ビザ申請外国人雇用マネジメント

外国人雇用:(新)技能実習制度のポイント

by 弁護士 小野智博

はじめに

従来、我が国では国内における「外国人研修生」に対して行う研修を「研修制度」と称していましたが、平成22年7月に出入国管理法が改正され、「研修制度」は「外国人技能実習制度」に移行されました。
その後、平成28年11月に「技能実習法」が公布され、平成29年11月より施行されています。「技能実習法」に基づく新制度(以下「新制度」といいます)では、不正行為に対する取締りや制裁が厳しくなる等、新たな仕組みが作られています。
本稿では、技能実習により外国人材の活用を考える企業の皆様が、技能実習の適正な運用を行うことができるように、新制度のポイントを事例とともにご説明します。

 

目次

新制度のポイント

 

技能実習法の目的(法1条)と基本理念(法3条)とは

 技能実習法は入管法・労働関係法令と整合を図りつつ、技能実習の適正な実施・技能実習生の保護を図り、人材育成を通じた開発途上国への技能、技術または知識の移転による国際協力を推進することを目的としています。また、技能実習は技能等の修得等のために整備され、技能実習生の保護を図る体制下で行う必要があり(1項)、「労働力需給調整の手段」としてはなりません(2項)。

 

旧制度との違いについて

 

直接的な規制へ

新制度では、技能実習計画の認定や監理団体の許可制度を設ける等、受入機関を直接規制する形とし、制度の適正化を図ることとしています。

 

不正行為に対する厳罰化と専門家との連携の必要性

新制度は、不正行為に対する厳罰が非常に重くなっています。例えば、実習認定の取消し、改善命令、事業者名等の公表という制裁措置がとられます。改善命令に違反した場合の罰則も規定されています。新制度のもとでは、外国人技能実習機構や主務大臣による定期的な実地検査、技能実習生からの相談・申告等により、不正行為が容易に発覚する仕組みとなっています。従って、不正行為が起きないようにする体制をとるとともに、万が一起きてしまった場合にも迅速かつ適切な対応をするべく、専門家による助言や指導を受けられる体制作りをしておくことが重要です。

 

行政手続法及び行政不服審査法の適用

新制度においては、行政手続法上の不利益処分(行政手続法2条4号)にあたる技能実習法に基づく処分については、事前手続として聴聞(行政手続法13条1項1号)又は弁明の機会の付与(行政手続法13条1項2号)が行われます。具体的には、改善命令(法36条1項、15条1項)については聴聞(行政手続法13条1項1号ニ)又は弁明の機会の付与が行われます。また、改善命令に対して不服がある者は、行政不服審査法に基づき審査請求(行政不服審査法2条)をすることができます。
 

技能実習計画の認定制

 技能実習生ごと、かつ、技能実習の段階ごとに作成する技能実習計画については認定制とし、認定基準、認定の欠格事由、報告徴収、改善命令、認定取消し等を規定しています。認定申請は、外国人技能実習機構の地方事務所・支所の認定課に行います(法12条3項、8条1項)。なお、実習認定が取り消された場合には、その旨が公開されます(法16条2項)のでご注意ください。
 

実習実施者(受入企業)の届出制

受入企業について届出制となっています。技能実習を開始したときは、遅滞なく届け出る必要があります。届出は、外国人技能実習機構の地方事務所・支所の認定課に行います。

 

監理団体の許可制

監理団体については許可制とし、許可基準や許可の欠格事由のほか、遵守事項、報告徴収、改善命令、許可の取消し等を規定しています(法23条ないし45条)。事業停止命令や許可の取消しを受けた場合には、その旨が公開されます。監理団体の許可には、一般監理事業の許可と特定監理事業の許可の2区分があり(法23条1項)、一般監理事業の許可を受ければ、第1号から第3号まで全ての段階の技能実習に関わる監理事業を行うことができますが、特定監理事業の許可では、第1号及び第2号技能実習のみに関わる監理事業を行えます。許可申請は、外国人技能実習機構の本部事務所の審査課に行います。

 

