現地法人運営

海外進出・海外展開:カリフォルニアで給与明細書のルールが変更|現地法人が雇用のコンプライアンスを守るために

by 弁護士 小野智博


はじめに

企業が日本から海外に事業展開した場合、現地の雇用ルールを熟知し、適切に対応することが重要です。特に、雇用する側としては、従業員に法律に則った形で給与を支払う必要があるため、最低賃金や給与支払いのルールに関する知識は必須といえます。

今回は、カリフォルニア州労働法が定める給与明細書に関する規定の修正法案に注目し、カリフォルニア州の事例を紹介していきます。

カリフォルニア州労働法226条で規定されている給与明細の基本ルール

まずは、給与明細に関する基本的なルールを具体的に見ていきましょう。カリフォルニア州では、カリフォルニア州労働法226条によって雇用主による従業員への給与明細書の提示に関するルールが定められています。日本においては給与明細の発行は法律上、雇用主の義務となっていますが、アメリカ・カリフォルニア州においても同様に半年ごとあるいは各賃金を支払うタイミングごとに、給与明細を従業員に提供するものとされています。また、明細書の写しおよび控除の記録は改ざんのできない形式で記録され、雇用主によって少なくとも3年間は保管される必要があります。

また、カリフォルニア州労働法226条は給与明細に記載すべき項目についても定めています。この項目内容については、修正法施行前後で変更はありませんが、給与明細の複写物にも原本と同じく、以下の項目を記載する必要があります。

(1)総賃金
(2)総労働時間
(3)賃金が分割で支払われた場合、分割数および適用される分割レート
(4)すべての給与控除(税金等)
(5)純賃金(総賃金-控除額)
(6)支給期間
(7)従業員の氏名と社会保障番号の下4桁
(8)雇用主である法人の名称と所在地
(9)給与期間中に適用される全時給、および従業員が各時給で働いた時間数

なお、(4)の給与控除は州や企業により多少の異同はあるものの、基本的には以下の項目で構成されています。

Federal Income Tax:国に納める所得税
State Income Tax:州に対して納める所得税
Local Income Tax:市や町に対して納める所得税
Social Security Tax:社会保険の資金調達のための税金
Medicare Tax:高齢者または障害者の医療保険料の資金調達のための税金
State Disability Insurance:労災とはならない障害に対する一時金の資金調達のための税金

州労働法226条の改正後の内容

2019年1月1日、州労働法を改正する改正法SB 1252が施行されました。この改正法は州労働法226条に対する改正法ですが、州労働法の基本的な内容を変更するものではなく、法の解釈を明確にし、違反者に対する罰則規定を追加したものになります。
給与明細は労働者を守るために重要な書類です。例えば、給与支払の内容に不審な点があり、雇用主に対して訴えを提起する場合、証拠書類として給与明細書は不可欠です。

また、社会保険料の納付は事業主を通して行われることが一般的ですが、その事業主の中には従業員の給与から保険料として納付すべき金額を徴収しているにも関わらず、保険料を納付していなかったというトラブルも発生しています。その場合、本人が給与明細書を保存していて保険料の源泉徴収の内容が確認できれば、その期間分の公的年金給付が保証されます。

一方で、雇用主側が給与明細書の発行を拒否するケースもありました。今回、罰金付きの規則が設けられたことで、給与明細書発行の実効性が確保され、今まで以上に労働者の権利が守られるものと考えられます。
改正前後の違いや共通点については以下の通りです。

改正前の規定

従業員による給与明細書開示の要求があった場合、当該従業員は給与明細書の閲覧または従業員自身で複写を作成する権利を持つ

改正後の規定

従業員による給与明細書開示の要求があった場合、雇用主が給与明細書の複写を作成し、従業員に手渡す義務があることが確認された
既定の期間内に給与明細書の複写を提供できなかった場合、雇用主は罰則金(最大750ドル)を課される

共通事項

給与明細書開示の要求は口頭あるいは書面にて行う
給与明細書の複写作成の費用は、当該従業員に負担義務がある
要求があった日から 21 営業日以内に対応する必要がある

今回のルールの厳格化が行われた背景にもつながりますが、現在アメリカでは労働者の保護に積極的に取り組んでいます。小さな会社や昔ながらの会社では、給与の取扱いに関して曖昧となっていた側面がありました。しかし、法改正に伴い、今後はより厳格に管理することが求められますので、企業側としては、法改正に則った運営が実施できるよう、必要に応じて専門家の支援を受けると良いと思います。

海外進出・海外展開への影響

今回はアメリカ・カリフォルニア州における、給与明細に関する法律について紹介しました。給与支払や源泉徴収、確定申告などのルールはアメリカと日本とで異なる部分が多く、日本からアメリカに事業展開する場合、現地の法律に合わせて準備を進めることが不可欠です。また、アメリカでは連邦法だけではなく、各州が独自に労働法を定めているため、海外進出する場合には、展開先の自治体ごとに法律を確認する必要もあります。

州労働法については、今回の改正法のように細かい規定が頻繁に変更されます。違反者には多額の違反金が科されるリスクが生じますので、企業自身が遵守すべき現地法を十分理解することはもちろんのこと、現地法の最新情報を常にキャッチアップできるように、信頼できる専門家とつながりを持つことも重要といえるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、執筆日現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

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代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

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