コンプライアンス海外進出

海外進出・海外展開:ECビジネスにおけるAIと知的財産権の国際法務|著作権、特許戦略の法的ガイドライン

by 弁護士 小野智博

はじめに

人工知能(AI)技術をECビジネスに活用することが増えてきています。AIは、消費者行動の予測、顧客サービスの自動化、商品の推薦システムなど、多岐にわたる分野でEC業界を革新しています。AI活用の急速な展開と共に、AIと知的財産権に関する課題も浮上しており、これらの権利の保護と管理は重要な焦点となっています。
この記事では、EC事業におけるAI利用に関連し、著作権問題や特許戦略について、主要国での議論や昨今の潮流を紹介しながら解説していきます。

AIと知的財産権

まずは、AIと著作権の関係について、基本的な考え方を概観しましょう。AIと著作権の問題は、大きく以下3つの段階に分けることができます。

①AI開発・学習段階:第三者の著作権を侵害?

②生成・利用段階:第三者の著作権を侵害?

③AI生成物(AIが生成したコンテンツ)が「著作物」に当たるか:著作物として認められ、権利保護されうるか?

(一部変更のうえ引用:文化庁資料 「令和5年度 著作権セミナー AIと著作権」)

以下、著作権については主に②生成・利用段階での第三者の著作権侵害のリスク ③AI生成物が「著作物」に当たるかについて、さらに、開発したAI技術の特許戦略について、解説していきます。

ECにおけるAI創作物は著作物として認められるのか?~国ごとに解釈が異なることにも注意

順番が前後しますが、まずは③についてみていきましょう。

AI技術の成果物に対して知的財産権をどのように適用するのかを、従来の法的枠組み内で判断することは簡単ではありません。生成AIの急速な発展・普及のなかで、著作権関係を含め、AI生成物がもたらす様々な影響等について各国において議論・検討がなされているところだからです。特に、AIが生成するデータや創作物が法的にどのように保護されるか、また、これらの技術がどのように特許や著作権の対象となるかは、国によって異なる解釈が存在していますのでその点にも注意が必要です。
例えば、英国では、コンピュータにより生成された著作物に対して著作物性が認められており、生成 AIの創作物についても必要な手筈をした者に対して著作権が付与されます。他方、日本、フランス、ドイツ、米国、中国、シンガポールでは著作物として認められるためには原則として人間により作られたものであることが要件となっており、AI が自律的に生成したアウトプットについては、著作物性が認められないとされています。なお日本においては、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられています。
(参照:文化庁資料 「AIと著作権に関する諸外国調査報告書」、文化庁資料 「令和5年度 著作権セミナー A I と著作権」)

このような背景から、EC業界におけるAIの知的財産権管理は、戦略的かつ慎重に行う必要があります。各国の法規制に適応しながら、AI技術を効果的かつ法的に保護するためのアプローチが求められています。これにより、企業はグローバルなEC市場でのリスクを最小限に抑えつつ、イノベーションを推進できる土壌を整えることができます。
具体的には、EC事業において広告宣伝、製品展示やマーケティング活動等を行うにあたってAIを活用する際は、AIが生成するコンテンツやデザイン等が各国において法的保護を享受するためにはどういったプロセスが必要かを認識し、適切な対応を取ることが重要です。前述のとおり、多くの国の著作権法では、創作物は人間による創造を必要とする一方で、AIをツールとして使用し、人間がクリエイティブな決定を行った場合、その成果物は保護の対象と考えられることもあります。このため、AIを利用する際には、どの程度人間の介入があったかを明確にすることが重要となってきます。

AI活用の際に第三者の著作権を侵害するリスク

次に、②生成・利用段階:第三者の著作権等を侵害?(EC事業者がAIを活用する際、第三者の著作権を侵害するリスク)についてみてみましょう。
AIがコンテンツ等を生成する際、または当該生成物を利用(生成した画像等をアップロードして公表、生成した画像等の複製物(イラスト集など)を販売etc.)する際に、第三者の著作権を侵害しないかという問題です。生成AI利用の一般的な流れとしては、AIに著作物を含む画像等を入力・指示し、AIが推論用プラグラムにより推論を行い、生成物を生成するケースが考えられます。さらに当該生成物をアップロードや販売等して利用していくこととなります。このなかで、「著作物を入力する行為」「既存著作物を含む生成物を出力する行為」「生成物をアップロードする行為」「生成物を販売する行為」等が当該既存著作物の著作権者の権利を侵害するリスクについて、注意しなくてはなりません。
日本、EU、英国、フランス、ドイツ、米国、中国、シンガポールにおいて、AI の生成・利用について、AI 等に対してのみ特別な権利制限等を設けている国はありません。原則として、AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されると考えられます。例えば日本においては、AI生成物に、既存の著作物との「類似性」又は「依拠性」が認められる場合、そのようなAI生成物を著作者に無断で利用する行為は、著作権侵害に該当する可能性があるということになります。(参照:文化庁資料 「AIと著作権に関する諸外国調査報告書」、文化庁資料 「令和5年度 著作権セミナー A I と著作権」)
また、人の手によって推論用コンテンツを入力する以外に、AIによる自動化された推薦システムやパーソナライズされた広告が、既存の著作権を持つコンテンツを不正に利用していないかを確認することも、ECビジネスにとっては必要不可欠といえます。

