働者災害補償保険
もうひとつの労働保険である労働災害補償保険(労災)は、労災は業務上または通勤上の災害による傷病に対する補償などを目的としています。
原則として労働者を1人でも雇用した場合には加入する必要があり、保険料は全額会社負担となります。
雇用している外国人が不法就労者であっても、業務上災害または通勤災害と認定されれば労災保険が適用されます。
外国人が労働災害に遭った場合は、労災保険の支給に関して説明し、請求に協力するとともに、家族等の相談や援助も行うようにして下さい。
厚生年金・健康保険
在留資格の変更や更新等の際に、健康保険の保険証の提示が求められるなど外国人にも社会保険への加入促進が図られています。保険証を提示できないことで変更や更新が許可されないということはありませんが、加入要件に合致している外国人も必ず加入するようにしましょう。
被保険者
法人、または個人事業所で常時従業員が5人以上の場合(農林水産業、サービス業等一部を除く)、常時使用する者を雇い入れた場合は被保険者となります。
パート、アルバイト等でも、1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上である者は被保険者となります。
また、一般社員の4分の3未満であっても①週の所定労働時間が20時間以上②勤務期間が1年以上見込まれる③月額賃金が8.8万円以上④学生以外⑤従業員が501人以上の企業に勤務しているの5つの要件を全て満たす者は被保険者となります。
脱退一時金
外国人の中には、将来日本に住み続けるかわからない状況で年金に加入することを嫌がる方もいます。しかし、要件に該当すれば必ず加入しなければなりませんので、加入するか否かを選択することはできないことと、脱退一時金等について説明を行うことが重要です。
(1) 要件
脱退一時金は、老齢年金を受ける権利がない(受給資格期間が10年に満たない)外国人に対し、保険料を納めた期間または加入期間に応じて、一定金額が支給される制度です。
下記の要件すべてに該当する場合、日本の年金機構に脱退一時金を請求することができます。
ア. 日本国籍を有していない
イ. 日本に住所を有していない
ウ. 年金(障害手当金を含む)を受ける権利を有したことがない
エ. 国民年金の免除期間第1号被保険者としての保険料納付済期間の月数と保険料4分の1免除期間の月数の4分の3に相当する月数、保険料半額免除期間の月数の2分の1に相当する月数、及び保険料4分の3免除期間の月数の4分の1に相当する月数とを合算した月数、又は厚生年金保険の被保険者期間が月数が6カ月以上ある者
(2) 添付書類
ア. パスポートの写し
氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ
イ. 日本に住所を有しなくなったことを証明できる書類
帰国前に市区町村に転出届を提出した場合、日本年金機構で住民票の確認が可能ですので、当添付書類は不要となります。
ただし、日本年金機構で外国人のアルファベット氏名の管理が始まる(2012年7月)以前から各種年金の被保険者である場合は、情報を確認できないため必要となります。
ウ. 銀行口座の情報を確認できる書類
日本国内の金融機関の場合は、口座名義がカタカナで登録されていることが必要です。ゆうちょ銀行は指定できません。
エ. 基礎年金番号が確認できる書類
(3) 支給金額
ア. 国民年金の脱退一時金の額は、保険料を納付した月が属する年度と保険料納付済み月数に応じて異なります。詳細は添付の一覧をご覧ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.files/1.pdf
イ. 厚生年金の脱退一時金の額
(4) 申請時期
日本に住所を有しなくなってから2年以内に日本の年金機構に請求することができるとされており、日本に住所を有しなくなってからでないと請求することはできません。日本年金機構が脱退一時金の請求書を受理した日に当該外国人が日本に住所を有しないことが必要ですので、郵送する場合等は帰国してから発送するかまたはどなたかに発送を依頼するなどするようにしましょう。
(5) 源泉徴収税
国民年金の脱退一時金については、所得税は源泉徴収されませんが、厚生年金保険の脱退一時金は支給時に所得税が徴収されます。
しかし、外国人の日本での最終住所地を管轄する税務署へ「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を提出することで徴収された税金の還付を受けられる場合があります。
申告書の提出と還付金受領をするには、外国人本人の帰国前に、日本に居住地を有し日本で手続きを行うことができる者を決定し「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を税務署へ提出しておく必要があります。帰国前に当該管理人の届出が提出できなかった場合は「退職所得の選択課税による還付のための申告書」と併せて提出することも可能です。
なお、振り込みができる通貨には制限がありますのでご注意ください。脱退一時金の支給が決定し、送金がされると外国人本人に「脱退一時金支給決定通知書」が送付されますので、その用紙を「所得税・消費税の納税管理人の届出書」で届け出た納税管理人に送り、還付の手続きをしてもらう流れとなります。
(6) 年金との関係
年金加入期間を通算をする内容の社会保障協定を締結していている国の外国人は、脱退一時金の支給を受けた場合、受けた期間は、年金加入期間として通算することはできません。
脱退一時金の受給申請をする前に、将来の年金として受給するのか否か十分に考えて申請するように伝えましょう。
