コンプライアンス

海外進出・海外展開:「修理する権利」法案化の動きがアメリカで拡大中|エレクトロニクス業界・ソフトウェア業界は大反発

by 弁護士 小野智博

はじめに

 2019年3月 、カリフォルニア州では消費者による電子機器を修理するのに必要な部品、ツール、およびサービス情報 へのアクセスを許可することを企業に義務付ける法案AB1163が提出されました。

 

 アップル社などのメーカーが提供する製品が故障した場合、そのメーカーが指定する修理業者でしか修理ができず、しかもその費用は非常に高額という状況があります。しかし、このような状況は消費者保護の観点から問題があり、また、故障した製品の買い換えにより、電子廃棄物が増加するため、環境保護の観点からも不当だと批判の声がありました。このような背景もあり、近年「修理する権利」を求める声がアメリカで高まっているのです。

 

 本記事では、AB1163の具体的な内容について紹介するとともに、同様の法案をめぐるアメリカ国内の動きについてもお伝えします。日本からアメリカへ海外進出する事例を見ていると、エレクトロニクス業界およびソフトウェア業界の進出が非常に多くなっています。そのため、今回の「修復する権利」をめぐる法案が海外進出に影響を及ぼすことも考えられます。これらの背景や内容を確認するとともに、自身の事業に影響が及ぶ場合には、何らかの対策をあらかじめ練っておく必要があるでしょう。

 

Right to Repairとは

 Right to Repair(修復する権利)とは、製品を修理するために必要な部品、ツール、およびサービス情報へのアクセスを消費者や企業に認める権利のことをいいます。 具体的には、消費者自身や製造業元指定外の修理業者 に修理に必要な部品や修理マニュアルの情報を公開(無料で開示)することを意味しています。

 

 アメリカの消費者団体であるPIRGは「修理する権利」を訴えるキャンペーンを全米で大々的に行っており、各地で法案の提出が活発です。 ニューヨーク州ではこのキャンペーンに初期から反応しており、2015年に法案が提出されましたが、反対企業や関連協会のロビー活動を受けたこともあり、成立には至りませんでした。2017年には全米8州で、2018年には全米17州で同様の法案が提出されており、キャンペーンは年々拡大しています。
なお、今回カリフォルニア州で提出されたAB1163法案は消費財製造業者の主な義務 を定義するSong-Beverly Consumer Warranty Act(通称カリフォルニア州レモン法)の強化法案と言えます。カリフォルニア州レモン法では、製品が適切に梱包され、必要なラベル表示がされていること、またラベルの記載内容を満たす商品であることを義務付け、消費者を保護しています。AB1163では製造業者に修理の選択肢を消費者に提供することを要求しています。ただし、AB1163で言及されているのは修理のために必要な情報開示を製造業者に求めるところまでであり、消費者や指定外業者による修理を義務化させるものではありません。 つまり、AB1163が成立したとしても、製造業者がNOと言えば、消費者が製品を勝手に修理することはできないのです。

 

関連企業からの強い反発

 アップルなどが所属するCompTIA、CTIA、TechNet、Consumer Technology Associationなどの強力なエレクトロニクス業界およびソフトウェア業界の組織は、従来から「修復する権利」に反対し続け、各州で法案成立を阻止するためのロビー活動を展開しています。反対企業はサービスマニュアルなどの情報公開は技術漏洩につながること、知識のない一般人が自ら修理を試みることで、製品がさらに壊れる恐れや、使用中に危険な挙動が発生する恐れがあり、消費者の安全性を確保できない ことを根拠に挙げているのです。

 

 アメリカではロビー活動の費用を開示する必要があります。ニューヨークで同法案が検討された際には、アップルが約8000ドル、トヨタ、ベライゾン、メドトロニック、キャタピラー、フェイスブック、AT&T、ジョンソン・アンド・ジョンソンなどの他の企業らも合計約100,000ドルをロビー活動に費やしたことがわかっています。

各州で広がるPIRG法案の検討

 2019年3月の時点で、修理する権利の法案制定を検討している州はカリフォルニア州を含み以下の20州です。
 カリフォルニア、ジョージア、 ハワイ、イリノイ、インディアナ、マサチューセッツ、ミネソタ、ミズーリ、モンタナ、ノースダコタ、ネバダ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、オレゴン、サウスダコタ、バーモント、バージニア、ワシントン、ウェストバージニア

 

 2017年には8州でしたので、アメリカ国内において同法案が一気に広がりを見せているといえます。

海外進出・海外展開への影響

 「修理する権利」キャンペーンが活発となった背景には、電子製品が壊れても簡単に(安価に)修理することができず、買い直しとなることが多い状況は、消費者に高額な支出を強いる不当なものだという消費者の不満 があるといえます。近年、様々な家庭電化製品やテック製品が世に溢れている中で消費者が自分の手で修理できるものはほとんどないといってもよいでしょう。そもそもこれらの製品は分解するように作られていないものが多いですし、分解できたとしても修理に必要な部品も修理マニュアルも容易に手に入りません。そのため、消費者は高いお金を払って指定業者に修理を依頼するか、新しいものを買い直さなくてはならないのです。

 

 修理する権利が、反対派の筆頭たるアップル社が本社を置くカリフォルニア州で法制化されれば、一気に全米へ広がることが予想されるため、今回の法案の行方は非常に重要です。「修理する権利」の法制化は、メーカーにとっては自社製品の情報提供を義務付けられるという恐れがあり、新規購買の妨げにもなるでしょう。一方で、製造元の指定を受けずに、携帯画面の液晶などの修理を行っている修理業者 にとってはメリットが大きいと考えられます。誰もが修理に必要な情報やツールを得られるようになれば、街の修理屋さんとしてこれまでは難しかった修理にも対応できるようになることでしょう。また、消費者に修理キットを販売するサービスにとっても事業拡大のチャンスといえます。

 

 アップル社のような世界的大手企業が激しく反対する中で審議が進められている法案であり、アメリカひいては世界のビジネスに大きな影響を与える法案であることは確実です。また、日本から海外進出・海外展開する事例においては、エレクトロニクス業界およびソフトウェア業界に関連する分野へ進出するケースが多く見られますので、今回の法案の行方が気になる企業も多いことでしょう。
資本主義経済が発達した現代社会においては、新しい技術や機器がどんどん開発され、壊れたら新しいものに買い換えるという大量消費の風潮が主流となっていましたが、今後は修理をして同じものを長く使うという新たな風潮に変化していくかもしれません。企業にとっては、そのような時代の変化に注意し、敏感に反応していくことが重要です。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

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