技能実習生に対する人権侵害行為等への対処

禁止規定を設け違反に対する罰則が強化されたとともに、技能実習生に対する相談や情報提供をこまめに行うこと等、技能実習生の保護等に関する措置を講じています。

 

外国人技能実習機構の新設

外国人技能実習機構(以下「機構」という。)が認可法人として新設され(法第3章)、機構は技能実習計画の認定(法12条)、実習実施者(受入企業)・監理団体に報告を求め実地に検査をすること(法14条)、実習実施者の届出の受理(法18条)、監理団体の許可に関する調査(法24条)等のほか、技能実習生に対する相談や援助等も行います(法87条)。

 

第3号技能実習生の受入れ 

優良な実習実施者・監理団体に限定し、第3号(4年目、5年目の技能実習)技能実習生の受入れを可能としています。

新制度の概要と基本的枠組み

 

企業単独型技能実習

日本の親会社等の実習実施者が、海外の現地法人、合弁会社、関連・関係会社等の従業員を受け入れて技能実習を実施する方式です。2016年末の段階では、技能実習での在留者ベース全体の3.6%にとどまっています。技能実習生は、入国後に日本語教育や技能実習法や法的保護に必要な知識等についての講習を受けた後、実習実施者との雇用関係の下、実践的な技能の修得を図ります。


  
 

団体監理型技能実習

事業協同組合や商工会等の営利を目的としない団体が技能実習生を受け入れ、傘下の企業等の実習実施者において技能実習を実施する形態であり、全体の内ほとんどを占めています。
 

 

技能実習の区分

技能実習制度は、企業単独型及び団体監理型のいずれにおいても、その段階ごとに在留資格が「技能実習1号」(1年目)、「技能実習2号」(2~3年目)、「技能実習3号」(4~5年目)に区分されています。

 

第1号技能実習

「技能実習1号」(第1号技能実習)は技能等の修得活動であり、講習と実習から構成されます。対象職種には制限はありません。講習は座学で行われ、原則2ヶ月間実施されます。講習終了後の実習は実習実施者(受入企業)において実施され、雇用関係が成立することになります。

第1号技能実習開始までの流れ

以下、技能実習のほとんどを占める団体監理型の場合について説明します。
①実習実施者(受入企業)が監理団体の指導を受けながら(法8条4項)技能実習生ごとに技能実習計画を作成し、計画の認定申請を行います。
②機構では、技能実習計画の審査・認定を行い、認定通知書の交付を実習実施者(受入企業)に対して行います。
③実習実施者(受入企業)は監理団体に対して認定通知書を送付し、監理団体は、この通知書を添付して法務省(出入国在留管理局)に対して在留資格認定証明書の交付申請を行います。
④出入国在留管理局が監理団体に対して在留資格認定証明書の交付を行います。
⑤監理団体は、海外に在住する技能実習生に在留資格認定証明書を送付し、実習生はビザ取得の上来日することとなります。 

   
 

第2号技能実習

「技能実習2号」(第2号技能実習)は技能等の習熟活動であり、実習のみ行われます。「技能実習1号」から「技能実習2号」へは在留資格変更許可を受けなければなりません。この変更許可を受けるためには、対象職種として送出し国のニーズがあり公的な技能評価制度が整備されている職種(平成30年11月16日現在80職種142作業が技能実習2号移行対象職種)に限られ、対象者は基礎級の技能検定等の学科試験及び実技試験に合格した者に限られています。なお、第2号技能実習の実習監理を行うためには監理団体が許可を得ている必要があり、第2号技能実習の実習監理を開始する予定の3ヶ月前までに申請を行うことが推奨されます。

第2号技能実習開始までの流れ

①技能実習生は、第1号技能実習が修了する3ヶ月前までに技能検定試験を受検し、試験実施機関が試験結果を通知します。
②実習実施者(受入企業)が機構に技能実習計画の認定申請を行います。申請は、技能実習開始日予定日の6ヶ月前から可能ですが、原則3ヶ月前までに申請を行うことが必要です。
③機構では、技能実習計画の審査・認定を行い、認定通知書の交付を実習実施者(受入企業)に対して行います。
④実習実施者(受入企業)は監理団体に対して認定通知書を送付し、監理団体はこの通知書を添付して法務省(出入国在留管理局)に対して在留資格変更許可申請を行います。
⑤出入国在留管理局から監理団体に対して在留資格変更許可がなされ、その後に第2号技能実習生として在留することが可能となります。

