コンプライアンス

海外進出・海外展開:世界に広がる「#MeToo」運動(セクハラ防止に関するカリフォルニア州の法律)

by 弁護士 小野智博


はじめに

アメリカを発端に「#Me Too」運動が世界的な社会現象となっています。日本でもセクシャルハラスメント(以下、「セクハラ」)についての対策は一般的な企業の責任ですが、アメリカでは日本と比較してはるかに厳しいセクハラに対する規制があるので注意が必要です。また、アメリカでは企業に対して莫大な賠償金が課せられる事案も頻発しており、アメリカへ進出する日本企業にとって、セクハラ問題への対策が急務であるといえるでしょう。

アメリカの中でも特にカリフォルニア州は、セクハラを始めとした様々な差別やハラスメント問題に関する規制が厳しいことで知られています。実際にカリフォルニア州では、セクハラになどの被害者保護強化を目的とする新しい法律の施行が続いており、企業は十分に対策する必要があります。ここでは、カリフォルニア州の新法の概要を説明しつつ、企業が講じるべき対策についてご説明します。

#MeToo運動とは?

#MeTooとは、「私も」を意味する英語を元にしたSNS用語で、セクハラや性的被害などの体験を告白・共有する際に使用されるハッシュタグです。「#Me Too」運動は2017年10月のハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラ疑惑の告発に起因しています。この際、女優のアリッサ・ミラノ氏が同じようなセクハラ被害を受けた女性たちに向けて”me too”と声を上げるようTwitterで呼びかけたことから「#Me Too」運動が始まりました。

EEOCへの申立件数は増加の一途

EEOC(米国雇用平等委員会)は、人種、性、宗教、心身障害、年齢などによる雇用差別禁止のための委員会です。ここでは雇用差別に関わる訴えを受理し、それに関して調査、和解のための調停を行うとともに、調停が成立しない場合には、EEOCが主体となって訴訟を行うケースもあります。ただし、調停が失敗したすべてのケースで、EEOCによる訴訟へと進むわけではなく、EEOCが特に悪質だと判断した場合にEEOCによる訴訟が行われことになっています。調停が成立せず、EEOCによる訴訟も行われない場合には、被害者主体となって個人的に訴訟を起すことも可能です。

EEOCの統計情報によると、「#Me Too」運動の高まりもあって、EEOCへのセクハラ関連の申立件数は2017年以降急増しており、2017年の6,696件に比べ、2018年には7,609件、2019年には7,514件と大幅な増加を見せています。

2015年度

2016年度

2017年度

2018年度

2019年度

申立数

6,822

6,758

6,696

7,609

7,514

和解数

834

698

662

698

692

和解率

11.4%

9.4%

8.8%

8.7%

8.8%

 ※ アメリカの会計年度は10月に始まり翌年の9月に終わり、締めの年月が属する暦年で年度を呼ぶ。
   つまり2015年度の場合、2014年10月1日から2015年9月30日。

従業員が受けたハラスメントに対する保護を拡大する法律:SB 1300

SB 1300は、ハラスメントや差別に対する企業の責任をこれまでよりも大幅に拡大するようカリフォルニア州法を改正するものです。ここではセクハラだけではなく、あらゆる種類のハラスメント・差別行為を対象としています。改正法の具体的な内容は以下の通りです。

 

非雇用者の行動に対する雇用者の責任を拡大

法改正前は、雇用主はセクハラに関してのみ、非雇用者の行為に対して責任を負う可能性がありました。ただし法改正後は、非雇用者からのあらゆる形態の嫌がらせ行為に対して雇用主の責任が生じる可能性があります。

改正法では、第三者による介入のトレーニングに関する規程が追加されています(現段階では第三者による介入のトレーニングの提供は任意であり義務化されてはいません)。

これは、第三者が差別やハラスメント行為などを見つけた場合の対処方法に関するトレーニングのことで、当事者以外によるセクハラの適切な報告などが想定されています。このようなトレーニングの提供は、短期的には雇用主にとって費用がかかる可能性がありますが、長期的には訴訟にまで発展するリスクを防ぐことで、コスト、時間、およびリソースの大幅な節約になるでしょう。

 

原告の立証基準を軽減

改正法では原告がハラスメント行為の訴えに勝訴するために必要な立証の基準を引き下げています。具体的には、法律で要件を定めるというよりもむしろ、過去の判例を例に出し、その判例に従うというような表現となっています。

ここでは原文を参照しながら具体的な判例と基準を確認していきます。

 