社会保障協定
社会保障協定を日本と締結し発効している国は現時点(2019年7月末)で19カ国ありますが、それらの国の事業所から派遣され、派遣期間が5年以内と見込まれる者は、原則として就労する国の社会保障制度のみに加入すればよいとされています。
保険料を母国と日本の両方で納付するという二重負担を防止することができ、両国の年金制度への加入期間を通算することにより、年金受給の加入期間の要件を満たす可能性が高くなります。
なお、発効済みの国の内イギリスと韓国は加入期間の通算は行われません。
健康保険(協会けんぽ)の被扶養者届
健康保険(協会けんぽ)は、加入要件を満たしていれば海外在住の方でも被保険者の扶養家族として申請することが可能です。
(1) 扶養家族の範囲
ア. 被保険者との同一世帯であることが加入要件とされていない者
配偶者、子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母などの直系尊属
イ. 被保険者との同一世帯であることが加入要件とされている者
(ア) 上記1以外の3親等内の親族(伯叔父母、甥姪とその配偶者など)
(イ) 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子(当該配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)
(2) 被扶養者の収入要件
ア. 同一世帯でない場合
年間収入130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満
イ. 同一世帯の場合
年間収入130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であり、かつ、被保険者からの援助による収入額より少ない場合。
ただし、上記の基準により被扶養者の認定を行うことが著しく実態とかけ離れており、かつ社会通念上妥当性を欠くことになると認められる場合は、その具体的事情に照らし、保険者が最も妥当と認められる認定を行うとされています。
(3) 添付書類
ア. 日本国内に住所を有する者を被扶養者にする場合
(ア) 身分関係(続柄)を証明する書類
戸籍謄(抄)本または続柄の記載された世帯全員の住民票
(イ) 収入を証明する書類
所得証明書、非課税証明書 など
(ウ) 仕送り額の確認できる書類
振込の場合:預金通帳等の写し、送金の場合:現金書留の控え(写し)
イ. 日本国内に住所を有さない者を被扶養者にする場合
(ア) 現況申立書の作成
日本年金機構のホームページにある現況申立書に必要事項を記入して提出して下さい。
<被扶養者 現況申立書>
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/kenpo-todoke/hihokensha/20141224.files/genkyoumousitatesyo.pdf
(イ) 被保険者との続柄が確認できる公的証明書又はそれに準ずる書類
同一世帯が要件とされている場合は、それが確認できる公的証明書又はそれに準ずる書類
(ウ) 収入を証明する書類
(エ) 仕送り額の確認できる書類
各書類が外国語の場合、日本語に訳したものを添付して下さい。
国民年金・国民健康保険
厚生年金・健康保険が適用されない事業所の場合、外国人労働者各自で国民年金と国民健康保険への手続きが必要ですので、その旨を伝えるとともに、手続きについて支援を行うようにしましょう。
加入手続きは居住地の各市区町村の担当窓口で行います。
添付書類について、本人の身分証明書とパスポート、すでに年金加入履歴がある方は年金手帳が追加で必要となります。
また、委任状があれば代理人による手続きも可能です。
合算対象期間
老齢基礎年金は、原則として保険料免除期間と納付期間を合算して10年以上必要となります。外国人は外国に居住した期間は日本の社会保障制度に加入していなかったため、期間要件を満たす可能性が低くなりますが、例外的に、外国に居住していた期間を受給資格期間としてみなしてもらえる「合算対象期間(カラ期間)」という下記の期間が設けられています。
※昭和36年5月1日以降に日本国籍を取得した方又は永住許可を受けた方の、海外在住期間のうち、取得又は許可前の期間。ただし、年金額には反映されません。
おわりに
近年、社会保険の適用について加入の有無が厳しく問われるようになってきていますので、企業としては要件に該当する外国人従業員については、社会保険の確実な手続が必要です。本稿が、外国人従業員が安心して働ける雇用環境を実現し、企業が外国人従業員の能力を十分に活用して事業を発展させるためのお役に立てますと幸いです。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、外国人雇用についてのご相談をお受けしておりますので、下記の連絡先まで、いつでもご相談ください。
※本記事の記載内容は、2020年7月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
当事務所のご支援事例
業種で探す | ウェブ通販・越境EC | IT・AI | メーカー・商社 | 小売業 |
---|
サービスで探す | 販路開拓 | 不動産 | 契約支援 | 現地法人運営 | 海外コンプライアンス |
---|
ご相談のご予約はこちら
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
03-4405-4611
*受付時間 9:00~18:00