 

第3号技能実習

「技能実習3号」(第3号技能実習)は、技能等の熟達活動であり、実習のみ行われます。「技能実習2号」が終了し一旦帰国(原則1ヶ月以上)した後に(法9条2号、規則10条2項3号へ)、「技能実習2号」から「技能実習3号」への在留資格変更許可を受ける必要があります。この変更許可を受けるためには、対象職種として技能実習2号移行対象職種に限られ(法9条2号、規則10条2項1号ロ)、対象者としては、3級の技能検定等に合格した者に限られます。なお、監理団体及び実習実施者(受入企業)として、一定条件を満たし優良であることが認められているものに限られています。第3号技能実習を行うためには、監理団体が一般監理事業の許可を得ている必要がありますが、一般監理事業の許可申請は、第3号技能実習の実習監理を開始する3ヶ月前までに行うことが推奨されます。

第3号技能実習開始までの流れ

①監理団体による一般監理事業の許可申請を機構に対して行い、機構は許可証の交付を行います。
②技能実習生は、第2号技能実習が修了する6ヶ月前までに技能検定試験を受検し、試験実施機関が試験結果を通知します。
③実習実施者(受入企業)が機構に技能実習計画の認定申請を行います。申請は、技能実習開始日予定日の6ヶ月前から可能ですが、原則4ヶ月前までに申請を行うことが必要です。なお、第3号技能実習については、実習実施者(受入企業)を変更すること(転籍)が可能ですが、この場合の認定申請は、第3号技能実習を行う実習実施者(受入企業)が行います。
④機構では技能実習計画の審査・認定を行い、認定通知書の交付を実習実施者(受入企業)に対して行います。
⑤技能実習生は、第2号技能実習の修了後第3号技能実習を開始するまでの間1ヶ月以上の一時帰国をしなければなりません。
⑥実習実施者(受入企業)は監理団体に対して認定通知書を送付し、監理団体はこの通知書を添付して法務省(出入国在留管理局)に対して在留資格変更許可申請を行います。
⑦出入国在留管理局から監理団体に対して在留資格変更許可がなされ、その後に第3号技能実習生として在留することが可能となります。
⑧技能実習生は第3号技能実習を修了するまでに、第3号技能実習で設定した目標(2級の技能検定等)の達成のため受検します(法9条2号、規則10条1項3項)。

実習実施者(受入企業)の注意事項

 

報告及び届出

実習実施者(受入企業)は、技能実習計画の認定を受け、技能実習生を受け入れた後も技能実習法で定められた報告及び届出を行う必要があります。具体的には、「技能実習計画軽微変更届出書」「実習実施者届出書」「技能実習実施困難時届出書」「実習認定取消事由該当事実に係る報告書」「実施状況報告書」です。

    
 

技能実習計画の作成と認定制

技能実習を適正に実施するためには、技能実習計画を作成する必要があります。
実習実施者(受入企業)は、受け入れようとする技能実習生ごとに計画を作成し、機構の認定を受けなければなりません。認定申請に際しては、「技能実習計画認定申請書」を機構の地方事務所に提出します。

 

技能実習計画の認定基準

技能実習計画が満たすべき基準は法9条で定められています。主なポイントは下記の通りです。

本国における修得の困難度

修得させる技能等が技能実習生の本国において修得等が困難な技能等であること。

技能実習の目標

第1号技能実習の目標は、技能検定基礎級またはこれに相当する技能実習評価試
験の実技試験及び学科試験への合格。第2号の目標は、技能検定3級またはこれに相当する技能実習評価試験の実技試験への合格。第3号の目標は、技能試験2級またはこれに相当する技能実習評価試験の実技試験への合格。

