コンプライアンス

海外進出・海外展開:カリフォルニア州でセクハラ防止の社内研修の適用範囲が拡大|企業側に必要な心得とは?

by 弁護士 小野智博

はじめに

 多くの有名企業やビジネスリーダーが、セクシャルハラスメントの違法行為が原因となって、その地位や、名誉、ブランド力を落としています。これは個人的な行動が原因とある場合もあるでしょうし、職場全体の不適切な意識に起因していた場合もあるでしょう。しかしどちらにせよ、セクシャルハラスメントに対する意識が高まり続ける現在、企業としては世間の常識や期待に応えられるよう十分な社内教育を実施する必要があるといえます。
そのような中、カリフォルニア州では同州に本社を置く企業に対してセクシャルハラスメント防止のトレーニング要件を規定した新しい法律SB1343が制定されました。昨年、承認を受けたこの新しい法律では、セクシャルハラスメント防止トレーニングの対象を以前よりも拡大しています。

 

 本記事ではSB1343の内容について解説するとともに、セクシャルハラスメント防止のトレーニングを行う上で企業が心得ておくべきことについても紹介します。海外進出・海外展開を行う際には、現地の法律を遵守することは非常に大切なポイントです。また、セクシャルハラスメントに関していえば、文化の違いや日本との感度の違いもありますので、トラブル防止のためにも適切なトレーニングの実施が必要となるでしょう。

 

SB1343の内容

SB1343には以下二つの大きな変更点があります。
①トレーニング実施要件である最低従業員数の大幅な引き下げ
→50人から5人へ
②実施対象者を拡大
→マネージメントのポジションにいる従業員だけでなく全従業員が対象に

 

具体的なトレーニングの実施内容は以下の通りです。

 

①マネージメント職においては、該当のポジションに着任してから6カ月以内に少なくとも2時間以上のセクシャルハラスメント防止トレーニングを実施すること。 それ以降は2年間に1回以上実施。

②非マネージメント職においては、雇用開始後6カ月以内に少なくとも1時間以上のセクシャルハラスメント防止トレーニングを実施すること。それ以降は2年間に1回以上実施。

③セクシャルハラスメント防止トレーニングは、グループトレーニングまたは個人トレーニングのどちらでも実施可能であり、また、トレーニングの合計時間が法律が定める基準を満たしていれば、分割して実施することも可能。 ただし、分割する場合にも①、②で定められた6カ月の期限内に実施を完了すること。

 

SB1343の問題点

SB1343はトレーニングの実施対象を拡大したという観点からは、評価することができます。しかし、この法律はセクシャルハラスメントに対する必要十分な解決策とまでは言い難く、適切なトレーニングの実施には未だ課題が残されています。
例えば、この法律では対面訓練を必要としておらず、オンライントレーニングで十分基準を満たすことができます。 時間や場所を選ばないオンライントレーニングは利便性が高い一方で、研修に対するモチベーションの維持や習得度にばらつきが出るというデメリットがあります。オンライントレーニングを受講したものの、内容について十分理解できていないという恐れがあるのです。

 

また、効果的なトレーニングのためには適切なコンテンツも不可欠です。社内で起こりやすそうなロールプレイ研修やトラブルシューティングなど、企業ごとに独自にカスタマイズした内容であれば、受講者にとっても具体的なイメージがしやすく理解度を深めることになるでしょう。ただし、法律の規定では企業が独自にトレーニング内容を組み立てずとも 、カリフォルニア州公正雇用住宅局(California Department of Fair Employment and Housing:DFEH)が作成した一般的なビデオをトレーニングに使用することも可能となっています。この教材は企業側がコンテンツを作成する手間を省き、トレーニングを実施するハードルを下げる効果も期待できますが、企業による自発的な取り組みを阻害するとの見方もあります。

つまり、DFEHの提供する教材によるオンライントレーニングという最低基準の実施では、従業員の中にセクシャルハラスメントに対する共通の問題意識を生み出す のはなかなか難しいといえるでしょう。 セクシャルハラスメントの問題点や防止策を正しく理解し、トレーニングで得た知識を職場で生かすためには 、対話型のトレーニングが重要であり、研修中の従業員間のやりとりやリアルなケーススタディなどが効果的なのです。

 

海外進出・海外展開への影響

 セクシャルハラスメント防止のための意識を向上させる必要性が叫ばれています。法律により、トレーニングの実施が義務付けられることも多くなっていますが、実際にはトレーニングが実施できていなかったり、形式だけであったり、最小限の方法でのみ実施するだけであったりということも多くみられるのが現状です。

 

 今回の新しい規定によって、セクシャルハラスメント防止トレーニングの対象範囲は拡大しました。しかし、実際の現場でセクシャルハラスメントを防止できるかどうかは企業の取り組み姿勢にかかっているといえます。例えば、DFEHの提供するオンライン教材を視聴してトレーニングを終わりとするのでは、セクシャルハラスメントに対する意識改革の程度は限定的なものになってしまうでしょう。

 

 トレーニングの実施には費用や時間的な制約もあるでしょうが、それを言い訳にすることは企業側の正しい姿勢とは言えません。アメリカのセクシャルハラスメントに対する意識は日本よりもさらにセンシティブであると考え、適切なトレーニング を計画し実施する必要があるでしょう。例えば、最近はアウトソーシング事業が充実しているため、それらを活用するのも一つの方法です。
海外進出・海外展開した企業では、現地の社会常識に企業内の意識を揃えることは、ビジネスを進めていく上で重要なポイントとなります。セクシャルハラスメントのない職場作りは、従業員が幸せで健康的な職場生活を送ることのみならず、企業利益にも直結することでしょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

弁護士法人
ファースト&タンデムスプリント法律事務所

代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

【電話】03-4405-4611
【メール】ono@tandemsprint.com