外国人労務マネジメント

働き方改革に伴う法改正対応:外国人雇用の契約書と就業規則

by 弁護士 小野智博

はじめに

日本で就労する外国人は年々増加しており、今後もしばらくは増加すると予想されます。すでに外国人を雇用している企業や、今後外国人の雇用を検討している企業は、日本人のみを雇用している企業とは違い、さらなる留意事項や講ずべき措置などがあり、労務管理について外国人に配慮した整備が必要になります。
特に、労働契約書は各労働者の労働条件を定めたものであり、就業規則は各事業場の規則を定めたものですので、職場の規律を守る上でとても重要です。トラブルの未然防止に資するだけでなく、トラブルの早期解決へ導くための重要な指針にもなりますので、単に作成するのではなく、各外国人又は事業場の実態と合った合理的な内容とし、労働者に周知することが大切です。
労働契約書と就業規則について留意すべき基本的な内容と併せて、外国人を雇用する場合を考慮して追加で記載すべき内容など、必要な対応策についてご説明いたします。

 

目次

労働条件の通知方法

企業が労働者を雇い入れる時、労働条件通知書の交付を行い、労働契約書を交わすというのが一般的な流れですが、中には法律上雇い入れ時に通知しなければならない一定の労働条件を労働条件通知書で通知するのみで、労働契約書を交わしていない場合も見受けられます。
しかし、外国人を雇用する場合については、労働者を一律に規制する就業規則だけでは不足する部分がでてきますので、必ず労働契約書を作成することをお勧めします。

 

労働条件通知書

企業が労働者に対して雇い入れ時に通知すべき労働条件は、特にフォームが規定されているわけではありません。一般的には「労働条件通知書」とよばれるA4で1、2枚程度のもので通知する場合が多く、企業から労働者への一方的な通知となりますので契約ではありません。
しかし、企業が必ず労働者へ明示すべき事項ですので、外国人労働者に対する労働条件通知書は、母国語のものを作成して説明するなどし、外国人本人が理解できるように明示をすることが重要です。労働条件通知書を交付することによって、労働法上の義務を果たしたことを証明しておくためにも、労働条件通知書の最後に「上記労働条件について内容を理解し、承諾しました。」などの文言を加え、署名をしてもらった上でコピーをとっておく、もしくは2部作成して労使双方が保管しておくこともひとつの方法です。

厚生労働省のホームページに外国語版の「外国人労働者向けモデル労働条件通知書」が掲載されていますのでご参考にして下さい。
 なお、2019年4月からは労働者が希望した場合は、書面の交付による明示ではなく、FAXや電子メール、SNS等での明示も可能となっています。

 

労働契約書

 外国人を雇用する場合、在留許可の取得や更新などの問題があるため、日本人労働者とは異なる規定を定める必要があります。企業が労働者に対して雇い入れ時に通知すべき労働条件、その他個別の労働条件がある場合には当該条件を記載した労働契約書を作成し、署名したものを労使双方で保管しておきましょう。

 労働条件通知書と同様に、母国語で作成するなどして、外国人労働者が理解できるように説明しておくことが重要です。

 

就業規則

就業規則は、事業場での規則を一律に定めたもので、常時10名以上(パートタイム労働者やアルバイト等も含みます)の労働者を使用する事業場においては作成義務と労働者代表の意見書を添付して所轄の労働基準監督署への届出義務があります。
外国人が、自国の労働慣行や労働関係法令と異なる日本で働く場合、労使双方で就業についての常識が異なる面も多くあり、問題が発生することも少なくありません。トラブルの事前防止又はトラブル発生後の早期解決のためにも、たとえ事業場で使用している労働者が常時10名未満であっても就業規則を作成しておくことをお勧めします。
さらに、就業規則には必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と制度を定めている場合は就業規則に必ず記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)がありますので、漏れのないように記載して下さい。

また、就業規則は項目が多く手間がかかりますが、必ず労働者への周知が必要です。日本語版とともに労働者の母国語で作成しておき、図やイラストを使用するなどして必ず外国人が理解できるように説明して下さい。就業規則についても厚生労働省のホームページで外国語版の「モデル就業規則」が掲載されていますのでご参考にして下さい。

