コンプライアンス

海外進出・海外展開:NFTの急成長とともに発生した新たな訴訟リスクと法規定について

by 弁護士 小野智博

はじめに

世界経済のデジタル化が進む中、新規・既存に関わらずさまざまな市場が資産をトークン化し、新しい用途をもたらす新たな方法を見出しています。特に、最近はNFTの急成長により、さまざまな種類の資産をトークン化することに対する関心が高まっています。

NFTとは、ブロックチェーン上に記録された固有の資産の所有権やデータの真正性を示す、いわばデジタル証明書です。NFTはこれまで、デジタルアート、写真、ビデオ、オーディオファイル、収集品、ゲームアイテム、チケット、その他のデジタル資産の所有権を認証するために使用されてきました。NFTは事実上あらゆるデジタル資産や物理資産、およびデジタル権利(チケット、購読、独占アクセスなど)を表すために使用することが可能です。

例えば、トークン化された仮想通貨を検討しているゲーム会社、デジタルアートのトークン化を検討しているアーティスト、デジタルファッションなど、NFTを活用して海外進出する動きも活発です。しかし、トークン化には、ライセンス、証券、アンチマネーロンダリング、制裁、知的財産、ギャンブルなどに関する米国法が関係する可能性があります。そのため、NFT関連のビジネスを立ち上げる際には、潜在的な法的問題を認識しておく必要があるでしょう。

本稿では、NFTに関する概要とともに、米国で考えられる規制や法的問題について紹介します。

 

NFTとは

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、ブロックチェーン上の暗号資産で、互いに区別するための固有の識別コードとメタデータを持ちます。ただし、暗号通貨とは異なり、等価で取引や交換を行うことはできません。つまり、「デジタル上で代替の利かない一点もの」として、取引することができます。

なお、Fungibilityとは、経済学の用語で、ある種の財の交換可能性を表します。例えば、1バレルの石油は、他のどの石油バレルとも交換可能です。同様に、1ドル札は他のどの1ドル札(あるいはクォーターコイン4枚分など)とも等しくなります。その上で、Non-fungibleとは、そのようなアイテムをユニークにする、あるいは区別できるようにすることです。例えば、1ドル札に有名なアーティストが絵を描き、サインをした場合、他のどのドル札とも違うユニークなものになり、額面以上の価値をもたらすことがあります。

 

NFTをめぐる法的問題とリスク

NFTに関連する最初の訴訟事件の1つは、英国の美術品コレクターであるAmir Soleymaniが、アーティストBeepleによるデジタルアート作品 NFT “Abundance”のオークションを巡って、マーケットプレイスのNifty Gatewayを英国高等法院に提訴したものです。Soleymani氏は、入札した作品の別版の支払いを勧誘され、支払いを拒否したところ、Nifty Gatewayが同氏の資産を凍結しました。

NFTトークンは現状、明確な規制がありません。NFT市場がその法的規制の問題とともにまだ発展途上にあるともいえます。

例えば、2022年7月に、「金融活動作業部会(FATF)」(マネーロンダリングや、テロリストへの資金供給を防ぐ対策の基準(CFT)を定める国際組織)はデジタル・トランスフォーメーションにかかる報告書を公表し、NFTを「暗号収集物」とみなし、暗号通貨や仮想資産とは区別することを示しました。ただし、FATFは、NFTの性質と実用的な機能に着目し、支払いと見なされるか、投資目的を持つかによって、ケースバイケースで検討することも推奨しています。

以下では、米国の法規制を元に、NFTとの関連が深い法的考察を紹介します。

所有権/ライセンス権

所有権およびライセンス権は、NFTの障害ともなり得る問題です。NFTの取引では、通常、買い手がトークンを所有しますが、トークンで表される資産に対するライセンスのみを受け取る場合もあります(特に、デジタルメディアの場合など)。

一般的に、資産の作成者が資産の著作権を保持します。個人的、非商業的な権利から幅広い商業化の権利まで、さまざまなライセンス条件を適用することができます。ビジネスモデルに関わらず、買い手に付与される権利は、マーケティング・コミュニケーションとライセンス条項の両方で明確かつ正確に伝えられる必要があります。

例えば、買い手が限定的なライセンスしか持っていない資産を「所有」していると示唆するような不正確なマーケティングは、様々な法的請求やその他の問題を引き起こす可能性があるでしょう。ライセンス条項は、権利を明確化し、購入者が購入した製品で何ができて何ができないかを明確に指定する必要があります。また、有効な契約を結ぶための条件を満たしているか確認することも重要となります。

知的財産権の特許クリアランス調査

自社が所有していないコンテンツ(アートワーク、音楽、ビデオクリップなど)や商標を含むデジタル資産をNFTで鋳造する場合、第三者の知的財産を侵害する可能性があります。そのため、今後市場で販売しようとしている自社製品が他社保有の特許権を侵害していないかを確認する「知的財産権の特許クリアランス調査」を事前に行うことが不可欠です。

NFTで使用されている知的財産に対して必要な権利を有していない場合、トークンの購入者に対しても付与する権利を有しません。NFTの販売に関連して伝達される権利について虚偽の記載をした場合、追加的な請求を受ける可能性があります。また、第三者の著作権や商標を組み込んだデジタル資産を販売または表示する取引所やプラットフォームを運営した場合、悪意はなくとも、知的財産権訴訟に直面する可能性があります。

証券法

一意の資産のみを表し、所有者が一人であるNFTのほとんどは、証券に該当しない可能性が高いといえるでしょう。しかし、NFTに証券的特徴がある場合、またはHoweyテスト(米国の証券取引委員会(SEC)が有価証券とみなすかどうかの判断基準のひとつ)に合致する場合は、米国証券法の対象となり得ます。

