コンプライアンス

海外進出・海外展開:EC市場で勝ち抜く|海外進出を目指す日本企業のための法改正ガイド

by 弁護士 小野智博

はじめに:世界的なEC市場の成長トレンドとその機会

EC市場は近年、世界的に顕著な成長を遂げています。インターネットの普及と技術革新が進む中で、消費者の購買行動も大きく変化しています。特に、新型コロナウィルス感染症のパンデミックの影響により、オンラインでのショッピングが日常化し、EC市場の拡大は急加速しました。グローバルな視点で見ると、アジア、北米、ヨーロッパといった各地域でECの利用が増え続けており、新興国でもインターネット接続環境の向上とスマートフォンの普及に伴い、EC市場の成長が期待されています。

このような背景から、日本企業にとって海外EC市場への進出は、新たなビジネスチャンスを掴む絶好の機会といえます。しかし、海外市場への進出は、ただ単に商品を販売するだけではなく、その国々の文化、消費者の好み、そして法規制に適応することが求められます。特に、EC関連の法規制は、データ保護、消費者保護、税制、輸入規制など、多岐にわたります。これらの法規制は頻繁に更新されるため、海外市場へ進出する日本企業は、最新の法改正情報を常に把握し、適切に対応する必要があります。

この記事では、EC市場で成功を収めるために必要な、法改正への理解と対応に焦点を当てます。海外進出を目指す日本企業が直面する可能性のある主要な法改正について概観し、それに伴う実践的なステップを解説します。

海外進出前に知っておきたい主要国のEC関連法改正

海外市場への進出を考える日本企業にとって、各国のEC関連法改正に対する正確な理解は不可欠です。ここでは、特に注目すべき数カ国のEC関連法改正について簡単に紹介します。

まず、欧州では2018年のGDPR(EU一般データ保護規則)の導入が、企業にとって大きな転換点となりました。GDPRは、個人データの保護を強化し、EU内外の企業がEU市民のデータを取り扱う際のルールを定めています。特に、顧客から同意を得ること、データの安全な管理、違反時の報告義務など、厳格な規制が課されています。これらの規制は、ECサイトを運営する上で重要な考慮事項となります。

一方、アメリカでは、カリフォルニア州におけるCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法・2020年施行)が注目されています。CCPAは、消費者のプライバシー権を強化し、個人情報の収集、利用、共有に関する透明性を高めることを目指しています。また、消費者には、自身の情報に関する知る権利や削除を要求する権利が与えられています。

アジアでは、中国の電子商取引法が2019年に施行され、EC事業者に対してより厳格な義務が課されました。この法律は、偽造品や不正な広告に対する取り締まりを強化し、消費者保護を目的としています。中国国内で横行する偽造品や粗悪品の販売等が厳しく規制されることで、EC市場の健全化が図られ、中国でEC事業を行う日本企業にとっては恩恵を享受できる可能性もあると言われています。

さらに、インドやブラジルなど、急速にEC市場が成長している国々でも、データ保護や消費者保護に関する新しい法規制が検討・導入されています。これらの国々は巨大な消費者市場を持っており、日本企業にとって魅力的な進出先であると同時に、新たな法規制への適応が求められる挑戦的な市場でもあります。例えば、インドではこれまで個人情報保護に関して包括的に規律する一般法が存在していませんでしたが、2018年以降個人データ保護法案が議会で審議され、2023年にデジタル個人情報保護法として成立しました(施行日は未定)。ブラジルでは、LGPD(一般個人データ保護法)が2020年に施行され、GDPRに類似したデータ保護の規範を設けています。

これらの例からもわかるように、世界各国でEC関連の法整備・改正が進んでおり、これらに適切に対応することは、海外市場でビジネスを行う上で避けては通れない課題となっています。日本企業が海外進出を成功させるためには、各国の法律や規制に対する深い理解と、それらに迅速かつ柔軟に対応する能力が必要不可欠です。そのためには、現地の法律専門家との連携や、定期的な法改正のモニタリング、社内のコンプライアンス体制の強化など、多面的なアプローチが求められます。これらの努力を通じて、企業はグローバルな競争の中で持続可能な成長を実現し、変化する市場環境に柔軟に適応することができるでしょう。

法改正に対応するための実践的ステップ

海外市場への進出を考える日本企業が直面する最大の課題の一つが、目的地の国々における法整備・改正への適応であり、特にEC事業では、データ保護、消費者権利、税法など、幅広い法律の遵守が求められることについては、冒頭で述べたとおりです。また前項で触れたように、各国において実際にEC関連法の整備・改正が進んでいます。ここでは、法改正に対応するための実践的ステップを紹介します。

法改正への対応計画の立て方

必要な法務・コンプライアンス体制の構築方法

データ保護とプライバシー対策の重要性

海外市場への進出は大きなチャンスをもたらしますが、法改正への適応はその成功において避けて通れない課題です。上記のステップを実践することで、法的リスクを管理し、安定したビジネス展開を目指すことができます。

法規制遵守を通じたブランド信頼性の向上策

法規制の遵守は、企業が海外市場で成功を収めるために不可欠な要素であり、特にEC事業では消費者の信頼を獲得する上で重要な役割を果たします。以下に、法規制遵守を通じてブランド信頼性を向上させるための主要な戦略を紹介します。

法規制の遵守は単に法的な要件を満たすこと以上の意味を持ちます。これらの取り組みを通じて、企業は顧客に対して責任感を持って事業を運営していることを示すことができ、結果としてブランドの価値を高めることになるでしょう。

絶えず変化するEC市場環境に対応するためのビジネスモデルの重要性

絶えず変化するEC市場において、柔軟かつ適応性の高いビジネスモデルの構築は、企業が長期的な成功を収める上で極めて重要です。消費者の行動、技術革新、法規制の変更など、市場環境の変化に迅速に対応できるビジネスモデルは、競争優位性を確保し、持続可能な成長を実現する鍵となります。

このように、変化するEC市場環境において競争力を維持するためには、ビジネスモデルの柔軟性と適応性が不可欠です。市場の変化を正確に把握し、技術革新を取り入れ、法規制の遵守を徹底することで、企業は持続可能な成長を達成することができます。

海外進出を検討する日本企業は弁護士との連携をご検討ください

海外進出を成功させるためには、目的地の国々における法規制の遵守が不可欠です。特にEC市場では、データ保護、消費者権利、税法など、多岐にわたる規制が存在し、これらは頻繁に変更されます。そのため、現地の法律環境を正確に理解し、事業戦略に適切に組み込むことが求められます。

この複雑なプロセスをナビゲートするためには、弁護士との緊密な連携が欠かせません。専門知識を持った弁護士は、リスクの特定と管理、法改正への迅速な対応、コンプライアンス体制の構築をサポートし、企業が海外市場での法的課題を克服し、長期的な成功を確実なものにするための貴重なパートナーとなります。

ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

当事務所のご支援事例

業種で探す ウェブ通販・越境EC  IT・AI  メーカー・商社  小売業 
サービスで探す 販路開拓  不動産  契約支援  現地法人運営  海外コンプライアンス 

ご相談のご予約はこちら

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所 ロゴ

弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
(代表弁護士 小野智博 東京弁護士会所属)
 03-4405-4611
*受付時間 9:00~18:00

同じカテゴリの関連記事を見る