はじめに
カリフォルニア州ではプラスティックストローの廃止など、環境政策にかねてより力を入れてきました。この度、フィル・ティン議員によって、紙のレシートを禁止する法案AB161が提案されました。この法案は既に天然資源委員会を通過しており、同委員会の公聴会に持ち込まれることが決定しています。この法案が成立すれば、多くの企業が2022年までに電子レシート・システムに切り替えることになるでしょう。
ここでは、通称「Skip the Slip」と呼ばれる、レシートの電子化法案AB161について紹介していきます。環境政策というイメージの強いこの法案ですが、企業側としてはどのような対策が必要となってくるのでしょうか?法案に対する賛成意見と反対意見を共に紹介し、レシートの電子化の動きが企業側に与える影響について考察します。
Skip the Slipとは?
AB161法案は、通称「Skip the Slip(紙レシートを省こう)」と呼ばれており、2022年までに紙のレシートの代わりにデジタルレシートを発行することを要求する内容となっています。この法案が成立すれば、自治体レベルの取り組みとして紙製のレシートを電子化するアメリカ初の法律となります。カリフォルニア州がアメリカの他の州や他国に与える影響は大きく、今回の動きが拡大することが予測されます。
この法案では、顧客に頼まれない限りは紙製のレシートを発行してはならないとしており、違反者に対しては罰則も科せられます。具体的な罰則として、違反した企業は2回までは警告を受けます。それ以上の違反には1日25ドル、最高で年300ドルの罰金を科されることになります。ただし、年間総収益が100万ドル以下の企業や、現金取り扱いのみの企業は対象外です。
賛成意見
AB161法案に対しては複数の環境団体から歓迎の声が挙げられています。実は、紙のレシートが環境に与える影響は大きく、Green Americaの「Skip the Slip」報告書によると、アメリカ国内で流通する紙製のレシートは以下の通り多くの資源を使用しているようです。
・ 1000万本の木を使用
・ 210億ガロンの水を消費
・ 6億8600万ポンドの廃棄物と120億ポンドのCO2を発生
さらに、紙のレシートには環境ホルモンによる環境負荷も生じています。店頭で発行されるレシートの大半でビスフェノールA(BPA)あるいはビスフェノールS(BPS)が使用されており、この二つはどちらも環境ホルモンとして健康への悪影響の懸念があるとされています。
また、すぐに捨てられることも多い紙製のレシートに対しては、資源の無駄使いという意見も多く、紙製のレシートが廃止されれば、環境保護の観点からはプラスになるといえるでしょう。
反対意見
一方で、経済界はレシートの電子化に対して前向きではありません。従来の紙製レシートから電子レシートのシステムに切り替える際の金銭的な負担を懸念しているためです。また、製紙業界もレシートによる紙資源の廃棄は全体のごくわずかであると反発しています。
海外進出・海外展開への影響
レジで受け取ったレシートを皆さんはどうしていますか?すぐに捨ててしまうという人も少なくないのではないでしょうか。その一方で、近年、レシートにはクーポンやアンケートのサービスが付加されていることも多く、そのため時には過剰に長い紙のレシートが出てくることもあります。例えば、アメリカの大手ドラックストアチェーンのCVSのレシートは長すぎるとして、度々SNS上をにぎわせています。皮肉の意味をもめて、ハロウィンのコスチュームにもなったほどです。このような動きは企業側として楽観視できません。資源の無駄使いだと企業側への批判の声につながることもあるからです。
特に近年は環境に対する配慮が重要視されており、環境に対する社会的役割が企業に求められるようになってきました。日本からアメリカに海外進出・海外展開した企業であれば、現地の環境に対する意識の高さに驚くこともあるでしょう。
現在、環境関連の法律が増えてくる中、企業としては法律を順守した企業活動を行うことはもちろん、消費者や社会に向けた取り組みとして、積極的に環境政策に取り組むことが重要です。SNSなどが普及した現代社会において、一度傷ついた企業イメージを回復させるのは非常に困難です。そうならないためにも世論の動向に注意を向け、日本と現地との間の環境に対するルールや考え方の違いについて十分な情報収集をしておくことが大切でしょう。
※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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