ビザ申請外国人雇用マネジメント

外国人雇用:外国人高度人材の募集・採用とビザについて

by 弁護士 小野智博

はじめに

平成30年9月に経済産業省が発表した「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」によると、2050年には日本の人口は約1億人まで減少する見込みであるとされております。また、主な働き手となる15歳以上65歳未満の人口を指す「生産年齢人口」が総人口と比べ減少しており、その減少が今後加速するとの予測も出ております。このことから、今までのように優秀な日本人材の獲得は企業にとって困難な状況になることが容易に予測されます。その為、近年企業の優秀な人材獲得は、一部外国人に向けられているのも事実です。

外国人を雇用する目的は、日本企業が成長戦略として国内マーケットのみならず海外のマーケットも視野に入れたビジネス展開をしているということもあるでしょう。しかし、日本人の労働人口減少から優秀な日本人材の絶対数が少なくなっていくことを考慮すると、海外進出を考えていない企業にとっても外国人材の雇用は避けられないのではないでしょうか。本稿では、優秀な日本人の人材の絶対数不足から、今後外国人の労働力が必要になる事を想定し、外国人に限定した高度人材活用について、主に採用とビザの観点から、これから外国人材の採用を検討する企業が知っておくべき事柄を説明いたします。

 

高度人材とは(在留資格とビザの観点から)

高度人材とは、多彩な価値観、経験、ノウハウ、技術をもった人材をいいます。本稿では、主に日本企業での就労を希望する外国人が対象になるため、専門的・技術的分野の在留資格の申請・取得が可能になる人物を指します。

該当する在留資格の種類としては、「技術・人文知識・国際業務」「高度専門職」「教授」「経営・管理」「法律・会計事務」「医師」「研究」「教育」になりますが、企業における高度外国人材の活用を考えていく場合、これらの在留資格のうち「技術・人文知識・国際業務」が最も多く該当するのではないかと考えられます。

では、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を申請・取得可能な人材とはどのような人材を指すかについてですが、法務省によると、当該在留資格に該当する活動は、「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動」と規定されています。「学術上の素養を背景とする一定水準以上の専門的技術、または知識を必要とする活動、または外国の文化に基盤を有する思考、もしくは感受性に基づく一定水準以上の専門的能力を必要とする活動」である必要があります。具体的には、機械工学等の技術者、システムエンジニア等のエンジニア、マーケティング業務従事者、企業内通訳、デザイナー等が挙げられます。

このような外国人材の採用を行う際に重要になってくるのが自社の業務内容と外国人材が持つ専門分野の知識及び技術などのマッチングになります。

高度外国人材を採用するのに重要なポイント

外国人材の採用に伴い重要になるのが、企業が必要とする専門知識や技術等の絞り込みです。在留資格の特性上、外国人が持つ専門性と従事する業務内容との一致は必須条件になりますので、企業はまず、採用の目的を明確にする事が大切です。例えば、どのような分野で、どれぐらいの期間内にどのような成果を得たいのか、それを実現させるために必要な知識や技術はどういったもので、どのような学術的な知識や技術が有効になるか等を明確にしていくことで、募集する人材も容易に絞り込めると思われます。

また、採用後の勤務地が国内なのか、または海外かということや、募集する人材に求める日本語理解力などのレベルを明確にしておくことも大切です。これらを明確にする事で、採用活動をどのような方法や場所で行うのが効率的かを具体的に検討することもでき、採用活動にかける費用も抑えることが可能となります。 

採用プロセスでの相互理解の重要性

外国人材を活用する場合、採用に至るプロセスがとても重要であり、最も労力を注ぐべきポイントとなります。外国人は日本人とは異なる価値観や文化的背景を持っていることを企業は常に念頭に置き、対応することが大切です。その為、企業は就職希望の外国人材に対し採用の目的や採用後の業務内容、勤務地、将来的な役割、給与・昇給等も明確に説明することが必要になります。同時に就職希望の外国人材が自社を選んだ理由や、就労希望期間、希望勤務地などの就労後の展望などを企業が確認し、出来ること出来ないことをはっきり伝えることも重要です。採用に至るプロセスの中で両者が本音で話し合い、納得した上で採用になる事が望ましいと考えます。この話し合いによる相互理解が不十分であると、採用後のモチベーションの低下や早期退職、さらには訴訟などの問題に繋がる場合もありますので注意が必要です。

主な募集方法

日本企業への就職を希望する外国人材が新卒者かキャリアかで、外国人材が行う就職活動の方法は異なります。ここでは、これから高度外国人材の活用を考える日本企業が国内で行える主な募集方法について説明いたします。

