契約支援

契約審査・契約書レビュー:動産売買契約書の一般的な記載事項とチェックポイント

by 弁護士 小野智博

はじめに

売買契約の種類は、目的物の違いによって、不動産売買契約や動産売買契約、債権や株式の譲渡契約、知的財産権の譲渡に関する契約など、いくつかの種類に分かれ、取引する目的物が異なることによって、契約書内で定める必要のある事項が異なってきます。
本稿では、企業間のビジネス取引で扱われることの多い動産売買契約について説明します。

売買契約書の一般的な記載事項

・金額を定める

例:甲は、乙に対し、下記動産を下記に記載の代金で売り渡すことを約し、乙はこれを買い受ける。

売買契約では、目的物が何であるか、その代金がいくらなのかを定めることが最も重要です。

・引き渡し方法と支払い条件について定める

例:甲は、乙に対し、本件動産を〇年〇月〇日限り、乙の別途指定する場所にて引き渡す。乙は、本件動産の売買代金を本件動産の引き渡しを受けた日の翌日から起算して〇営業日以内に、甲の別途指定する方法で支払う。

目的物の引き渡し期限と代金の支払い期限を定めます。民法の原則では、売買契約において、代金の支払いと目的物の引き渡しは、同時に引き換えになります。そのため、売買契約書に特に引き渡し時期について規定していない場合には、引き渡しは代金の支払いと同時ということになります。一方で、このような原則とは違う取り決めを行う場合には、契約書にその旨を具体的に規定しておく必要があります。

・所有権の移転について定める

例:本件動産の所有権は、乙が甲に本件動産の代金を全額支払ったときに、甲から乙に移転するものとする。

目的物の所有権がいつ移転するかを定めます。これは、代金の支払い時期とも関連する事項です。特に代金を支払ってもらう売り手にとって、所有権がどの時点で移転するのかはきわめて重要な取り決めです。

・瑕疵が見つかった場合の対応について定める

例:本件動産に受け入れ検査において発見できなかった隠れた瑕疵が存し、乙が当該瑕疵を発見できなかったことにつき正当な理由があるときは、乙は甲に対し、当該受入検査後〇日以内に限り、本契約に定める範囲の対応を求めることができる。

引き渡しや支払完了後に目的物に瑕疵が見つかった場合について定めます。別途事項で、具体的な補償内容について定めます。瑕疵担保責任に関しては、改正前民法570条に規定されていましたが、改正後民法では「瑕疵」という文言は使われなくなり、「契約の内容に適合しないもの」とされています。そのため、民法改正についてもチェックした上で、契約書内でしっかりと定める必要があります。

売買契約においてよくあるトラブル

契約書を作成していない

企業間においても契約書を交わさずに売買をしてしまうケースがあります。
契約を締結せずに売買を行うと、商品は受け取ったのに支払が滞るといった支払面での問題から、売買にまつわる送料の負担など具体的な条件が曖昧なまま取引が進んでしまい、信頼関係にも影響を及ぼすような問題まで、いろいろなリスクが発生します。その時点で大きなトラブルはなかったとしても、契約書に基づくルールがないため、万が一瑕疵などが見つかった場合には解決の基準が不明確になり、大きな問題につながってしまう可能性があります。また、具体的な契約内容が分からないと、業務遂行の面でも基準が不明確になり、負担となってしまう可能性もあります。そのため、簡単な売買であっても、必ず契約書を作成し締結することが重要です。実際のビジネスでは、注文書・請書を使用することも多くありますが、その場合であっても、契約の成立を確認できるような記載になるように、工夫することが大切です。

瑕疵担保期間が過ぎてから不備が見つかる

商品の受け渡し後、所定の期間内に不備の発見ができなかったことによるトラブルです。具体的には、下記のようなトラブルが考えられます。

契約書内では、このようなトラブルが起こる可能性も想定した上で、瑕疵担保期間や瑕疵が見つかった場合に対応について具体的に定める必要があります。また瑕疵担保責任に関しては、民法改正により規定が変わっているため、その点にも注意する必要があります。