なお、パートタイム労働者等、労働者の一部について、他の労働者と異なる労働条件を定める場合、別の就業規則を作成することで対応できますが、外国人労働者のみに適用する労働条件を規定した外国人労働者用の就業規則を作成することは、国籍の差別を禁止している労働基準法第3条に違反すると考えられます。

 

労働契約の内容と就業規則の関係

労働契約書で労働条件の詳細を定めていない場合や労働契約書を作成していない場合、就業規則に合理的な労働条件が定められており、かつ就業規則を労働者に周知させていれば、労働者の労働条件は就業規則に定める労働条件によることとなります。
ただし、労働契約書において、就業規則の内容と異なる労働条件に合意していた部分は、その合意が優先することとなりますので、就業規則と異なる条件を設ける場合には、必ず労働契約書に記載して下さい。

なお、合意していた部分の内容が就業規則で定める基準を下回る場合は、その部分は就業規則で定める基準まで引き上げられることとなります。

企業が労働者へ通知すべき労働条件の内容

企業が労働者を雇い入れる時に明示が必要な労働条件と、就業規則に明示が必要な労働条件はほとんど同じですが、多少異なる点もあります。具体的には下記の表の通りです。

 また、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律で規定されている、パートタイマー等の短時間労働者を雇い入れる時に通知すべき一定の労働条件は、短時間労働者以外の労働者のものに対して追加事項があります。

 

雇い入れ時に書面(労働条件通知書)にて明示すべき労働条件

 

短時間労働者以外の労働者

短時間労働者

雇い入れ時に必ず明示しなければならない事項

書面による明示
1 労働契約の期間
2 有期労働契約の更新の基準
3 就業場所、従事すべき業務
4 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に関する事項
5 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切・支払時期に関する事項
6 退職(解雇を含む)に関する事項

書面の明示でなくて可
7 昇給に関する事項

左記及び下記の事項
1 昇給の有無
2 退職手当の有無
3 賞与の有無
4 相談窓口

定めをした場合明示しなければならない事項

1 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法、退職手当の支払時期
2 臨時に支払われる賃金(退職手当除く)、賞与等及び最低賃金額に関する事項
3 労働者に負担させる食費、作業用品などに関する事項
4 安全・衛生に関する事項
5 職業訓練に関する事項
6 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
7表彰、制裁
8休職

左記と同様

 

就業規則に必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)

 

上表の雇い入れ時に必ず明示しなければならない事項の3~7と同様です。

 

定めた場合は就業規則に必ず記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)

   

上表の定めをした場合明示しなければならない事項の1~7及び当該事業場の労働者のすべてに適用される定めに関する事項の合計8項目です。

労働契約書と就業規則に記載する各項目の留意点

 

労働契約の期間と有期労働契約の更新の基準

 

労働契約の期間と外国人労働者の在留期間

労働契約の期間の定めがあるか否かは雇い入れ時に必ず通知しなければならない事項とされています。有期労働契約の場合、高度で専門的な知識等を有する者や満60歳以上の者など一定の者を除いて、原則3年を超える契約を締結することはできません。

外国人は在留資格により許可されている在留期間があり、在留資格を初めて取得する場合、通常、更新する手続きよりも時間を要し、取得できる在留期間は多くが1~3年であり、5年の在留期間が取得できる場合は多くありません。

 また、在留期間満了時には更新の手続きが必要になり、在留期間満了の約3か月前から更新の手続きを行うことができますので、在留資格を取得できる日や取得できる在留期間を考慮して労働契約期間を設定することも重要です。   
さらに、有期労働契約の場合には労働契約の更新の有無を記載しなければならず、更新有りとする場合は、更新する場合又はしない場合の判断基準を必ず明示しなければなりません。判断の基準としては、契約期間満了時の業務量、勤務成績、態度、会社の経営状況、など項目を記載することで構いませんが、更新の際にトラブルの元になりやすい箇所ですので、必ず外国人が理解できるよう詳細な説明を行うことが重要です。