 

インターネットの活用

主に、個々の企業のホームページ(日本語、英語)や就職情報サイトを活用した募集方法で、高度外国人材が日本企業に就職する際に最も利用している方法です。ホームページには、国内外から応募があります。民間が提供する高度外国人材のための就職情報サイトも多数あります。

 

説明会の活用

主に、個々の会社が行う会社説明会や合同会社説明会、高度外国人材向け就職フェアを活用した募集方法となります。

高度外国人材が日本企業に就職する際に比較的よく利用している方法です。高度外国人材と企業の担当者が直接情報交換、面接を行うよい機会となります。民間団体が実施する高度外国人材を対象とした就職フェアも数多くあります。

 

大学の活用

主に、日本国内の大学のキャリアセンター、インターンシップを活用した募集方法となります。個別の大学と直接連携することで、より自社の求める人物像に近い人材に効率的にアプローチすることができます。また、インターンシップを活用することは、企業において高度外国人材を活用する良いきっかけとなり、企業と高度外国人材がお互いを理解したうえで、採用に結び付くものとなります。

 

公的機関の活用

主に、外国人雇用サービスセンター、ハローワークを活用した募集方法となります。外国人雇用サービスセンターのような公的機関においても、高度外国人材に関する求人・求職情報の提供、雇用管理に関する相談、インターンシップに関する支援など高度外国人材の採用に関する様々な支援を行っています。

 

その他

主に、新聞の求人広告、民間の人材紹介会社を活用した募集方法となります。民間の人材紹介会社は有償で人材の斡旋・紹介をしています。国内外からの外国人登録者からニーズにマッチした人材を選ぶことができます。

企業が求める優秀な外国人材を獲得する有効的な募集方法

これから高度外国人材の採用を考えた場合、日本の大学に通う留学生の中から必要とする専門的知識を持った人材を探し出すのが最も効率的かもしれません。日本の大学であれば、専攻などから専門知識を把握しやすく企業の業務とのマッチングも判断しやすいと考えられます。また、新卒採用であれば、インターンシップを利用し、採用に結び付ける方法もあると思います。

厚生労働省が発表した2018年4月の正社員の有効求人倍率は1.09倍と、調査開始以来最高となり、正社員の求人の増加が求職者の伸びを上回る結果となっています。このような有効求人倍率の上昇に伴い激化する新卒者の獲得競争を優位に展開するため、現在インターンシップが注目されています。就職白書2018(インターンシップ編)によると、新卒採用を実施している企業のうち、2017年度にインターンシップを実施した(実施予定含む)企業は68.1%、2018年度に実施予定の企業は73.7%と、年々増加傾向にあります。

インターンシップは、企業にとって「当社は優れた技術や優秀な人材、働きやすい社風や充実した福利厚生が整っている会社であること」を学生に広く知ってもらい、かつ体感してもらう最高の機会だといえます。特に、大企業よりも知名度に差がある中小企業にとって有効だと考えられ、近年はインターンシップに力を入れる中小企業が増えているのも事実です。これは、高度外国人材の採用にとっても同じ事が言えるでしょう。

いつの時代でも企業が人材に求めるものは即戦力と定着だと思います。即戦力となるには、教育や経験が必要になり、定着には、就労に対する企業と就労者の相互理解が必要になると考えます。その2つの観点から考えた場合、実施するインターンシップによっては効果的に優秀な外国人材獲得が可能になるかもしれません。

次に、このインターンシップにはどのような内容のものがあり、これから高度外国人材の活用を検討する企業にとって効果的なインターンシップはどのようなものなのか説明します。

インターンシップの種類

インターンシップには大きく分けて、短期インターンシップと長期インターンシップの2種類があります。各々企業が得られるメリットが異なりますので個々に説明いたします。

 

短期インターンシップ

学生が企業で就業体験をするプログラムになり、一般的な期間として1日~数日間、長くて1週間~2週間程度になります。開催時期は夏休み期間中が多いようですが、春休みや冬休みに実施する企業もあるようです。募集時期は、夏休みに行う場合、6月頃で、冬休みは9月頃から募集を開始する企業が多いようです。

さらに、短期インターンシップは目的によって大きく「セミナー・見学型」と「プロジェクト・ワークショップ型」の2つのパターンに分けることができます。

 

