コンプライアンス

海外進出・海外展開:カリフォルニア州の企業が遵守すべきCOVID-19対策関連の規制について

by 弁護士 小野智博

はじめに

アメリカにおいて、労働環境に関するルールを定め、運用しているのは米国労働安全衛生局 (Occupational Safety and Health Administration:OSHA)という行政機関です。雇用主はOSHAの規定を遵守し、安全な職場を労働者に提供する責任があります。ほとんどの州はこの連邦基準を採用していますが、カリフォルニア州をはじめとした一部の州では、各州政府が独自のプログラムを運用しており、連邦基準よりも厳しい要件を雇用主に課しています。

2020年11月19日、カリフォルニア州の労働安全衛生局(California Occupational Safety and Health Standards Board:以下「Cal / OSHA」) は、職場での新型コロナウィルス(以下「COVID-19」)の予防に関する緊急暫定基準(COVID-19 Prevention Emergency Temporary Standards:以下「COVID-19緊急基準」)を満場一致で採択しました。COVID-19緊急基準は、2020年11月30日付で発効しています。

従来、COVID-19対策については、既存の感染症対策基準について強制力をもって適用するルールが設けられていましたが、これは一部の医療関係業界にのみ適用されるものでした。一方、新しいCOVID-19緊急基準は、カリフォルニアのほぼすべての雇用主に対して適用されるものです。したがって、従来の感染症対策基準の適用外だった雇用主は、新しい基準に準拠するよう迅速に対応する必要があります。

本稿では、カリフォルニア州で事業を展開する雇用主が、COVID-19対策として従うべき基準とともに、COVID-19対策に関連した企業の訴訟リスクについて説明します。海外進出・海外展開を検討中の日本企業の方にとって、現地の規制を把握・遵守することは不可欠です。特に、訴訟大国アメリカでは現地のビジネス法務について精通した弁護士に相談し、自社の取り組みが現地の法律に準拠しているか確認することは重要となります。COVID-19パンデミックが継続するなか、本稿の内容が日本企業の皆様にとって海外で安心して事業を行う際の参考になれば幸いです。

カリフォルニア州の企業が遵守すべきCOVID-19対策関連の法律

Cal/OSHA’s Aerosol Transmissible Diseases standard

Cal / OSHAは、エアロゾル感染症基準(Aerosol Transmissible Diseases standard:以下「ATD基準」)の対象となる雇用主に 、COVID-19を含むエアロゾルによって伝染する病原体などの空中感染症から従業員を保護することを求めています。ATD基準は、以下に挙げた医療施設、サービス、または運用に関係する雇用主が対象です。

● 病院
● 看護・介護施設
● 診療所、その他の外来医療施設
● 在宅医療
● 長期的な医療施設、ホスピス
● 医療アウトリーチサービス
● 消防士および他の緊急対応要員によって提供される救急医療
● 医療輸送
● 従業員がエアロゾル感染症に暴露することが予想される特定の研究所
● 感染症接触の追跡ならびにスクリーニングテスト等の公衆衛生サービス
● 警察、矯正施設、ホームレスシェルター、薬物治療プログラム
● 死体でのエアロゾル発生手技を行う研究所や検死局、遺体安置所、葬儀場
● Cal / OSHAが雇用主にATD標準に準拠する必要があることを書面で通知するその他の場所

COVID-19 Prevention Emergency Temporary Standards

COVID-19緊急基準は、カリフォルニア州のほとんどの雇用主に適用されるものです。ただし、Cal / OSHAのATD基準の対象となる場合には、ATD基準が適用されます。なお、従業員が他の人と接触していない場合、つまり在宅勤務の従業員については、COVID-19緊急基準は適用されません。

COVID-19緊急基準の主な要件は、雇用主が書面によってCOVID-19予防プログラム(COVID-19 Prevention Program:以下「CPP」)を準備、実施、持続させることにあります。CPPは、Cal / OSHAがすべてのカリフォルニア州の雇用主に実施と持続を義務づけている、傷害および疾病予防計画(Injury and Illness Prevention Program:以下「IIPP」)をモデルにしているものです。実務上、CPPはIIPPの一部として統合されるか、あるいは別個の独立した文書として作成することが可能です。

