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海外進出・海外展開:カリフォルニア州では2020年より産休・育休を延長へ

by 弁護士 小野智博

はじめに

 意外なことに、アメリカ合衆国は国による有給の産休・育休制度を持っていない先進国の中で唯一の国と言われるほど、産休・育休制度において発展途上にあります。そのため出産直前(当日)まで仕事をし、出産後も数週間で職場復帰をせざるを得ない人々が多くいます。このような状況に対しては批判の声も多く、安心して出産、育児をできるように、州ごと、企業ごとに独自の制度を設けることも多くなってきました。

 例えば、カリフォルニア州はこれまでも産休・育休制度においてはアメリカで最も進んでいると言われてきており、最近の法改正で更に強化されました。本稿ではカリフォルニア州で最近可決された新しい産休・育休制度について、アメリカの産休・育休事情とともにご説明します。

アメリカの育休、産休事情

 アメリカでは 出産、育児、介護、看護、病気に対する包括的な休暇制度として、家族・医療休暇法(Family and Medical Leave Act:FMLA)という仕組みがあります。FMLAの対象となるには、①従業員は、少なくとも12か月間雇用されていること、②従業員は、FMLA休暇を取得前の12か月間に少なくとも1,250時間働いていること、という要件を満たす必要があります。また、職場から半径75マイル以内に50人以上の従業員を雇用している雇用主が対象となります。なお、FMLAによる12週間の休暇手当は12か月ごとにリセットされるため、前述の条件を満たせば、FMLAは毎年取得することも可能です。これは12週間の休暇後に職場に復帰できることを保証するものであり、給料支給はありません。日本では子どもが生まれた際には、出産手当金、育児給付金があること、また産休中は給料の2/3の支給があることを考えると、アメリカの育休・産休事情は遅れているということもできます。

このような事情から、多くのアメリカ人女性は金銭的理由の為、出産後数週間という早いタイミングで仕事復帰しているのです。

 しかし、この制度には疑問視する声も多く、州レベルで徐々に改善されてきています。例えば、カリフォルニア州、ニュージャージー州、ロードアイランド州では、すでに有給の家族休暇が州法で定められています。ニューヨーク州では2018年1月1日から有給家族休暇を与える法律が施行されました。その他、ワシントン州、マサチューセッツ州、コロンビア特別区でも有給の家族休暇プログラムが可決されています。

SB83の内容

 2002年、カリフォルニアは州として初めて有給の家族休暇を取り入れました。この法律では、労働者に対して赤ちゃんや病気の家族を世話するために6週間有給の家族休暇を与えています。対象となるには、休暇請求開始前の約5〜18ヶ月の課税収入から計算した基準期間(12ヶ月)に少なくとも300ドル以上の課税収入があったことなどの要件を満たす必要があります。なお、この休暇手当は12か月ごとにリセットされるため、前述の条件を満たせば、毎年取得することも可能です。現在では、低所得労働者(2018年度の基準では四半期の収入が5,229.98ドル以下の労働者)に対しては賃金の70%が、その他の労働者に対しては賃金の60%が、有給の家族休暇中に与えられます。これは従業員給料の0.9%を税金として徴収することで財源としており、従業員が休暇取得の際に会社側が個別に費用負担するものではありません。また、出産した女性にはさらに6週間の手当が支給されます。

 2019年6月27日、Newsomカリフォルニア州知事によってSB83が承認されました。この法律により、これまで6週間であったカリフォルニア州の有給家族休暇の期間が、2020年7月1日から8週間に延長されます。また、同法律では2019年11月までにタスクフォース(家族休暇の整備に取り組むための委員会)を招集することも取り決めています。このタスクフォースでは子どもが生まれた、あるいは養子を受け入れた両親に対する有給家族休暇を2021〜22年までに6か月へと延長するために様々な提案を行っていきます。さらに、現在は70%となっている低賃金雇用者に対する支給額を90%に増額させるという目標にも取り組んでいきます。

産休・育休に対する企業ごとの取り組み

 アメリカでは国全体の育休・産休に対する有給制度がないため、各企業が福利厚として提供することも多くなってきました。特に、大手企業では優秀な従業員を雇用するためのアピールの一つとして会社による有給家族休暇を設定しています。以下の表は一部の例です。

企業名

内容

 Amazon

 1年以上勤務している従業員に対して、子どもの誕生または養子縁組の前後に両親に「休暇シェア」というオプションや、「ランプバック」と呼ばれている職場復帰プログラムを提供

 Google

 新しく親になった従業員に12週間、出産した女性には22〜24週間の有給休暇を提供

 Facebook

 新しく親になった従業員に4か月の有給休暇を提供

 Walmart

 フルタイムの時間給労働者および給与労働者に対して、10週間の出産休暇(母親)、および6週間育児休暇(父親)を提供

 Ikea

 新しく子どもが増えた従業員に4か月の有給休暇を提供

 Starbucks

 子どもの誕生、養子縁組、里子の受け入れのあった一部従業員に6週間の有給休暇を提供

 Bank of America 

 1年以上勤務している従業員に対して、最大16週間の出産、育児、養子縁組の有給休暇を提供

 ただし、多くの中小企業ではこのような福利厚生を提供する余裕がないのが現状です。また、例に上げた企業の規定は変更される可能性もあるため、最新の情報を確認する必要があります。

海外進出・海外展開への影響

 日本からの企業も多数進出しているカリフォルニア州は、人口、経済規模ともにアメリカ最大です。シリコンバレーを中心としたIT産業、ハリウッドのエンターテインメント産業、温暖な気候を活用した農業がカリフォルニアの経済を支えているのです。実際に、カリフォルニア州の州内総生産額(GDP)を、世界各国のGDPと比較しても、世界5位のイギリスを超えています。

 そのため、カリフォルニア州での先進的な取り組みが他の州に波及し、政府の方針に影響を与えることも少なくありません。カリフォルニア州はアメリカの中では最も優れた産休・育休制度を提供している州だと言われており、その流れは他の州にも広がっています。また、カリフォルニア州に拠点を持つ企業の多くも、出産・育児に対する福利厚生を充実させている傾向にあります。

 日本では産休・育休制度は国が主体となっており、企業ごとに保障を提供することは一般的ではないでしょう。しかしながら、アメリカでは州ごとに関連法律が異なるだけではなく、企業努力として福利厚生に加えることが優秀な従業員確保のために必要となっているというのが現状です。日本から進出する企業としては、このような日米の制度の違いに注意して、雇用に関する仕組みを整備していくことが重要です。

 

※本稿の記載内容は、2019年9月現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

 

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