特定のNFTが証券であるかどうかを判断するためには、ケースバイケースにHoweyテストを実施して、分析することが重要です。例えば、以下の場合にはNFTが証券取引法に抵触する可能性があります。

マネーロンダリング防止

NFT(特に価値の高いもの)は、マネーロンダリングを促進するために使用される場合があります。米国財務省は、美術品取引を通じたマネーロンダリング及びテロ資金調達の円滑化に関するレポートを発表しています(https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy0588)。その中では、デジタルアートとNFTに関連する金融犯罪のリスクについて考察されており、高価値の美術品市場には、様々な金融犯罪に巻き込まれる可能性を秘めた固有の性質があることが述べられています。

OFAC規制を含む経済制裁規制

NFTの販売は、制裁措置の制限にも従わなければなりません。特に、Special Designated Nationals and Blocked Persons List(SDNs)には注意が必要です。SDNsとは、米国の安全保障を脅かすこと等を理由に米国財務省・外国資産管理室(Office of Foreign Assets Control:OFAC)により規制対象として指定された個人・団体(および財産)を掲載したリストのことです。

米国内の個人および企業はSDNs掲載者との取引が禁じられており、違反した場合は制裁対象となります。SDNsは頻繁に更新されており、OFACのウェブサイト上で確認することができます(https://home.treasury.gov/policy-issues/financial-sanctions/specially-designated-nationals-and-blocked-persons-list-sdn-human-readable-lists)。

例えば、最近ではランサムウェアの実行者の金融取引を促進したとして、ラトビアに拠点を置く取引所、Chatexとその関連サポートネットワーク、ランサムウェア運営者2名が制裁対象となりました。同時に、OFACはChatexと57の暗号通貨アドレス(デジタルウォレット関連)をSDNsに指定しました。指定された暗号通貨アドレスの1つはNFTを所有していました。

これは、NFTが「ブロックされた財産」として公に影響を及ぼした初めてのケースとなります。

賭博法

ブロックチェーンゲームの仕組みについて考えてみましょう。ここでは、ゲームのプレイヤーはNFTを獲得するチャンスのためにお金を払います。NFTは流通市場で自由に取引できる「価値あるもの」とみなされるため、ギャンブルの問題に関わる可能性があります。

実際、ゲームにおけるチャンスベースの(運が左右する)仕組み(例:ルートボックス、ソーシャルカジノゲーム)の利用が増えたことで、賭博法の下で監視の目が厳しくなり、集団訴訟も増えています。

従来、ゲーム発売元の多くは、サービス利用規約でゲーム内通貨やゲームアイテムの使用ライセンスのみを認め、それらの販売、譲渡、交換を禁止していました。この場合、裁判所は通常、これらのゲーム内通貨およびアイテムはギャンブル目的の価値あるものではないと判断します。そのため、ゲーム発売元が賭博法違反として提訴されても、勝訴してきました。

しかし、ゲーム会社が暗号通貨やNFTの真の所有権や流通市場を通じた販売能力をアピールするNFTには、上記の判断が当てはまらないかもしれません。そのため、多くのブロックチェーンベースのゲームが、チャンスベースの仕組みをあまり使用せず、プレイ・トゥ・アーニング(ゲームをプレイすることで稼ぐという考え方)やユーザー生成コンテンツのビジネスモデルを使用して、リスクを下げています。

インサイダー取引規制

最近、NFT企業やマーケットプレイスの従業員や幹部が不公正または違法とみなされる行為に関与する事件が目立っています。

例えば、2022年6月にはNFTの人気のマーケットプレイス「OpenSea」の元幹部社員のNate Chastainが、史上初のNFTのインサイダー取引容疑で起訴されました(https://www.justice.gov/usao-sdny/pr/former-employee-nft-marketplace-charged-first-ever-digital-asset-insider-trading-scheme)。起訴状によると、2021年当時にOpenSeaのホームページにどのNFTを表示するかを選定する立場にあったNate Chastainは、公開前にNFTを購入して、その直後に売却して大きな利益をあげたということです。

NFTのインサイダー取引規制では、重要な未公開情報に基づくNFTの購入が禁止されており、NFTの価格や取引量を不正に操作することを目的とした、企業のNFTのさまざまな種類の取引も禁止されています。

 

海外進出・海外展開への影響

NFT市場における、現物資産をデジタルで表現するという発想や、一意のIDを使用する発想それぞれが、特に斬新な考えということはありません。しかし、これらのコンセプトとスマートコントラクトの改ざん防止ブロックチェーンの利点が組み合わされることで、強力な変革の原動力となっています。

NFTの大きな利点は市場の効率性であり、現物資産をデジタル資産に変換することで、プロセスが合理化され、仲介者が排除されます。ブロックチェーン上でデジタルまたは物理的なアートワークを表現するNFTは、エージェントの必要性を排除し、アーティストが観客と直接つながることを可能にします。海外進出を考える企業にとっても、NFTを活用したビジネスモデルは魅力的でしょう。一方で、NFTで生じうる法的問題を正しく理解することは簡単ではありません。

なぜなら、NFTに対する規制はまだ確立しておらず、ケースバイケースの判断が行われることも多いためです。そこで、企業としては、弁護士による適切な助言を元に、NFTに関連する可能性のある法律を遵守し、法的問題をあらかじめ回避することが必要となります。

また、NFTビジネスで必要となるNFTのライセンス契約やNFTインサイダー取引ポリシーをを作成する際にも、弁護士からの助言が必要になります。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2022年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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