はじめに |
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現在、日本では企業の人手不足が深刻化しており、今まで以上に外国人を積極的に採用する企業のニーズが広まっています。この状況に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みとして、「特定技能」制度が創設されました。 本稿では、この新たな在留資格「特定技能」を中心に、新しい入管法の概要をご説明します。 企業の皆様が特定技能制度とそのルールを正しく理解して、外国人という新たな戦力を味方につけるための基礎知識をご提供します。 |
新たな在留資格「特定技能」の創設
現在、日本においては中小企業や小規模事業者をはじめとした人手不足が深刻化しており、日本経済と社会基盤の持続可能性を阻害する可能性が生じています。
この状況に対応するため、生産性向上や国内人材の確保の取組を行ってもなお人材を確保することが困難な産業分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みとして、「特定技能」制度が創設されました。
外国人を受入れる産業分野
特定技能制度による外国人の受入れは、IT技術を活用した生産性向上や、高齢者・女性等の国内人材確保のための取組を行った上で、なお人材を確保することが困難な状況にある「特定産業分野」に限って行うこととされています。2019年4月現在、14分野が特定産業分野に選定されています(法2条の3、第2条の4)。
特定産業分野一覧(全14分野) |
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1介護業 |
8自動車整備業 |
制度の運用に当たっては、人材が不足している地域の状況に配慮し、外国人が都市部などの特定の地域に過度に集中することにならないよう努めるものとされています(附則(平成30年12月14日法律第102号)第2条)。
また、産業分野において必要とされる人材の状況に応じて、在留資格認定証明書の交付の停止・再開の措置をすることとされ、その時々の労働市場の情勢に応じた外国人労働者数の調整がなされる仕組みになっています(法第2の4第2項第4号)。
受入れ対象国
特定技能の受入れ対象国は、ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴルの9カ国とされています。
上記以外の国についても、受入れのための交渉を進めるものとされています。
特定技能1号・2号
特定技能の在留資格は、特定技能1号と特定技能2号の二種類が用意されています。
特定技能1号
特定技能1号とは
「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」が必要な業務に従事するための在留資格です(法別表第一の二)。ここでいう「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」とは、相当期間の実務経験等を要する技能であって、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準のものをいいます。
試験
ア 特定技能1号技能測定試験
特定技能1号の業務に必要とされる技能水準に達しているか否かを判断するために、特定産業分野ごとに技能水準を図るための試験が実施されることになっています。
イ 日本語能力試験
生活に支障がない程度の日本語能力を有することを基本としつつ、特定産業分野ごとに業務上必要な日本語能力が求められます。
日本語能力は分野所管行政機関が定める試験等(国際交流基金日本語基礎テスト、日本語能力試験N4以上)により確認されることになっています。
ウ 実施場所
これらの試験は、外国人の利便性を考慮して、原則として国外において実施されます。
エ 試験の免除
なお、技能実習2号を修了した外国人については、上記試験は免除され、必要な技能水準及び日本語能力水準を満たしているものとして取り扱われます。
在留資格の内容
一度に付与される在留期間は1年、6か月、4か月であり、更新により通算5年間の在留が認められます。家族の帯同は認められていません。特定技能1号の外国人は、日本での生活に不慣れな外国人が想定されているため、特定技能所属機関又は登録支援機関が実施する外国人支援の対象とされています。
特定技能2号
特定技能2号とは
特定産業分野に属する「熟練した技能」を要する業務に従事する外国人向けの在留資格をいいます(法別表第一の二)。ここでいう熟練した技能とは「熟練した技能」とは、長年の実務経験等により身につけた熟達した技能をいい、現行の専門的・技術的分野の在留資格を有する外国人と同等又はそれ以上の高い専門性・技能を要する技能であって、例えば自らの判断により高度に専門的・技術的な業務を遂行できる、又は監督者として業務を統括しつつ、熟練した技能で業務を遂行できる水準のものをいいます。
なお、特定技能2号の対象は建設業と造船・舶用工業の2業種に限られています。
試験
特定技能2号では、技能水準を図るための試験が実施されます。これは1号と同じく分野別運用方針において定める当該特定産業分野の業務区分に対応する試験によって確認されます。
日本語能力水準に関しては、1号と異なり、試験等での確認は求められていません。これは2号は生活に必要な日本語を使用でき、日本社会に慣れている外国人を想定しているためです。
在留資格の内容
一度に与えられる在留期間は、3年、1年、6か月となっており、1号の場合よりも長期となっています。また、在留期間の更新に上限が付されていません。
また、1号と異なり、家族帯同が認められており、配偶者と子につき要件が満たされれば在留資格が付与されます。
なお、特定技能所属機関又は登録支援機関による外国人支援の対象外となっています。
雇用形態・転職等
特定技能の外国人の雇用形態は、原則としてフルタイムの直接雇用となります(法第2条の5)。
ただし、従事する産業分野の特性上、派遣形態とすることが必要不可欠なものである場合には、例外的に特定技能所属機関が派遣元となり、派遣先への派遣が認められます(現時点では農業、漁業のみに認められています)。
外国人が所属する特定技能所属機関は一つに限られ、複数の特定技能所属機関と雇用契約を結ぶことは認められていません。したがって兼業はできないことになります。
転職は、「同一の業務区分内」又は「試験等によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間」において認められます。
なお、退職から3月を超えた場合には、特定技能に該当する活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除き、在留資格の取消手続の対象となります。