セミナー・見学型

1日~数日の短期間で行われる場合が多く、実施期間が短いため、多くの学生に自社を知ってもらうことを目的として行われることが多いようです。一般的には、会社説明や会社見学、社員が業界や会社の特徴などをセミナー形式で伝える内容が多くみられます。また、中には社員との交流会をおこなう企業もあります。

このインターンシップのメリットは、学生にホームページやパンフレットだけでは伝えきれない会社の雰囲気や業界について知ってもらう機会を得られることです。また期間が短いため学生も気軽に参加しやすく、参加者を集めやすいという点が挙げられます。

 

プロジェクト・ワークショップ型

一般的にサマーインターンやウィンターインターンと呼ばれるもので、期間は1週間~2週間程度であることが多いようです。内容の一例ですが、学生数名と現役社員で1つのグループをつくり、「どうすれば売り上げをあげることができるか?」「自社の新規サービスはどのようなものがよいか?」など与えられた課題に取り組むワークショップやディスカッションなどで、実践的なインターンシップといえます。

このインターンシップのメリットは、企業が学生の「集団内での役割」「集団内でのコミュニケーション力」などを見ることができるところにあります。学生は社員から直接評価をしてもらえたり、プロジェクトの成果発表など学校では体験することのできない経験をすることで、満足感や成長実感を得ることができ、その結果、企業への志望度が上がることも多くあるようです。

また、学生と直接交流する機会を得ることもできるため、優秀な学生には特に自社をアピールして採用につなげることもできます。学生に直接接触することで性格なども把握出来るため、採用後のミスマッチによる早期離職を防ぐ効果についても期待することができます。

 

長期インターンシップ

社員の補助業務をしながら仕事の方法や考え方を学び、慣れてきた時点で社員と同様の業務を行う流れになります。学生のスキルによっては徐々に責任や裁量が大きくなり、やる気次第で、社員と同様の裁量で働くことを可能とする企業もあるようです。但し、あくまでインターンシップであるため、その範囲を逸脱しないことは、コンプライアンスの面では重要です。

長期インターンシップでは、長期間、実際の業務を体験するため、学生にとっては、スキルアップや社会人マナーを身に付けることができるだけでなく、「仕事に関する自分の価値観」について理解を深める良い機会にもなります。

企業からすると、こういった学生を採用につなげることができるといったメリットがあります。実際に学生の仕事の能力や性格などを見た上で判断できるというのも、採用のミスマッチを防ぐという意味では、非常に魅力的だといえます。また、学生を受け入れることで社内の雰囲気が変わり、社員に刺激を与えて活気が生まれることも期待できます。

長期インターンシップは、本来採用後に行う教育等を事前に行うことが出来るだけでなく、学生にとっては企業の社風や価値観などを十分把握する事が出来るため、採用に至るケースでは即戦力と定着が望める採用方法だと考えられます。

このように、高度外国人材に対しても採用後に生まれる現実とのギャップを事前に解消することが出来るだけでなく、高度外国人材のスキルやモチベーション、実際の言語力などを把握することができ、これらのインターンシップの活用は、企業が求める理想的な採用方法と思われます。

在留資格の手続き

 採用の内定が出た後、取りかからなければならないのが、留学生であれば在留資格の変更手続になり、海外在住者であれば在留資格の新規申請です。基本的には、外国人本人が行うものですが、手違いがあって就労するのに必要な在留資格が取得できなかった場合、人材を獲得することが出来ずダメージを受けるのは企業になります。その為、企業も出来るだけ在留資格の手続きには率先して協力する事が大切です。

 

在留資格の変更(外国人留学生の場合)

すでに日本に滞在する外国人留学生は「留学」の在留資格を有しています。在留資格「留学」は就労が認められておりませんので、他の就労可能な在留資格(例えば「技術・人文知識・国際業務」など)に変更する必要があります。

留学生が在留資格を変更するのに伴い企業が準備しなければならないものは、以下になります。

①雇用契約書

外国人材が行うこととなる業務内容や給与・賞与、雇用期間などが記載されたものです。雇用期間については、短ければ不許可の可能性が高くなるため少なくとも1年以上の契約期間を有するのが一般的です。また、万が一在留資格を取得できなかった場合や一度は在留資格を取得し企業で働いたものの在留資格の期間の更新ができなかった場合に備え、雇用契約書の条項に、例えば「本契約書は就労可能な在留資格の許可または在留資格の更新を条件とする。」等の文言を記載することも重要なポイントとなります。

②登記事項証明書(企業の商業法人登記簿謄本)