技能実習の内容

①同一の作業の反復のみによって修得できるものではないこと。
②第2号・第3号については、移行対象職種に係るものであること。
③技能実習を行う事業所で通常行う業務であること。
④移行対象職種については、業種に従事させる時間全体の2分の1以上を必須業務とし、関連業務は時間全体の2分の1以下、周辺業務は時間全体の3分の1以下にすること。
⑤技能実習生は本邦において従事しようとする業務と同種の業務に外国において従事した経験等を有し、または技能実習を必要とする特別の事情があること(団体監理型のみ)。
⑥帰国後に本邦において修得等をした技能等を要する業務に従事することが予定されていること。
⑦第3号の技能実習生の場合は、第2号修了後に1ヶ月以上帰国していること。
⑧技能実習生や家族等が、保証金の徴収や違約金の定めをされていないこと(→技能実習生自身が作成する書面によって明らかにさせる)
⑨第1号技能実習生に対しては、日本語・出入国(入管法)や労働関係法令等の科目による入国後講習が行われること。
⑩複数職種及び作業の場合は、いずれも第2号移行対象職種及び作業であること、相互に関連性があること、合わせて行う合理性があること。
⑪実習を実施する期間は、第1号は1年以内、第2号・第3号は2年以内であること。

 

技能実習の評価と技能検定の受検

 

評価の実施方法

技能実習を修了するまでに、技能実習生が修得等をした技能等の評価を、技能検定、技能実習評価試験又は第1号技能実習に係る技能実習の目標が全て達成されているかを技能実習指導員により確認します。

 

検定の受検

第1号技能実習については、第1号技能実習が修了する3ヶ月前まで、第2号技能実習については、第2号技能実習が修了する6ヶ月前まで、第3号技能実習については、第3号技能実習が修了するまでに受検することが推奨されます。技能実習の期間中の再受検は1回に限り認められています。

 

技能実習を行う体制

 

技能実習責任者の選任

技能実習責任者は、技能実習を行う事業所ごとに選任される(法9条7号)申請者(実習実施者)又は常勤の役職員であり、技能実習指導員、生活指導員等を監督し、技能実習の進捗状況を管理するほか、次の①~⑨の事項の統括管理することが求められます。また、過去3年以内に法務大臣及び厚生労働大臣が告示で定める講習を修了した者のうち、一定の欠格事由に該当しない者の中から選任しなければなりません。なお、技能実習責任者、技能実習指導員及び生活指導員が、各々に求められる要件を備えていれば兼務も可能です。
①技能実習計画の作成
②技能実習生が修得等をした技能等の評価
③法務大臣及び厚生労働大臣若しくは機構又は監理団体に対する届出、報告、通知その他の手続
④帳簿書類の作成及び保管並びに報告書の作成
⑤技能実習生の受入れの準備
⑥監理団体との連絡調整
⑦技能実習生の保護
⑧技能実習生の労働条件、産業安全及び労働衛生
⑨国及び地方公共団体の機関であって、技能実習に関する事務を所管するもの、機構その他関係機関との連絡調整

 

技能実習指導員の選任

申請者(実習実施者)又はその常勤の役員のうち、技能実習を行わせる事業所に所属する者であって、5年以上の経験を有し、かつ、一定の欠格事由に該当しないものの中から技能実習指導員を1名以上選任する必要があります。複数の職種及び作業に係る技能実習を行う場合は、その全ての職種及び作業に係る修得等をする技能等について5年以上の経験を有することが必要となりますが、指導員が1人で全ての経験を有していない場合には、職種及び作業ごとに異なる指導員を配置することも可能です。技能実習指導員は、事業所に所属し現場に常駐する者を選任しなければなりません。 

 

生活指導員の選任

申請者(実習実施者)又はその常勤の役員のうち、技能実習を行わせる事業所に所属する者であって、一定の欠格事由に該当しないものの中から生活指導員を1名以上選任する必要があります。生活指導員は、技能実習生の生活上の留意点について指導し、生活状況を把握するほか、実習生の相談に乗り不平・不満の解消や問題の発生を未然に防ぐことが要求されます。生活指導員は、事業所に所属し現場に常駐する者を選任しなければなりません。 

