契約支援

契約審査・契約書レビュー:海外での販路拡大に有効な販売店契約と代理店契約/メリット・デメリットと海外企業との契約における注意点を解説

by 弁護士 小野智博

はじめに

実際のビジネスでは、海外における販路拡大を目的として、海外にある他の企業に販売してもらうことがよくあります。その際、海外企業との間で締結するものとして、以下の2つの契約類型が挙げられます。

1つ目は、代理店(Agent)が、自社に代わって販売活動を行う方式の代理店契約(本稿の便宜上、以下、「エージェント契約」とします)です。この場合、供給元企業(以下、「サプライヤー」とします)は、販売利益を獲得する傍らで、販売コストや在庫リスクについて責任を負うことになります。他方、代理店はコミッション(例えば、売上金額の一定の割合など)を獲得します。

2つ目は、ディストリビューター(Distributor)が、自社製品を購入した上で、サプライヤーから独立した取引主体として再販売する方式の販売店契約(以下、「ディストリビューター契約」とします)です。販売店には、独占的販売店(Exclusive Distributor)と非独占的販売店(Non-Exclusive Distributor)があります。独占的販売権を付与する場合、サプライヤーは他に販売権を付与することができなくなるため、一般的に、独占させる地域や期間などについてあらかじめ合意しておくことが多いです。

本稿では、エージェント契約とディストリビューター契約の基本的知識を確認した上で、メリット・デメリットについて両者を比較したり、海外企業に独占的販売権を付与する場合の注意点について解説します。

エージェント契約とディストリビューター契約のメリット・デメリット

以下、エージェント契約とディストリビューター契約のメリット・デメリットについて、サプライヤー側の立場から解説します。

エージェント契約

エージェント契約においては、サプライヤー側のメリットとして、以下の点が挙げられます。

エージェント契約の場合、販売条件・販売方法(販売価格やマーケティング方法など)の決定権はサプライヤー側にあるため自社製品の販売についてサプライヤーの主導権を維持するという点においては、エージェント契約の方が適しています。

また、代理店に支払うコミッションと、ディストリビューターが獲得するマージンを比較した場合、前者のほうが安価となることが多いため、一般的に、エージェント契約の方がサプライヤー側の獲得する利益が大きくなります。

その他、「競争法(Competition Law)」におけるメリットが挙げられます。競争法とは、日本では「独占禁止法」に該当し、市場における公正で自由な競争の実現を目指す法律のことです。各国が類似の法律を有しており、アメリカでは反トラスト法(Antitrust Law)がこれに該当します。一般的に、エージェント契約の場合、販売条件などの決定権はサプライヤー側にあるため、サプライヤーが販売条件などについて指示・決定したとしても、競争法に違反するリスクが小さく、反対に、ディストリビューター契約の場合、その決定権はディストリビューター側にあるため、サプライヤー側による指示・決定が事業活動に対する不当な拘束とみなされやすく、競争法に違反するリスクが大きくなります。

他方、デメリットとして、以下の点が挙げられます。

各国・地域で設けられている代理店契約に関する法規制(代理店保護法等)に注意が必要です。仮に、サプライヤーによる解除を一定の条件の下で無効とする旨の法規制がある場合、代理店側からその条件の成就を主張され、解除が無効とされるリスクがあります。
具体的な法規制としては、英国ではCommercial Agents (Council Directive) Regulations 1993という代理店を保護する法律などがあります。もっとも、アメリカのように、代理店の保護に関する法規制が一般的でない国においては、原則として契約条項に従い処理されることになります。

また、エージェント契約の場合、税金面においても注意が必要です。サプライヤーは代理店のある国・地域において自身が取引をしているとみなされることがあり、これらの国・地域に対して納税義務を負うことがあります。

