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海外進出・海外展開:カリフォルニアで「ネット中立法」が可決 インターネット関連事業者は要注意

by 弁護士 小野智博

はじめに

2017年の12月、アメリカの連邦通信委員会において「ネット中立性」を撤廃する決定がありました。これを受けて、「ネット中立性」を支持する側(コンテンツ事業者)と撤廃したい側(通信事業者)の攻防が活発になっています。そんな中、カリフォルニア州では政府の決定に逆らう形で、ネット中立法案が成立しました。この新しい法案は、以前政府が考えていた案よりも一歩進んだ内容となっています。

この記事では、そもそも「ネットの中立性」とは何のことであるかを説明するとともに、今回の法案の概要、法案に対する各方面の反応について紹介します。

多くの企業がインターネット事業に関与する現在の状況では、各企業がネット中立性の理解を深めることは重要ですし、関連分野への新規参入を考えている場合には流れに沿った対応が求められることでしょう。

 

法律の概要

ネット中立性規則とは?

インターネットプロバイダーは、インターネット上の全てのデータを平等に扱うべきだとする考え方のことであり、ユーザー、コンテンツ、サイト、プラットフォーム、アプリケーション、接続している装置、通信モードによって差別あるいは区別することを禁じています。

中立性を理解する上では、電力ネットワークが度々例に挙げられます。電力ネットワークでは、ユーザーがトースター、アイロン、コンピュータの何を使ったとしても差別をしません。つまり、電力網は中立性を持ったネットワークだと言えるのです。

一方で、近年のインターネットの成長とともにインターネット接続業者がインターネットの中立性に異議を唱え、中立性を変えようとする動きが見られるようになりました。具体的には、動画や音声といった重いコンテンツ利用への負担を解消するために、利用サービスによって速度を制限したり、料金を支払った利用者に対しては高速度提供などの優遇を行ったりというようなことです。

 

アメリカにおけるネット中立性規則の沿革

1.オバマ政権時代

2015年3月、連邦通信委員会(FCC)は、インターネットプロバイダーを電気のような「公益事業」と再定義しました。そして、インターネットプロバイダーが特定のコンテンツを優遇することなどを禁止するオープンインターネット規則を発表したのです。

 

2.トランプ政権に交代後

2017年12月、FCCがオバマ政権時代に決定されていた規則を廃止すると発表しました。これに対し、AmazonやGoogle、Facebook、Netflixといった大手テック企業40社のロビー団体がFCCに対し訴訟を起こすことを発表し話題となりました。

 

3.カリフォルニア州の動き

アメリカ政府の決定事項に反する、カリフォルニア州独自の法案としてSB-822を作成しました。カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が2018年9月30日に署名し、同法が成立しています。

 

法案の具体的事項

SB-822法案の主な内容は以下の通りです。

・インターネットプロバイダーが特定のウェブサイトやサービスの通信速度を遅くする、あるいは特定のウェブサイトへのアクセスをブロックすることなどを禁止

・人為的優先化とその有料化を禁止(追加料金を払った特定のウェブサイトやサービスのトラフィックを優先するサービスの提供は不可)

・ゼロレーティングの禁止

※ゼロレーティング:インターネットプロバイダーが利用者に対し特定のコンテンツのデータ受信を無料にするというものです。インターネットプロバイダーが関連会社など特定のコンテンツのみを無料で提供できるようにし、それ以外のコンテンツと差別的扱いが生じる結果、競争の阻害や、利用者へ提供されるコンテンツの偏りが生じる懸念があります。

 

法案成立後の反応

司法省

SB-822は2019年1月1日から施行の予定です。しかしながら、アメリカ政府司法省は9月30日のカリフォルニア州での法案成立後、同日付で、同法成立を覆すためカリフォルニア州を提訴しています。

 

企業

2018年10月3日、アメリカの大手インターネット接続事業者AT&T、Verizonなどが加盟している4つの業界団体が新法の差し止めを求める訴訟を起こしました。

 

今後の見込み

ネット中立性は、インターネットプロバイダーが、Web上のコンテンツをわけへだてなく扱うことと端的に表現できます。トランプ政権では、インターネットプロバイダーを中心としたロビー活動を受けて、ネット中立性を撤廃する方向に動いていました。しかしながら、ネット中立性を失ってしまうと、大規模で資金力のある企業だけが生き残り、小規模なサービスがどんどんつぶされてしまう可能性が高いのです。

インターネット関連の事業は新しいアイディアを持ったスタートアップなどが誕生しやすい土俵でしたが、ネット中立性の有無によって既存企業や大手企業に有利に働く土俵に変化する恐れがあります。

アメリカでは、政府の決定に対して、複数の企業が反発を示すとともに、各自治体がネット中立性に関する法案を進める動きを見せています。今回のカリフォルニア州の法案成立は、このような動きを加速させることでしょう。

中立性をめぐっては世界中で活発な動きがみられています。そのため、アメリカで新規・小規模サービスを展開しようと考えている方はもちろんのこと、海外展開を視野に入れている場合には、各国の風向きに留意する必要があるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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