コンプライアンス

海外進出・海外展開:ECサイトで再販する場合の注意点

by 弁護士 小野智博

 

はじめに

AmazonやeBayを通じて誰でもウェブストアを立ち上げることができ、また自分自身でeコマースサイトを作ることもできる時代となっています。その結果、ビジネスとして収益を上げる目的で、実店舗の小売店からセール品や在庫処分品をかき集め、オンラインショップで販売する形がますます一般的になってきているのです。これは「リテール・アービトラージ(小売裁定取引)」(安く買って高く売る)と呼ばれています。

車、家具、衣類、小物など、購入した品物を転売することは基本的に合法です。しかし、ビジネスとして製品を再販する場合、再販の合法性判断には曖昧さが発生することがあります。そこで、本稿では、eコマースビジネスで小売裁定取引を行う際に注意すべき事柄について紹介します。

 

リテール・アービトラージ(小売裁定取引)とは?

裁定取引とは、ある場所で商品などを安く買い、別の場所で高く売ることです。他の市場で安く売られているが、その販売価格よりも価値が高いと考えるものを見つけます。そして、その商品が最も価値のある場所と時間で販売することで利益を生み出すのです。

例えば、ある小売店でクリアランスアイテムを購入し、それらを元の市場価格でAmazonなどのマーケットプレイス再販するのは比較的誰にでもできます。 Amazonセラーアカウントを開設し、配送料、手数料を考慮に入れて、出品するだけで利益を上げることができるのです。また、小売裁定取引では、再販業者は商品の製造業者のブランド力を活用して購入者を引き付けることができます。つまり、すでに強いブランドプレゼンスを持ち、需要がある製品を低価格で仕入れることができれば、すぐに売れることが多いのです。

現在は、eコマースビジネスを行うためのマーケットプレイスが発達しており、世界中のどこからでも、本やおもちゃ、アパレル用品、電子機器、骨董品を始めとしたあらゆるモノを売ることができます。その結果、小売裁定取引を利用したeコマースビジネスが活発になっているのです。

 

小売裁定取引で注意すべき商標問題

商標権侵害

正規販売代理店では、日常的に小売裁定取引を行っており、この場合メーカーの商標を使用して広告を出すことを許可するライセンス契約を確保しています。ライセンス契約の最大の特徴は、再販業者が権利者の商標を使用して商品の広告を行うことができる点です。

例えば、ディスカウントストアがナイキと契約し、余剰品や廃盤の靴を激安で買い取り、店舗で販売するような場合が当てはまります。販売者となるディスカウントストアは、正規の小売業者として、ナイキのロゴマーク「Swoosh(スウッシュ) 」や、マイケル・ジョーダンのシルエットである「Jumpman(ジャンプマン)」、キャッチフレーズ「Just Do It」など、ナイキが登録している商標を使って広告を出すことができます。

一方で、無許可の再販業者はメーカーの商標を使用するライセンスを持っていません。安易に商標登録されたデザインや文言を使用すると、メーカーから商標権侵害で訴えられることがあるのです。

もちろん商品説明として、製品のタイトルや説明の際に商標名を参照することは可能です。しかし、店頭のデザインやマーケティング活動の要素として商標名やロゴを使用し始めると、商標権侵害として一線を越えることになります。

模倣品販売

オンラインで割安なブランド品を購入した場合や、海外から輸入しまたは輸入品を購入した場合、意図せず模倣品を購入してしまう可能性があります。その結果、模倣品販売と保護された商標を使用して模倣品を販売したことの両方で訴えられるという、二重の訴訟トラブルになる可能性があるのです。

商品を仕入れる際には、その出処について十分確認することが重要です。

保証

再販では、保証に関しても複雑な問題を引き起こす可能性に注意が必要です。

正規販売代理店では、メーカーから再販業者に譲渡される際、製品の完全な保証が維持されるメリットがあります。つまり、メーカーと契約した再販業者から製品を購入した消費者は、メーカーから直接購入した場合と同じ保証を受けることができるのです。

このことは、無許可の再販業者から買い受けた場合にはあてはまりません。その理由は、メーカーから購入した製品をライセンスなしに再販する場合、再販業者自身は完全な保証の対象となりますが、その者から購入した消費者に対しては製品の完全な保証が維持されず、一般的に再販業者の保証を引き継ぐことになるためです。

再販業者として、あなたは製品を新品かつ大手小売業者が販売するものと同一の条件にして販売することで、製品の価値を最大化することができます。そのため、製品を新品として販売しても、メーカーから直接購入したときと保証内容が異なる場合には、オリジナルとは異なる製品を販売しているとみなされる可能性があります。

