コンプライアンス

海外進出・海外展開:EU・デジタルサービス法 (DSA)の概要と、企業に与える影響

by 弁護士 小野智博

はじめに

2022年11月に発効したデジタルサービス法(DSA)(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/digital-services-act-package)は、FacebookやYouTubeなどの大手インターネットプラットフォームに対し、EU域内のサービスにおける違法コンテンツの拡散やその他の社会的リスクへの対策を強化することを定めています。規制を特に強化するのは、検索エンジンを含む月間平均4,500万人以上の域内利用者を有する「非常に大規模なオンラインプラットフォーム(VLOP)」事業者ではあるものの、EU域内で仲介サービスを提供する全ての事業者が規制の対象となり、またVLOPのプラットフォームを利用する企業などにも影響があると考えられます。

DSAは、その姉妹法であるデジタル市場法(DMA)(https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_6423)とともに、EU全域に適用される単一の規則を制定するもので、プラットフォームガバナンスの世界標準となり得るとされています。

DSAの目的は、テック企業が自主規制を行う時代に終止符を打つことにあります。従来、テック企業は、コンテンツを規制するための独自のポリシーを設定し、虚偽情報などに対抗するための努力について「透明性報告書」を発行してきました。しかし、それは各企業独自の評価基準を元にしたものであり第三者による精査を実質的に不可能なものにしていました。

DSAは、プラットフォームに対して、アルゴリズムシステムの仕組みについてより透明性を高め、そのサービスの利用に起因する社会的損害について責任を負うよう強制することで、この現状を変えることを目指しています。

本稿では、DSAの概要とともに、DSAが企業に与える影響について紹介します。
 

DSAの概要

DSAの最終版は、300ページを超える長い法律文書で、テック企業の新たな法的義務や、その施行に関するEUおよび加盟国の責任について詳述しています。ここでは、DSAの概要について説明します。

違法コンテンツへの対処に関する明確なルール

DSAは、デジタルサービスプロバイダーが国内法またはEU法に基づき、違法コンテンツを迅速に削除するためのプロセスを更新しています。また、一般的なコンテンツ監視をEU全体で禁止しており、プラットフォームが組織的な監視を強いられ、言論の自由が損なわれることがないよう強化されたルールを定めています。

コンテンツモデレーションに関する決定に対して異議を唱える新しい権利をユーザーに付与

プラットフォームは、アカウントをブロックしたり、コンテンツを削除したり、降格させたりする場合、影響を受けるユーザーに詳細な説明を提供しなければならないとしています。ユーザーは、これらの決定に対してプラットフォーム側に異議を申し立て、裁判外の方法での和解や救済を求める新たな権利を持つことになります。

レコメンダーシステムとオンライン広告の透明性向上

プラットフォームは、プロファイリングに基づかない代替レコメンダーシステム(フィード)の選択肢を少なくとも1つ、ユーザーに提供しなければなりません。また、広告のターゲットとなった理由や、広告のターゲティングパラメータを変更する方法について、ユーザーに明確な情報を提供する必要があります。

ターゲティング広告とダークパターンに対する限定的な制限

DSAは、子どもをターゲットにした広告の禁止、および宗教的所属や性的指向などの「センシティブな」特徴に基づく個人のプロファイリングの禁止を定めています。また、DSAは、ユーザーを欺いたり操作したりするデザイン手法、いわゆる「ダークパターン(欺瞞的デザイン)」に対する制限を導入する予定にしています。

一般的な透明性と報告要件

プラットフォームは、加盟国から違法コンテンツへの対応を命じられた命令などの数、ユーザーからの苦情の量およびその対処方法など、コンテンツの適正化の取り組みに関する年次報告書の作成を義務付けられることになります。また、この報告書では、コンテンツを管理するために使用される自動化された対応策について説明し、その精度を示す基準を開示する必要があります。

最大手プラットフォームに対する「システミックリスク」抑制の義務付け

EUの議員らは、巨大なプラットフォームが社会にとって巨大な潜在的リスクをもたらすことを認識し、危惧しています。具体的には、基本的権利、市民の言論と選挙、ジェンダーに基づく暴力、公衆衛生に対する悪影響などのリスクが考えられます。

そのため、DSAは、YouTube、TikTok、Instagramなど、EUで4500万人以上のユーザーを持つプラットフォームに対し、アルゴリズムシステムを含む自社の製品が、社会に対してどのようにこれらのリスクを悪化させ得るかを正式に評価し、それを防ぐための測定可能な措置を講じるよう義務付けることにしています。

