契約支援

契約審査・契約書レビュー:WEBサイト製作を依頼する業務委託契約で注意すべきポイントとは?

by 弁護士 小野智博

WEBサイト制作を外部に依頼する場合、制作業者と業務委託契約を結ぶことになります。他の業務で業務委託契約を結んだ経験がある場合でも、WEBサイト制作の業務委託契約は特に注意が必要です。なぜなら、WEBサイトの制作は、依頼どおりの業務が行われたといえるかどうかの判断が難しく、また、形のないものでもあるため、他とは違った注意点があるからです。本稿では、WEBサイト製作の業務委託契約で注意すべきポイントを解説します。

WEBサイト製作業務委託契約とは

WEBサイト製作業務委託契約とは、その名のとおりWEBサイト製作を外注する際に結ぶ業務委託契約です。

契約の基本を理解しよう

WEBサイト製作業務委託契約の特徴は、民法上の請負と委任の要素を共に含んでいる点です。よくある形としては、WEBサイトの構築については請負であり、成果物に対して報酬が支払われます。委任に関しては、SEO対策や保守業務・サーバーレンタル契約等、仕事をしたことに対して報酬が発生する場合に用いられます。

業務委託契約は対象となる業務の範囲が広く、自由度が高いことに加え、成果物の権利や秘密保持など重要な内容を多く含むという特徴があります。WEBサイト製作業務委託契約を結ぶ際には、これらの特徴を理解した上で進めるようにしましょう。

契約書に記載すべき内容とは

WEBサイト製作業務委託契約書にはどのような内容を記載すべきか、一例をご紹介します。

・目的:何を依頼するか契約の目的を明確にする
・業務の遂行:スムーズに業務を遂行するための取り決めをする
・定期報告:制作状況について定期的に報告する旨を定める
・業務の対価及び支払条件:料金・支払方法・支払時期を明確にする
・再委託:業務の第三者への再委託禁止について記載する
・納品:納品時期・納品方法、納品時にトラブルが発生した場合の対応を明確にする
・納品検査:納品後、成果物の内容を確認する期間を明確にする
・サイトの公開:成果物のサイトを公開するタイミングについて記載する
・契約不適合責任:成果物に問題があった場合の修正・その際の料金・責任の所在・責任を負う期間について記載する
・業務に関する権利の帰属:成果物の著作権がどちらに帰属するか、移行のタイミング等を明確にする
・人格権の不行使:著作権で人格権を行使しないことを記載する
・通知義務:契約に関わる状況(企業情報の変更等)がある場合は通知する旨を記載する
・秘密保持義務:秘密保持に関する具体的な内容を記載する
・解約の申入れ:解約の方法・解約した場合の損害賠償などについて記載する
・解除:一方的に契約解除ができる条件を明確にする
・存続条項:契約終了後にも存続させるべき条項について記載する
・合意管轄:管轄裁判所を記載する
・協議:予期せぬ問題が発生したら話し合いをする旨を記載する

このように、WEBサイト制作の業務委託契約書には、多くの内容を記載することになります。ここに紹介したものは一例であり、内容によってはさらに項目が増えることもあります。

業務委託契約で必ず確認するべきポイント

WEBサイト制作において業務委託契約を結ぶ際には、制作会社から業務委託契約書の雛形をもらうことが多くあります。その場合、制作会社側に有利になるような内容である可能性もあるため、注意が必要です。ここでは、WEBサイト製作業務委託契約において特に確認しておくべきものを紹介します。

作業範囲はどこまでか?追加費用が発生するリスクを考えよう

WEBサイトの業務委託契約において、しっかりと定義しておく必要があるのが、作業範囲です。なぜなら、WEBサイト制作といっても、簡単なサイト制作のみ・サーバー管理等まで含まれる・新たなシステム開発を要するなど、さまざまなパターンがあるためです。

作業範囲を明確にしていなかったためによくあるトラブルとしては、追加料金が発生するケースです。例えば、以下のような例があります。

・サイトの制作から公開までを依頼したつもりだったのに、サイトの公開作業に別料金を請求された
・サイト制作に関連した写真や文章コンテンツに別料金を請求された

このように、想定していないところで追加料金を請求される可能性があります。作業範囲を明確にしていくことで、このように追加料金が発生するリスクを回避することができます。

納品方法や期日は?納得していないのに納品が完了してしまわないか

業務委託契約書には、どのタイミングで納品が完了するかが記載されています。例えば、検査期間が納品後〇日間と定められており、それを過ぎると自動的に納品が完了したとみなされると記載されているケースがあります。この場合、たとえ納品物に問題があったとしてもその期間を過ぎてしまうと修正などの対応がしてもらえない可能性があるのです。

このような問題を防ぐためには、以下のような対策が必要になります。

・納品の定義をしっかり定めておく
・納品後の検査期間は余裕を持って設定する

不具合の修正はできるのか?納品後の対応について

WEBサイトは、作ってそれで終わりではありません。その後、公開し、更新・修正などをして継続的に利用していくものです。そのため、納品後に修正対応ができるか等、しっかりと確認しておく必要があります。