このような事情があるときは、登録商標を付した商品が「実質的に異なる」場合に不正販売を禁止する米国ランハム法により域外規制されるリスクがあるため、注意が必要です。つまり、消費者がオリジナル商品と転売商品の違いを重要視するのであれば、劣悪な商品を無許可で販売することは、商標権者の商標価値を低下させることになるのです。したがって、転売された製品が本物であっても、転売者は、消費者に対して製品本来の完全な保証を付与するライセンスを取得していない場合には、商標権侵害の罪に問われる可能性があります。

 

再販の慣習に影響を与えた過去の訴訟事例

商品パッケージの改変を訴えられたCostcoの事例

小売と再販との間に小さな改変が発生した場合にも、メーカーによる法的措置の対象となり得る事例を紹介します。

1998年、陶器製フィギュア「プレシャス・モーメンツ」のメーカーであるEnescoが、卸売業者のCostcoに対して訴訟を行いました(https://www.casemine.com/judgement/us/591480a4add7b049344768d8)。Enescoは、品質管理とマーケティングの観点から、フィギュアの流通と販売をコントロールすることに非常に苦心していたという背景がありました。しかし、90年代後半、Costcoはフィギュアを仕入れ、かさばる保護用の段ボールから取り出して、透明なブリスターパックのカートンに詰め替えたのです。

Enescoは、この新しいパッケージは不適切であり、商品とEnescoの評判の双方に損害を与える恐れがあると主張し、Costcoを訴えました。Enesco側は、Costcoはフィギュアが元のパッケージで販売されていないことを消費者に開示していなかったので、ランハム法に違反していると指摘し、主張の根拠としたのです。Costcoは一旦勝訴したものの、第9巡回区控訴裁判所では敗訴しました。その後、Costcoは、フィギュアがメーカー純正のパッケージで販売されていないことを示すラベルをパッケージに記載しなければならなくなりました。

最終的にCostcoパッケージに変更を行うだけで済みましたが、訴訟には莫大な費用がかかるものです。一般的な再販業者が同様の訴訟を受ければ、ビジネス存続にも関わる大きな負担となることでしょう。

DisneyがRedboxに対して行った訴訟

Redboxは米国で自販機型DVD & blu-rayレンタルサービスを展開しています。Redboxは、ワーナー・ブラザーズなどの映画配給会社と契約を結んでおり、ワーナー・ブラザーズはRedboxにディスクを提供し、Redboxはそれを顧客にレンタルしているという形です。しかし、DisneyはRedboxと契約していませんでした。そのため、RedboxがDisney映画をレンタルで提供するためには、他で購入することを余儀なくされていたのです。

そこで、Redboxが考えたのが、ダウンロードコードの活用です。Disneyは、DVDやブルーレイにデジタル・ダウンロード・コードを組み合わせていることが多く、RedboxはそれらのダウンロードコードをiTunesのような他のダウンロード販売業者よりも安い価格で販売したのです。Disneyは、この行為が同社の権利を侵害しているとして、訴訟を起こしました。

Disneyは、最初の訴訟でRedboxに一度は敗訴します(裁判所がDisneyの要求を却下)。そして、Redboxは、DisneyがDisney+を強化するために反競争的行為を行っていると主張し、ダウンロードコードに関するDisneyの訴えを退ける申し立てとともに、Disneyを提訴したのです。

しかしながら、Disneyは最終的に、Redboxがダウンロードコードを販売することの永久差し止めを含む、すべての請求に勝利しました(https://s3.documentcloud.org/documents/6206539/Disney-Combo.pdf)。

従来の物品の再販ではなく、ダウンロードの権利などはより複雑な問題となりますので、取り扱いには注意が必要です。

 

小売裁定取引に対するポリシー事例

マーケットプレイスの代表格Amazonには現在、小売裁定取引そのものを禁止するポリシーはありません。ただし、特定のカテゴリーに対しては規制が設けられています。

Amazonでは、トラブルの発生が予測される商品カテゴリーに対して「ゲート」を設けており、そこではより厳しいルールとガイドラインが設定されているのです。 このカテゴリーに該当する商品を出品する際には、メーカーまたは承認されたディストリビューターからの請求書の提供を要求されます。

ゲート付き製品カテゴリーは次のとおりです。

 

海外進出・海外展開への影響

ECビジネスを通じて海外進出をする日本企業がたくさんあります。しかし、ECサイト上で再販業を展開する際には、訴訟を含め様々なトラブルに発展することが多いので注意が必要です。今回紹介した商標権の問題では、メーカーから賠償金を求められたり、訴訟で多額の費用がかかったりする恐れがあります。また、商標権のトラブル以外にも、税の徴収違反などで、膨大なペナルティを負うこともあるでしょう。

正規の販売者として代理店契約のライセンスを取得すべきかの判断、無許可再販業者としての商標侵害する可能性の回避、製品について行うべき必要な情報開示、知的財産保険など、再販ビジネスで考慮するべき事項は複数あるため、オンライン再販業者、特に販売量の多い業者は、弁護士からのリーガルチェックを受けることを強くお勧めします。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2022年6月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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