販路開拓

海外進出・海外展開:海外ECサイトで自社ブランドを守るための施策

by 弁護士 小野智博


はじめに

自社ブランドを保護することは、ビジネスの成功における中心的な要素となります。特に、海外進出を検討する企業にとっては、新しい市場に進出する際に自社ブランドを守るための戦略が必要となります。ブランドは企業のアイデンティティを形成し、消費者の心に印象を刻むための重要なツールです。しかし、適切なブランド保護がなければ、偽造品や類似品による市場での混乱、不公正な競争、最終的な売上の低下など、多くのリスクが存在します。

そのため、企業が海外市場への進出を計画する際には、自社ブランドの保護を最優先の課題として考える必要があります。また、それぞれの海外市場が異なる法律や規制を持っているため、ブランドを海外で展開する際にはその地域特有の要件を理解し、対応することも大切になります。

この記事では、上記のリスクを管理し、自社ブランドを守るための具体的な手順と戦略について詳しく説明します。企業が海外進出の成功を確実にし、自社ブランドを守りながら長期的な成長を達成する方法について見ていきましょう。

ブランド保護が重要な理由

ここでは、ブランド保護が重要な理由を紹介します。

ブランド価値の保護

ブランドは企業の価値を象徴し、消費者の購買意欲を引き出します。しかし、偽造品や類似品によりブランドの評価が下がり、消費者の信頼が失われる可能性があります。それにより、ブランドの価値が薄れ、最終的には売上減少につながる可能性があります。

法的リスクの軽減

自社の知的財産を適切に保護しない場合、法的な問題が発生するリスクがあります。ブランド名やロゴ、特許などの知的財産を保護するためには、各国の法律や規制に従って必要な登録を行うことが重要です。

市場の混乱を避ける

偽造品や類似品は市場での混乱を引き起こし、消費者が本物の製品を見つけるのを困難にします。これは消費者の信頼を損ない、企業の評価を下げる可能性があります。

消費者の信頼を維持する

ブランドの偽造品や類似品が市場に出回ると、それらを知らずに購入した消費者は製品の品質に失望する可能性があります。これは、消費者の信頼とロイヤルティを損ねるだけでなく、ブランドの評判にも影響を及ぼす可能性があります。

収益と成長を確保する

適切なブランド保護がなければ、偽造品や類似品による売り上げの損失や、ブランド価値の減少による長期的な影響を避けることは困難です。自社ブランドを適切に保護し、それが維持されることで、企業は持続的な成長と収益を確保できます。

基本的な概念の理解

知的財産権とは何か

知的財産権とは、個々人や組織が自身の創造的な活動により生み出した独自のアイデアや作品、ビジネスモデル等を「知的財産」として保護するための法的な権利です。知的財産には主に特許、商標、著作物、意匠、営業秘密などがあり、知的財産権制度により、こうした知的創造活動の成果について一定期間の独占権を与え、様々な法律で保護しています。

偽造品と類似品の定義

偽造品とは、他人の商標やブランド名を無断で使用し、それが本物の商品であるかのように見せる商品のことを指します。一方、類似品は、ある製品のデザインや機能を模倣したもので、明確な商標の侵害をしていないものの、消費者を混乱させる可能性があります。両者ともに、オリジナルのブランドや製品の価値を侵害し、市場に混乱をもたらす可能性があります。

再販の意味とその影響

再販とは、ある商品を一度購入した後、それを他の消費者に対して売り出す行為を指します。法的には、特定の商品の再販には制限がない場合が多いですが、ブランドのイメージや価値を保護するため、多くの企業が再販行為に一定の制限を設けています。例えば、公式な販売チャネル以外での製品の販売や、特定の価格以下での販売を制限するなどの取り組みがあります。

再販されると商品の把握が困難になり、製品の価格、品質、アフターサービスなどについてブランドのコントロールが弱まる可能性があります。また、正規の販売チャネル以外での製品の流通は、偽造品や類似品が市場に出回るリスクを高めます。したがって、再販の管理はブランドの保護において重要な要素となります。

自社ブランドの保護のための法律的枠組み

世界的な知的財産権保護の枠組み

知的財産権は地域的な性格を持つため、通常、特許、商標、著作権等の登録や保護は各国ごとに行う必要があります。しかし、各国の間で知的財産権の保護に関する合意がなされており、それに基づき一定の国際的な保護が可能となっています。

一つ目は、特許や商標について一括して出願できたり、2か国目での出願に際し、一定の優先権が与えられる国際的な制度です。特許については、パリ条約に基づく「国際優先権」やPatent Cooperation Treaty (PCT) による国際特許出願があります。商標については、マドリッド協定による国際登録が可能です。

二つ目は、著作権についての国際的な保護です。著作権は、ベルヌ条約の下、著作物が創作された時点で自動的に保護されます。この条約は、加盟国が他の加盟国の著作権を尊重することを要求しています。

詳細は以下のリンクよりご参照いただけます。

米国の法制度

米国では、商標については、米国特許商標庁(USPTO)が登録を受け付けています。商標を登録することで、アメリカ全土での排他的な使用権と、商標の侵害に対する法的な保護を得ることができます。

