目次
はじめに
日本では生産年齢人口が年々減少しており、労働力不足が深刻な問題となっています。同時に、外国人労働者の数は右肩上がりで増加してきました。新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時的に増加率は低迷したものの、2022年には新型コロナウイルス感染症の水際対策緩和を受け、増加率も回復に転じました。今後も日本国内の外国人労働者は増えていく見込みです(厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和4年10月末現在) https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001044543.pdf)。
そこでこの記事では、日本国内の企業が外国人材の採用を検討する際に注意すべき労務管理上のポイントについて解説していきます。
外国人労働者市場の現状
水際対策の大幅な緩和(2023年1月23日現在)
2022年10月11日より、新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和されました。入国者数の上限が撤廃され、個人の外国人旅行客の入国も解禁されるなど、制限は、ほぼコロナ禍前の状態に戻ることになります。
日本入国時の検疫措置は、全ての帰国者・入国者について、原則として、入国時検査を実施せず、入国後の自宅又は宿泊施設での待機、待機期間中のフォローアップ、公共交通機関不使用等は求めないこととしています。ただし、全ての帰国者・入国者について、世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに掲載されているワクチンの接種証明書(3回)又は出国前 72 時間以内に受けた検査の陰性証明書のいずれかの提出が必要です。
検疫の手続き概要
Visit Japan Webの登録 | 有効な ワクチン接種証明書 |
出国前検査証明書 | 入国後待機 | 到着時検査 |
必要 | あり | 不要 | なし | なし |
なし | 必要 |
- Visit Japan Webを利用しない場合は、質問票の作成・提出が必要となります。
- 有効なワクチン接種証明書又は検査証明書のいずれも提示できない場合は、検疫法に基づき、原則として日本への上陸が認められず、また、出発国において航空機への搭乗を拒否されます。
- 新型コロナウイルスへの感染が疑われる症状がある場合は、入国時検査が実施されます。検査結果が陽性の場合は、検疫所長の指示に従い、検疫所長の指定する宿泊療養施設等での療養が必要になります。
- 上記の措置については、今後の国内外の感染状況等によって、急遽変更になることがあります。
ただし、2023年1月23日現在、中国からの入国者に対し、臨時的な水際措置を講じています。2023年1月12日以降、中国(マカオを含む、香港を除く)からの直行便で入国する場合は、ワクチン接種証明書の有無にかかわらず、出国前検査証明書が必要となります。(厚生労働省 水際対策 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html)
外国人入国者数の推移
2022年上半期における日本への外国人入国者数(新規入国者数と再入国者数の合計)は62万1,112人で、前年同期に比べ47万9,945人(340.0%)増加、新規入国者数は38万8,893人で、前年同期に比べ33万3,789人(605.7%)増加となりました(出入国在留管理庁 令和4年上半期における外国人入国者数及び日本人出国者数等について https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00027.html)。
在留資格別の新規入国者数は、(1)「留学」(10万5,032人、対前年同期増減率1,383.9%増)が最も多く、全体の27.0%を占め、次いで(2)「技能実習1号」(9万7,937人、同347.5%増)、(3)「短期滞在」(8万8,556人、同1,066.9%増)の順となっています。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、水際対策が開始された2020年2月1日以降、外国人新規入国者数は大幅な減少に転じていましたが、2022年3月以降、水際対策の段階的な緩和などにより、2022年上半期における外国人新規入国者数は38万8,893人となり、前年同期に比べ33万3,789人(605.7%)増加を記録します。ただし、新型コロナウイルス感染症拡大前と比べるとまだまだ低水準にあり、2019年同期(上半期)比では1,459万6,277人(97.4%)減少となっています。
しかしながら、水際対策の大幅な緩和で2022年10月以降入国者は急増しており、2022年12月には137万人を達成。コロナ禍前には及ばないものの、確実な復活を見せています(日本政府観光局 訪日外客数・出国日本人数データ https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/)。
訪日外客数 | (12月での比較) | |||||||||||||||||
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※2022年11月、12月の数値は推計値
外国人雇用を検討する際に確認すべきこと
在留資格に該当する職種の判断
外国人が日本に在留して活動をおこなうために必要な在留資格は、目的別に多くの種類(29種類)があります。日本企業が外国人を雇用する際には、就労が認められている在留資格であるかを確認しておく必要があります。認められていない活動に従事させることは違法となり、不法就労助長罪に問われ、処罰の対象となる可能性があります。