 

事業所の設備の確保 

技能等の修得等に必要な機械、器具その他の設備を備えていることが必要です(法9条6号、規則12条2項1号)。

 

帳簿の備付け

実習実施者は一定の帳簿書類を作成し、技能実習を行う事業所に備えておかなければなりません(法20条)。帳簿書類は、機構が行う実地検査や主務大臣が行う立入検査の際に提示できるよう備えておく必要があります。具体的には、①技能実習生の管理簿、②認定計画の履行状況に係る管理簿、③技能実習生に従事させた業務及び技能実習生に対する指導の内容を記録した日誌等があげられます。

 

実施状況報告

実習実施者は、技能実習の実施状況に関する報告書を作成し、機構の地方事務所に提出しなければなりません。この報告書は、技能実習事業年度ごとに毎年1回所定の書式により技能実習の実施状況を記載し、翌技能実習年度5月31日までに提出する必要があります。なお、団体監理型技能実習については、実習監理を受ける監理団体の指導に基づいて報告書を作成します。また、第3号技能実習を行う実習実施者又は優良基準適合者としての拡大枠で技能実習生を受け入れている実習実施者は、優良要件適合申告書のほか、優良基準を満たすことを明らかにする書類を添付する必要があります。

 

人権侵害行為等の禁止

申請者又は役職員が、過去5年以内に技能実習生の人権を著しく侵害する行為を行っていないことが必要です。代表的な例としては、技能実習生から人権侵害を受けた旨の申告があり人権擁護団体において人権侵犯の事実が認定された場合や、実習実施者が技能実習生の意に反して預金通帳を取り上げていた場合等です。

 

偽変造文書・図面又は虚偽文書・図面の行使・提供の禁止

申請者又は役職員が、過去5年以内に不正に技能実習計画の認定(法8条1項、11条1項)を受ける目的、監理事業を行う者に不正に監理団体の許可(法23条1項、32条1項、31条2項)を受けさせる目的、出入国若しくは労働に関する法令の規定に違反する事実を隠蔽する目的又はその事業活動に関し外国人に不正に入管法上の許可を受けさせる目的で、偽変造文書・図書又は虚偽文書・図面を行使し、又は提供する行為を行っていないことが必要となります。代表的な例としては、技能実習生に対する賃金の不正事実を隠蔽するために、二重に作成した虚偽の賃金台帳を実地検査をした機構に対して提示した場合等です。

 

技能実習生の受入れ人数

技能実習計画の認定基準として、技能実習生の受入れ人数の上限を超えてはならないとされています。優良な実習実施者・監理団体の場合には、技能実習法9条11号、技能実習法施行規則16条2項の規定の適用を受け、第1号又は第2号の技能実習生については、技能実習法施行規則16条1項の規定の適用を受けた場合と比べて人数枠は倍になります。第3号の技能実習生の人数枠については、第1号の3倍までとし、他の実習実施者からの技能実習生の受入れを可能としている点が特徴的です。ただし、第1号技能実習生については常勤の職員の総数を、第2号技能実習生については常勤の職員の総数の2倍を、第3号技能実習生については、常勤の職員の総数の3倍を超えてはなりません。 実習実施者の常勤の職員の総数は、本社、支社、事業所すべてを含めた法人全体の常勤の職員数を基に算出しますので、事業所ごとではありません。
基本人数枠は下記の通りです。

 

実習実施者の常勤の職員の総数

技能実習生の人数

301人以上

常勤職員総数の20分の1

201人~300人

15人

101人~200人

10人

51人~100人

6人

41人~50人

5人

31人~40人

4人

30人以下

3人

 
 

処分等

 

実地検査及び報告徴収

主務大臣は、実習実施者又は監理団体等に対し、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、若しくは出頭を求め、又は主務大臣の職員に質問若しくは立入検査をさせることができます(法13条1項)。この報告徴収等において拒んだり、虚偽の回答を行った場合は、技能実習計画の認定取消事由となる(法16条1項4号)ほか、30万円以下の罰金の対象ともなります(法112条1号)。

 

