契約支援

契約審査・契約書レビュー:契約書のひな形を利用する際の注意点

by 弁護士 小野智博

業務上契約書が必要になった際、インターネット上に多数存在するひな形を使用することもあると思います。無料でダウンロードできるひな形は簡単に見つかるため便利に思われますが、ひな形をそのまま使用することはトラブルや自社の不利益につながる可能性があります。本稿では、ひな形を使用する場合に注意すべきポイントを解説します。

契約書のひな形に潜んでいるリスクとは

契約内容が十分ではない可能性がある

契約書のひな形をそのまま使用する際のリスクとして、自社にとって必要な内容が十分ではない可能性が挙げられます。具体的には、以下のケースが考えられます。

場合によっては、インターネット上のひな形ではなく、取引先等との間で過去に締結した契約書を使用することもあるかもしれません。そのような場合は、契約書に記載されている内容に問題はないと安心してしまいがちですが、実際は内容が不十分な契約書であるにもかかわらず、偶然トラブルが発生していないので問題点に気付いていないだけということもあります。そのため、既存の契約書を使用する場合にも、内容が十分でない可能性を考慮し、契約内容を精査する必要があります。

どちらか一方に有利になっている可能性がある

契約上の立場によって、契約書に記載すべき内容や留意点が異なります。インターネット上に存在する契約書のひな形であれば、中立な立場のものだというイメージを持つかもしれません。しかし、どちらか一方に有利な規定が盛り込まれている可能性があります。どちらか一方に有利になっていた場合、それが自社の立場と一致しているとは限りません。契約を結ぶ相手方にとって有利で自社にとっては不利な内容になっている可能性もあるのです。

例えば、売買契約の場合、代金を回収するまで商品の所有権が売主側にあると規定されていることがあります。この場合、売主の立場としては有利な規定ですが、代金を完済するまで所有権が留保されるため、買主の立場としては不利な規定と言えます。このような場合には、買主としては、所有権の移転時期について、引渡しと同時に所有権が移転するという内容への変更が必要となります。

他にも、取引によってトラブルや損害が生じた場合を想定すると、損害賠償額の上限を定めや、賠償範囲など、立場によって記載すべき内容が異なってくることが分かります。

契約書のひな形を使用したことによるトラブル事例

一般的な契約の場合

一般的な契約として、仕入れのための売買に関する契約や、業務の委託・受託に関する契約などが一例として挙げられます。これらの契約書のひな形を使用したことにより、以下のようなトラブルが発生する可能性が考えられます。

入社誓約書の場合

新しく社員が入社する際にも、合意書面を交わすことがあります。内容が不十分の場合、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。

契約書のひな形を使用する場合に注意したいこと

契約書のひな形を使用することにリスクがあると言っても、絶対に利用してはいけないわけではありません。十分に内容を確認してから適切に使用すれば、ひな形を利用する上でのリスクを低減させることができます。

契約書の基本を理解しておく

まずは、契約書の基本について理解しておくようにしましょう。契約書の形式は原則自由ですが、実務上の運用でよく採用される構成があります。多くのひな形は以下のように構成されています。

複数のひな形を比較してみる

契約書に関する専門的な知識が不足している場合でも、複数のひな形から各項目を比較することはできます。どのひな形にも共通している部分は、基本的に契約書に盛り込むべき内容であることが多いと言えます。また、複数のひな形を比較した際に、契約書ごとに項目に過不足があれば、その項目は必要か検討する必要があります。

必要な項目に不足がないかチェックする

契約書を作成するにあたり、必要と思われる項目や自社の希望する条件などを箇条書きにしてみます。それらの項目について、契約書上不足なく記載されているか、一つずつ確認しましょう。

特に、過去にトラブルが発生したことがあれば、同じような問題が起こった際に適切に対処できるよう、契約書に明確に定めておく必要があります。

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契約書トラブルを防ぐため必ずチェックすべきポイント

契約書が完成したら、下記のポイントをチェックすることをお勧めします。

主語の記載

契約書では、言葉は省略せずに何回でも記載します。代名詞や略語などを使うことは避け、正式名称で記載しましょう。

特に主語に関しては、何度も出てくると不自然に感じ、前後の流れからわかるだろうということで省略してしまいがちなので注意が必要です。せっかく必要な条件が記載された契約書でも主語がないと、誰が責任を取るべきなのか、誰から誰に権利が移転するのか、誰がいつまでに何をするのかなど、契約の前提条件が曖昧になってしまいます。

また、言葉を省略する場合は、XXXXXX(以下、「○○」という)など、契約書上で明確に定めるようにしましょう。

曖昧な表現を避ける

契約書では、読み方によって解釈が分かれる表現は避けるべきです。曖昧な表現を避けるためには、以下の点に注意すると良いでしょう。

法律用語に関しては、例えば、支払期日について具体的な日数を記載したくない場合、直ちに/遅延なく/速やかに、と記載する方法が考えられます。特に法律用語は、その用語が具体的にどのような状態を示しているか正しく理解してから、記載する必要もあります。

関連する法律の確認

契約は、基本的には当事者間の意思表示で成立するものです。しかし、内容によっては法律でルールが定められているものもあります。そのため、契約書の内容に関連する法律について確認しておく必要があります。

法律には、任意規定と強行規定があります。
民法の契約に関する規定の多くは任意規定で、これと矛盾した内容を契約書で合意した場合は契約書の合意が優先されます。なお、契約書に規定のない事項については、この任意規定に従うことになります。

それに対して、強行規定とは強制的に適用される法律の規定となります。強行規定に反した内容を当事者間で合意しても無効になり、法律が優先されるというものです。

関連する法律と照らし合わせた契約書の作成は専門知識を必要とします。作成した契約書の内容が法律に抵触してしまっていたという事態を防ぐためにも、弁護士等の専門家に契約内容の審査を依頼することをお勧めします。

改ざんの防止

作成した契約書は、改ざんされないようにしておくことも大切です。改ざんを防ぐためには、以下の対策を講じると良いでしょう。

まとめ

契約書のひな形には法律用語が並んでいるので、インターネット上に存在する無料のひな形について法律の専門家が作成したようなイメージを持つかもしれません。しかし、内容を慎重に見てみると、契約内容に不足があったり、自社の立場に適した契約書ではなかったりと、多くの落とし穴が潜んでいる可能性があるのです。もし契約書のひな形を使用するのであれば、契約内容に問題はないか細部まで確認する必要があります。事後のトラブルを防止するためにも、必要に応じて弁護士への契約審査・契約レビューの依頼を検討することをお勧めします。

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※本稿の内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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