企業法務全般

海外進出:初めての外国人採用 外国語版の就業規則は必要?

by 弁護士 小野智博

日本の企業が海外進出する際、気を付けなければならないことに、就業規則の理解には企業側の努力が必要であるという問題があります。

 

日本での外国人採用

まず、日本で外国人を雇う際の就業規則について見ていきましょう。

日本国内では、日本人・外国人にかかわらず従業員を採用する場合、労働基準法・労働契約法・最低賃金法・労働安全衛生法などの日本の法律が適用されます。国籍などを理由に、日本人労働者と外国人労働者とで待遇や労働条件に違いを設けることは禁じられています。

さらに、厚生労働省は、外国人労働者への労働条件の明示に関し、『事業主は、外国人労働者との労働契約の締結に際し、賃金、労働時間等主要な労働条件について、当該外国人労働者が理解できるようその内容を明らかにした書面を交付すること』。また、『事業主は、労働基準法等関係法令の定めるところにより、その内容について周知を行うこと。その際には、分かりやすい説明書を用いるなど、外国人労働者の理解を促進するため必要な配慮をするよう努めること』。つまり、 外国人労働者の母国語または英語などに就業規則を翻訳することが必要です。

いずれの方法においても、『従業員が必要なときに、簡単に就業規則を確認できる状態にあること』が周知の要件といえるでしょう。

一方、言い換えると企業側は従業員が確認できる環境を整えればよいと言えるでしょう。

 

 

アメリカにも就業規則はあるの?

では、続いてアメリカの就業規則についてみてみましょう。

日本で言うところの就業規則は、アメリカでは従業員ハンドブック(Employee Handbook)がそれにあたり、雇用者と従業員間の重要なコミュニケーションツールと考えられています。

 

従業員ハンドブックは、入社時のオリエンテーションの際に新しい従業員に配布されます。ハンドブックには、差別禁止指針、会社方針、報酬、一般的な方針と手順、従業員給付、情報技術、離職、安全とセキュリティを含む重要な情報が含まれています。米国では、連邦および州ごとに雇用労働法が定められており、現地の労働関連法令は必ず連邦法に加え州法も押さえておく必要があります。その点にも十分注意しましょう。

 

就業規則に合意署名が必要

アメリカの企業では、従業員に従業員ハンドブックの冊子を渡すだけではなく、しっかりと理解してもらうためにオリエンテーションなどで説明を行うことも少なくありません。

従業員は、ハンドブックを受領して、At will (アメリカにおける随時雇用、随時解雇の考え)を認識し、ハンドブックの内容を読み、それらの遵守について了承したということを示す、承認フォームに合意した旨の署名をします。

アメリカでは、従業員の企業に対する訴訟も多いため、事前に相互に理解を深めること、そしてそれを書面として残すことが重要です。

また、ハンドブックの内容を理解してもらうことは、積極的な企業文化の構築にも効果的です。

 

アメリカだからと言って、英語だけの翻訳では不十分!

アメリカと言えど、母国語を英語としていない国民は多くいます。米国労働省の労働統計局によると、米国内の外国人労働者の数は増加傾向にあり、2014年には労働力の16.5%を占めています。

 

アメリカでは、雇用者の10%以上が非英語圏の言語を話す場合、法律上、従業員ハンドブックは雇用者に合わせた言語に翻訳されなければなりません。もし、従業員の英語が堪能であっても、主に他の言語を使用してコミュニケーションを取っている場合は、その10%の範囲に含まれることとなります。

 

従業員が英語のハンドブックを十分理解できないままに署名をしてしまった場合、その従業員が労働に関する裁判を起こしても、従業員が十分理解できるよう企業が努めていなかったとして「承認フォーム」には法的効力がありません。

そのため、アメリカにおいては、ハンドブックの翻訳、理解してもらうためのオリエンテーション実施など、全ての従業員が理解できるように企業側の努力が必要となります。

 

日本との違い

日本とアメリカにおける就業規則には、企業側の努力に差があるようです。

日本では、就業規則を配布する/イントラネットで共有するなど企業は周知をすることまでが求められ、従業員側の理解は従業員側の努力に委ねられています

 

一方で、労働に関する契約においても訴訟リスクを常に抱えるアメリカの企業では、何か問題が起きた際に従業員ハンドブックの役割が大きいといえます。訴訟が起きた際、承認フォームが効力を発揮することを考えると、従業員ハンドブックの相互理解には、従業員側の理解は企業側の努力が必要となります。

 

 

まとめ

アメリカと日本の例を比べてもわかるように、従業員が就業規則を理解するための企業側に求められる努力は、進出する先の国によって大きく変わります。

後々大きな問題に発展させないためにも、必ず事前に確認しましょう。

当事務でもご相談を受け付けています。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

 

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