企業法務全般

海外進出:雇用契約の際に重視すべきことは、国によって異なる(アメリカを例として)

by 弁護士 小野智博

日本の企業が海外進出する際、雇用契約の詳細の明示に気を付けなければなりません。

日本の企業が海外進出する際、気を付けるべきことに、雇用の際に雇用期間を定めることはもちろん、職務内容、責任などの詳細を明示することが重要になります。

アメリカでは雇用契約書にある職務内容の相互理解が不十分ですと、解雇の際に訴訟を起こされるリスクが発生します。

 

日本における「無期転換ルール」とは?

日本における「無期転換申込権(以下、無期転換ルール)」をご存じでしょうか。

この制度は、2013年4月1日以降に開始した有期労働契約を対象に、通算5年を超えて有期労働契約が反復更新された場合、労働者には無期労働契約を申し込む権利が発生するものです(労働契約法18条)。

 

無期転換ルールが対象外となる場合もある!

ただし、一定の要件をすべて満たす「高度専門職」と呼ばれる雇用の場合は、そのプロジェクトが終了するまで無期転換の対象から除外できる特別措置法による特例があります(専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法)。

このように、日本では、雇用契約において、雇用期間が大きなテーマとなっています。

 

アメリカには雇用に期間の定めはあるのか?

これに対して、アメリカでの雇用において、期間を限定する働き方はあるのでしょうか?

 

アメリカでは日本ほど「雇用期間」を重要視していません。

アメリカの人事労務では、“Employment at will”が基本です。特定の職務について技能を有する者を必要のつど募集、採用することが基本で、雇用者と労働者はあくまで契約の概念に基づいて結ばれています。

従業員の側であれば、よりよい条件の求人にためらわず転職していきます。雇用者の側であれば、契約した職務が遂行できない場合は「契約不履行」として従業員を解雇する事も可能です。職務内容が個人ごとに明示されておらず、基本的には簡単に解雇する事が出来ない日本とは対照的です。

 

担当する仕事が完了すれば解雇されることも

アメリカ企業の多くは、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成します。その内容は、具体的な職務の内容や目的、目標や責任・権限の範囲のほかに、社内外の関係先、必要とされる資格、経験、知識や技術、学歴などが記載されています。

 

このように、アメリカでは職務を遂行する人材を採用することが前提であり、プロジェクト完了などにより職務が消滅した場合、それを正当な理由として解雇することができます。

日本では、プロジェクトが完了した後は、配置転換を行うなどして同じ企業内の別の仕事に従事することで、雇用関係の維持が当たり前となっており、それを理由とした解雇はほとんどありません。

それでも、雇用の終了には注意が必要

日本で解雇を行う場合、就業規則に記載があるか否か、適正な手続きを踏んでいるか、社会通念上相当な事由であるか、及び他の社員や過去に解雇した社員と待遇が同等であるかなどに留意しながら行うため、相当の事由がなければ解雇を行うことは出来ません

 

アメリカでの雇用の終了は、上述したようにプロジェクト完了などにより従業員を解雇することも可能な場合があります。

しかし、“Employment at will”の原則があるアメリカといえども、解雇に関する訴訟は非常に多く発生しています。

特に、会社都合による雇用終了は「不当解雇(契約不履行、報復的解雇、不誠実・不公正な解雇)」とみなされないように注意が必要です。

 

・ビジネス上の理由

業務縮小、拠点閉鎖などの理由で、会社都合で従業員に辞めていただくケースがあるかもしれません。その場合、明確な理由に基づいて戦略的に進めること、雇用終了後すぐに同じポジションで新規採用をしないことなどが肝要です。

 

・不正行為・懲戒

就業規則を定めていなければ、何をもって不正行為とするのか、何を懲戒対象とするのかなどが明確でなく、不当解雇とみなされる可能性があります。

 

・成績不良

雇用者がジョブ・ディスクリプションを作成せず、事前に明確な業務目標を伝えていない、業績評価の記録を残していない、改善に向けたフィードバックを行っていなかったなどの場合は、何を持って「パフォーマンスが良くない」とするのかという点で訴訟に発展するケースがあります。

 

“Employment at will”が雇用契約の原則ではあるものの、解雇の際には十分注意を払わないと訴訟のリスクがあることを忘れてはいけません。

 

まとめ

日本において、有期雇用を理由とした雇止めが改善されていることからも、「雇用期間」はたいへん重要視されています。

一方、アメリカにおいては、基本原則として、職務を遂行するために雇用することが前提となっており、雇用の期間よりも職務内容の詳細の明示が重要となります。

雇用の際に、何が重要視されるかは進出する先の国によって変わりますので、 必ず事前に確認しましょう。

当事務所でもご相談を受け付けています。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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