海外進出販路開拓

海外進出・海外展開:スタートアップが海外進出・海外展開を検討する際に知っておくべき情報|海外進出に詳しい弁護士が解説

by 弁護士 小野智博


はじめに

近年、日本の経済シーンにおいてスタートアップ企業の動きが活発化しています。政府は、国内のイノベーションを促進し、世界市場での競争力を高めるため、「スタートアップ育成5か年計画」を発表しました。この計画では、2027年までにスタートアップへの投資額を10兆円規模に拡大し、スタートアップ企業数を10万社、ユニコーン企業数を100社に増やすという野心的な目標を掲げています。これにより、日本経済に新たな活力をもたらし、グローバル市場での日本の存在感を高めることを目指しています。

さらに、経済産業省や日本貿易振興機構(JETRO)、地方自治体をはじめとする公的機関が、スタートアップ企業の海外展開を支援するさまざまな施策を展開しています。これらの支援は、資金調達、市場調査、現地法令の遵守支援に至るまで、多岐にわたります。日本国内での事業成功に加え、海外市場への展開を視野に入れることが、今日のスタートアップ企業にとって重要な戦略の一つとなっています。

しかしながら、設立当初から海外展開を視野に入れて事業を展開している日本のスタートアップは、依然として少ないのが現状です。多くの企業が国内市場に焦点を当てた事業計画を立てがちですが、グローバルな視野を持ち、海外市場への早期展開を図ることが、長期的な成長と成功への鍵となり得ます。日本政府や各支援機関による施策は、このようなスタートアップ企業が海外市場へと一歩を踏み出すための後押しとなるでしょう。
また、スタートアップ企業が成功するためには、政府や公的機関だけでなく、民間セクターとの協力も不可欠です。大企業との連携や、ベンチャーキャピタルからの資金調達、専門家からのアドバイスなど、多方面からの支援が重要です。これにより、スタートアップ企業は持続可能なビジネスモデルを構築し、競争力を高めることができるでしょう。

この記事では、日本のスタートアップ企業の成長と海外進出に焦点を当て、政府や公的機関が提供する支援策を紹介しています。また、スタートアップ企業が海外展開時に直面する課題や、リスク管理の重要性についても解説していきます。

最新動向:変動する世界経済の中で見えるチャンスと挑戦

2022年以降、世界は様々な経済的局面に直面しています。ウクライナ紛争の影響、米国における政策金利の上昇、さらにはエネルギー価格の高騰など、これらの要因が相まって、グローバル経済に大きな不確実性をもたらしています。このような変動は、スタートアップ企業を含む多くのビジネスに影響を及ぼし、特に資金調達や事業運営の面で大きな課題を生じさせています。

こうした状況下で、グローバルテクノロジー企業は、コスト削減に向けた具体的な措置を講じています。従業員数の削減やオフィススペースの縮小など、経費節減を目指す動きが加速しており、これらの企業はより効率的な運営モデルへと移行を余儀なくされています。スタートアップ企業もまた、この影響を受けており、手元資金の温存や新たな資金調達の機会を見極めるために計画を延期するケースが増えています。このように、事業拡大や新規事業への投資計画には慎重な姿勢が見られます。

この結果、2022年のスタートアップ企業による新規株式公開(IPO)の件数は、前年比でほぼ半減するという状況になりました。しかしながら、このような困難な時代でも、柔軟性を持ち、市場ニーズに応える製品やサービスを提供できる企業は、成長のチャンスをつかむことができます。不確実性の高い時代だからこそ、イノベーションの可能性を高め、事業モデルを再考し、より強固な基盤を築く絶好の機会につなげていくことが大切です。

こうした変動する経済環境の中で、スタートアップ企業が成功するためには、迅速な対応と適応能力が求められます。特に、デジタルトランスフォーメーションやリモートワークの普及など、新しい働き方や技術を活用することで、競争力を維持・向上させることができます。また、サステナビリティや社会的責任を重視する企業が増えている中で、これらの要素を取り入れることも、長期的な成長戦略にとって重要となるでしょう。