特許についても、USPTOが審査と登録を行います。特許を取得することで、特許が有効な期間中、アメリカ国内で他人がその発明を製造、販売、輸入することを防ぐことができます。

著作権については、米国著作権局で登録を行うことが可能です。著作権は作品が創造された瞬間に自動的に発生しますが、法的な保護を強化し、著作権侵害訴訟を起こすための前提とするために、著作権登録を行うことが推奨されます。

詳細は以下のリンクよりご参照いただけます。

自社ブランドを守るための具体的な施策

商標登録

商標は企業のブランドや製品を消費者が識別するための重要なツールであり、それらが他者によって不正に使用されることを防ぐためには、商標の登録が不可欠です。商標を登録することで、あなたのブランドは法的に保護され、他人が同一もしくは類似した商標を使用することを防ぐことができます。

商標登録は、あなたが商標の唯一の所有者であることを公式に認め、その商標を使用してビジネスを展開する排他的権利を付与します。また、商標侵害に対して法的措置をとる場合、登録商標を持っていることはその証拠となります。

特許登録

特許は、新しい発明や技術を保護するための手段で、その所有者にはその発明を使用、製造、販売する排他的な権利が与えられます。特許登録を行うことで、他の企業があなたの発明を模倣したり、利益を得るために使用したりすることを防ぐことができます。

特許登録はまた、競争優位を確保し、あなたの企業の知的財産を魅力的な投資として見せるための強力なツールでもあります。また、特許を持っていることは、潜在的なライセンス収入を生み出す可能性もあります。

著作権登録

著作権は、作品が創作された時点で自動的に発生しますが、著作権を公式に登録することにより、その保護をさらに強化することができます。これにより、あなたの作品が他人によって無許可で使用された場合、あなたは法的にその侵害行為に対して行動を起こすことができます。

特に、ソフトウェア、ウェブサイトのコンテンツ、マーケティング資料など、ビジネスにおける重要な著作物については、著作権登録を行うことで、それらが無断で複製や配布されることを防ぐことができます。また、登録された著作権は法的な証拠となり、侵害者に対する損害賠償請求の根拠ともなります。

偽造品、類似品、再販に対する対応策

法的な手段を利用した対応

知的財産権が侵害された場合、その権利を侵害した者に対して法的手段を用いて対応することが可能です。商標、特許、著作権の侵害が発生した場合、損害賠償請求や差止命令を求めて訴訟を起こすことができます。さらに、警察等当局への通報をすることで、捜索や押収等の取締りにつなげ、侵害商品の製造や販売を止めることが可能な場合もあります。

ECサイトの規約と利用方法

多くのECサイトでは、自社のプラットフォームで知的財産権が侵害されることを防ぐための方針を明示しています。たとえば、Amazonでは、偽造品の販売に対して厳格な取り締まりを行っており、商標権侵害の申し立てがあった場合、迅速に対応しています。商品のリストから不適切な商品を取り下げる手段や、問題の販売者に対する行動を取ることができます。

監視と検証のシステム

自社ブランドの保護には、定期的な監視と検証が重要です。自社製品の偽造品や類似品が販売されていないか、また再販が許可されている範囲内で行われているか確認するために、オンライン上のアクティビティを監視するシステムを設けることが推奨されます。

ブランド保護サービスの活用

ブランド保護サービスは、偽造品や著作権侵害、不適切な再販を迅速に特定し、対応するための専門的なサポートを提供します。これらのサービスは、オンライン上でのブランド侵害を定期的に監視し、侵害が見つかった場合には迅速に報告し、対策を講じることを支援します。

海外法人におけるリスク管理は専門家への相談をご検討ください

自社ブランドの保護は、ビジネスの成功と競争力を保つ上で重要な要素であり、これには戦略的なアプローチが求められます。その一環として、ブランド保護のためのロードマップを明確に策定し、それを基に具体的な施策を進めることが必要です。

このロードマップは、商標、特許、著作権の登録から、偽造品や類似品、不適切な再販に対する対策まで、あらゆる角度から自社ブランドを守るための方向性を示すべきものです。これらはブランドの価値を保護し、競争から差別化するための重要な武器となりますので、時間とリソースを投資して準備すると良いでしょう。さらに、ブランド保護は一度きりの活動ではなく、継続的な努力を必要とします。

法律的な対応は適切なタイミングと方法で行うことが重要で、法的手段を利用した対応は、あなたの権利を守るための強力なツールとなります。ただし、海外市場でビジネスを展開する際には、法的環境が常に変わることに注意する必要があります。ビジネスが新たな市場で成功を収め、その価値を守り続けるために、専門家に相談し、適切な専門知識とガイダンスを受けることが推奨されます。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

本稿の内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 代表弁護士
企業の海外展開支援を得意とし、日本語・英語の契約審査サービス「契約審査ダイレクト」を提供している。
また、ECビジネス・Web 通販事業の法務を強みとし、EC事業立上げ・利用規約等作成・規制対応・販売促進・越境ECなどを一貫して支援する「EC・通販法務サービス」を運営している。
著書「60分でわかる!ECビジネスのための法律 超入門」

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(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
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