 

無期労働契約への転換

有期労働契約の通算契約期間が5年を超える場合、5年を超えることになる労働契約の期間の初日から末日までの間に労働者は無期転換の申し込みをすることができるとされています。契約更新をする予定であるならば、この制度も念頭において、最初の契約期間を設定するようにしましょう。労働者による当該申し込みは口頭で行っても法律上では有効ですが、後日申し込みをしたか否か争いが生じやすい問題ですので、企業側としては書面で申し込みを受領するようにし、企業側からも受理通知書などを書面で労働者に渡しておくことをおすすめします。無期への転換についてルールを設定した場合は、必ず就業規則に規定し、労働者へ説明を行いましょう。

 

<契約期間が1年の場合の例>

 

<契約期間が3年の場合の例>


 

 

就業場所、従事すべき業務

 外国人は契約書による契約の締結を重んじる傾向にあり、契約書に記載のないことは行わなくてよいという考えの方も少なくありません。従事すべき業務は労働契約書に具体的に記載し「その他関連する業務」など包括的な業務内容を定める事項を記載しておくことも場合によっては必要です。
また、外国人はよりよい職場を求めて短期で退職してしまうことも多くあり、外国人の入退社が多いと、企業側にとっては日本人の入退社と比較して手続きの負担が大きく、人材育成、採用の長期計画も修正が必要になります。

さらに、母国から来日した日本語があまり上手でない外国人家族と同居しているため、転勤等が難しく就業場所に制限がある外国人労働者も多くいます。そういった外国人労働者の中で、長期で働きたいという優秀な外国人で企業側も雇い続けたいという場合、限定正社員とするのもひとつの方法です。
限定正社員は、就業場所、勤務時間、職務などを限定することを規定し、就業規則で雇用区分とその定義(職務や勤務地限定など)を定め、労働契約書にて各労働者の区分などの条件を明示するといった方法で導入することができます。

 人材育成の計画や紛争の防止ためにも労働者に周知して運用することが大切です。

 

始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間

 所定労働時間や残業の有無に加えて、「時間外・休日労働に関する協定」(36協定)についても労働者への周知義務が企業側にありますので、外国人が理解できるよう必ず説明を行いましょう。

また、始業時間や休憩時間を守るといった認識が低い外国人労働者も多くいますので、遅刻などがあった場合には、都度注意を行い、注意を行った日時や内容を記入するなどして必ず記録を残しておいて下さい。記録が蓄積されれば懲戒処分などの対象になった際の資料となります。注意する場所や方法は、各人に合わせて配慮をするようにして下さい。

何らかの理由で遅刻する場合など、連絡がなかったり、始業開始後に連絡があるなど業務に支障がでないようにするためにも、連絡する方法や連絡先なども決めておき、必ず説明しておくことが重要です。

始業や終業時刻、休憩時間を業務の都合で繰り上げたり繰り下げたりする可能性がある場合、労働条件の内容が変更されるということですので、あらかじめ就業規則にその旨を記載しておく必要があります。交替勤務をとる場合は、各勤務ごとの始業・終業時刻及び休憩時間も就業規則に規定しておきましょう。

 

休日、休暇

休日を振り替える措置をとることがある場合には就業規則に規定しておくことが必要です。また、1カ月60時間を超える時間外労働を行わせた労働者について、法定割増賃金の支払いに代えて付与する有給の休暇である代替休暇の制度を導入する場合や、時間単位での年次有給休暇の取得が可能とした場合は労使協定が必要となっています。

 「休日」、「休暇」など似通った言葉の意味は外国人にとっては分かりにくいと思いますが、規定している内容によってはそれぞれの意味を理解していなければ理解できないものがありますので、必ず説明を行うことが重要です。

年次有給休暇については、フルタイムで働く労働者と同じようにパートタイムなど短時間勤務の労働者も、要件に合致すれば規定の年次有給休暇を付与する必要がありますので、法定の日数は必ず付与するようにしましょう。