ここでは、海外のワーキングビザに相当する在留資格「技術・人文知識・国際業務」について、どのような業務であれば対応可能であるか詳しく説明します。
「技術・人文知識・国際業務」の在留期間は5年、3年、1年、3か月のいずれかで更新を迎えますが、更新の繰り返しにより継続して日本に在留することができます。要件を満たせば家族の帯同も可能です。
出入国在留管理庁は、「技術・人文知識・国際業務」に該当する活動を以下のように定めています(https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html)。
本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(入管法別表第一の一の表の教授、芸術、報道の項に掲げる活動、二の表の経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、介護、興行の項に掲げる活動を除く。)
該当例としては、機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者等。
つまり、外国人がこれまで学んできた知識や仕事で培ってきた経験、知識と関連性のある業務に限って従事することが可能です。専門知識を必要としない業務や、これまでの学歴・職歴などに関連しない業務を行うことはできません。
では具体的にどんな職種に就くことができるのでしょうか?分野別の具体例を以下に挙げてみます。
- 技術:システムエンジニア、プログラマー、情報セキュリティーの技術者、機械工学などの技術者、ゲーム開発のシステム設計などの従事者
- 人文知識:経理、人事、法務、総務、コンサルティング、企画、営業、広報、マーケティング、商品開発、貿易業務
- 国際業務:通訳、翻訳、デザイナー、貿易、語学学校などの語学講師、ホテルマン(通訳が主業務であること)
ただし、上記の職種であれば必ず在留資格を取得できるというわけではないため注意してください。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を申請するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 学歴もしくは職歴と業務内容の関連性があること
- 学歴は海外か日本の大学卒業、もしくは日本の大学卒に相当すること
学歴要件を満たせない場合、実務経験(職歴)条件で代替することも可能です - 受け入れ企業の経営状態が良好であること
- 給与の水準が日本人と同等かそれ以上であること
外国人材の労務管理上のリスクの把握
入管法には不法就労助長罪という罰則が定められており、不法就労していた本人だけでなく、企業も処罰の対象となります。
企業が不法就労助長罪となってしまうケースは大きく分けて以下の3つです。
- 不法滞在の外国人を就労させた
不法滞在の人とは密入国や在留期間を過ぎても日本に滞在している外国人を指します。 また、在留資格の有効期限が切れたにもかかわらず更新をしていない人も、不法滞在者に含まれます。 - 就労不可の外国人を就労させた
就労できない在留資格で働いたり、観光目的で入国した人が働くなどのパターンが当てはまります。 - 認められていない業務などで働かせていた
在留資格には活動の範囲の制限が設定されていることが多くなっています。在留資格で認められている業種とは別の業務や、規定の時間数を超えた労働は罪に問われる可能性があります。
不法就労助長罪で企業側に適用される罰則は以下の通り、厳しいものとなっています。
- 3年以下の懲役 もしくは 300万円以下の罰金。場合によってはその両方。
また、企業が、雇った外国人が不法就労であることを知らなかった場合でも、企業側に過失が認められた場合には、不法就労助長罪が適用されます。 例えば、在留カードの確認不足や専門家から助言を得なかったことで不法就労させてしまった場合は、過失があったと見なされるおそれがあります。
マネジメント管理
前項で説明した通り、万が一在留期限を超えて在留し、不法滞在になった状態の外国人を雇用していると、企業も「不法就労助長罪」に問われる可能性があります。そのため、在留期間更新申請スケジュールについて、企業側も把握・管理しておくことが重要です。
また、社内の異動に伴って業務内容を変更する場合にも注意が必要です。それぞれの在留資格で対応できる業務には制限があるため、異動後の業務内容が在留資格に合っているかどうか確認しておきましょう。
在留資格の審査では、業務内容と、本人の職歴や実務経験が関連しているかどうかを審査されますので、妥当性に不安がある場合には、在留資格に精通した弁護士などの専門家にご相談されることをおすすめします。
外国人の労務管理は専門家への相談をご検討ください
日本では労働人口の減少によって、特に若手人材の確保が難しくなっています。外国人労働者の平均年齢は比較的若く、企業の人材確保の大きな助けになるでしょう。また、高いスキルや知識を有する人材も多く、自社内にはない視点やアイデアも期待できます。
ただし、外国人労働者が日本で働くには、就労が認められている在留資格を取得する必要があります。在留資格の種類は多く、それぞれに制限が定められているため、外国人の労務管理に精通した専門家への相談が必要となる場合も多いでしょう。
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※本稿の内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。
執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」
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