改善命令

主務大臣は、機構に認定事務の全部又は一部を行わせるときは、以下の事務を機構に行わせることができます。①実習実施者又は監理団体等に対して必要な報告又は帳簿書類の提出若しくは提示を求める事務、②職員から関係者に対して質問させ、又は実地に実習実施者等若しくは監理団体等の設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させる事務を機構に行わせることができます(法14条1項)。この実地検査等については、虚偽の回答を行った等一定の場合には、技能実習計画の認定取消事由となります(法16条1項5号)。機構は、監理団体に対しては1年に1回程度、実習実施者に対しては3年に1回程度定期的に実地検査を行うことを予定しています。

実習実施者(受入企業)の費用負担(監理費)

 

職業紹介費

監理団体が実習実施者等から求人の申込みを受理した時以降に当該実習実施者等から徴収します。具体的には、実習実施者等と技能実習生との間における雇用関係の成立のあっせんに係る事務に要する費用(募集及び選抜に関する人件費、交通費、外国の送出機関へ支払う費用その他の実費に限る)の額を超えない額を監理団体に対して支払います。
※「募集及び選抜に関する人件費、交通費」とは、①監理団体が送出機関との連絡・協議に要する費用、②監理団体が実習実施者との連絡・協議に要する費用。
※「外国の送出機関へ支払う費用」とは、①外国の送出機関が技能実習生を監理団体
に取り次ぐに当たって要する費用(人件費、事務所経費等)、②実習実施者と技能実習生の雇用契約の成立に資する目的で取り次ぐ前に送出機関が行った入国前講習に該当しない日本語学習・日本在留のための生活指導等の事前講習に要する費用、③実習実施者と技能実習生の雇用契約の成立に資する目的で取り次ぐ前に送出機関が行った技能実習生に対する健康診断の費用等。
※外国の送出機関が、監理団体への取次ぎを行うに際して、外国において技能実習生から手数料を徴収することもあり得ますが、この手数料はあっせんに係るものには該当せず、職業紹介費に含まれません。

 

第1号団体監理型技能実習に係る講習費

入国前講習に要する費用については入国前講習の開始日以降に、入国後講習に要する費用については入国後講習の開始日以降に監理団体が実習実施者等から徴収します。具体的には、監理団体が実施する入国前講習及び入国後講習に要する費用(監理団体が支出する施設使用料、講師及び通訳人への謝金、教材費、技能実習生に支給する手当その他の実費に限る。)の額を超えない額になります。

 

監査指導費

技能実習生が実習実施者の事業所において業務に従事し始めた時以降、一定期間ごとに監理団体が当該実習実施者から徴収します。具体的には、技能実習の実施に関する監理に要する費用(実習実施者に対する監査及び指導に要する人件費、交通費その他の実費に限る。)の額を超えない額になります。

 

その他諸経費

当該費用が必要となった時以降に、監理団体が実習実施者等から徴収します。具体的には、その他技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に資する費用(実費に限る)の額を超えない額になります。
※①技能実習生の渡航及び帰国に要する費用、②実習実施者及び技能実習生に対する相談、支援に要する費用、③実習実施者の倒産等により技能実習が継続できなくなった場合の対応に要する費用、④その他職業紹介費、講習費及び監査指導費にふくまれないもののうち、監理事業の実施に要する費用。

トラブルの事例 

【事例1】長時間労働の上、時間外割増賃金を基準通り支払わなかったケース。
・36協定で定められた特別延長時間1ヶ月80時間を大幅に超えた違法な時間外労働を行わせていたほか、法定の割増率以上で計算した割増賃金が支払われていなかったケース
⇒時間外労働の削減及び労働時間管理の適正化、割増賃金の支払、並びに賃金台帳の設置について是正勧告及び指導を行った。

 

【事例2】賃金不払いのケース。
・縫製業の事業所で実習中の技能実習生から、支払われている賃金が最低賃金額を下回っていると申告されたが、当事業所では技能実習生受入れ開始時より最低賃金額を下回る月給6万円の支払いに加えて、時間外労働も時給350円~450円にとどまって支払い続けており、合計540万円の未払いが生じていた上に、36協定も届出がなく違法な時間外・休日労働を行わせていたケース。
⇒最賃法4条(最低賃金額以上の支払)、労基法32条(時間外労働時間)、労基法37条(割増賃金の支払)の違反により事業主は送検された。