外国人は休暇を利用して一時帰国することもありますので、外国人の母国の重要な休日などは事前に把握しておくことをお勧めします。急に休んだり、同じ国の外国人が大勢いる場合は同時に多くが休むことのないよう事前に話し合いをすることも重要です。
また、業務に支障がでるような休み方をしないよう有給休暇の申請方法についても必ず説明して理解してもらうようにしましょう。

※有給休暇については一部法改正がありますので後述の第4-2をご参照下さい。

 

賃金の決定、計算・支払方法、賃金の締切・支払時期に関する事項

 賃金関連については外国人にとっても重要な事項になりますので、賃金に含まれる各項目の内容、税金や社会保険についても必ず理解できるよう説明を行って下さい。

多くの日本人は決められた給与を受け入れ、不満があっても面と向かって企業側には言わないことが多いのに比べ、外国人は比較的自分の能力をアピールしてくることが多く、給与についても不満があれば使用者側と交渉をしようと試みたり、同じ事業場の他人の給与を気にしたりすることも多くあります。

賃金に対する意識やこだわりを強くもっている国の方もおり、異なる事業場で働いていても、同じ国の方々の間では職場についての情報、特に賃金についての情報交換が行われることも多く、集団で辞職して違う事業場へ転職してしまうということもあります。そのようなことを避けるためにも、給与額はどのように算出し、なぜその金額なのか、企業側は労働者に対して明確に合理的な回答ができるようにしておくことが重要です。

 

賃金規程、人事評価制度の導入

 賃金に関してはトラブルになることが多く、内容は細かく設定しておいた方がよいため、就業規則には「別に定める「賃金規程」による」などと記載しておき、別途賃金規程を定めておくことをお勧めします。また、人事評価制度を導入し総合的で客観的な人事評価をすることで、賃金について基準が明確になる上、合理的な説明の根拠となり説明がしやくなりますので、人事評価についても別途規程を定めておくことをおすすめします。他にも退職金を支給することを定めているならば退職金規程、出張が多い場合は交通費、日当など支給基準を定めておく出張旅費規程など、特に金銭に関するものは詳細を記載した別途規程を定めておくことをお勧めします。

 

現物給与

 労働の対価として住宅、食事など現物で支給するものがある場合も明示が必要です。
現物支給分も賃金に合算されますが、厚生年金・健康保険の保険料を算出する場合と、源泉所得税を算出する場合とでは、現物支給分を通貨に換算する基準が異なりますのでご注意下さい。

 

割増賃金

 賃金を重要視する外国人労働者にとって割増賃金もとても重要ですので、適正な労働時間の管理に基づき法定の割増賃金を必ず支払うようにしましょう。

また割増賃金の計算方法についても必ず理解できるよう説明を行うことが重要です。

※割増賃金については一部法改正がありますので後述の第4-6をご参照下さい。

 

扶養家族

 国外に居住の家族を被扶養者にできるか否かの基準は、社会保険と税金について、収入金額などの要件が異なります。しかし、いずれも労働者本人と被扶養者との続柄を確認できる証明書や、海外への送金が確認できる書類などの添付書類が必要とされ、外国語の書類は日本語へ翻訳して添付する必要があります。
外国人労働者に説明の上、書類を提出してもらい、社会保険については被扶養者の発生から5日以内に企業が管轄の年金事務所へ「健康保険 被扶養者(異動)届」と一緒に提出をし、税金については年末調整の時に提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と一緒に企業が管轄の税務署へ提出を行います。

 

休職

 休職の規定を設けるか否かは企業側の任意ですが、日本人と同様に外国人も業務外で病気になったり、休職が長期にわたる場合も発生しますので、必ず休職については定めておくことが重要です。  

 社会保険料は休職中であっても納付しなければならず、保険料を天引きできる給与の支給がない場合、労働者負担分を労働者から振り込んでもらうなどして徴収する必要があります。しかし、労働者から必ずしも徴収できるとは限らず、徴収できない場合は、企業側が立て替えることになりますので、休職した場合の保険料の徴収方法についても規定しておくことが必要となります。

