企業法務全般

海外進出・海外展開:アメリカ政府による中国製品排除問題を考察する

by 弁護士 小野智博


はじめに

2018年12月1日、アメリカ司法省の要請を受けたカナダ当局が、中国の大手通信会社「ファーウェイ」の最高幹部を「対イラン制裁法」違反容疑で逮捕しました。この逮捕はブエノスアイレスにおける米中首脳会談の数時間後というタイミングだったこともあり、大きくニュースで取り上げられました。この逮捕劇をきっかけに、アメリカだけではなく、世界中でファーウェイ製品排除の動きが活発になっています。

本記事では、ファーウェイの市場での位置づけについて紹介するとともに、なぜアメリカがファーウェイ排除に躍起になっているのかという背景について説明します。

 

ファーウェイの躍進

スマートフォン市場のシェアランキングでは1位のサムスン、2位のアップルが長らく2大トップとして君臨していました。しかし、近年この勢力図に変化が起きており、調査会社IDCの発表では、2018年第2四半期のグローバル市場におけるスマートフォンの市場シェア(出荷台数ベース)でファーウェイが第2位に浮上しました。アップルを1000万台以上抜いた大躍進でした。

実は、スマートフォンの端末が高性能になるにしたがって高価格化も同時に進んでいました。そして、消費者はスマートフォン関連の出費を抑えるために、SIMフリーの格安スマホを利用する人が近年は増加していたのです。その流れの中で、消費者のニーズに応えたファーウェイのコストパフォーマンスに優れた製品が爆発的な人気を得たといえます。

 

ファーウェイに対するアメリカ側の懸念の背景

なぜこれほどまでにアメリカ政府はファーウェイに対して深い懸念を抱いているのでしょうか?実は、ファーウェイの創設者は人民解放軍出身者といわれており、人民解放軍や中国共産党との密接な関係性が会社創立当時から疑われていました。そして、中国政府に代わってスパイ行為をファーウェイが行っているのではないかという疑惑の証拠探しにアメリカ政府は躍起になっていたのです。ただし、スパイ行為の明確の証拠は今のところ見つかっていないというのが現状です。

そのような背景の中、ファーウェイが香港のペーパーカンパニー「スカイコム」を使ってイランの通信会社と取引した疑い(イランに対する制裁措置違反)が生じ関係者に対する逮捕令状が出ていました。そして、アメリカFBIが捜査・追跡中にファーウェイの副会長兼最高財務責任者である孟晩舟氏がカナダに滞在したタイミングが重なり、バンクーバーでカナダ当局に逮捕される事態となったようです。

 

アメリカを中心としたファーウェイ製品排除の具体的な動き

2018年11月、ファイブアイズの会議において「通信ネットワークを保護するためファーウェイを排除する必要がある」という意見が集約されたと報道されました。ファイブアイズとは、アメリカが機密情報共有協定を結ぶカナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドからなる情報共有同盟で第2次世界大戦後に結成されました。一時、同盟の勢いは下火となっていましたが、近年のテロの脅威の高まりなどを受け活動が復活しています。

ファイブアイズの会議後、アメリカと同盟国によるファーウェイ排除は明らかであり、各所に影響を与えています。オーストラリア、ニュージーランドはすでにファーウェイ製装備の使用禁止を宣言しています。さらに、アメリカはファイブアイズ以外の同盟国や企業にもファーフェイ製品など中国製の通信装備を使わないよう求めています。日本政府もファーウェイとZTEの中国製品を政府関係機関から排除する方針を決めました。

以下はファーフェイ製品排除に関連した各国や各企業の具体的な反応です。

 

・アメリカ政府の要請によりAT&Tなど米国大手通信会社がファーウェイ製スマートフォンの販売を中断

・アメリカ大手通信会社であるTモバイルとスプリントは、ファーウェイ製品を買わないことで米当局から合併承認を受けることに合意したと報道される

・ソフトバンクは4Gと5Gの両方で中国製通信装備の使用を排除することを決定

・ファーウェイの通信装備を多く使ってきたドイツテレコムは現在の装備調達戦略の変更を示唆

・フランス最大通信会社のオレンジは5Gネットワークからファーウェイの装備を排除すると発表

・イギリスの通信会社、ブリティッシュテレコムは5Gネットワーク装備をファーウェイから購入しないと公表

 

今後の予測

ファーウェイをはじめとした中国製品の排除には、政治的な思惑が大きくかかわっています。この記事で説明したセキュリティ面での懸念は表向きの大きな理由ですが、その裏には高速通信規格「5G」の展開競争の中でいかにイニシアティブを取るかという経済的な背景も関わっているでしょう。世界経済の中でのアメリカ対中国の構図が見え隠れしているのです。

急激な躍進を見せた中国ファーウェイと、アップルショックという不安が生じているアメリカ・アップル。特に、アップルは5G通信への対応において大幅な遅れをとっており、iPhoneの5G対応にはしばらく時間がかかる見込みです。アメリカの中国製品排除の動きがアップルを助ける結果になるのかはまだ分かりませんが、この通信を取り巻く国際的な争いは継続する見込みであり、今後の動きにしばらく留意する必要があります。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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