販路開拓

海外進出・海外展開:中小企業が海外進出を成功させるには?直近の動向からみる成功に向けたポイント

by 弁護士 小野智博


はじめに

現代経済のグローバル化の中で、海外進出は中小企業にとって重要な戦略的ステップとなっています。同時に、多くの中小企業にとって国境を越えるビジネスは未知の領域であり、新しい市場への挑戦はリスクと不確実性を伴います。

海外市場への挑戦を通じて、新たな成長機会、ブランド価値の向上、競争力の強化を手に入れるためには、市場動向の理解、戦略の適応性、組織の柔軟性が鍵となります。

本稿では、最新の市場動向を分析し、中小企業が海外進出を検討する上での意義や直面する課題について焦点を当てます。また、成功事例を通じて具体的な戦略とアプローチを紹介します。

最新の市場動向と分析

2023年1-3月期に実施された「中小企業の海外展開と国内回帰に関する調査」の結果に基づき、最新の市場動向と分析を以下にまとめました。

調査によれば、海外に展開している中小企業は、全体の18.0%に達しています。この中で、海外直接投資を行っている企業は6.6%、海外企業に生産を委託している企業は4.2%、海外への直接輸出を行っている企業は7.2%、間接輸出は6.1%、越境ECを利用している企業は0.6%となっています。

一方で、海外展開に関心がない企業は全体の71.3%に上り、海外展開に関心はあるが行っていない企業は9.0%、今後の展開を計画している企業は1.7%です。これは、特に大規模な企業や製造業(30.7%)、卸売業(25.9%)で海外展開の割合が高いことと対照的です。

海外展開を行っていない主な理由として、従業者規模に関わらず「人材がいない」という回答が最も多く見られました。業種別では、製造業や小売業では「販路を確保できない」との回答が多く、宿泊・飲食サービス業やサービス業、情報通信業、建設業では「人材不足」が主な障害とされています。

また、海外展開に関心がないと答えた企業の57.4%は「海外展開に向かない事業である」と考えており、30.4%は「国内だけでも十分経営できる」とし、22.9%は「海外展開にはリスクがある」と回答しています。特に運送業(水運業を除く)、小売業、サービス業などでこの傾向が顕著です。

これらのデータから、中小企業が海外展開を行わない理由は、主に内部資源の不足、事業モデルの適合性の問題、経営上のリスクに起因していることが明らかです。特に人材の不足や販路の確保、事業適性が重要な要因となっており、これらの課題を克服することが、海外市場への進出における中小企業の成功の鍵となります。

この調査結果は、中小企業がグローバル市場においてどのようにポジションを確立し、挑戦を続けていくかについての重要な洞察を提供します。海外市場への進出はリスクを伴いますが、適切な戦略と資源の活用により、新たな成長の機会を生み出す可能性を秘めています。

中小企業にとっての海外進出の重要性

中小企業にとって、海外進出は多くの利点を持っています。以下に、その主な理由を詳しく説明します。

まず第一に、国内市場の縮小は中小企業にとって大きな課題となっています。日本の人口減少と市場の成熟に伴い、国内での新しいビジネスチャンスの創出が困難になっています。海外進出は、これらの制約を打破し、新たな市場と顧客を開拓する絶好の機会を提供します。特に、成長が見込まれる海外市場への進出は、企業の成長と収益性を向上させる可能性を持っています。

次に、海外企業の日本進出による競争の激化も、海外進出の重要な動機となります。グローバル化が進む中で、日本国内でも外国企業との競争は避けられない状況です。これに対抗するためには、自らもグローバル市場で競争力を持ち、海外でのビジネス展開を図ることが重要となります。

さらに、新興国の市場拡大は中小企業にとって大きなチャンスです。新興国は経済成長が著しく、消費者の購買力が増加しています。これらの市場に参入することで、中小企業は大きなビジネス機会を掴むことができます。新興国市場では、日本製品やサービスの品質が高く評価される傾向にあり、日本の中小企業にとって有利な条件が整っています。

外資の優遇税制による節税も、海外進出を促す重要な要因となっています。多くの国では、外国企業を対象とした税制優遇措置を設けており、これを活用することで、中小企業は運営コストを削減し、利益を最大化することが可能です。税制の面からも、海外進出は財務的に有利な選択となり得ます。

さらに、コスト削減の観点からも海外進出はメリットがあります。特に人件費や物流コストの低い国に進出することで、生産コストを大幅に削減し、利益率を向上させることができます。また、現地での資源や材料の調達により、サプライチェーンを最適化し、運営効率を高めることも可能です。

