販路開拓

海外進出・海外展開:アメリカでAmazonなどを利用して越境ECやECビジネスを行う際の法律と手続

by 弁護士 小野智博

はじめに

近年のテクノロジーの発展に加え、新型コロナウィルスの流行によって、消費者の消費行動は大きく変化しています。実際に店舗に出向いて買い物をするよりも、オンライン上で買い物ができる「ECサイト」上で商品を選び、購入する流れがより一般的になってきました。

企業にとってECサイトをうまく活用することは顧客の幅を広げ、企業価値を上げていくことに繋がります。特にECサイトでは、海外に実店舗を構えることなく、世界中の消費者に向けて商品を販売できるため、企業の海外進出にとって大きな後押しとなります。

例えばアメリカでは、マーケットプレイス全体の半数をAmazon marketplace(アマゾン)が占めており、この他にも、eBay marketplace(イーベイ)、Walmart marketplace (ウォルマート)、Wish (ウィッシュ)、Jet marketplace(ジェット)、Etsy marketplace(エッツィ)、Craigslist marketplace (クレイグスリスト)など、複数のECサイトが存在しています。

ただし、アメリカでは連邦、州、市などの自治体ごとに、消費者保護のための様々な規制を設けており、それはECビジネスにも当てはまることに注意が必要です。販売するものの種類や販売拠点の所在地などによって、適用される規制や必要となるライセンスは異なります。また、自社サイトを一から構築する場合と、既存のECサイトを利用してビジネスを行う場合とでも必要な手続きは変わってきます。

ここでは、既存のECサイトを利用して日本の企業が海外展開し、アメリカ市場でECビジネスを行う場合に遵守すべきルールについて説明します。

屋号の取得

日本の企業が海外のマーケットプレイスで商品を販売する場合、会社法人の正式名称である商号をそのまま使用するのではなく、オンラインショップの通称名として屋号の使用を希望する場合も多いのではないでしょうか。

実は、企業が登記簿上の会社名と異なる屋号を使用する場合、「Fictitious bussiness name」というものを管轄の州、または群(カウンティ)に登録する必要があります。この手続きは一般的にDBA(Doing Business Asの略称、以下「DBA」といいます。)と呼ばれ、登録には4週間程かかります。この登録をせずに登記簿上の名称以外を使用することは罰則の対象となります。

ここではDBA登録の手順についてカリフォルニア州サンフランシスコ市の場合を具体例に取り上げ、簡単に説明します。

①使用可能な名称の検索
希望する名称がすでに使用されていないかを確認します。「SF Fictitious Business Name (FBN) Search」(http://www.criis.com/cgi-bin/fbn_search.cgi?COUNTY=sanfrancisco&YEARSEGMENT=current&TAB=1)でウェブ検索を行うか、「 Office of the Treasurer and Tax Collector (TTX)」に設置されている端末で検索することができます。また、「US Patent and Trademark Office」や「CA Secretary of State’s Corporate Division」でも、名前が既に使用されていないか確認しておくことが大切です。

②書類の提出
「Fictitious Business Name Statement」という登録フォームと登録料金を「Office of the County Clerk」に提出します。

③公示
最低4週間、地元紙に掲載する方法で公告を出します。これは、その名称でビジネスをすることを世間に知らせるためのものです。

④証明書の発行
証明書が郵送され、登録した名称で合法的にビジネスを行うことができます。

税金の手続

日本の消費税のように物品やサービスの販売の際に課されるアメリカの売上税は、連邦レベルではなく州レベルで管轄されており税率も州毎に異なります。2018年6月、アメリカ最高裁判所はオンライン販売を行う販売業者に対して売上税の取扱いに関する新しい判断を下しました(South Dakota v. Wayfair, U.S., No. 17-494)。

従来、オンライン販売における売上税に関しては「物理的な拠点」を置かない州に在住する消費者に販売した場合、当該消費者が在住する州に対して売上税を納税する必要がないとする判例が確立しており(Quill v. North Dakota, 504 U.S. 298)、そのため、税の納付をできる限り低くする目的で、売上税が課税されない、あるいは税率が低い州に事業拠点を置く販売業者が少なくありませんでした。

しかし、2018年の判決では、オンライン販売が一般的に普及した現在の状況のもと前述の判例が見直され、消費者が在住する州に販売業者の「物理的な拠点」がなくとも「経済的関連性」が認められれば課税対象とすることを容認する旨の判決が下されました。言い換えると、AmazonなどのECサイトを通じたオンライン販売は、消費者が在住する州との関係で「経済的関連性」があると判断される限り、その販売業者は当該州から売上税の徴収義務を課されることになります。

このように、ECサイトのマーケットプレイスにおけるオンライン販売に対しては、消費者が在住する州との間において「経済的関連性」が認められる場合、当該州の税率で売上税が発生する可能性が生じたため、現在ではECサイトを利用したオンライン販売であっても、販売業者は販売先各州(基本的にはすべての州)の売上税に関する登録が必要とされるに至っています。