就業規則などに、休職事由、休職期間、復職などの他、休職期間が満了した場合の扱いについて定めて説明を行い、実際に労働者が休職した場合には、当該労働者に適用する休職期間など具体的に記載した休職通知書などを作成し、必ず休職する労働者に交付するようにしましょう。

 

服務規律

服務規律も就業規則に必ず定めなければならない事項ではありませんが、外国人労働者がいる場合、日本の常識とは異なる行動に出ることも多くありますので、職場の秩序と規律を維持するために大きな役割を果たします。

 会社の備品の使用、副業の禁止、事業場で発生しそうな問題、ハラスメントに関すること、その他外国人労働者が特に行いそうな事項等も追加して記載しておくことも大切です。

 

退職、解雇

退職や解雇については、手続きや金銭などに関して特に問題が多く発生しやすい場面であり、専門的な内容になりますので、稿を改めてご説明したいと思います。

 

その他

 

誓約書

 在留カードの偽造や、経歴詐称など雇い入れ前に確認したが気付くことができず、入社後に発覚するなどということもあり得ます。懲戒処分や解雇など有効に行うため、就業規則や労働契約書と併せて、雇い入れ時に労働者が使用者に提出したものに事実と相違がないことや、事業場の機密事項を漏らさないなど一定の事項を記載した誓約書を作成し労働者から署名をもらっておくことをお勧めします。c
 

緊急時の国内外の連絡先

 何か問題が発生した場合に備えて、外国人労働者本人以外の国内での連絡先や、国外の連絡先などを確認しておき、労働者名簿と一緒に保管しておくことも大切です。

 

各労使協定、各種規程

 その他労使協定を締結していたり、別途定めている規程がある場合は、必ず外国人に理解できる方法で明示を行うようにしましょう。

働き方改革に伴う法改正

働き方改革の推進に伴い労働関係法令にもいくつか改正がありますので、必要に応じて労働契約書、就業規則、協定、規程などの改定が必要になります。主な改正については以下の通りです。

主な改正

施行年月

大企業

中小企業

1 時間外労働の上限規制の導入
※上限規制の適用が猶予又は除外される事業や業務がありますのでご留意下さい。

2019年4月

2020年4月

2 一定日数の年次有給休暇の確実な取得

2019年4月

3 労働時間の状況の把握の実効性確保

4 勤務間インターバル制度の普及促進等

5 フレックスタイム制の見直し

6 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

施行済み

2023年4月

 

時間外労働の上限規制の導入

 今までは行政指導のみで、法律上、時間外労働の上限がありませんでしたが、上限が規定されましたので、必要に応じて36協定などの修正を行いましょう。
上限は原則として月45時間、年360時間とされ、臨時的な特別な事情がなければこれを超えることはできません。臨時的な特別な事業がある場合は、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)とされています。

 

一定日数の年次有給休暇の確実な取得

 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、年5日について、企業が「○月○日休んでください」など、有給休暇の取得時季を指定することが義務となります。これは、企業が一方的にいつ休むように指示するのではなく、まず労働者の意見を聞くことが義務づけられており、その上で、労働者の意見を尊重し、できるだけ労働者の希望に沿った時季に取得できるよう努めなければならないとされています。労働者が時季指定をした場合はその日数分は企業が指定すべき年5日から控除されます。

労働者からの意見を聞くことが必要とされていますので、外国人労働者にもしっかりと説明を行った上で必ず意思の確認を行いましょう。

 

労働時間の状況の把握の実効性確保

 労働時間の客観的な把握について、裁量労働制が適用される人や管理監督者は除外されていましたが、すべての人の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう法律で義務づけられました。記録の方法は、タイムカードやICカード、パソコンなど客観的記録を基本とし、労働時間の自己申告制をとっている場合の確認方法も「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」 に掲載されています。

 

勤務間インターバル制度の普及促進等

 「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、睡眠時間等を確保するというものです。休息時間(インターバル)は具体的に何時間以上とは規定されておらず、制度導入は努力義務ではありますが、特に事業場で夜勤や交代制をとっている場合などは、労働時間の把握義務など働き方改革に関する他の改正などを考慮して取り組むことで、事業場の環境改善にもつながります。

 

