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契約審査・契約書レビュー:不動産賃貸借契約書のよくあるトラブルとチェックポイント(賃借人の立場から)

by 弁護士 小野智博

不動産賃貸借契約(以下、「賃貸借契約」といいます。)は、契約の中でもトラブルが起こる頻度の高い契約類型ということができます。ここでは、賃貸借契約の基本的知識について確認するとともに、よくあるトラブルとの関係で賃貸借契約書につきチェックすべきポイントを解説します。

賃貸借契約とは

賃貸借契約とは民法601条で定義されている契約で、貸主がアパートやマンション、貸家など、賃貸借の目的物を貸し出し、その対価として、賃料を支払うことをその本質とし、退去時に原状回復することなどについても定められることがあります。

賃貸契約書の内容

賃貸借契約を締結する際には、賃貸借契約書に署名・捺印をします。賃貸借契約書には、賃貸の条件などに関する項目が記載されており、具体的な内容は不動産会社や貸主、物件によってさまざまです。

基本の賃貸借契約書には主に以下のような内容が記載されています。

賃貸借契約書と混同されがちなものに重要事項説明書があります。両者の違いは賃貸借契約書が文字通り契約書であるのに対し、重要事項説明書は宅地建物取引業法35条に基づき作成されるものであるという点にあります。

同条には、不動産会社が入居予定者に対し、賃貸借契約締結前に物件の内容や契約条件などの重要事項につき、宅地建物取引士に説明させることが定められています。この際、宅地建物取引士が重要事項説明書を作成・交付を行い、これに署名・捺印することになります。入居予定者は、この重要事項説明書の内容を元に本当に借りるかどうかを検討します。

賃貸借契約でよくあるトラブル

契約締結前にもかかわらず、入居申し込みを撤回できない

一般的には、入居申し込みの撤回は、契約書に署名・押印し賃貸借契約が成立する前までは可能であることが多いです。しかし、かかる簡易な申込みを行ったのみであるにもかかわらず、不動産会社から撤回不可と断られるトラブルも発生しています。トラブルを防ぐためには、簡易な申込みであっても申し込む前に契約成立前の撤回が可能かを確認しておくようにしましょう。

申込金が返還されない

申込金とは、入居の意思を示し物件を仮押さえしてもらうという趣旨で、一時的に不動産会社に預けるお金であり、実務上、申込金は賃貸借契約が成立すれば賃料等に引き当てられ、賃貸借契約が成立しなければ申込者に返還されるよう運用されることが多いです。しかし、賃貸借契約が成立しなかったにもかかわらず、申込金が返還されないというトラブルも発生しています。

この点、宅地建物取引業法では、仲介する不動産会社が申込金などの預かり金の返還を拒否することを禁止しています。このようなトラブルが発生したら、返還請求を行うようにしましょう。

また、トラブルにならないためにも、申込金を預ける際には申込者の氏名、申込金の交付日付や金額、返還の期日や条件(例えば、契約成立の有無にかかわらず期日には返還されるなど)、交付目的、不動産会社の押印などが書面に記載されているかを確認する必要があります。

契約より前に支払いを求められる

契約金や賃料は契約の締結により支払う必要が生じるものであるため、契約締結前に支払う必要はありません。そのため、契約書に署名・押印した後に支払うことが通常です。しかし、中には現金の持ち歩きを避けるため、契約を締結する前に契約金などの振込みを求められる場合があります。その際には、万が一契約に至らなかった場合は返金されるのかにつき、確認することをお勧めします。

契約時に追加費用を求められる

事前に説明がなかったにもかかわらず、契約段階で追加費用を求められることがあります。一度契約を締結してしまうと原則として撤回ができなくなってしまうため、契約当日に追加費用を求められたのであれば、例えば、一旦当日の契約をやめて詳しい説明を聞いたのち、後日改めて契約するなどして、慎重に対応する必要があります。契約内容に不明な点がある場合、これを解消しないまま契約書に署名をすることは避けましょう。

不動産会社から特定の保険加入を強制された

多くの賃貸借契約では、損害保険や火災保険への加入が義務付けられています。もっとも、加入先の保険会社や金額については、契約条件に明記されていない限り、入居者が自由に選択することができます。特定の保険加入を強制された場合は、契約書を改めて確認し、かかる強制に関する記載がなければ不動産会社に申し出ましょう。

物件にトラブルが発生した際の対応

賃貸借契約を締結後、実際に賃貸物件の使用を開始すると故障などのトラブルが起こることがあります。通常の使用により問題が発生した場合、一般的には貸主の負担により解決をすることになりますが、契約の中で借主の負担とするよう記載される場合もあるため、念のため上記のようなトラブルが発生した場合どちらが費用を負担し、また対応するのかについても、契約段階で確認しておきましょう。

なお、契約の中でトラブルへの費用・対応が貸主の負担と定められている場合において、かかるトラブルが発生したときには、まず貸主か不動産会社に連絡をして対応してもらうようにしましょう。自ら修理を依頼した場合、料金の一部または全部が請求できない場合もあるため注意が必要です。また、この点の契約内容につき記憶が曖昧な場合についても、トラブルに適切に対応できるよう、同様に貸主などに問い合わせることお勧めします。

物件に関してよくあるトラブルには、水漏れ・設備の故障・カビの発生・害虫などがあります。このうちカビの発生は借主の責任となるケースが多く、早めに対策をしておかないと退去時に汚れとして原状回復費用がかかることがあるため注意が必要です。

