コンプライアンス

破産手続の際、ローン返済中の自動車はどうすればいい?

by 弁護士 小野智博

登録名義がローン会社の場合

自動車を購入する際、ローン会社が販売店に購入代金を立替払いし、購入者がローンを完済するまでは自動車の所有権がローン会社に留保されるという契約がよくあります。

契約時に、所有者名義がローン会社に変更されている場合は、ローン会社に破産法上別除権の行使が認められるため、ローン会社は破産手続きとは別に自動車を引き揚げて売却し、売却代金をローン残額に充てることができます。

 

登録名義が販売店の場合

一方、契約内容は同じでも、契約時に自動車の所有者名義をローン会社に変更せず、販売店のままにしているケースがあります。

個人再生手続における所有権留保について判示した平成22年6月4日最高裁判例(民集 第64巻4号1107頁)によると、『再生手続開始決定時点で当該自動車につき自己を所有者とする登録がなされていない限り、留保所有権を別除権として行使することは許されない』とされており、これは破産手続でも同様であると考えられています。

そのため、登録名義が販売店のままになっている場合は、ローン会社に別除権の行使は認められません。
したがって、自動車は破産手続の中で換価され、各債権者への配当に充てられます。

 

偏頗弁済とは?

前述の通り、所有者がローン会社の場合と販売店の場合では、破産手続における扱いが異なります。

しかし、ローン会社から自動車引き揚げの要請があった際、車検証に記載された所有者を確認せず、購入者が引き揚げに応じてしまうことがあります。

所有者が販売店であるにもかかわらず、ローン会社からの引き揚げ要請に応じてしまうと、偏頗弁済とみなされて自動車の価値に相当する金額を破産財団に組み入れられたり、場合によっては免責不許可となることもあり得ます。

偏頗弁済とは、ある特定の債権者にのみ、返済をする行為をいいます。
この行為は、自己破産のときに財産を債権者に対して按分して配分する『債権者平等の原則』に反する行為とされています。
そのため、自己破産の申し立てをしたとしても、裁判所から免責許可の申し立てが認められないこと(免責不許可)があるのです。

引き揚げ要請があった際には、自動車購入時の契約内容や、車検証上の登録名義をよく確認し、十分注意して対応しましょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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