 登記事項証明書は外国人本人も取得することはできますが、外国人は法人登記を取得するのに不慣れな方も多いと思いますので、企業が準備するのをお勧めします。

②会社案内等、事業内容を明らかにする資料

採用する外国人材が行う業務が新規事業の場合は、新規事業内容が記載された「事業計画書」の提出が必要となります。

③直近年度の決算文書の写し

 新規に設立した会社(1年未満)の場合は、決算文書もなく安定性や継続性の証明が難しいため「事業計画書」の作成が必要となります。

④採用理由書等(提出は任意)

 なぜ企業はその外国人材が必要かを説明するものとなります。提出は必須条件にはなっておりませんが、よりスムーズに在留資格の許可が下りるよう、採用理由書は提出することをお勧めします。

 

在留資格の新規申請(海外在住者を日本に呼び寄せる場合)

 企業のホームページなどを通じ海外在住の高度外国人材から応募があり採用を検討したい場合には、入国管理局へ在留資格認定証明書の交付申請を行い、在留資格認定証明書を取得した後、現地の日本大使館や領事館に、入国管理局より取得した在留資格認定証明書を送り、査証(ビザ)を発行してもらう必要もあります。

 入国管理局へ在留資格認定証明書の交付申請を行う際は、採用予定の外国人材は海外にいるため、企業が代理人として行うか、弁護士や行政書士に相談するようにしてください。

 

高度人材ポイント制について

 特に優秀な外国人材を採用する場合、「高度専門職」という在留資格の取得をすることをお勧めします。「高度専門職」は、いくつかの優遇措置が定められている在留資格であり、「高度人材ポイント制」に基づき計算した点数が70点を超える場合に申請することができるものです。優遇措置のなかでも、入国・在留手続きの処理が優先的に行われることや、在留期限が5年または無期限であること、永住許可申請に要する在留期間が3年または1年と短いことなど、企業側にとっても雇用する外国人材の在留期間の更新をサポートする手間が省けるという点では、「高度専門職」はメリットのある在留資格といえます。

では次に、「高度人材ポイント制」の点数の仕組みはどのようなものかについて触れていきたいと思います。「高度人材ポイント制」の点数には、学歴や職歴、年齢、収入で決まる基礎点と、特定の条件を満たすと得られる特別加算があります。基礎点については、例えば、博士号を取得していれば30点加算、修士号なら20点という学歴についての項目や、10年以上の職歴があれば20点加算、5年以上なら10点加算といった職歴についてのもの、年齢が29歳以下であれば15点加算、39歳以下であれば5点加算といった年齢によるもの、収入が1000万円以上であれば40点加算、400万円以上なら10点加算といった収入によるものなど、状況に応じで点数が変わります。特別加算については、外国人材側の条件として日本語能力試験N1取得者は15点加算、企業側の条件としてイノベーションを促進するための支援措置を受けている機関(法務大臣告示で定めるもの)であれば10点または20点加算など、いくつかの条件に応じて加算される点数が決まっています。

なお、企業が外国人材を採用した時点では通常の就労可能な在留資格を取得したとしても、企業に在籍するうちに能力が上がり収入も増えるなど状況が変わることによって、70点以上のポイントが集まる場合も想定できますので、その場合は例えば在留資格更新のタイミングなどに、企業から外国人材に対してアドバイスをしてあげると良いと思います。

高度外国人材の定着の為の施策

価値観や文化的背景が異なる高度外国人材を定着させ能力を十分に発揮してもらうためには、企業の柔軟な対応や一定の配慮等が必要と考えられています。日本人材と高度外国人材が共に働きやすいと感じる職場環境の整備や自社制度の見直し、仕事の進め方の見直しなど、お互いの意見や要望などを調整し徐々に取り入れていくことも高度外国人材の定着率を上げるためには重要な要素になってきます。

 

配属への配慮

高度外国人材の多くは、自分の専門性や経験を生かした価値のある仕事を選びたいという思いが強いようです。その為、企業も外国人材の希望を良く確認し、出来る限り希望に沿った配属をすることで、十分に能力を発揮させる事が出来ると思われます。もし、希望に沿えない配属になる場合は、十分理由を説明し納得してもらうことが大切です。

 

評価基準の明確化

仕事の結果については、常にフィードバックする事が望ましいと考えられます。日本の企業では、良い結果につては当然と捉え、悪い結果の場合にのみフィードバックする傾向がありますが、高度外国人材は自分の仕事の評価を気にしがちですのでモチベーションを維持させるためにも、できる限り対応するのが望ましいでしょう。また、昇給や昇進といった評価基準を明確にすることにより、評価を得るための方法を外国人材が理解することが出来るため、目標を持って仕事に取り組むことができると考えられます。