スタートアップが海外進出・海外展開を行う際に知っておくべきメリット・リスク

メリット

スタートアップが海外進出・海外展開を図ることには、多くのメリットがあります。ここでは主なメリット6つを詳しく見ていきましょう。

  1. 新規市場の開拓
    これは、企業が成長する上で最も魅力的な利点ともいえるでしょう。国内市場の飽和や競争が激化する中、新たな市場に進出することは、新しい顧客層にアプローチし、売上の増加を目指す絶好の機会を提供します。特に、経済成長が著しい新興国や、製品・サービスの需要が高まっている地域への展開は、企業にとって大きなチャンスを意味します。これらの市場では、新しいニーズに応える製品やサービスが受け入れられやすく、早期の市場占有が期待できるため、スタートアップにとっては貴重な成長機会となります。
  2. 生産コスト削減
    多くの海外市場、特に途上国では、労働力や資源のコストが比較的低く、生産効率の向上とコスト削減が実現可能です。これにより、製品の価格競争力を高めることができ、利益率の改善にも寄与します。また、現地での生産により、輸送コストの削減や、ターゲット市場への迅速な製品供給が可能になることも大きな利点です。
  3. 税金対策
    多くの国では、外国企業を誘致するために税制上の優遇措置を設けています。これらを活用することで、企業の税負担を軽減し、経営資源をより効率的に活用することが可能です。特に、特定の産業や技術分野において研究開発を行う企業に対するインセンティブは、スタートアップにとって大きな魅力となります。
  4. 企業のイメージアップ
    海外での事業展開は、企業のブランド価値を高める絶好の機会を提供します。グローバルな視野を持ち、様々な文化や市場に対応できる企業としてのイメージは、顧客だけでなく投資家やパートナー企業からの信頼をも獲得できます。また、国際的な事業展開を通じて、企業の社会的責任(CSR)活動を強化し、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する姿勢を示すことも、ブランドイメージの向上に寄与します。
  5. イノベーションの促進
    海外市場での競争は、新しいアイデアや技術の開発を促進します。異なる文化や市場のニーズに対応するために、企業は革新的なソリューションを開発しなければならないことが多く、これが企業の技術力と創造力を向上させることにつながります。また、現地のパートナー企業や研究機関との協力により、新しい技術や製品の共同開発が進む可能性もあります。
  6. リスク分散
    海外市場への進出は、ビジネスリスクを分散する手段としても有効です。特定の国や地域の経済状況や政治的リスクに左右されることなく、複数の市場で事業を展開することで、全体のリスクを軽減できます。これにより、国内市場の不確実性に対する保険として機能し、長期的な経営の安定性を高めることができます。

これらのメリットは、スタートアップが海外進出・海外展開を検討する上で、強力な動機付けとなります。新しい市場への進出は、多くのチャレンジを伴いますが、適切な戦略と準備をもって臨めば、企業の成長と成功につながる大きな機会をつかむことができるでしょう。

リスク

海外進出・海外展開を目指すスタートアップには、多くのメリットが存在する一方で、いくつかのリスクも考慮する必要があります。これらのリスクを適切に管理し、対策を講じることが、成功への鍵となります。

  1. 多額の初期投資
    市場調査、現地法令の遵守、物流システムの構築、現地での人材採用や研修など、様々な段階でコストが発生します。特に、予期せぬ出費が発生する場合もあり、これらのコストはスタートアップの財務状況に大きな負担をかける可能性があります。資金計画を慎重に立て、十分な準備をしておくことが重要です。
  2. 文化や言語の違い
    ビジネス慣習や消費者の好み、法律や規制の理解など、文化的な違いはビジネス運営に多大な影響を与えます。また、言語の壁はコミュニケーションの誤解を生み出し、ビジネス上の重要な契約や交渉でのトラブルにつながることがあります。これらの問題を最小限に抑えるためには、現地の文化や言語を深く理解し、適切なトレーニングや現地人材の活用が欠かせません。
  3. カントリーリスク
    政治的不安定、経済危機、自然災害など、進出先国の特有のリスクがビジネスに影響を及ぼす可能性があります。特に、政治的な変動は法律や税制、貿易関係に直接的な影響を与え、事業運営に大きな障害となることがあります。これらのリスクを適切に評価し、緊急時の対応計画を事前に準備しておくことが、リスク管理の鍵となります。
  4. 法規制の複雑さ
    各国には独自の法規制が存在し、それらを遵守するためには専門的な知識と多大な労力が必要です。特に、労働法、税法、知的財産権、輸出入規制などの分野での法令遵守が求められます。これらの規制を理解し、適切に対応するためには、現地の法務専門家の協力が不可欠です。
  5. 競争環境の違い
    進出先市場では、既に確立された現地企業や他の外国企業との競争が待ち受けています。これらの企業は、現地市場における知識や顧客基盤を持っており、スタートアップはこれに対抗するための戦略を練る必要があります。競争環境の違いを理解し、差別化された製品やサービスを提供することが成功の鍵となります。
  6. 経済変動の影響
    進出先の国や地域の経済状況は常に変動しており、為替レートの変動やインフレーション、景気後退などが事業に影響を及ぼす可能性があります。これらの経済リスクを管理し、柔軟に対応するための準備が求められます。

