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海外進出・海外展開:カリフォルニアでは採用過程における求職者への犯罪歴の確認が禁止|企業側は訴訟リスク回避のためにも十分な注意が必要

by 弁護士 小野智博

はじめに

アメリカでは現在、「Ban the Box」と呼ばれる公正な雇用に関連した法律が活発に議論、制定されています。これは企業の採用過程で求職者の犯罪歴を確認することを禁止するものであり、カリフォルニア州では全米で10番目に制定され、2018年以降施行されています。
雇用関係を規律する法律は様々な差別問題と深く関わっており、企業側の過失によって採用過程で求職者に対して法に抵触する質問をした場合、民事訴訟にまで発展するケースが増加しています。

本記事では、企業の採用時において求職者に対し犯罪歴を確認することを禁止したカリフォルニアの州法Fair Chance Act(AB 1008)の内容と、企業が採用時に注意するべきことについて説明します。

全国に広がる「Ban the Box」法

2019年4月現在、12の州が州全体で、求職申請書に求職者の犯罪歴を訪ねる項目を設けることを禁止しています。この動きは、通称「Ban the Box」と呼ばれており、近年において全米で広がっています。採用過程において、犯罪歴などのバックグラウンドの要素を加味しないことが公正な雇用の実現を後押しすることになるとされています。

現在、「Ban the Box」が設定されている州は以下の通りです。
カリフォルニア州、コネチカット州、ハワイ州、イリノイ州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州、マサチューセッツ州

法律の内容

2018年1月1日に施行されたFair Chance Act(AB 1008)ではカリフォルニア州の雇用主が求職者の有罪判決歴等について確認することを禁じています。ここでは、法律の具体的な内容について説明していきます。

法律の対象:5人以上の従業員を有する公営および民間の雇用主

ただし、例外として、医療施設、農場労働者の請負業者、または州の刑事司法機関の特定の役職には適用されません 。これらの職業に対しては、連邦法あるいはAB1008以外の州法によって求職者の身元調査や犯罪歴の有無による雇用制限が認められているので、そちらが優先適用されるためです。例えば、登録看護師になる場合には、指紋の提示が義務付けられており、登録申請時に逮捕または有罪判決を受けたことがあるかどうか確認されるのです。

法律で禁じられている行為

・有罪判決歴(いわゆる、前科と言われるもので、有罪の確定判決を受けた履歴のこと)についての質問を求職申請書や面接時に含めること
・前歴(過去に何らかの刑事手続きに関与した履歴のことで、有罪判決になったかどうかは問わない)についての質問を求職申請書や面接時に含めること
・有罪判決がされていない逮捕に関する情報、裁判前または裁判後のダイバージョン・プログラム(保護監察局による指導監督のプログラムを条件とし,条件を達成すれば訴追を猶予する条件付き刑事訴追猶予制度)への参加、あるいは法的に撤回された有罪判決についての質問を求職申請書や面接時に含めること

 

採用審査で内定となった場合に、内定者の犯罪歴の確認を企業側が行うことは許可されています 。なぜなら、公正な雇用を後押しするための法律とはいえ、犯罪歴によっては採用するにふさわしくない仕事内容があるためです。例えば、未成年への性犯罪者がベビーシッターの仕事を行うなどが考えられるでしょう。ただし、犯罪歴の確認によって内定を取り消すには、その仕事の内容が犯罪歴のある者に行わせるに適当なものではないという根拠を示す必要があります 。内定取り消しを決定した場合には、根拠となった有罪判決報告書のコピーを添えた書面を求職者に送付し、求職者に対して少なくとも5日間の返答猶予期間を与えることとされています。求職者はこの猶予期間の間に、報告書の誤りや、更生の証拠を提供する機会を与えられています。

海外進出・海外展開への影響

今回は犯罪歴による雇用差別を取りしまる法律「Ban the Box」について紹介しました。このような法律はアメリカ全土に広がりを見せていますが、法律施行後においても、未だに犯罪歴などについて採用段階での確認がなされていると、求職者や法律関係者が非難の声を上げています。採用時における犯罪歴の確認は、企業の人事採用業務おいて長年慣習として行われていたため、最新の法改正に対応できていない企業がまだまだ多いのです。

しかし、法律で禁止されている事項を採用時に確認するということは、求職者による訴訟リスクをもたらすことを忘れてはいけません。採用面接においては、求職者の人柄や能力など職務に必要な情報を確認するために様々な質問をしなければならない一方で、その質問内容が差別問題に触れてしまわないよう細心の注意が必要です。特に、アメリカは訴訟大国であり、差別問題に非常に敏感であるため、面接で行う質問内容は十分に吟味することが重要なのです。

例えば、今回取り上げた犯罪歴以外にも、国籍、市民権、年齢、障害、人種、性別、婚姻の状態、妊娠の状態など求職者に確認することが違法とされるものは数多くあります。親切心から勤務地や勤務時間に配慮するためにした家族に関する質問であったとしても、「子どもがいますか?」と聞くこと自体が違法と判断されてしまう可能性があるのです。

さらに、アメリカへ事業進出した日本企業が現地で採用を行う場合には、前述の問題に加えて言語の違いによる難しさも発生します。採用プロセスにおいて、公平を心がける姿勢を忘れないのはもちろんのことですが、遵守すべき法律を十分理解し、求職者への質問内容を念入りに準備しておくことは円滑な現地採用を実施するための必須条件と言えるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

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