加えて、進出先国において、米国FCPA(海外腐敗防止法)のように、国外における違法な贈収賄を規制する法律がある場合、サプライヤーとしては、現地の代理店等がこれに違反することを防止し、また、違反した時に備えて対策しておくことが重要です。例えば、米国FCPAの場合、現地の代理店が違反行為をした場合であっても、サプライヤーと代理店との共謀(教唆・幇助を含む)が認められるとき、また、代理店の違反行為を推認させる状況が存在していたり、違反についてサプライヤーが認識又は確信しているようなときは、同法に基づき処罰されることがあります。とくに、エージェント契約の場合、販売リスクがサプライヤー側にあるため、代理店が無責任な違反行為をする可能性があり、注意が必要です。
具体的な対策としては、代理店の過去の違反履歴の調査等によりデューデリジェンスを行ったり、契約書の中に表明保証条項や誓約条項を定めることにより、代理店との共謀や違反可能性の認識等に反論する準備を整えておくことが挙げられます。

ディストリビューター契約

ディストリビューター契約においては、サプライヤー側のメリットとして、以下の点が挙げられます。

ディストリビューター契約においては、販売に関する責任(販売コストや在庫リスクなど)は、ディストリビューター側にあるため、エージェント契約の場合よりも、精力的に販売活動を行う方向にインセンティブが働き、ディストリビューターに自社製品をより多く購入してもらうことが期待できます。また、ディストリビューターはサプライヤーとは独立した取引主体のため、ディストリビューターのある国・地域における納税義務について、原則としてサプライヤーが負わない(ディストリビューターが負う)ことになります。

他方、デメリットとして、以下の点が挙げられます。

サプライヤー側でディストリビューターの販売活動を十分に管理できないことが多いため、ディストリビューターの販売方法によっては自社のブランド力が低下する可能性があります。また、先述したように、販売店契約の内容によっては、競争法違反のリスクがあることにも十分な注意が必要です。

ディストリビューターの場合、自身が販売に関する責任を負担するため、代理店の場合よりも、米国FCPA等への無責任な違反行為のリスクが小さいとの意識がはたらきやすいですが、現地の慣習等により違反行為をする可能性がある以上、同様に注意が必要です。

エージェント契約とディストリビューター契約との一般的な比較

エージェント契約 ディストリビューター契約
販売責任 サプライヤー ディストリビューター
販売店の獲得するマージン コミッション(手数料) サプライヤーからの仕入れと販売価格との差益
納税義務 サプライヤー ディストリビューター
独占禁止法違反のリスク 小さい 注意する必要がある

ディストリビューター契約と独占禁止法違反との関係

米国連邦取引委員会(Federal Trade Commission:FTC)は、アメリカ合衆国における公正な取引を監督・監視する連邦政府の機関です。つまり、FTCは反トラスト法(日本でいう独占禁止法)が遵守されているかどうかを監視する機関といえます。

FTCでは独占販売契約に関して、その一般性や有効性を認めた上で、反トラスト法に違反するか否かは個別の事案ごとに判断されるとの見解を示しています(https://www.ftc.gov/tips-advice/competition-guidance/guide-antitrust-laws/dealings-supply-chain/exclusive-dealing-or)。

Exclusive dealing or requirements contracts between manufacturers and retailers are common and are generally lawful. In simple terms, an exclusive dealing contract prevents a distributor from selling the products of a different manufacturer, and a requirements contract prevents a manufacturer from buying inputs from a different supplier. These arrangements are judged under a rule of reason standard, which balances any procompetitive and anticompetitive effects.
(メーカーと販売店との間の独占販売契約や全量購入契約は一般的なものであり、通常合法です。簡単に言えば、独占取引契約は、ディストリビューターが別のメーカーの製品を販売することを防ぎ、全量購入契約は、メーカーが別のサプライヤーから購入することを防ぎます。これらの取り決めは、競争促進効果と反競争効果のバランスをとる合理の原則(行為の違法性の判断は,その行為が市場に与える反競争的効果の有無・程度などにより個別具体的に行うという原則)の下で判断されます。)