外部からの精査のためのデータアクセスを法的に義務化すること

プラットフォームは、独立監査人、EUおよび加盟国当局、学界および市民社会の研究者と内部データを共有することを義務付けられるようになります。

内部データは専門家によって精査され、それによって、システミックリスクを特定し、それらを抑制する義務をプラットフォームが果たすことを目的としています。

欧州委員会と各国当局の新たな権限と執行権

執行については、国家レベルとEUレベルの新たな組織間で調整されることになります。欧州委員会は、最大手のプラットフォームや検索エンジンに対する直接的な監督・執行権限を有し、最大で前会計年度の総売上高の6%の制裁金を科すことができます。また、欧州委員会は、プラットフォームに対して監督手数料を課し、執行業務の資金源とすることも可能です。
 

DSA準拠のための重要なステップ

VLOPとVLOSEを決定するためのユーザー数の透明性

2023年2月17日までに、プラットフォームと検索エンジンは、そのアクティブエンドユーザー数をEU委員会に報告する必要があります。その報告を元に、どのサービスがVLOP(Very Large Online Platform:超大規模オンラインプラットフォーム)またはVLOSE(Very Large Online Search Engine:超大規模オンライン検索エンジン)の基準値(4500万人以上のEUアクティブユーザー)を満たしているかが欧州委員会によって評価されることになります。

VLOPおよびVLOSEはコンプライアンス遵守に向けた整備を実施

2023年2月の報告を元に、VLOPあるいはVLOSEと評価された場合には、2023年6月までの期間にDSAの規則を遵守する必要があります。

具体的な対応としては、最初の年次リスク評価の実施と公開、およびコンテンツモデレーションに関するルールの実施などが含まれます。例えば、違法なコンテンツに簡単にフラグを立てることができる機能や、未成年者を含むすべてのユーザーにとって明確で分かりやすい利用規約の更新などを整備する必要があります。

デジタルサービスコーディネーター(DSC)の権限強化

2024年2月17日において、その適用範囲にあるすべての事業体に対して、EU全域でDSAが完全に適用されるようになります。その時までに、各EU加盟国は独自のデジタルサービスコーディネーター(DSC)を任命する必要があります。この独立規制機関は、自国に設立された小規模なプラットフォームに対する規則を施行するとともに、欧州委員会や他のDSCと連携し、より幅広い施行努力に責任を負うことになります。
 

海外展開・海外進出を検討される場合には専門家にご相談を

DSAが効力を持ち、今後の実施スケジュールが決まる中、EU諸国と欧州委員会は、この法律を適切に執行するために必要な能力と人材を育成する準備を整え始めています。例えば、欧州委員会では、執行努力を支援するためにEuropean Centre for Algorithmic Transparencyを立ち上げました(https://algorithmic-transparency.ec.europa.eu/about_en)。同機関は、2023年夏からVLOPおよびVLOSEのコンプライアンスを徹底的に調査することを約束しています。

一方、2022年後半にイーロン・マスク氏が買収した大手プラットフォームTwitterの混乱について考えてみましょう。DSAの施行責任を担うEUの監視組織にとって、Twitter社の混乱は良いケーススタディになりえます。

Twitterが有料認証システムを無計画に展開した結果、プラットフォームに誤った情報が氾濫し、実社会での被害が発生しました。DSAでは、VLOPが事前にリスク評価を実施せずに大規模な設計変更を行うことを禁じています。DSAのコンプライアンス遵守義務が開始された後に、同様の事例がTwitterで発生した場合(現在のユーザー数から考えるとTwitterはVLOPになる見込みです)、DSAに基づく調査や多額の罰金の可能性が生じると思われます。

DSAの施行に関しては、まだ検討中の項目もあり、DSAで参照される委任法、施行法、潜在的な行動規範、自主的な規格のほとんどはまだ策定されていません。そのため、EU圏内でビジネス活動をしていたり、EU圏内のユーザー抱えていたりする企業は、新しく策定される規定について最新の情報に基づいた対応を迫られることになります。

企業単独で対応すると、コンプライアンスの対応漏れが発生し、法的リスクが高まるおそれがあります。海外進出をしている日本企業などにおかれましては、企業コンプライアンスなどの実績豊富な弁護士などにリーガルチェックを依頼することをおすすめします。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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