被告が原告から弁護士費用を受け取ることを禁止

法改正前は、訴訟で勝訴した当事者(原告または被告)が他方から合理的な弁護士費用および専門家証人費用を含む費用を受け取る権限が与えられていました。ただし、法改正後は、訴訟が「不合理なもの」と裁判所に判断されない限り、被告が裁判に勝訴したとしても、訴訟費用を原告から受け取ることは禁止されます。

 

引き換え条件により雇用主に対する提訴や非難を防ぐことを禁止

雇用主は、従業員に、ボーナス、昇給、雇用、または継続雇用と引き換えに、FEHAへの申し立ての取り下げまたは非難禁止合意に署名するよう求めることを禁止されます。ただしこの禁止事項は、訴訟、行政機関の苦情、または内部苦情を解決するための雇用主と従業員の間の交渉による和解契約には適用されません。企業は通常使用する契約書がこれらの新しい禁止事項に準拠していることを確認する必要があり、従業員からの訴訟提出を回避しようとする訴訟前措置を取れない可能性に留意する必要があります。

従業員のハラスメントや差別に対して情報開示を拒否する和解を禁じる法律:SB820

SB 820の下では、雇用主は労働者が民事訴訟または行政訴訟を起こした場合に、以下に該当するハラスメントや差別などの情報を隠蔽するために和解契約を使用することはできません。ただし、SB820は正式な訴訟請求が提出される前の段階における和解には適用されません。

1. 性的暴行
2. カリフォルニア民法典第51.9条により定義される対価型セクハラ
3. 職場環境型セクハラや性差別
4. 1〜3に該当する行為を報告した第三者に対する報復

※「対価型セクハラ」とは、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の拒否や抵抗により、労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること

※「環境型セクハラ」とは、労働者の意に反する性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなったため労働者が就業する上で支障が生じること

セクハラ防止トレーニングを義務化するSB1343

SB1343では、5名以上の従業員を有するカリフォルニアの雇用主は、全ての従業員に対して2年に一度セクハラを防止するトレーニングを行わなければならないと定めています。これは、SB1300の中で記載されている第3者によるセクハラ報告手順の指南とは異なり、自身がセクハラの加害者にならないためのトレーニングです。改正前は、50人以上の従業員を有する雇用主にのみ同様のトレーニングの実施を義務付けており、実施対象も管理職のみでしたが、より範囲が広がったことになります。

またSB1343を受けて、DFEHは適切なオンライン教材を公表することになっています。雇用主は、DFEHの教材あるいは独自の教材を利用してトレーニングを実施する必要があります。

企業の反応

「#Me Too」運動に対して、企業も敏感に反応しています。特に、「#Me Too」運動ではセクハラの隠蔽を助長する強制的な和解(SB820で禁止)が非難の対象となっています。カリフォルニア州を代表する大手企業GoogleとFacebookは、従業員にセクハラと暴行の申し立てを仲裁することを今後要求しないことを発表し、自社のセクハラ対策をアピールしました。また、eBayやAirbnbをはじめとした他の企業もこの動きに追随しています。

海外進出・海外展開への影響

カリフォルニアの新法により、ハラスメントや差別に対する従業員からの請求を内々に、企業に有利な条件で和解することはより困難になりました。つまり、企業側には今後予防的な手段がより重要となってきます。カリフォルニア州の企業の雇用主は、ハラスメントや差別に対する規約が新しい法律に準拠する形にアップデートされているか確認が必要です。そして、アップデートされたポリシーを社内の全員が十分に理解している必要があります。

社内の反ハラスメント意識を統一するためにも、雇用主は管理職・非管理職を問わず、全ての従業員にトレーニングを行うべきでしょう。そして、このトレーニングにはセクハラの当事者とならないためのトレーニングだけでなく、第三者としてセクハラを見つけたときどのように行動すべきかというトレーニングも含むのが望ましいと言えます。

また、ハラスメントや差別を行った場合には、自身が特定される情報を隠蔽できないことを各自が理解するべきです。

社外の関係者が行ったハラスメントや差別に対しても雇用主の責任が問われます。つまり、従業員、取引先及び顧客において、問題ある行動に気づいた場合、雇用主は直ちに行動することが重要です。一つひとつは些細なことであっても、法的請求に至ることになっては損害は莫大です。そうなる前に解決できるよう、企業としては公平な内部監査などのコンプライアンス体制を整備する必要があるでしょう。

 

※本記事の記載内容は、2020年3月現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

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ファースト&タンデムスプリント法律事務所

代表弁護士 小野智博(東京弁護士会所属)

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