例として、FTCが紹介しているケーススタディの一つを挙げます。

Q:高品質のフラットパネルディスプレイモニターを製造している小規模メーカーA社が自社製品を大型小売店に持ち込みたいと考えているが、同小売店では、競合他社B社製のフラットパネルディスプレイモニターのみを販売することに合意しています。これは違法とならないのでしょうか。

A:通常、このような独占的な販売の取り決めは許可されています。当該小売業者はB社に競合するA社のフラットパネルディスプレイモニターを販売することはできませんが、これは販売するためにある程度の知識とサービスを必要とするタイプの製品である可能性があります。たとえば、B社が製品の操作と属性について小売業者の販売スタッフのトレーニングに投資している場合には、小売業者が自社ブランドのモニターのみを販売することを確約することを合理的に要求することが考えられるのです。 このレベルのサービスは、電子製品の購入者(消費者)に利益をもたらすものであるため、消費者が他の場所でA社の製品を購入する機会十分ある限り、独占禁止法がこの種の独占的取り決めを妨げる可能性は小さくなります。

このように、独占販売契約そのものには違法性がないとしても、販売地域や販売方法に追加条件を定めるなどして、ディストリビューターの販売活動を拘束する旨の合意をする場合には、独占禁止法に抵触していないかを十分に注意する必要があります。また、サプライヤー側の市場占有率が高い場合には、反競争効果がはたらきやすいとして、FTCから指摘を受ける可能性が大きくなります。

ディストリビューター契約で必要とされる具体的な契約条項

ディストリビューター契約では、ディストリビューターに製品の販売を任せることになるため、事前に販売方針を確認しておくことが重要です。販売方針によっては、自社ブランドの価値を低下させるリスクがあるため、販路や販売価格などについて契約書の中で取り決めておくことをお勧めします。

また、契約期間や独占的販売権(Exclusive)の付与も重要なポイントです。独占的販売権を付与する代わりに取引量を一定以上にする場合(例えば、年間最低購入数量の設定など)、契約内容の合理性が失われないように注意する必要があります。

加えて、ディストリビューターと契約したものの、販路の拡大が功を奏しなかった場合に備えて、円滑な契約関係の解消のため、ディストリビューターの販売実績に依拠した条件(販売期間や自動更新など)を付与しておくことも考えられます。

ディストリビューターにより進出国内に自社製品が流通した後、その品質・安全性について欠陥が判明した場合、進出先の法規制により、リコールを余儀なくされることがあります。この場合、リコールに必要な手続やその費用について、サプライヤーとディストリビューターのどちらに負担させるのかをあらかじめ定めておくことによりスムーズに対処できることもあります。例えば、現地における製品の流通について、サプライヤーとディストリビューターとの関わり合いの程度などを考慮した上で、リコールに関する負担を分配するなどが考えられますが、現地の法規制の把握や当事者間の利害調整が必要な事項のため、専門の弁護士にご相談した上で検討することをお勧めします。

契約審査サービス

具体的に、ディストリビューター契約の締結前に確認し、必要に応じて定めておくべき項目の例としては、以下のものが挙げられます。

海外進出・海外展開への影響

海外に販路を広げるためには、現地の事情に通じた代理店や販売店を利用するのは有効な方法です。反面、代理店や販売店の販売能力は様々であり、十分な下調べをせずに契約を締結した場合、予想に反して販路が広がらないという事態に陥るリスクあります。そのため、自社にとっての最適な契約形式を選ぶためには、代理店や販売店の販売能力を慎重に確認したり、販売に関する法的責任の所在を明確にしていくことが必要です。

海外進出する際には、本稿でご紹介致しましたエージェント契約とディストリビューター契約との違いや、契約時に注意するべき法的リスクなどをご参考いただき、海外への販路拡大につながる最適な手段をご検討いただければと思います。。その際、海外ビジネスについて経験を有する専門の弁護士に相談し、事前にチェックすることをお勧めします。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしておりますので、いつでもお問合せください。

契約審査サービス

※本稿の内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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