スタートアップが海外進出・海外展開を成功させるためには、これらのリスクに対する深い理解と適切な対策が不可欠となります。リスクを最小限に抑え、機会を最大限に活用することで、海外市場での成功を目指すことができるでしょう。

活用すべき!自治体におけるスタートアップの海外進出支援事業

東京都中小企業振興公社では、スタートアップ企業の海外進出を積極的に支援するための具体的なプログラムを提供しています。これらの支援事業は、東京都が国際ビジネス都市としての地位を強化し、地域経済を活性化するために展開されています。特に、海外市場への展開を検討しているスタートアップ企業にとって、貴重な機会を提供しています。

この支援事業の目的は、東京都内のスタートアップ企業が直面する海外進出の障壁を低減し、グローバル市場での競争力を高めることにあります。提供されるサービスには、市場調査、ビジネスマッチング、法律や税務に関する相談支援などが含まれています。これにより、スタートアップ企業は、進出先国の市場ニーズや法規制を深く理解し、現地での事業展開をスムーズに進めることができるようになります。

さらに、東京都中小企業振興公社は、海外での展示会や商談会への参加支援も行っています。これにより、スタートアップ企業は自社の製品やサービスを国際的な舞台で紹介する機会を得ることができ、新たなビジネスチャンスを探ることが可能です。また、公社はネットワークの構築支援も提供しており、海外の投資家やビジネスパートナーとのつながりを築くことができます。

このような支援事業を通じて、東京都中小企業振興公社は、スタートアップ企業のグローバルな成長を後押しし、国際競争力のあるビジネスの育成を目指しています。海外進出を検討しているスタートアップ企業にとって、これらの支援プログラムを活用することは、海外市場で成功するための強力なサポートとなるでしょう。

参照:公益財団法人 東京都中小企業振興公社 https://www.tokyo-kosha.or.jp/

海外進出・海外展開を検討するスタートアップは専門家との連携をご検討ください

海外進出や海外展開を検討するスタートアップ企業にとって、専門家との連携は成功への鍵となります。グローバル市場への進出は、多大な機会を提供する一方で、法律、税務、文化、言語の違いといった様々な課題を伴います。これらの課題に効果的に対処するためには、専門知識を有するプロフェッショナルの支援は欠かせません。

まず、海外進出に向けた第一歩となる市場調査において、専門家との連携は重要です。進出先の市場ニーズや競合情報、規制環境を深く理解することは、事業戦略を策定する上での基盤となります。現地の法律や商慣習、税制の遵守は、ビジネスを円滑に運営するために必須の要件です。現地の法務に精通した弁護士であれば、法律に関する最新情報を提供し、適切なリーガルチェックを実施することで、企業が不測のリスクを回避し、安定した事業基盤を築く支援をします。

ビジネスの展開においては、現地のネットワーク構築が成功の鍵を握ります。専門家やコンサルタントは、現地のビジネスパートナーや投資家、供給業者とのつながりを提供することができ、新しい市場での立ち上がりを加速させることが可能です。このような関係構築は、特に初めての海外進出において、企業にとって計り知れない価値を持ちます。

また、文化や言語の違いに対する理解も、専門家の支援によって促進されます。異文化間のコミュニケーションは、ビジネスの成功において極めて重要です。専門家は、これらの障壁を乗り越え、円滑なビジネスの進行を助ける橋渡し役となり得ます。

さらに、海外展開における複雑なプロジェクト管理やオペレーションの最適化も、専門家の支援により効率化されます。結局のところ、海外市場への進出はチームワークであり、専門家との連携によって、スタートアップはより高い確率で成功を収めることができるでしょう。

専門家との連携は、具体的にはコンサルティング契約の締結、ビジネスマッチングイベントの参加、異文化トレーニングの実施、プロジェクト管理支援の利用など、様々な形で行うことができます。
ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、お客様が海外展開・海外進出の目標を達成できるようなガイダンスとサポートを提供します。国際的な拡張計画に対して、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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