これらの要因を総合的に考慮すると、中小企業にとって海外進出は、国内市場の制約を克服し、新たな成長機会を掴むために不可欠な戦略です。海外市場への進出には一定のリスクを伴いますが、適切な計画と戦略により、中小企業は持続可能な成長と競争力の強化を実現することができます。

中小企業の海外進出における課題と対応策

中小企業の海外進出は、多くの機会を提供する一方で、適切な対策が必要な課題も存在します。海外進出に伴う課題を理解し、対策を講じることが成功への鍵となります。

まず、販売先の確保は大きな課題です。新しい市場に進出する際、既存の顧客ネットワークや市場の知識が不足しているため、新しい販売チャネルを構築する必要があります。これには、現地のビジネス文化を理解し、適切な販売戦略を立てることが求められます。また、現地のパートナーや代理店との関係構築が不可欠であり、これらの関係を確立するためには時間と労力が必要です。

為替変動のリスクも無視できません。国際ビジネスでは、為替レートの変動によって利益が影響を受ける可能性があります。特に中小企業にとっては、この変動に対する耐性が低いため、為替リスクを管理する戦略が重要です。例えば、ヘッジ戦略を採用することで、為替変動の影響を最小限に抑えることが可能となるでしょう。

次に、必要資金の確保の課題です。海外進出には大きな初期投資が必要となることが多く、これは特に資金調達が難しい中小企業にとって大きな障壁となります。政府や金融機関からの支援、補助金、融資など、さまざまな資金調達の選択肢を検討する必要があります。

信頼できる提携先やアドバイザーの確保も重要です。現地の法律、税制、ビジネス慣習などを理解するためには、専門的な知識を持つパートナーの支援が不可欠です。適切な提携先やアドバイザーを見つけることは、リスクを軽減し、ビジネスを円滑に進める上での重要なステップとなります。

さらに、進出先の市場動向やニーズの把握が挙げられます。成功するためには、目的地の市場を深く理解し、現地の消費者ニーズに合わせた製品やサービスを提供することがビジネス成功の条件といえます。これには、徹底した市場調査と現地の文化や潜在的な顧客の嗜好に対する洞察が求められます。

最後に、文化の違いや地域ごとのビジネス慣習も課題のひとつとなります。異なる文化や言語圏に進出する場合、十分な異文化理解とコミュニケーション能力が求められます。地域ごとのビジネス環境に適応するため、地元の専門知識を持つ人材の採用や、進出先でのトレーニングプログラムの設立が、円滑なビジネス運営に寄与するでしょう。

これらの課題を克服するためには、事前の準備と計画、そして現地での柔軟な対応が必要となります。中小企業がこれらの課題に適切に対応することで、海外進出の成功の可能性を高めることができます。

海外展開で成功した日本企業の事例

海外で成功を収めた日本の中小企業の事例は、国際市場での活躍の可能性を示しています。小規模ながらも特定の製品やサービスで世界的なシェアを獲得している企業はいくつも存在し、その背景には日本企業特有の技術力や情熱があります。

これらの事例から、特定の分野での強みを持つ中小企業が、独自の戦略と熱意を持って海外市場に挑むことの重要性がわかります。海外市場への進出は、国内市場にとどまらない新たな機会を提供し、企業の成長を促進する可能性を持っています。成功事例は、他の企業にとっても示唆に富むものであり、地道な努力と柔軟なアプローチが国際的な成功の鍵となることを示しています。

まとめ

中小企業が海外進出を成功させるためには、従来のビジネス戦略を超えた革新的なアプローチが必要です。例えば、新たな市場への適応、文化的差異への理解、そして持続可能な事業モデルの構築などが挙げられます。

海外市場では、現地の文化や消費者の行動を深く理解し、それに合わせて製品やサービスを調整することが特に重要になります。現地の言語や文化的価値観を考慮したマーケティング戦略や、地域の環境基準や社会的規範に適合した製品設計などを通じて、現地市場での受け入れを高め、ブランドの認知度を向上させるとよいでしょう。

また、海外進出においては、弁護士によるリーガルアドバイスが非常に重要となります。グローバル市場での競争に勝ち残るための戦略立案、文化的差異への適応、持続可能なビジネスモデルの構築に関して、法的側面からのサポートは大きな武器となります。中小企業が直面する様々な課題、特に国際法規や契約関係の複雑さ、知的財産権の保護などには、専門的な法的知識が求められます。そのため、海外進出を検討している企業は、経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。

さらに、法的側面に加えて、先進的なテクノロジーやデジタルマーケティングの活用も検討すると良いでしょう。データ駆動の戦略やオンライン広告を通じて、国際市場での知名度を高め、効果的な市場参入を実現することが可能です。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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