追加費用がかかる

売買契約において、代金以外に想定していなかった追加の費用がかかり収支が合わなくなってしまうケースがあります。商品によっては配送費用だけでなく、名義変更や設置費用など商品の購入代金以外に費用がかかる場合があります。このような想定していない費用が発生した場合、それらの諸費用をどちらが負担するのかという点でトラブルになる可能性もあります。また負担する金額によっては、利益を圧迫してしまうこともあります。

他にも、契約締結後、商品の受け渡しまでに解約した場合、違約金が発生する場合もあります。契約締結後に想定外の費用がかかるということのないように、売買の流れを想定し追加費用に関しても考慮した契約書を作成することが大切です。また契約時に確定している費用であれば、どちらが支払うかも含め、契約書内に組み込んでおくことが賢明です。

売買契約書の締結時のチェック項目

上記のようなトラブルを防ぐために、売買契約において特に確認しておきたいポイントを見ていきます。

滅失・損傷リスクの移転タイミングは?

商品が予期せぬ事態により滅失・損傷してしまった場合、そのリスクを売主と買主どちらが負担するのか、そのタイミングをどこに置くかを確認する必要があります。契約書の内容によっては、リスクの移転時期が買主に不利になっていることもあります。輸送中のトラブルに関して定められているかも合わせて確認しましょう。

代金支払いの条件は?

商品の引き渡し後、どのタイミングで代金支払いが発生するかの条件について、不利になっていないか確認します。取引によっては、一部代金を前払いするケースもありますので、必ず確認しておきましょう。

また、契約書内に定められた費用の他に、その他の費用がかからないかも、しっかりと想定する必要があります。商品によっては配送費や設置費、その他の手数料などがかかる場合があります。

瑕疵担保期間は?

瑕疵担保期間については法律でも定められていますが、契約書で定めることで契約書に記載したルールを優先させることができます。商品の特性などを考慮し、瑕疵担保責任の追及可能期間などを検討するようにしましょう。

また、2020年4月1日からは改正民法が施行されており、瑕疵担保責任は契約不適合責任に変更されています。これは、契約内容に適合しないものが納入された際の売主に対する責任追及手段という意味では瑕疵担保責任と同様の役割を果たすものですが、要件や取りうる責任追及の手段が変更されています。この点も踏まえた上で契約書を作成する必要があります。

途中解約時の規定はされているか?

万が一契約が途中で解約されてしまった場合のリスクを回避できる規定がされているかを確認する必要があります。途中で契約が解除されてしまった場合に、商品の転売により得られたであろう利益を損害として請求できるか確認しておきましょう。

売買契約書作成時にチェックしたい商法第526条

ビジネス上、売買契約において特に注意する必要があるのが、商法第526条です。

商法第526条とは

商法第526条では、企業間の売買等について、買主による検査の義務や検査で欠陥や不具合、数量不足が見つかった場合の売主の責任について規定しています。
具体的には下記の内容となります。

このように、商法第526条は、商品に欠陥や不具合、数量不足などがあったときに、売主の責任を一定期間内に通知されたものに限定する内容になっており、売主保護の意味合いが強い条文であることを理解しておきましょう。

商法第526条を踏まえた売買契約書のチェックポイント

まず、商法第526条は任意規定であるという点に注意する必要があります。そのため、売買契約書の記載の仕方によっては、商法第526条が適用されなくなります。つまり、契約書内で商法第526条とは異なる内容の条項を設けていれば、契約書の条項が優先して適用されることになります。

売主から見た場合
売主の立場から見た場合、商法第526条は売主を保護する意味合いが強いため、一般的には適用されたほうが売主にとってメリットがあります。そこで、売買契約書の作成にあたっては、商法第526条が適用されなくなる契約条項がないか確認する必要があります。また、商法第526条よりもさらに売主の保護を強くする規定をすることも可能です。

買主から見た場合
買主の立場から見た場合、商法第526条が適用されると、引渡後6か月以上たってから商品に欠陥等が発見されても売主に補償を求められなくなります。そのため、商品によっては商法第526条を越える補償を付けるべきか、検討する必要があります。

おわりに

以上のように、売買契約書にはいくつもの注意事項があります。よくある契約だからと安易にひな形を流用しているケースも見られますが、売買する商品の内容によって、定める必要のある事項や内容は異なってきます。売買契約に関して不安があれば、後々トラブルにならないためにも、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。

※本稿の内容は、2021年3月現在の法令・情報等に基づいています。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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