目次
はじめに
新型コロナウイルスのパンデミックで大きな影響を受けた業種として、飲食業界が挙げられます。外出禁止の条例やウイルス感染回避の観点から外食を控える傾向が強くなり、店内飲食を主とするビジネスでは特に売上が落ち込みました。
そこで、カリフォルニア州では、ビジネスを支援する目的で、様々な優遇措置や規制緩和を実施しています。これは既存のビジネスを支援する意図として行われているものですが、新規事業者にとっても大きなメリットがあるでしょう。
本稿では、2021年、2022年にカリフォルニア州で新しく制定されたアルコール関連の法律について紹介していきます。さらに、日本企業が、日本製造のアルコール飲料を米国展開したい場合に必要な手続きについても概説します。米国で飲食業を始めたいと考えている方、あるいはそのような業界との取引を考えている日本企業の方に参考にしていただけますと幸いです。
カリフォルニアの新しいアルコール飲料法一覧
カリフォルニア州でアルコール飲料を販売する事業者が影響を受ける新しい法律について紹介します。
AB-61 Business pandemic relief.
(パンデミックに対する事業者への救済措置)
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202120220AB61
COVID-19パンデミックによって、レストラン屋内での飲食が難しくなる中、多くの飲食店は食事提供のサービスエリアを歩道や駐車場などの屋外に拡張しました。このようなエリアでのアルコール提供は飲食業の生命線になっています。そして、パンデミックが長引く中、多くの飲食店がこの屋外施設を一時的なものから、恒久的なスペースへと変更しようとしています。
AB-61は、このような状況を考慮し、一時的な屋外エリアでのアルコール提供をより簡単に認可できるようにするものです。2021年10月8日に州知事の署名を受け、即日発効しています。
AB-1149 Alcoholic beverages: tied-house restrictions.
(アルコール飲料:タイドハウスの制限)
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billTextClient.xhtml?bill_id=202120220AB1149
AB-1149は、特定の製造業者および卸売業者に対し、現在ビールで認可されているように、ワインと蒸留酒についても、小売認可施設においてシングルサーブ容器で商品化し(たとえば、棚に製品をストックして配置するなど)、持ち帰り用に販売することを可能にするものです。
カリフォルニア州では、アルコール飲料に対して、製造、卸売(流通)、小売の各「層」の業者は他の「層」の業者から完全に分離されている必要があります。つまり、製造業者は販売業者または小売業者の所有権または事業上の利益を持つことはできず、その逆も同様です。
ただし、この制限は一定のビール醸造者に例外的に免除されていて、AB-1149により、その緩和要件を他のアルコール飲料にも拡大することになります。
SB-389 Alcoholic beverages: retail on-sale license: off-sale privileges.
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=202120220SB389
SB-389は、店内提供用のリカーライセンスを取得済みのレストランおよびアルコール製造業者が、蒸留酒を密封した容器(缶やボトルなど)などに入れて、持ち帰り用アルコール飲料として販売することを許可するものです。これはパンデミックの最中に緊急措置として許可されていたものでありますが、この度、新しい法律として継続して許可されることになりました。
2021年10月8日に州知事の署名を受け、2022年1月1日から発効しています。
その他のアルコール飲料関連の新法律
その他にも、2021年に発行済みのアルコールライセンス更新料金を免除する法律や2022年1月に発効するアルコール飲料関連の法案は複数あり、カリフォルニア州がアルコール飲料ビジネスに関する規定を大きく変更しようとしている姿勢が見て取れます。
2021年中に発効した関連法案は以下の通りです。
- SB-94 (Skinner, Chapter 9, Statutes of 2021) Alcoholic beverage control: barbering and cosmetology: license renewal fees: waiver (2021年2月23日発効)
- AB-83 (Committee on Budget, Chapter 11, Statutes of 2021) Alcoholic beverage control: license renewal fees: waiver(2021年3月17日発効)
- AB-1149 (Villapudua, Chapter 271, Statutes of 2021) Alcoholic beverages: tied-house restrictions(2021年9月23日発効)
- SB-314 (Wiener, Chapter 656, Statutes of 2021) Alcoholic beverages (2021年10月8日発効)
2022年1月1日から発効されている関連法案は以下の通りです。
- AB-239 (Villapudua, Chapter 192, Statutes of 2021) Winegrowers and brandy manufacturers: exercise of privileges: locations
- AB-1267 (Cunningham, Chapter 207, Statutes of 2021) Alcoholic beverages: advertising or promoting donation to a nonprofit charitable organization