契約内容によっては、以下のようなさまざまなパターンがあります。

・修正は全て別料金になる
・修正に無料で対応しているのは指定した期間のみ、その後は別料金になる
・修正には一切対応しない

当然修正してもらえるものだと思っていても、契約書に納品後の対応方法が明記されてしまえばそれに従わなければなりません。そのため、必ず確認しましょう。

業務委託契約書の8つのチェックポイント

先述した内容も一部含まれますが、業務委託契約書でチェックするべきポイントを項目ごとに紹介します。

作業範囲の定義

作業範囲とは、WEBサイト制作で依頼する作業について定義したものです。この作業範囲に明記されていない内容については、契約外となり別料金を請求される可能性があるため、依頼する内容を具体的に記載しておく必要があります。

再委託

再委託について定めていないことで、大手制作会社に依頼したにもかかわらず、それがさらに別の制作会社やフリーランスに委託されてしまうこともあります。

ただし、再委託が全て不利益になるとは限りません。ロゴ制作のみを専門業者に依頼するといったケースも存在するためです。そのような可能性がある場合にも、再委託する際には書面上で承諾が必要となるという条件や、再委託に関する責任は制作会社側が負うということを記載しておけば安心です。

検収

検収とは、納品物が発注した内容に適合しているかを検査することです。みなし合格の規定(検収期間内に合否の通知をしない場合に検収に合格したものとみなす規定)が短期間になっていないかを必ず確認しましょう。

契約不適合責任

契約不適合責任とは、検収完了後に納品物に見つかった契約内容との不適合に対して、制作会社側がどのような責任を負うかを定めるものです。ただし、不適合の内容がすべて契約不適合責任の対象になるとは限りません。不安な場合は、具体的な例を挙げて確認するようにしましょう。この点は専門的な内容になりますので、場合によっては弁護士等の専門家に相談することも重要です。

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なお、民法上では、契約不適合責任を権利行使するには、「契約不適合を知ったときから1年以内に通知すれば足りる」と定められています。ただし、契約の内容によっては、権利行使の期間が短く記載されているものがあり、契約書に明記されてしまうと契約書上の内容が優先されるため注意が必要です。逆に、1年以上の長期間を設定することも可能です。

著作権(成果物の知的財産権)

制作したWEBサイトの著作権の帰属についてチェックしましょう。契約内容によっては、著作権が製作会社に帰属するとしているものもあるため注意が必要です。著作権が制作会社に帰属してしまうと、WEBサイトの内容をその他のパンフレットなどで使用できない、契約終了後に変更ができないなどの問題が発生するリスクがあります。
制作会社から、制作したWEBサイトのシステムや制作実績としての掲載などの著作権の使用に関して認める内容にしてほしいと要望される場合もありますが、その場合にも具体的な制限について定めておきましょう。

損害賠償

WEBサイトは全世界に向けて公開されるものであるため、何らかの問題が発生した際の損害賠償の額が高額になってしまうことも考えられます。損害賠償の額が制作料金を上限とする等の制限が記載されている場合には注意が必要です。

報酬の支払いタイミング

報酬をどのタイミングで支払うかは、必ずチェックしましょう。

・納品後に一括で支払う
・作業開始前に着手金が必要になる
・作業開始前に基本料金を支払い、追加料金に関しては納品後に支払う
・作業中は毎月料金が発生する

このように、さまざまなケースが考えられます。当然納品後に一括で支払うと思っていたら、思わぬタイミングで支払いを求められた、というようなことがないように必ず確認しましょう。

秘密保持条項

WEBサイトは、さまざまな情報を記載するものです。中には、会社にとって重要な情報を製作会社に渡すケースもあります。安心してサイト制作を依頼するためにも、知り得た情報はWEBサイト制作のみに利用すること、制作完了後は破棄すること、そして契約終了後についても一定期間は守秘義務を存続させることなどを明確に記載しておきましょう。

2つの契約形態を知っておこう

WEBサイト制作に限らず、業務委託契約には主に2つの契約形態があります。特徴を理解して適切な方法で契約を行いましょう。

基本契約+個別契約

以下の場合によく用いられるのが、基本契約+個別契約のパターンです。

・継続して業務委託契約を行う場合
・複数の依頼をする場合

事業者間が取引を行う上で必要となる基本的な取り決めを基本契約で定めます。そして、詳細な依頼業務の内容については、個別契約で定めていきます。基本契約をしっかりと締結することで、個別契約の内容を検討するのみで業務が依頼できるという特徴があります。WEBサイト制作では、個別契約の内容は金額・納期・作業範囲などが中心になるため、「発注書」のようなイメージで使われることもあります。契約書は法務が担当し、金額など実務に関する内容は現場で決めたいという状況にも対応できます。

案件ごとに契約書を作成

単発の依頼の場合には、契約書は1つのみで、すべての条件を定めた契約書を作成することとなります。1つの契約書だけで済むのでシンプルですが、その分、確認事項が多くなります。

おわりに

このようにWEBサイト製作業務委託契約は、その内容によっては、依頼後にさまざまな問題や不利益が発生するリスクがあります。製作開始後や納品後に、こんなはずじゃなかったと後悔しないためにも、契約内容を十分に確認し、必要であれば弁護士等の専門家に相談し、契約書に必要な修正をした上で、契約を締結するようにしましょう。

本稿が、契約書を使いこなし、最前線でビジネスを行う企業の皆様のお役に立つことができれば幸いです。
なお、本稿は多くの場合に共通する一般的な注意事項を説明したものであり、個別のケースについてその有効性を保証するものではありません。具体的な事案や契約書、契約審査や契約書レビューの方法について弁護士にご質問がありましたら、下記の弊所連絡先までお知らせください。事案に即した効果的なアドバイスをさせていただきます。

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※本稿の内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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