フレックスタイム制の見直し

 従来のフレックスタイム制は、1カ月以内の一定期間の総労働時間を定めておき、その総労働時間内の範囲で各労働日の労働時間を労働者が自分で決めるという規定でしたが、総労働時間を設定できる期間が3カ月以内に延長されました。延長されたことにより、例えば最初の1カ月において時間外労働により発生した割増賃金の精算をせず、3ヶ月目の月の欠勤分と相殺することができ、より柔軟な働き方が可能になります。

 必要に応じて就業規則や労使協定の修正を行いましょう。

 

月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

 中小企業について、現行法では月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は25%とされていますが、2023年4月からは50%にひき上げられます。不要な時間外労働が発生しないよう労働時間の適正な管理と施行までに就業規則などの改訂が必要になります。

法改正への対応

 労働関係法令は法改正が頻繁に行われていますので、最新の法令に則した労働契約書や就業規則などを整備しておくことが非常に重要です。労働契約書の内容を変更する場合は労使双方の合意が必要であり、就業規則の変更をする場合は作成時と同様に労働者の意見聴取、管轄労働基準監督署への届出、労働者への周知が必要となります。就業規則で労働条件を変更する場合は、労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事業に照らし、合理的なものであることが必要とされていますので、上記要件に該当していない企業側の一方的な変更は、後に労使紛争が発生した場合などに無効とされる可能性がありますのでご留意下さい。
また、外国人労働者の関係では、労働契約書や就業規則を変更した場合も、外国人の雇い入れ時と同様に、母国語による作成や説明など、外国人が理解できる方法により変更した箇所を明示しましょう。
人事労務担当者の方々は、労働関係法令に関する情報のチェックや専門家に相談するなどして、定期的に労働契約書や就業規則の内容を見直すことが重要です。

外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針

厚生労働省のホームページに「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」が掲載されています。
指針は、事業主が講ずべき措置について定めたものですが、主に労働関係法令等の各種規定について外国人労働者に理解できる方法で周知するようにということが記載されており、周知する内容については外国人労働者以外の労働者にも通じる内容が多くなっています。

 指針に従っていないため罰則があるというわけではありませんが、指針の第六では、外国人労働者を常時十人以上雇用するときは、当該指針第四に定められている「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が講ずべき必要な措置」などを管理させるため、人事課長等を雇用労務責任者(外国人労働者の雇用管理に関する責任者をいう。)として選任することとされています。
トラブルが発生した場合、外国人労働者がいる事業場として労務管理が適正であるか否かの判断に影響があると思いますので、指針に従った外国人の労務管理を行うようにしましょう。

最後に

今後ますます日本で就労する外国人が増える中、労務に関して外国人特有のトラブルも増加すると考えられます。様々なバックグラウンドの方々が同一の事業場で働くことになれば、事業場の規律を守って秩序を保ち続けるのは容易ではありません。そのため、外国人を雇用する上で基本となる労働契約書や就業規則を整備しておくことが非常に重要となります。労働契約書や就業規則を外国人が理解できるような内容で作成したり、説明がなされていなければ、トラブルの解決が遅れたり、契約が無効とされたり、取り消されたりする場合も考えられます。
整った就業規則を事業場に備えておくことは、外国人だけでなく、日本人の労働者にとっても働く上でとても重要です。今後は外国人と協働することは必須であり、また、外国人と協働することで、事業において新たな領域への可能性が広がったり、事業の成長と発展につながる経営も可能になると考えます。
労務管理の基本を軽視することなく、必要書類を整備し、定期的にチェックすることで事業場の皆様にとって快適な環境作りに役立てて下さい。

本稿が、新たな戦力として外国人従業員を採用し、最前線でビジネスを行う企業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。 なお、本稿は多くの場合に共通する一般的な注意事項を説明したものであり、個別のケースについてその有効性を保証するものではありません。具体的な事案についてご質問がありましたら、下記の当職の連絡先までお知らせください。事案に即した効果的なアドバイスをさせていただきます。

 

※本記事の記載内容は、2019年7月現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

弁護士法人
ファースト&タンデムスプリント法律事務所

代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

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