- AB-1275 (Jones-Sawyer, Chapter 208, Statutes of 2021) Alcoholic beverage control: minors
- AB-1589 (Committee on Governmental Organization, Chapter 306, Statutes of 2021)
- SB-19 (Glazer, Chapter 274, Statutes of 2021) Winegrowers: tasting rooms
- SB-386 (Umberg, Chapter 309, Statutes of 2021) Tied-house restrictions: advertising: mixed-use district
米国に日本製のアルコール飲料を輸入する際の手続き
日本食ブームとともに、海外での日本製アルコール飲料の需要も高まっています。しかし、アルコールを日本から海外、例えば米国へと輸入するには、様々な規制があるので注意が必要です。
まず、米国では連邦アルコール管理法(Federal Alcohol Administration Act:FAA Act)に基づき、酒類はビール、ワインと蒸留酒の3種に分類されています。なお、日本酒については少し複雑な取扱いとなります。これは、内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)では日本酒はビールと同じカテゴリーに入るにもかかわらず、FAA Actではワインと同じ扱いを受けるためです。結果として、日本酒に対しては、ビール規則とワインの規則の2つが適用されることになります。
FAA Act で定義されているビール、ワインあるいは蒸留酒を米国に輸入する場合は以下のプロセスが必要です。
- 米国財務省・酒類たばこ税貿易管理局(Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau:TTB)に輸入許可証の申請を行う
この申請については、紙面あるいはオンラインでの手続きが可能です。 - TTBに輸入業者の申請を行う
輸入業の許可を取得するには、輸入者は米国内に事業拠点をもつ必要があることに注意してください。米国内でのビジネス拠点がない場合には、米国内ですでに認可を受けた輸入業者と契約する必要があります。 - TTB発行のラベル承認証明書(Certificate of Labeling Approval: COLA)を取得する
COLAを取得するためには、輸入者は「ラベル/ボトル承認の申請および認証/免除」をTTBの酒類表示・調合部門(Alcohol Labeling and Formulation Division:ALFD)に提出する必要があります。輸入者はアルコールの輸入時にCOLAを所持していなければなりません。 - 米国保健福祉省・食品医薬品局(FDA)への食品施設登録
米国に輸入される前に、FDAに事前通知する必要があります。 - 州政府や地方自治体の酒類取り扱い許可
輸入後に実際に販売するには、州や自治体の酒類販売許可が必要な場合が多いでしょう。
以下にカリフォルニア州での手続きを紹介します。
カリフォルニア州でアルコール飲料を販売するための手続き
カリフォルニア州における酒類販売免許の種類
事業の種類や販売したい酒類の種類に応じて、いくつかの種類の免許を取得できます。カリフォルニア州には、以下3つの主要なカテゴリーがあり、免許の種類は全部で75にも及びます。
- 醸造所やワイナリーなどのメーカー
- 卸売業者や輸入業者に販売する販売業者
- 顧客に販売する小売業者
カリフォルニア州で酒類販売免許の取得をする際には、提供するアルコールの種類、そして提供範囲の広さ(敷地内のみ、敷地外希望など)を考慮して、必要かつ最適な免許を取得することになります。
カリフォルニア州における酒類販売免許の例
酒類販売免許の種類一覧は、カリフォルニア州アルコール飲料管理局のWebサイト(https://www.abc.ca.gov/licensing/license-types/)で確認できます。以下に、最も一般的な3つの免許の種類を紹介します。
- レストラン向けビールとワインのライセンス:
酒類販売免許タイプ41であり、食事を提供しているレストランが、顧客にビールとワインを販売することを許可するもの。店内提供及び持ち帰り提供が可能。
- レストラン向けビール、ワイン、蒸留酒のライセンス:
酒類販売免許タイプ47であり、食事を提供しているレストランが、顧客に店内でビール、ワイン、蒸留酒を販売することを許可するもの。ビール、ワインについては持ち帰り提供も可能。
- バーやナイトクラブ向けのビール、ワイン、蒸留酒のライセンス:
酒類販売免許タイプ48であり、店内でのビール、ワイン、蒸留酒提供および、ビール、ワインの持ち帰り提供を許可するもの。このライセンスでの酒類販売の場合にはフードサービスは必要ありません。
海外進出・海外展開への影響
日本のアルコール飲料は海外でも安定した人気を誇っています。特に、ロサンゼルスやサンフランシスコ、ニューヨークなどの都市部では本格的な日本酒がブームとなっており、様々な商品が日本から取り寄せられています。
このようなトレンドを受けて、米国で日本のアルコール飲料を販売したい事業者の方も多いことでしょう。また、日本の酒蔵が海外と直接取引するチャンスも広がります。
しかし、本稿でも紹介したように、アルコール飲料には様々な規定や免許制度があり、それに準拠した形でビジネスを行う必要があることに注意してください。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。
※本稿の内容は、2022年6月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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