 

仕事の進め方の見直し

価値観の相違からか高度外国人材にとっては、日本企業の仕事の進め方が効率的ではなく指示も曖昧と感じる部分が多いようです。その為、高度外国人材を雇用している企業はこれらの改善への取り組みを進めていて、仕事の進め方については、日本人材と共に効率化の検討を行い、指示については、目的と、誰が、何を、いつまでにやらなければならないのかを明確に伝えるようにしているようです。また、日本企業が重視する報告、連絡、相談については、重要性を理解してもらい、予めどのような場合に必要になるかを伝えておくことが重要になります。

 

職場環境の整備

日本人の気遣いが高度外国人材に疎外感を与えてしまうことは多々あるようです。外国人材の日本語理解力などからミーティング参加は負担になるのではないかと思いメンバーから外したところ、外国人だから排除された様に感じ傷ついたという話もあります。外国人材は、日本企業で働くだけで多少の疎外感を持っています。職場環境の整備と言っても価値観の違いもあり、手を付ける部分が見えてこないのが現実のようです。現在、高度外国人材を雇用する企業の取り組みとしては、社員同士が互いに話しやすい職場作りを実施し成果を得ています。高度外国人材が疑問に思うこと等を社員同士で気軽に話し合える環境を作る事が誤解から生まれる疎外感を和らげ、気持ちよく仕事に取り組んでもらい、定着に繋がっていきます。

退職時の情報管理

キャリアを積んで、より報酬額や待遇の良い企業に転職するキャリアアップの考え方は海外では当たり前の考え方です。その為、企業が高度外国人材を雇用した時点で考えておかなければならないのは、退職後の情報管理になります。企業で勤務している間に得た秘密情報を同業他社などの外部への漏洩を防止するため、以下の規定を雇用契約書に設けることを考えておく必要があります。

①退職後1年間は同業他社に勤務してはならないとの規定

 この規定は、秘密情報の漏洩を防止するために企業にとってはとても有効なものとなる反面、従業員としては、憲法で保障されている職業選択の自由を制限されることになり、重大な不利益となり得るものです。そのため、この規定は無効となることもあり得るということに注意が必要です。この規定の有効性について、裁判では、企業側が得られる営業秘密保護の利益に照らし、禁止される期間が短いことや、禁止される地域が限定されているなど、従業員側が被る競業禁止の内容が必要最小限でかつ充分な代償措置がとられている場合にのみ有効と判断されることが多くなっています。

②退職後も一定の秘密事項については第三者に漏洩してはならないとの規定

 この規定は、上記①で紹介した退職後の就業制限とは異なり、従業員に過大な負担を課すものではないといえます。ただし、退職後も保護すべき秘密情報の内容の定めが曖昧だと、その情報は退職後も保護すべき秘密事項には入ってないと反論されてしまうことも考えられます。そのため、何の情報が秘密情報であるかをできる限り具体的に特定しておくことが重要となります。

 これらの規定を雇用契約書に定める方法以外に、退社時の秘密保持誓約書に定めることも可能です。ただし、状況によっては、退社時の秘密保持誓約書にサインをもらえない場合も考えられますので、可能であれば雇用契約書に規定しておくことをお勧めします。

まとめ

現在、日本の外国人労働者の数は、2018年1月の厚生労働省の報道発表によると、2017年10月末時点で外国人雇用届け出状況は約128万人に増加し、過去最高になっているとのことです。

少子化の影響や企業の海外マーケットへの進出等から今後高度外国人材の活用が必要不可欠になる日もそう遠くない未来かもしれません。これから高度外国人材の活用を検討される企業が知っておくべき事柄を紹介させていただきましたが、大切なのはお互い歩み寄り、相手を理解し尊重し合うことです。企業が高度外国人材を採用し活用していくことは、企業が新たな価値観を受け入れることでもあります。その新たな価値観を上手く運用出来れば、今後の企業成長に大きなメリットをもたらすことでしょう。これからますます高度外国人材の活用は盛んになります。早い段階で専門家への相談や情報収集などを行い、来るべき日に備える事をお勧めいたします。

 本稿が、貴社の事業を発展させるためのお役に立てますと幸いです。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、外国人高度人材の募集・採用とビザについてのご相談をお受けしておりますので、下記の連絡先まで、いつでもご相談ください。

※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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