賃料支払に関するトラブル

賃料を滞納した場合当然のことながらトラブルとなることがあり、延滞金を求められたり、滞納を繰り返すことで退去を求められることもあります。賃料を滞納してしまいそうな場合は、貸主に対し、事前に連絡をしたうえで、できるだけ速やかに支払うようにしましょう。また、賃料延滞時の対応に関する契約書の定めの有無やその内容についても、あらかじめ確認しておきましょう。

入居に関するトラブル

賃貸借契約では、賃貸物件を使用できる人や人数が定められている場合があります。自分以外の人物の頻繁な出入りを予定する場合には、貸主に確認をすることもトラブルを防ぐポイントとなります。

更新時のトラブル

更新時には、賃料の値上げや更新拒否といったトラブルが起こり得ます。賃料改定については、賃貸借契約書に条件等が記載されていることが多いため、確認をしておきましょう。

借家契約における更新拒否に関しては、借主保護の観点から、正当な理由がない限り、貸主側が更新を拒否することはできないことになっています。そのため、正当な理由のない更新拒否の通知が来ても、借主が同意をしなければ契約は更新されることに留意する必要があります。

また、更新料についても、地域の習慣などの違いにより、その要否や金額が異なるため、事前に確認しておく必要があります。

退去時のトラブル

賃貸物件を退去するとき、借主には当該物件を元の状態に戻すという原状回復義務が生じます。なお、原状回復に伴うよくあるトラブルとして、下記のようなものが挙げられます。

トラブルがあった際には、契約書のうち自らが負担すべき原状回復の範囲について確認しましょう。

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賃貸借契約書のチェックポイント

賃貸借契約では、その詳細を確認せずに署名をしてしまい、後々トラブルになるということが少なくありません。同じ賃貸借契約書といっても、不動産会社や貸主、物件によって内容が大きく異なる場合もあります。そのため、署名・捺印をする前には、必ず隅々まで目を通す必要があります。以下では、特に確認する必要のある事項について解説します。

貸主と管理会社の連絡先を控えておく

賃貸借契約書の内容でまず確認しておかなければならないのが、貸主と管理会社の連絡先です。入居後に何らかのトラブルが発生した場合や契約更新時など、貸主などに連絡しなければならないことが出てきます。また、仲介する不動産会社が管理会社ではない場合も多く、不動産会社に連絡してもトラブルへの対応をしてもらえないことがあります。そのため、契約書に記載されている貸主と管理会社の連絡先は必ず確認し、すぐに連絡できるようにしておきましょう。その他にも、仲介の不動産会社だけではなく、管理会社の評判(例えば、トラブル時の対応の早さや適切さなど)についても調べておくことをお勧めします。

物件情報と設備について詳細を確認する

賃貸借契約書には、賃貸物件の種類・構造・床面積などに加え、設備の内容も記載されることがあり、かかる設備には水回り・冷暖房・オートロック・ガスの種類・駐車場・駐輪場・共同設備など、物件やその用途によってさまざまなものが含まれます。自らが認識している物件の内容と、契約書記載のものとが合致しているかどうか、しっかりと確認する必要があります。

退去時の原状回復につき契約書に定めがある場合、それに基づいて原状回復が行われるため、例えば、契約成立時において、すでに冷暖房が取り外されているにもかかわらず契約書に設備として冷暖房が記載されていれば、不当な原状回復を求められるなどのトラブルにつながる可能性もあるため注意しましょう。

契約期間と諸費用、更新にまつわる費用などは数字を細かくチェック

契約期間は賃貸物件によりさまざまです。そのため、契約書内に記されている日付や期間をしっかりと確認しましょう。また、契約更新時における更新料や更新手数料の要否・金額も確認すべきポイントです。

当然ながら、賃料・振込先・引落し日などの支払条件や、敷金・礼金・保証金などの要否や金額など、金銭に関係する部分の数字は細かく確認しておく必要があります。

解約時の流れや期限をしっかりと確認しておく

賃貸借契約書では、退去する際の流れについても確認しておく必要があります。期日を過ぎてしまったり、期日に退去したにもかかわらず貸主などへの連絡を怠った場合、余分に数ヶ月分の賃料を支払わなければならないという事態につながることもあります。そのため、退去日や退去時の連絡先などはしっかりと把握しておきましょう。

解約時の原状回復内容と敷金の精算方法を確認しておく

退去する場合には、部屋を原状回復する必要があります。修繕費・清掃費を誰がどのように負担するかについては、契約書の中で詳細に確認しておく必要があります。契約によっては、特に借主による修繕の必要がない部分についても清掃費を借主の負担とする旨記載されているケースもあります。場合によっては、敷金を超えた修繕費を請求される可能性もあるため、不明な点があれば契約前に必ず確認しておきましょう。

まとめ

このように賃貸借契約ではさまざまなトラブルが起こり得ます。トラブルにならないためにも、契約を締結する際は細かい部分までしっかりと確認したり、不安があれば専門の弁護士に相談し、事前のリーガルチェックを受けることをお勧めします。また、既にトラブルが起こってしまった場合には、できる限り早めに弁護士へ相談することをお勧めします。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしておりますので、いつでもお問い合わせください。

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※本稿の内容は、2021年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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