コンプライアンス

海外進出・海外展開:対米外国投資委員会(CFIUS)による審査厳格化|日本企業への影響とは?

by 弁護士 小野智博


はじめに

近年、中国企業による海外企業の積極的な買収が注目されています。その動きに対し、中国との対立を深めるアメリカ国内では、安全保障上の観点から、中国によるアメリカ企業買収を阻止する対策を強化すべきだとの認識が強まっていました。

そんな中、アメリカでは2018年8月、「2018年外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Modernization Act of 2018:FIRRMA)」がトランプ大統領の署名を経て成立しました。この法律は対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States:CFIUS)の審査権限を大幅に強化するものです。CFIUSはアメリカ国内への外国投資家による投資を審査・規制する機関であり、今回の法改正により、外国投資家による多くのアメリカ国内投資に関して、審査対象になる取引を大幅に拡大しました。

ここでは、CFIUSの審査制度に至った経緯と、法改正の内容について説明するとともに、今回の法改正が日本からアメリカへの海外進出・海外展開に対して与える影響について考察します。

 

法改正の内容

法改正による大きな変更点は以下4点あります。

 

1.審査対象の拡大

従来、CFIUSによる審査対象の範囲は、アメリカ企業を「支配する」取引とされていました。改正後は、以下の事業活動についても審査対象に追加されます。

アメリカ軍施設・空港・港などに隣接する土地の購入・賃貸・譲渡に係る不動産取引

重要技術、重要インフラや重要技術、機密性の高いデータを持つアメリカ企業に対して一定の実質的な意思決定への関与を付与する取引

外国企業が投資するアメリカ企業において、支配権が外国企業に渡るまたは機密性の高い重要技術、重要インフラ、データなどへの外国企業のアクセスが可能になる取引

 

2.審査期間の延長

従来の審査は、第1次審査と第2次審査から構成されており、第1次審査の過程で安全保障上の懸念が十分解消されない場合に、第2次審査へと進むことになっています。

法改正により、審査全体にかかる最大所要日数が75日から105日に延長されます。改正前後の所要日数の内訳は以下の通りです。

改正前

改正後

第1次審査の期間

最大30日

最大45日

第2次審査の期間

最大45日

最大60日

※「特別事態」と認定された投資案件に限る

 

3.宣誓制度の新設

正式な審査を受ける必要があるか事前確認できる制度が新設されます。この制度は投資の概要を記した「宣誓書」を提出することで、CFIUSに判断を求めるというものです。

宣誓書の提出後、30日以内に判断結果が通知されるため、事前確認の段階で正式な審査は必要がないと判断されれば、審査に必要な書類作成や時間を削減できるメリットがあります。

 

4.審査手数料の導入

改正前、CFIUSによる審査は無料で行われていました。しかしながら、今回の法改正で審査対象案件の取引額の1%または30万ドルのうちどちらか低い方の金額を上限とした審査手数料を徴収することが可能になります。

 

中国によるアメリカ企業買収への危機感

アメリカでは、近年の対立国からの脅威に対応するための法改正・近代化が必要であるとして、以下のような提案が行われていました。

 

The challenge is to modernize the CFIUS review process to better addresses security threats without hurting the ability of U.S. business to compete at home and abroad. The statute under which CFIUS operates has not been updated in a decade.

アメリカの国際的な競争力を損なうことなく、セキュリティの脅威に対処するためにCFIUSの審査を近代化する必要があります。約10年前の法改正からCFIUS関連法が変わっていないのです。

2017年12月に開催されたCFIUS公聴会で委員長を務めたアンディ・バー議員は中国による買収を通じた技術取得について問題提起を行い、CFIUSの権限強化に関してはトランプ大統領も同調、議会と連携してきました。

一時は、中国資本が一定以上入る企業によるアメリカ企業買収を禁止にするという措置が検討されていたこともありますが、結果的には既存の枠組み強化での対応となりました。背景には中国企業による、アメリカのハイテク企業買収への懸念があるものの、中国を狙い撃ちした法改正とはならず、全体的な権限強化となりアメリカへ海外進出・海外展開する企業に与える影響は大きいといえます。

 

海外進出・海外展開への影響

今回の法改正はアメリカの国家安全保障の確保が背景にあります。特に、アメリカと対立を深める中国に技術や情報が流出することを危惧したもので、対立国と関連した取引の規制強化が主目的ということができます。

つまり、日本企業による海外進出や海外展開が懸念の対象とはされているものではありません。ただし、アメリカ企業を買収しようとする日本企業が中国に子会社を持っているような場合には、CFIUSへの申請について、注意深く検討する必要があります。

なお、今回の法改正は日本企業の海外進出・海外展開にとってプラスになる受け取ることもできます。今回、新設された「宣誓」手続きは、従来の申請よりも簡易な手法であり、上手く利用すれば審査を迅速に進めることも可能となるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

弁護士法人
ファースト&タンデムスプリント法律事務所

代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

【電話】03-4405-4611
【メール】ono@tandemsprint.com