 

【事例3】労働災害を報告せず「労災隠し」したケース。
・造船工場内で作業中に謝って転落し手足に重傷を負い入院加療を要したが、休業中の賃金補償がなされかたったため生活に困窮し労基署に相談し「労災隠し」が発覚したケース。
⇒労働災害により一定日数以上休業したことを労基署に報告していないことにつき、安衛法100条(報告)違反により事業主及び実習実施者が送検された。

 

【事例4】申請された技能実習計画の内容と実際の業務内容とが異なったケース。
⇒技能実習生が出国確認時に、実習実施機関より帰国を強制されていたと訴えたことをきっかけに、「惣菜製造業」における技能実習を行なうとして受け入れたが、実際は食堂において掃除や皿洗いに従事させていたことが発覚した。

 

【事例5】偽変造文書等を作成・提出したケース。
⇒技能実習生からの相談により判明したケースであるが、縫製業を営む実習実施機関が、技能実習生に対する賃金不払いを隠蔽する目的で実際の支給額とは異なる増額した金額を記載した虚偽の源泉徴収票を入国管理局に提出した。

 

【事例6】日常的に暴行が行われていたケース。
⇒技能実習生からの相談により判明したケースだが、建設業を営む実習実施機関の従業員が技能実習生に対して「日本語を理解しない」等の理由により日常的に暴行を行っていた。

 

【事例7】人権を著しく侵害する行為が行われたケース。
⇒労働局からの通報により判明したケースだが、食品加工業を営む実習実施機関が、技能実習生がタームカードの打刻を忘れるごとに、1回当たり1,000円の罰金を課し、総額10万円以上の罰金を給与より不当に控除していた。

 

機構による実地検査等により上記のような法令違反行為が確認された場合には、直ちに行政処分等の制裁的措置をとることを前提とはせず、実習実施者や監理団体等に対して法令の趣旨を説明し、違反事実を認識させ、定められた期間内に改善要求を行なうと同時に将来再びこのような事態を繰り返さないように指導監督することが原則となっています。しかしながら、重大な法令違反、明らかに故意に行われた法令違反等に関しては、指導ではなく直ちに行政処分等を行うこととされていますので、十分な注意が必要です。

   

おわりに

外国人技能実習制度は平成5年に創設されました。そして、「技能実習制度推進事業運営基本方針」が公示され、当初は研修生という身分で入国し、一定水準のスキルを獲得した後、企業と雇用契約を締結し実務経験を積むという仕組みになっていました。
その後平成22年の入管法と併せ、制度の抜本的再編が実施され、技能実習生という資格で入国し、初めから労働者という身分で企業と雇用契約を締結し、入国時の技能実習1号から2号へ移行するという形に変更されました。
平成29年11月1日から施行されている技能実習法は、平成22年度の制度改正をベースに、受入企業の要望に配慮しながら、各分野の実務の現場での人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進することを目的としています。
また、技能実習生の保護・管理体制の大幅強化を図っていることも特徴となっており、不正行為に対するペナルティーが非常に厳しく規定されています。監理団体や実習実施者の方々は、不正行為が起きないように常に注意喚起すると同時に、万が一起きてしまった場合には、専門家による助言を受ける等迅速かつ適切に対応する必要があります。国内産業の人手不足の解消という側面にも大きく貢献する技能実習制度を適正に運用することで、実習生と企業とがともに発展していくことが大切です。
本稿が、新たな戦力として外国人材を活用し、最前線でビジネスを行う企業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。なお、本稿は多くの場合に共通する一般的な注意事項を説明したものであり、個別のケースについてその有効性を保証するものではありません。具体的な事案についてご質問がありましたら、下記の当職の連絡先までお知らせください。事案に即した効果的なアドバイスをさせていただきます。

※本記事の記載内容は、2019年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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