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海外進出・海外展開:カリフォルニアの雇用契約で、強制的な仲裁条項が禁止に。企業の取るべき対策とは?

by 弁護士 小野智博

はじめに

 2019年10月10日、カリフォルニア州知事はAB-51に署名しました。これは従業員と元従業員が雇用主に対して提起できるハラスメント、差別、労働違反などに対する訴えについて、仲裁のみを紛争解決の手段とする強制的な仲裁条項を禁止するもので、2020年1月1日が施行開始日です。

 これまで、強制的仲裁条項を雇用契約に含めることは一般的でした。しかし、このような強制的な仲裁条項によれば企業内の問題が公にならずに解決されるため、不適切な賃金やハラスメント、差別行為に対する隠蔽を助長する可能性があるとして、問題となっていました。AB-51では、強制的な仲裁条項を禁止することで従業員を不当な扱いから保護することを目指しています。

 本稿ではAB-51の内容について詳しく説明するとともに、雇用主に与える影響について紹介します。

仲裁合意とは?

 仲裁合意とは、裁判所への訴訟に代えて、紛争の解決を仲裁人に委ねることとする契約のことを意味します。仲裁手続によってなされる仲裁判断は、裁判での判決と同一の効力を持つとされ、仲裁合意を行った上での仲裁判断に対しては、たとえその仲裁判断の内容に不服があっても、その内容を裁判所で争うことはできないという特徴があります。

 近年、紛争を解決する法的手段として、裁判所による訴訟以外ではなく、仲裁手続を利用するケースが増えています。仲裁手続には、中立性、専門性、手続の柔軟性、非公開性、迅速性、執行容易性等のメリットがあることから、特にビジネス上の契約において仲裁による紛争解決を合意することが多くなっています。

AB-51の内容

 AB-51 は、雇用主が従業員又は求職者に仲裁合意に署名させることで、公正雇用住宅法(Fair Employment and Housing Act)又は労働法(Labor Code – LAB)上で認められている裁判所への提訴権の放棄を要求することを禁止するものです。公正雇用住宅法や労働法は職場での差別を禁じ、カリフォルニア州の雇用主(企業)とその従業員を対象に差別を防止するためのガイドラインを規定している法律です。つまり、従業員が不当な扱い(ハラスメントや差別、労働違反)を受けた際に、従業員が雇用主を訴える際の根拠となるものともいえます。雇用側と従業員の間にトラブルが発生した際、企業側が採用、継続雇用または雇用に関する利益の見返りを条件に、従業員から訴えを起こされないように、従業員に仲裁による解決を求めることは従来行われてきましたが、AB-51 ではこれが禁止されます。

 AB-51 は、2020年1月1日より前に存在する仲裁合意には、その内容が変更されない限り影響を及ぼさず、AB-51施行開始後も合意には法的強制力が継続します。しかしながら、雇用主が 2020 年以降に仲裁合意を新たに行う場合、又は既存の合意を変更する場合には新法が適用されます。2020年1月1日以降、従業員や求職者に対して仲裁への同意を雇用の条件として要求することは法律違反となるため注意が必要です。法律に違反した場合、雇用主は軽犯罪問われる可能性があります。

 ただし、AB- 51は強制的な仲裁同意を禁止するものであり、自発的な仲裁解決を禁止するものではありません。

連邦法との不一致の問題

 AB-51成立の過程では、これが連邦仲裁法(Federal Aviation Administration:FAA)の規定に反しているという議論が生じていました。連邦法では、書面でなされた有効な仲裁合意に対して強制執行を認めているのです。さらに複数の判例において、雇用者と従業員間の仲裁合意には FAA が適用されると判断が出されていました。

 例えば、2018年に発生したEpic Systems Corp. v, Lewisの裁判は話題になりました。この件では、労働者と雇用主との間の雇用契約において、一切の紛争について、集団訴訟によって争うことを禁じ、個人の仲裁手続によって争うことを求める条項が含まれていました。しかし、労働者は、雇用主が労働法違反(不正賃金)をしていると主張して、集団訴訟に基づいて裁判所に訴えを提起したのです。その結果、仲裁合意の有効性が争われることとなりました。結果として、最高裁判所は、今回の仲裁合意は、FAAに基づき有効であるとの判断が出されました。

 実は、過去にも仲裁の禁止を定めた法案が出されたことがありました。2018年、カリフォルニア州議会は、AB 51とほぼ同じ法案であるAB 3080を可決したのです。しかし、当時の知事は FAA に反すると可いう理由で法案への署名を拒否することとなりました。ただし、AB-51 では「FAAの下で強制可能である書面による仲裁契約を無効にすることを意図していない」と宣言しています。これがこれまでの類似法案との違いであり、FAA 上執行可能な合意を無効にするものではないと規定されています。

海外進出・海外展開への影響

 AB- 51に対しては、連邦法(連邦仲裁法)に反するとして業界団体などからの反発が続いていますが、2020年1月には新しい法律がスタートします。そのため、カリフォルニアで事業を展開する企業は次のことに注意し、慎重に対応を検討する必要があります。

 雇用主は2020年1月1日以降に締結された、または更新されたすべての雇用契約に対して内容を見直す必要があります。仲裁条項が含まれる場合、その条項がAB- 51に準拠していることを確認しましょう。具体的には、雇用主と従業員との紛争解決について、仲裁による解決を強制していないことを確認してください。強制的仲裁条項は、従業員から雇用主に対する、さまざまな申し立てを裁判ではなく、仲裁人を通じて行うこと強制することです。例えば、「本契約に関するあらゆる紛争、論争または意見の相違については、仲裁を唯一の手段として最終的に解決されるものとする。」とするのはAB-51に違反する可能性があります。ただし、仲裁を強制的なものではなく、自発的に選択できるものとして、仲裁条項を含めることは可能です。

 2020年1月1日より前に存在していた仲裁規定に関しては、AB-51に準拠していなくても法的な問題はありません。ただし、法律施行後の契約更新の場合には、新しい法律の対象となるためで注意が必要です。今後、従業員の中で異なるカテゴリーが混在すること(すべてを仲裁することを強制される従業員と法廷で訴訟を起こす自由を持つ従業員が存在すること)となります。社内の混乱や従業員間の不平等を避けるために、既存の契約からも強制的な仲裁条項を変更するかどうかは、各企業が判断するところとなるでしょう。

 

※本稿の記載内容は、2020年3月現在の法令・情報等に基づいています。

 

 

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