特定技能所属機関
特定技能所属機関とは、特定技能雇用契約の相手方である本邦の公私の機関をいいます(第19条の18)。すなわち外国人の特定技能所属機関のことであり、雇用主となる会社等がこれに当てはまります。
特定技能所属機関の基準
改正入管法は、外国人の人権保護の観点から、法令で定める基準への適合性を特定技能所属機関に対して求めています。労働関係法令・社会保険関係法令の遵守や欠格事由に該当しないこと、支援計画に基づき、適正な支援を行える能力・体制があること等です。
これらに加えて、その特定産業分野の所管行政機関から課されるその分野特有の条件に適合する必要もあります。
特定技能所属機関が外国人を受け入れるために満たすべき基準 |
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(注)上記のうち*を付した基準は,登録支援機関に支援を委託する場合には不要 |
特定技能所属機関の役割・義務
特定技能所属機関は、受入れ外国人に対して、適正な内容の雇用契約の締結とその履行、在留における支援の実施、出入国在留管理庁へ各種届出の提出等が義務付けられています(法19条の18)。
これらの義務を怠ると、当該機関は、外国人を受入れられなくなるほか、出入国在留管理庁から指導、改善命令等を受けることになります(法19条の20、19条の21)。
適正な雇用契約の締結と履行
特定技能外国人との間で取り交わす雇用契約は、改正入管法の規制対象になっています。労働関連法令に適合していることに加えて、入管法令が定める所定の基準にも適合していなければなりません(法2条の5)。
特定技能雇用契約として満たすべき基準 |
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支援計画の作成と実施
特定技能外国人が、在留資格に基づく活動を適切に行い、また、円滑な社会生活を送ることを可能にするためには支援の仕組みが必要です。
そこで改正入管法は、特定技能所属機関に、外国人に対する支援計画の作成と実施を義務付けることとしました(法第2条の5)。
支援計画は、外国人に対する職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援をその内容とし、当該外国人の適正な在留に資するものであって、かつ、特定技能所属機関又は登録支援機関が適切に実施できるものでなければならないとされています。
特定技能外国人支援計画の内容 |
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支援内容によっては、対面での実施(テレビ電話等の利用を含む)や、外国人が十分に理解できる言語での実施が求められます。
特定技能所属機関は、これらの外国人支援業務の全部又は一部の実施を他の者に委託することが認められています。
なお、支援対象は、特定技能1号の外国人であり、特定技能2号の外国人はその対象にはなっていません。
出入国在留管理庁への届出
特定技能制度を適切に運用し、外国人への支援の適切な実施を確保するため、特定技能所属機関には各種の届出が義務付けられています(法第19条の18)。
届出は、届出事由が発生した毎に随時提出する届出と、四半期ごとに提出する定期的な届出の2種類があります。
随時の届出 |
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定期的な届出 |
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登録支援機関
登録支援機関とは、契約により委託を受けて適合一号特定技能外国人支援計画の全部の実施の業務を行う者をいいます(法第19条の27、第19条の23)。
登録支援機関の登録
登録支援機関になるためには,出入国在留管理庁長官の登録を受ける必要があり、法令で定められた登録基準(欠格事由に該当しないこと、支援計画に基づき適正な支援を行える能力・体制があること等)を満たしていなければなりません(法第19条の23)。
登録を受けると、登録支援機関登録簿に登録され,出入国在留管理庁ホームページに掲載されます(第19条の25)。
また、地方出入国在留管理局の監督下に置かれ、当局からの指導、助言、報告、資料の提出要求、登録の取消しを受ける立場に置かれます(法第19条の31)。
登録の期間は5年間であり,継続のためには更新手続きが必要となります(法第19条の23第2項)。
登録支援機関の役割・義務
登録支援機関は、特定技能所属機関からの委託により、支援計画の作成・実施を行います。
出入国在留管理局に対して、四半期ごとに、外国人から受けた相談の内容・対応状況や、出入国又は労働に関する法令への違反,特定技能外国人の行方不明者の発生その他の問題の発生状況等の届出が義務付けられています。
出入国在留管理庁の新設
入国管理行政において、近年、業務量が飛躍的に増大していることに加え、新たな外国人材の受入れに関する業務等の追加により、業務の質・量のいずれも大きく変化するため、より一層強力に業務を推進していくための体制整備が必要とされていました。そこで外国人の受入れ環境の整備に関する総合調整等の司令塔な存在として、出入国在留管理庁を新設することになりました。
出入国在留管理庁が果たすべき主な役割 |
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おわりに(現在の状況)
平成31年3月1日から、特定技能制度に関する相談の受付及び申請書サンプルの窓口配布が開始されました。
平成31年3月中旬に、政省令が公布され、申請書の確定版がホームページからダウンロードできるようになりました。
平成31年4月1日から、改正法・政省令等の施行に伴い、特定技能の認定・変更の申請及び登録支援機関の登録申請の受付が開始されました。
令和1年5月31日現在、登録支援機関数は419となっています。
本稿が、新たな戦力として外国人従業員を採用し、最前線でビジネスを行う企業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。 なお、本稿は多くの場合に共通する一般的な注意事項を説明したものであり、個別のケースについてその有効性を保証するものではありません。具体的な事案についてご質問がありましたら、下記の当職の連絡先までお知らせください。事案に即した効果的なアドバイスをさせていただきます。
※本記事の記載内容は、2019年6月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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