AmazonなどのマーケットプレイスのECサイトを利用した場合における「経済的関連性」該当性の判断は、2018年のアメリカ最高裁の判決で示されたように州内における一定の売上高および取引回数を超えた取引であるかどうかがポイントとなります。

取引金額や取引回数が一定の基準よりも少ない場合には、マーケットプレイスの運営者が販売業者の代わりに徴収し税務署に納税する義務が生じ、多い場合には該当州に対して販売業者自ら消費者から売上税を徴収し税務署に納税する必要が生じます。

上記判例はサウスダコタ州に関するものですが、この判例では州内における1年間の売上高が$100,000または200件を超える場合、「Ecomonic Nexus(経済的な接点)」が認められると判断しています。ただし、これらの設定値は州毎にばらつきがあり、アラバマ州は250,000ドル、カリフォルニア州は500,000ドル、ニューヨーク州は300,00ドルなど、独自の設定をしていますので、個別の条件については別途確認が必要となります。

また、州の売上税だけではなく、郡などの自治体においても売上税を課している場所もあります。ECビジネスに課せられる売上税はその個々の内容により異なりますので、弁護士等の専門家にリーガルチェックを依頼するなどして手続きに漏れがないよう気をつけましょう。

FDAで規制されている物品の販売

一部の商品に関しては、連邦政府や州政府によって販売が厳しく規制されています。例えば、 食品、アルコール飲料などを販売するためには、別途特別の申請が必要となります。

ここでは、具体的な製品例とそれを管轄している機関、規制について紹介します。

①アルコール飲料

ビールやワインなどのアルコール類の販売には「リカーライセンス」と呼ばれる、アルコール飲料の取扱免許を取得する必要があります。このリカーライセンスは州の管轄となっており、アルコールの種類や販売方法に応じた複数のリカーライセンスが存在します。

具体的には、小売業者に卸すのか、消費者に販売するのかによる区分、またレストランなどの店内で販売するのか、あるいは店外で販売するのかの区分によって取得すべきリカーライセンスの種類は異なります。リカーライセンスの取得には数ヶ月以上かかることもありますので、計画的に申請手続きすることが重要です。

そして、アメリカで飲酒可能な年齢は21歳以上です。オンライン販売をする際には21歳以上にしか販売しないよう年齢確認の仕組みを確立しておく必要があります。例えば、受取時にIDによる本人確認・年齢確認を行うなどは一つの方法でしょう。

また、州によってはアルコール飲料の配送自体を禁止しているところもあります(アラスカ、アラバマ、アーカンソー、デラウェア、ハワイ、ケンタッキー、ミシガン、ミシシッピ、ロードアイランド、ユタ)。そのため、オンライン販売をする際にはこれらの州に居住する消費者には販売しないような仕組みも必要です。

②食品

オンライン上で消費者に食品を販売する場合、それらは州外取引とみなされ、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)が所管する法規制の対象となり、必要に応じて届出の提出や認証を受ける必要があります。ただし、肉、家禽、および特定の加工卵製品はアメリカ農務省(US Department of Agriculture:USDA)の管轄となります。

具体的な登録要件として、米国に輸入される食品は、米国で生産される食品と同水準の法律および規制の基準を満たさなければなりません。そして、商品ラベルに記載された食品の原材料などの表記が英語以外の言語である場合には、英語表記のラベルを別途貼付する必要があります。また、米国で人間または動物用の食品を製造、加工、包装、または保持する施設は、事前にFDAに登録する必要があります。

FDAでは食品を扱うビジネス向けにガイドライン(https://www.fda.gov/food/food-industry/how-start-food-business)を公開しています。ECサイトで食品を取り扱う場合にはこちらのガイドラインを参考にすると良いでしょう。

その他必要となるライセンス

上記で挙げた以外にも、ビジネスの種類、ビジネスの仕組み、従業員数、およびビジネスの拠点によって様々なライセンスが必要となります。例えば、一般的な営業許可はECビジネスに限らず全てのビジネスに求められるものといえます。また、ECサイトの運営のために一定人数以上の従業員を雇用している場合には、失業保険などの労働者に対する補償を求められることも多くなっています。

海外進出・海外展開への影響

日本の企業が海外進出をし、現地で商品やサービスの販売を行う際には、ECサイトの利用は手軽な手段です。特に第三者のマーケットプレイスを利用すれば、自社サイトを構築しなくとも、すぐに海外の顧客向けにオンライン販売を始めることができます。

一方で、その手軽さゆえに、オンライン販売の規制への対応が疎かになりがちであることには注意が必要です。アメリカ国内の顧客向けにオンライン販売を行う場合には、現地のルールに則って行うことが求められます。日本の規制と現地の規制とはルールが異なることもあり、海外進出の際には国内とは異なった開業手続きや、税金の納付が必要であることを意識しておく必要があるでしょう。

ECビジネスを海外で展開する際には、細かい現地のルールに対応し、法律を遵守することがトラブル回避の鍵となります。全米規模で販売する場合には各州における税の手続きなど広範囲な対応が必要な場合もあります。オンラインビジネスに精通した弁護士のリーガルチェックを求めて、トラブル防止に努めることが重要です。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、ご相談をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

 

※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。

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