このような背景を受け、EC企業はAI創作物を活用する際には、適切なライセンス契約を結ぶこと、または著作権フリーの素材を使用することが推奨されます。さらに、AIが生成するコンテンツの著作権状況を常に監視し、法的な問題に迅速に対応できる体制を整えることが求められています。これにより、ECビジネスは創造性を促進しつつ、法的なリスクを管理するバランスを取ることが可能となります。

特許戦略とECアプリケーションにおけるAI技術

なお、自社の事業に応じて独自にAIを開発する場合には、①AI開発・学習段階 において第三者の著作権・特許権等を侵害していないかや、開発したAI自体の特許等の権利保護についても慎重に検討することが重要です。

EC業界において具体的には、AIが提供する予測分析、顧客行動の理解、自動化された顧客サービスなどが、競争優位を確保するための重要な要素となっていますが、これらの技術を保護するために特許が効力を発揮します。例えば、AIを利用した製品推薦エンジンや価格設定アルゴリズム、顧客対話システムなどが、ECプラットフォームの中核技術として特許登録されるケースが増えています。

特許取得の過程では、そのAI技術の新規性や進歩性が重要視されます。これは、単に既存の技術を応用したものではなく、独自の発明であることを証明する必要があるためです。EC業界におけるAI技術の特許申請を行う際には、その技術がどのように業界標準を超えるか、またはどのようにして既存の問題を解決するかを明確に示すことが求められます。

さらに、国際的な特許保護を考慮することも重要です。ECビジネスがグローバルに展開する場合、主要市場ごとに特許を取得することで、国際競争における法的な防御策を構築できます。例えば、米国、EU、日本、中国など、特許法が異なる地域での戦略的な特許申請が必要となります。これにより、グローバルな市場でのAI技術の独占的な使用権を保持し、他社による模倣を防ぐことができます。一方で、各国において他社の特許を侵害しないよう注意深くナビゲートする必要があります。他社の特許権等の知的財産権を侵害した場合、多額の損害賠償請求等の深刻な結果をもたらすリスクがあるためです。

ECビジネスでのAI知的財産の管理

知的財産ポートフォリオの戦略的管理

ECビジネスにおいてAI技術の進展は速く、これに伴い知的財産ポートフォリオの戦略的管理が極めて重要になっています。効果的な管理戦略では、新しいAI技術やアプリケーションに関する情報を継続的に収集し、これらが持つ商業的価値を評価する必要があります。特許登録の検討、商標の確保、著作権の登録など、様々な保護手段を適切に利用することで、企業はその技術や製品を競合から守ることができます。また、戦略的ポートフォリオ管理には、不要になったり古くなったりした知的財産を適時に整理することも含まれます。これにより、リソースをより価値の高い資産に集中させることが可能となり、継続的なイノベーションとビジネス成長を支えることができます。

ECビジネスにおける知的財産のリスクマネジメント

EC業界での競争が激化する中、知的財産のリスクマネジメントは企業の持続可能性に大きく影響します。リスク管理の一環として、企業は定期的に知的財産の監査を実施し、特許侵害の可能性がある活動を特定して対策を講じる必要があります。また、ライセンス契約の条件を厳格に管理し、第三者による不正使用を防ぐための手順を設けることも大切でしょう。さらに、グローバル市場で活動する企業には、異なる国の法律や規制に適応するための戦略も必要です。これにより、企業は知的財産の価値を守りながら、国際的な市場でのリーダーシップを維持することができます。

海外進出を検討している企業はお気軽にご相談ください

ECビジネスの未来は、AI技術の進化とその知的財産権の管理によって大きく形作られるといえます。AIは、顧客体験の向上、オペレーションの効率化、新しいビジネスモデルの創出を可能にします。これらの革新を自社ビジネスに積極的に取り入れることが、競争の激しい市場での成功につながります。知的財産権の戦略的な管理と保護は、これらの技術投資を守り、持続的なイノベーションを促進します。しかし、国際的な法規制の違いに適応し、グローバルな市場で知的財産を守ることは企業にとっては挑戦を伴います。このため、ECビジネスとAI技術を活用して海外市場への進出を考えている企業は、専門的なサポートを利用してリスクを管理することも考えられるでしょう。ファースト&タンデムスプリント法律事務所では、弁護士によるご相談やリーガルチェックのご依頼をお受けしていますので、いつでもお問合せください。

※本稿の内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。
本稿は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。正確な情報を掲載するよう努めておりますが、内容について保証するものではありません。

執筆者:弁護士小野智博
弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所

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