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海外進出:アメリカで法人税が引き下げ 日本企業に与える影響とは?

by 弁護士 小野智博

はじめに

2017 年12 月にアメリカで税制改革法案「Tax Cuts and Job Acts」が成立しました。法人税率の大幅な引き下げを目玉としたこの改正は、様々な企業に影響を与えるものです。
本記事では改正内容の概要について説明していきます。すでにアメリカで事業を展開している日本の企業はもちろん、将来的にアメリカでの事業展開を考えている企業にとっても大きな関心ごとといえるでしょう。

 

改正内容の概要

法人税率の引き下げ
最高35%の累進税率が適用さていた法人税率が、2018 年度より一律21%へ引き下げられることになりました。
この税制改革による企業業績への影響は既に現れており、トヨタ自動車では、2,496億円の減税効果で2018年3月期の純利益が押し上がる結果となりました。この影響の現れ方は、税金を「前払い」しているか、「後払い」するかで異なります。トヨタ自動車では税金の後払いにあたる「繰り延べ税金負債」を保有していました。従来35%だった法人税が21%に下がったことで将来支払うべき税金は減り、会計上、利益の大幅な増加となるのです。

 

代替ミニマム税の廃止

通常の法人税と各種調整が加えられた代替ミニマム税Alternative Minimum Tax(AMT)のいずれか高い税額を納付する仕組みとなっていました。今回の法人税率の引き下げにより2018 年度より代替ミニマム税は廃止されます。原油・ガス企業など実効法人税率が大きな業界にとっては吉報といえるでしょう。

 

テリトリアル課税制度への移行

海外で得た所得の課税方式には、下記の2種類があります。
「テリトリアル課税:所得が生じた国で課税を行う課税方式」
「全世界所得課税:納税義務者が居住する国内で生じた所得以外にも、国外で生じた所得も含め全世界所得に対して課税を行う課税方式」
これまでアメリカでは、全世界所得課税制度を採用していたため、アメリカ国外の子会社から配当を受領すると、税金として支払うべき額が大きくなる事態がありました。そのため、アメリカの多国籍企業では外国子会社からの配当を受け取らずに、利益を外国に留保する傾向がありました。
今回の改正では従来の方式とは異なるテリトリアル課税制度が採用されることとなりました。具体的には、2018年1月1日以降、アメリカ法人が10%以上の持分を保有する外国法人から受領する配当は100%非課税とするというものです。

外国子会社の留保所得一括課税

前項で説明した通り、アメリカ法人が10%以上の持分を保有する外国法人から受ける配当については、今後は全額非課税となる制度が新設されました。この課税制度の大幅な変更には、アメリカにある多国籍企業が外国で得た利益をアメリカに還元し、再投資を促し、景気を活性化させる意図があります。
この制度の移行経過措置として、アメリカ法人が外国法株を10%以上保有している場合、外国法人の留保所得(1987年以降のもの)に対して一括課税が実施されます。これには現金かそれ以外かで税率が異なる二層式の課税方法を導入されており、現金については15.5%、それ以外の資産については8%の税率が適用されます。
この移行税は1回限りの制度ですが、最大で約30年分の留保所得に対して一括課税される制度となっています。そのため、移行税納付の対象となえる企業には重い税負担となることでしょう。
例えば、世界的企業のアップルの海外留保資金はアメリカ内の企業で最大となっており、今回の一括課税の規定に基づき380億ドルの追加法人税を支払うと公表して話題になりました。アップルにとって2018年の納税額負担は大きくなりますが、今後、国外に滞留させている巨額の資金をアメリカに戻し、アメリカ国内での設備投資や新規雇用の創出を計画しています。

 

今後の見込み

2018年度の各企業の純利益に関しては、繰り延べ税金負債(法人税を後払いしていた場合)となるか、資産の取り崩し(法人税を前払いしていた場合)となるかで異なりますが、これには資金の出入りを伴わないため、本業の収益には影響しません。
中期的な視点で考えると、アメリカに進出する日本企業にとって法人税引き下げのメリットは大きいといえます。さらに、法人減税が米景気を底上げし、日本からの輸出が増えるとの見方もあります。

 

まとめ

法人税率は世界的に低下の傾向にあります。なぜなら、グローバル経済が発展した結果、世界中の企業がより税率の低い国に登記することで、コスト削減を図っているのです。このような戦略は「タックス・ヘイブン政策」と呼ばれており、そのような政策を掲げる国家が増加したことで、その他の先進国の法人税率も低下傾向にあります。法人税を下げることには、国際資産の流出による国家財源の減少といった問題も指摘されていますが、日本企業の海外進出においては、大きなチャンスでもあります。海外で事業を拡大するならば、海外の法人税が低い国に拠点を移して節税することは、グローバル経済において極めて有効な手段なのです。

このように海外の税制は、海外事業において非常に重要です。海外進出を有利に進めるためにも、必ず事前に確認しましょう。
当事務所でもご相談を受け付けています。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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