雇用主はCPPとして以下の情報を提供する必要があります。

● COVID-19予防手順、検査、症状、および病気に関する情報を従業員に伝えるためのシステムを構築すること。これには、COVID-19の濃厚接触者となったことを従業員が不利益を被ることなく報告するためのシステムを含みます。
● 危険レベルの特定および評価として、従業員をスクリーニングし、潜在的にCOVID-19に接触可能性のある職場の状態と慣行を把握します。
● COVID-19に対し潜在的に接触可能性がある人物を特定する手順を構築し、COVID-19の濃厚接触者については、1営業日以内に通知し即座に対策を講じます。
● COVID-19の感染の危険を高めるような職場の環境や作業手順を改善します。これにはCOVID-19の感染対策トレーニングや指導も含みます。
● 可能であれば、従業員がほかの従業員との距離(少なくとも6フィート離れた距離)を確保できる手順を確立します。
● フェイスカバーを提供するとともに、それらが着用されていることを確認します。
● 職場や勤務スケジュールの変更などを実施することで、COVID-19への接触可能性を無くすための措置を講じます。
● COVID-19陽性となった従業員の症例を記録し、従業員がCPPにアクセスできるようにします。
● COVID-19陽性の従業員ならびにCOVID-19の濃厚接触者となった従業員を職場から隔離し、隔離期間中の給与と手当を補償するための措置を講じます。
● COVID-19から回復したに従業員が職場に復帰するための基準を設けます。
● 職場で一定以上(14日間で3件以上、あるいは、30日以内で20件以上)のCOVID-19陽性者が発生した(アウトブレイク)場合、Cal / OSHAに通知しなければなりません。
● 雇用主が提供する住居および通勤手段においても、感染予防のための措置を講じます。
● 雇用主は、職場でCOVID-19に感染する可能性のあるすべての従業員に、勤務時間中にCOVID-19検査を無料で提供しなければなりません。
● 雇用主は、COVID-19に感染・接触した従業員に対して、仕事を休んでいる間、当該従業員の収入、年功序列、および福利厚生を継続および維持しなければなりません。
● 職場でCOVID-19のアウトブレイクが発生した場合、雇用主は次のような手順に従うものとします。
 1. アウトブレイク期間中に、暴露された職場のすべての従業員にCOVID-19の検査を提供する(即時および1週間後)
 2. COVID-19の感染者および濃厚接触者となった従業員を職場から隔離する
 3. アウトブレイクの発生に関する調査を行い、実施済の手順を見直すとともに、必要に応じて是正措置を講じる
 4. 行った調査、評価、是正措置を文書化する
 5. アウトブレイク発生を知ってから48時間以内に管轄の保健局に通知する

基準違反への罰則

基準に準拠していない雇用主は、Cal / OSHAのペナルティ規定に従って罰金を科される場合があります。ペナルティ規定では、違反の重大性によって罰金額が変動することになっており、違反一件あたり最大で$13,277の罰金が雇用主に課される可能性もあります。Cal / OSHAでは、従業員が雇用主の基準違反を申し立てることのできるオンラインポータルも完備しており、COVID-19のパンデミックの期間は監査も強化しています。

COVID-19関連の雇用主に対する罰金、訴訟事例

カリフォルニア州の食品メーカーに対するCal / OSHAの訴訟

2020年9月、Cal / OSHAは、COVID-19の十分な安全対策を従業員に提供していなかったとして冷凍食品メーカーOverhill Farmsと、そのメーカーに多くの人材を派遣していた人材派遣会社(Jobsource North America)に対し、それぞれ222,075ドルと214,080ドルの罰金案を発表しました。この件では、20人以上のOverhill Farmsの従業員がCOVID-19に感染し、そのうち1人が死亡するアウトブレイクが発生していました。

Cal / OSHAは、両社が仕事中、休憩室、出退勤でのソーシャルディスタンスを確保できなかったと指摘、また、アウトブレイクの発生について両者が十分な調査を怠ったとしています。

マクドナルド従業員による集団訴訟

2020年5月、イリノイ州シカゴに所在する米マクドナルドの従業員5人が、COVID-19感染予防に関する政府のガイドラインに従わず、従業員を危険にさらしたとして、同雇用主に対し集団訴訟を起こしました。原告側は、マクドナルドが従業員に十分な消毒液や手袋、マスクを提供せず、1人の従業員が新型コロナに感染した時も他のスタッフに知らせなかったと主張しています。

また、米マクドナルドに対しては、その翌月にカリフォルニア州の従業員5人も、COVID-19対策が不十分で、勤務環境が安全ではないことが感染を広げる恐れがあり、社会全体への脅威である「public nuisance(公的不法妨害)」だとして、カリフォルニア州労働安全衛生部に行政措置を講じるよう申し立てています。同州最高裁判所は、マクドナルドのCOVID-19の対策不全が public nuisance に該当するとして、店舗臨時閉鎖をともなう一時的差止命令を下しています。

海外進出・海外展開への影響

海外進出・海外展開を行う日本企業がアメリカでビジネスを行うにあたり、従業員や顧客がCOVID-19に感染した場合、企業としての法的責任として主に下記の2点が考えられます。。

1つ目は労災に関連する法的責任の可能性です。カリフォルニア州では、感染のリスクの高い職場で働く従業員がCOVID-19に感染した場合、職場で感染したものと推定し原則労災の対象となることになっています。そして、労災については会社の責任は労災保険による補償に限定されるのが原則です。しかしながら、重過失の場合には例外とされ、コロナ感染防止対策の不徹底などを重過失と主張されて労災訴訟を起こされるリスクが考えられます。

2つ目は、コロナ禍による業績悪化を受けて、従業員の解雇をせざるを得ない場合です。COVID-19による業績悪化自体は解雇の合理的な理由となり得ますが、解雇対象とする従業員の選定は通常どおりの訴訟リスクとなるため注意が必要です。なぜなら、解雇された従業員が差別に基づく解雇だと主張し、企業に対して訴訟を提起する可能性があるからです。そのため、企業側としては、万が一に備えて差別に基づく解雇ではないことを立証できるようにしておく必要があります。 解雇対象者は慎重に選択し、法に則った適切な解雇手続を行うことが重要です。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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